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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
ノートゥング作戦

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ノートゥング作戦16

◇◆◇◆◇◆◇


 総旗艦A5126の艦長席で、プリシラはゆったりとくつろぎながら、ファッション雑誌を読んでいた。

 港の外では大変な事になっているのは想像に難くないが、ここで艦長が狼狽えたりするのは悪手である。

 艦長はどんなときでも余裕を欠かしてはいけないのだ。

「マリーゴールド先任艦長からタスキングメッセージを受信。

 まもなく第一陣はエッグフロントを離れる。以上です」

 通信士官の報告。

 先にアイオブザワールドのスタッフや、メーカーのエンジニアを乗せて出発したマリーゴールドの艦隊は、無事にADD可能な海域まで達したようだ。

 マリーゴールドには、第一艦隊の『パンデリクティス』二隻以外の全ての艦を与えてある。

 混み合っているエッグフロント周辺の海域を抜けたのなら、もう安心だろう。

 ちなみに『パンデリクティス』を二隻残したのは、総旗艦の護衛というより港とドックの安全確保のためだ。

 最悪、ドックが敵の攻撃に晒された場合にドックとA5126の盾になってもらうか、あるいは港湾施設が占領されアイオブザワールドの秘密が暴かれる可能性があるなら、それらを破壊するなど色々使い道がある。

