灼熱のフロントライン5
「敵軽戦車! 数一!」
「魔法使いを前面にーっ!」
パラシュートを広げて降下してくるのは、空挺戦車である。
その空挺戦車目掛けて、魔法使いたちが一斉に対空砲火を浴びせる。
魔法は装甲に対してあまり有効ではないが、パラシュートを失えば地面まで一直線に落ちるしかないのは道理だ。
パッ。と炎が瞬いた後、空挺戦車を吊るしているパラシュートの一つから火が上がった。
しかし、その火もしばらく風に煽られた後、消えてしまった。
やはり局地戦に投入されているだけあって、パラシュートも難燃性のものが使われているらしく、なかなか炎上しない。
「単純に火の系列の魔法使いが少ないのも問題ね」
魔法使いのタイプには流行り廃りがある。エッグでは、結構前から火の系列の魔法は不人気だったので、今前線投入できるレベルの魔法使いは非常に少ない。
「あまりパラシュートを燃やす事に必死にならないように。
戦車が着地してから、《サフォケート》の魔法とかで攻めるオプションも考えて」
《サフォケート》は風系の魔法で、特定範囲内の生物の呼吸を阻害して窒息させる魔法である。
範囲攻撃なので、装甲に囲まれた戦車の中の兵士も、窒息死に至らしめる事が可能だ。
さらに風系の魔法なので、使用者の母数も多い。
そのうちに着地した敵兵と、近衛隊歩兵との銃撃戦も始まる。
歩兵対歩兵の戦いについては、近衛隊の兵士が外交使節屋上など高所を抑えている為、終始近衛隊側有利で推移していく。
「降下した敵兵の集結を徹底的に妨害して。
あと敵が丘陵地帯で遮蔽物を確保したら、魔法で対処を徹底するように」
ユーノとしては、敵の降下に合わせて攻撃ヘリが出てくると予想していったのだが、今のところ出てくる気配はない。
……市街地で騎士団に落とされたか……
単なる連携ミスかもしれないが、攻撃ヘリが今ここに居ないという事が重要だ。
取りあえずは、敵第一陣の対応はできそうだと考えて、ユーノは空を見上げた。
問題は、エッグ内部に入り込んだ敵艦である。
エッグ内部には、数隻の『ブラックバス』級が配備されているだけなので、戦力としては少々心許ない。
何しろ、配備されている『ブラックバス』の半数は、宰相院が保有する科学調査船である。最低限の武装は積んでいるが、乗組員の戦闘訓練も最低限しかやっていないはずだ。
「ソーラーシャフトが心配ね」
ユーノは呻いた。
敵艦がエッグ内部に侵入したと言うことは、ソーラーシャフトにスパイが入り込んだと考えていい。
状況から考えて、そのスパイは地球人ではなくドラゴンの裏切り者であることは明白だ。
「ソーラーシャフトは騎士団の管轄ですので、任せておくしかないでしょう」
ディオシールの言う通りだとユーノは思った。どうであれ近衛隊に都市部に投入する戦力はないのだ。
「ユーノ様も後ろにお下がりください。
ここの敵は我々が蹴散らします」
「そうね。ディオシール。後の前線指揮は任せるわ」
ユーノは扱う魔法のタイプ的に、乱戦状態では力を発揮できない。
それならば、前線に無理して留まっても味方のリソースを無駄に消費させるだけだ。
ユーノは《ウォースカイ》の魔法を起動。そのまま戦線を離脱した。
◇◆◇◆◇◆◇
市街地では、騎士団とアメリカ軍地上部隊による戦闘が長引いていた。
「現状、把握できているだけで、市街地の七箇所で小規模な遭遇戦が起きています」
「メンドクセエ奴らだな」
副官からの報告に、シャングリラは舌打ちして不機嫌になった。
基本的に彼我の戦力差を考えれば、騎士団が負けることはありえない。何しろ数は一〇〇倍以上居るし、強固な補給線もある。
ただし、最終的に勝てることが確定的だから言って、すぐに勝てるわけではない。
敵もそれは承知の上で、遅滞戦術として分散してゲリラ戦に徹している。
おそらく本命はユグドラシル神殿なのだろう。
資料によるとアメリカ軍は、敵のトップを襲撃して直接殺そうとすることがしばしばあるらしい。
地球人がどうがんばってもガブリエルを殺せるとは思えないが、どちらにせよ面倒な事に変わりはない。
「苦戦してるチームには、機械化魔法兵一個小隊を増援として追加投入だ。武器魔法の使用は自由。建物に立て籠もってるなら、毒ガスの使用も許可する」
どのみち敵を生かして返す気など、シャングリラには毛頭ないので何でもアリである。
それにシャングリラとしては、末端の歩兵の損耗が気になる。
魔法使いの場合、銃で撃たれても運が悪いと怪我をするというレベルなのだが、非魔法使いの場合は撃たれると一発で戦闘不能になるし当たりどころ次第では普通に死ぬ。
「騎士団長閣下! ビルに送った兵からの報告です!