「プリシラ艦長! ダメコンチームから与圧チェックの為に、全通格納庫を一時的にでも閉鎖したい旨の連絡が来ていますが、いかがされますか?」

「駄目よ。レクシー提督がいつ到着するかわからないから格納庫は開けておくように」

 エッグフロント内の通信は未だに繋がらない。

 レクシーが車両で到着した場合、そのまま格納庫に入れてしまおうとプリシラは考えている。故に格納庫の閉鎖はありえない。

「与圧のチェックは、格納庫のエアロックを閉じて実施するように」

 一応この方法でも居住エリアの与圧は担保できるので、実運用上の問題はないはずだ。

 それはそれでいいとして、問題はやはり出港できない事である。

 艦長席の戦術情報ディスプレイに映し出される各情報を見る限り、状況はあまり良くない。

 具体的には、エッグフロントの指定航路を外れて進む無数の小型艦艇。これらは敵の揚陸艇であると見て間違いないだろう。

 この小型艦艇は、大雑把に二群に分かれてエッグとエッグフロントを目指している。

 対する騎士団や近衛隊の首都防衛艦隊の動きは芳しくない。

 真っ先にコーラルキャッスルを攻撃されて、命令系統が混乱しているのだろう。

 こうなってくると、地上部隊による水際防御が生命線になるが、果たして上手くいくのだろうかとプリシラは思う。

 ちなみにこれらの戦術情報は、港の外に停泊している『パンデリクティス』二隻からの情報を総旗艦で統合した物だ。

 『パンデリクティス』級の索敵能力は『ユーステノプテロン』級に比べると低いため、海域全体の状況を知ることはできない。

 ……敵の艦隊が近くにいるはずだけれど……

 現状見えているのは、強襲揚陸艦と駆逐艦のみであるが、どこか近くに敵の主隊が居るに違いない。

「できれば、騎士団と近衛隊の艦隊が出張ってくる前に出港したいところだけれど……」

 プリシラとしては一戦交えるのも上等。といった気分なのだが、如何せん首都近海ではセクショナリズムの問題がついて回る。

「艦長! 通信が入っています……」

「誰からかしら?」

「失礼しました! コーラルキャッスルの近衛隊艦隊司令部から、近衛隊の『パンデリクティス』が中継してきています」

 つまり、近衛隊の司令部の担当者も名乗っていないという事だ。

 これは近衛隊の司令部も、何処かからの通信を中継しているだけと考えられる。

 この状況でプリシラに連絡をしてくる可能性があって、近衛隊にも顔が利くとなると、これはもうレクシーしかいない。

「繋いで」

「アイ。艦長」

 しばらくザッザッという音が聞こえたあと、若干くぐもったレクシーの声が聞こえた。

「プリシラ! 聞こえる?」

「アイ。提督。よく聞こえます」

 プリシラが答えると、少々のタイムラグを挟んでレクシーが続ける。

「よかったわ。近衛隊の通信だから、無視されたらどうしようかと思ってたのよ」

 実際、今が平時ならプリシラは通信を無視していただろう。

 下手に応答して、縄張りがどうこうという話になるのも面白くない。

 ちなみにこれは、レクシーが教えてくれたの処世術である。

「提督からの連絡読みです。

 それはそうと、ご無事ですか?」

「シルクコットとレプトラと王様も拾ったわ。

 今、近衛隊の装甲車でそっちに向かってるから、ゲートを通れるように指示をだしておいて」

「アイ。提督。

 ゲート警備の陸戦部に命令を出します。シルクコット陸戦部長名義でよろしいですか」

「オッケーよ」

 レクシーは即答した。

 シルクコットに確認くらいはしたほうがいいのではないかとプリシラは思うのだが、レクシーがそう言っているなら従わざるを得ない。

「二〇分で着くから、エンジン温めておくように」


「ゲートから連絡です艦長! レクシー提督他を乗せた車両が到着。本艦のドックに向かっているとの事です」

「本当に二〇分きっかりで来たわね。」

 時計を見ながらプリシラは感心した。

「ゲートには報告ありがとうと伝えて。

 機関部! 機関始動」

 レクシーが来たなら、もう港に留まっている必要はない。

「機関部から艦長。外部電源にて機関始動シーケンスを開始します」

 機関始動と言っても、昔の船のように気難しい機械があるわけではないので、いくつかの計器を確認して、いくつかのスイッチを入れるだけである。

「機関圧力、真空度九九パーセント。アイ」

「高速反転炉アクティベート。アイ」

「反物質投入作業、進行中」

 グゥンと艦の構造材を介して、低い音が伝わってくる。

「初爆確認。対消滅サイクル安定しました」

 手元のコンソールでも主機の起動を確認して、プリシラは大きく頷いた。

「外部電源オフライン。続いて外部電源供給装置を分離。

 外部電源接続部の装甲シャッター、閉鎖。

 艦体、相対停止のままコンポジット=ヌルオードライブをオンラインへ」

 腹に伝わってくる艦のパワー感に、プリシラは機関は好調だと感じた。

 これで超光速機関も絶好調なら、言うことはないのだが。

「艦体保持アームの解除準備。準備ができたらそのまま待機。レクシー提督の到着を待ちます」


◇◆◇◆◇◆◇


 クインテラの好意により、近衛隊の装甲車でアベル達は港まで送ってもらえる事となった。

 好意である。決して邪魔だから追い出そうとされている訳ではない。はずである。

 さすがは近衛隊の車両だけあって、あちこち封鎖されている道路も顔パスで通れるので速い。

 アベル達が自前で車を確保していても、こんなにスムーズな移動はできなかっただろう。

 大体、道路封鎖というのはスムーズな移動を妨害するために敷く物なのだ。

 そんなわけで、シルクコットとレプトラを拾って、三〇分程で車はアイオブザワールドの管轄区域まで達した。

「近衛ちゃんは、この後どうするの?」

 レクシーが車の運転をしている若い近衛兵に対して聞く。

「……近衛ちゃん……

 いえ、失礼しましたレクシー閣下。ドラゴンマスター以下、皆様をアイオブザワールドの施設に送り届けた後は、艦の出港を見送り、司令部に戻って増援を件の崩落現場まで案内する計画です」

 艦の出港を見送り。という部分に、若干邪魔者扱いされている感をアベルは感じた。

 気のせいだろうが。

「それなら良かったわ」

「いいの?」

 レプトラが不思議そうに聞き返す。

「旗艦は検疫レベルが他の艦より高いから、アイオブザワールドのスタッフ以外を入れるとなると、色々大変なのよ」

 レクシーが答える。

 なるほど。たしかに旗艦の司令部内で変な病気でも発生しようものなら、艦隊運営に大いに問題が出る。

「あれ? 前に地球人を入れてなかったか?」

「聖域海戦の前夜の話でしたら、作戦会議を行ったのは検疫ゲートの外にある会議室ですので、検疫の観点ではあそこは艦内ではありません」

「なるほど」

 淀みなく答えるレクシーに、アベルは納得した。

「……レクシー閣下。アイオブザワールドの整備ドックの入口守衛所が見えました」

「このまま突っ込んで。わたしが顔パスよ」

 そう言ってレクシーは、装甲車の窓から顔を出して手をふる。

 守衛所側でもそれに気づいたのか、正面バリケードを開けてくれた。

 以心伝心と言えなくもないが、セキュリティは酷い有り様だ。

「次の十字路を右! 搬入って書いてある通路を進んで!」

「レクシー! プリシラの船がどこに居るのか、わかるの!?」

「総旗艦は必ず一番ドックに入ってるわ!」


 さらに数分進んだ先で、突如として視界が開けた。

「うをぉぉぉっ」

 アベルは目の前の光景に感嘆の声を上げた。

 外に出たのかと錯覚するほどの広大なドック……天井など高すぎて見えない……に巨大な宇宙艦が横たわっているのは、想像を絶するスケール感だ。

「艦尾側のスロープへ向かって!」

「艦尾……?」

 車を運転している若い近衛兵は困惑している。

 艦があまりに巨大なため、その前後関係を把握できないのだろう。

 あるいは、ドック内の巨大な構造物がそのそも宇宙艦であると認識できないのかも知れない。

「二時方向、オレンジ色に塗ってある幅四〇メートルのつづら折れよ」

 レクシーから具体的な指示が飛ぶ。

 さらっと言っているが、幅四〇メートルあるつづら折れのスロープというのも、結構めちゃくちゃな構造物である。

 アベルの見立てでは、長さ三〇〇メートルで二回折り返しているので、都合長さ九〇〇メートルの坂道という事になる。

 大型のトレーラーでも楽々取り回せるサイズ感である。

 車がスロープに差し掛かると、いよいよもって『ユーステノプテロン』級の巨体を仰ぎ見ることになる。

 『ユーステノプテロン』級の格納庫は艦体中程やや後方、尻ビレの間に扉がある。

 スロープを登るにつれ、迫ってくる尾ひれとそこに続く船体構造は畏怖すら覚えるほど巨大だ。

 二度目のつづら折れを曲がって、車は総旗艦A5126の格納庫に滑り込んだ。

 格納庫内で待っていたスタッフが、旗を振って車を誘導する。

「到着しました」

「ええ。ありがとう。今度菓子折りでも持って行くわね」

「ドラゴンマスター。到着しました。お降りください。

 すぐに部屋を用意させます」

 レクシーが小走りに車の反対側まで走ってきて、アベルの座っている場所の扉を開ける。

「シルクコットとレプトラも」


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