敵、おおよそ二〇と交戦。銃撃戦の後、全て射殺したとの事です。
こちらの被害は、軽症七、重症三、死亡二。重症者は後送してメディックによる回復を実施、回復し次第前線に復帰させる予定です!」
「残敵掃討は徹底的にやらせろ。工兵も送って爆発物のチェックも念入りにな」
この戦闘での戦死者は二。これは不可逆のダメージである。
「こっちの戦死者の遺体も回収して、後送の手配をしろ。
主隊はこのまま前進! パレードを続けるぞ」
わかりやすく敵が目の前に出てきてくれれば、とシャングリラは思う。
「騎士団長閣下! 空を見てください!」
「何?」
副官の言葉にシャングリラは天を仰いだ。
ソーラーコンティネントの隙間を、四角い艦影が進んでいく。
地球人の船は五〇〇メートルくらいだとシャングリラは聞いていたので、スケール感からすると結構低いところまで降りてきていそうだ。
シャングリラはエッグの市街地の地図を頭に思い描いた。
地球人の船が居る真下は、おそらく海のはず。
ならば、シャングリラのやることは一つだ。
「見えるところに降りてきた浅はかさを呪え」
背負った弓を取り出して、シャングリラは矢をつがえた。
「全員! 衝撃に備えろ!」
磁力の弓『ガウス=キャスター』は、実質的には持ち運びができるレールガンである。
照準システムを魔力に頼っているので、射撃管制は術者による目視が不可欠だが、逆を言えば見えさえすればいつでもどこでもレールガンが撃てるのだ。
「《MAC=ショット》」
弓を遥か上空の敵船に向け、シャングリラは矢を放つ。
「……当たったっぽいが……手応えがねえな?」
首を傾げてシャングリラは呟く。
ガウス=キャスターから放たれた矢は、瞬時に光速の数パーセントまで加速するため、その弾道を目で追うことはできない。
ただ感覚として、あたったような気がする。あるいは、ハズレたような気がするというのはあるし、それは概ね正確だ。
◇◆◇◆◇◆◇
『ミッドウェイ』級強襲揚陸艦『マウイアイランド』の艦橋。
艦長のトニー・マックウェルは、人類が初めて見たであろうドラゴンの国の光景に目を奪われた。
ソーラーシャフトと呼ばれる狭い水路を抜けた先に広がるのは、まさに驚異の世界だった。
巨大な……計測によればオーストラリア大陸に匹敵するサイズの……ソーラーパネルが無数に浮かんだ空。
ダイソン球の内側に築かれた都市が、川のように四方八方へ伸び、宙に浮かぶ巨大ソーラーパネルが作る影がかかった部分は夜になっているらしくmマンハッタンの夜景を連想させる光の川になっている。
そしてその都市の中心から少しずれた位置に、緑の丘陵地帯。
「あれが……ユグドラシル神殿か……」
あまりの光景に言葉を無くしていたマックウェルだが、ブリーフィングで見せられたユグドラシル神殿を見つけた事で、なんとか平常心を取り戻す事に成功した。
「『マキンアイランド』から陸軍部隊が降下を開始します」
僚艦『マキンアイランド』は、都市部への陸軍戦力の投入を担っている。
その目的は、ユグドラシル神殿に集結しているであろう、敵戦力の分散だ。
ドラゴン達が都市部に展開した陸軍部隊への対応に追われている間に、ユグドラシル神殿にマックウェルの艦から陸軍と海兵の混成部隊を投下するというのが、作戦の大筋である。
「駆逐艦『ゴードン・メネス』からの通信。
太陽の近くに『ブラックバス』級と思われる艦影を複数確認。今のところこちらへ向かう艦は認められず。以上です」
「うむ。聞いていた通りだな」
今回の作戦を支援してくれている協力者によると、エッグの中に居る『ブラックバス』の大多数は太陽の観測を行っている科学調査船だと言う。
明らかに敵艦である『ミッドウェイ』級を見て攻撃してこないのは、協力者の情報が正しいという事の査証だろう。
マックウェルは作戦の予定表に従って、しばしの間待機する。
この時間は寮監から投入された戦力に、騎士団の主力が引き寄せられる時間である。
とはいえ、エッグ内部に敵戦闘艦が居ない保障も無いので、マックウェルとしては気が休まらない時間でもあった。
なにしろこちらは強襲揚陸艦、形が似ていても正規空母程の防御力は持ち合わせていない。
下手をすると、駆逐艦レベルの打撃力でも作戦続行が不可能になってしまう。
しかも、ここは敵地の内海。作戦続行不可能になれば逃げる事もできない。
「まもなくゼロアワー!」
専務担当が作戦開始時間を知らせる。
「ユグドラシル神殿の様子はどうか?」
マックウェルはCICのホロディスプレイを覗き込んだ。
オペレーターの操作で、ユグドラシル神殿付近の様子が立体映像で映し出される。
六棟の近代的なビルが円形に並び、そのビルの屋上を繋ぐ空中庭園。空中庭園は黄色い花畑になっているらしい。
人の気配はない。
そして、マザードラゴンの玉座があるとされる、中央塔が空中庭園のど真ん中にそびえたつ。
いうなれば、ここは合衆国で言うところのホワイトハウスに相当する。
そう考えると、言葉にできないオーラがユグドラシル神殿にもあった。
「よし、ユグドラシル神殿の上空を掠めながら、地上部隊を降下させる。
海兵と陸軍に準備を始めるように指示を出せ! 十五分で降下空域に突入する!」




