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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
ノートゥング作戦

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ノートゥング作戦12

◇◆◇◆◇◆◇


「レールガンを……防いだ、だと」

 陸軍航空隊のノスリー・スミス中尉は愛機『アパッチ』の操縦桿を握りながら、恐怖を覚えていた。

 ノスリーは歩兵相手にレールガンなど、過剰戦力にも程があると思っていた。

 もちろんノートゥング作戦実施に当たり、エッグには単独で大隊規模に匹敵する強力なドラゴンの魔法使いが多数存在する可能性について説明は受けている。

 ノスリーの『アパッチ』には、それを見越して十分な装備が与えられた。

 しかし、それでも真っ黒い火の鳥がレールガンを防ぐのは恐怖でしかない。

「ジョンソン大尉!」

 ノスリーは前部のガンナーシートに声をかけた。

 通常『アパッチ』のガンナーはロボットが務めるのだが、今回は高度な判断を必要とするシチュエーションが多いことが予想されるため、わざわざ人間のオペレータを搭乗させている。

 なおガンナーシート側は通信・索敵・各種ミサイルの制御を担当する。

「対戦車ロケットを使う」

 ジョンソンはそう答えた。ノスリーの『アパッチ』が搭載するのは二〇連射装のロケットポッドを四基。計八〇発だ。

 固定翼機の翼を模した形状のウェポンハンガーに装備されたロケットポッドが、立て続けに無誘導ロケット弾を吐き出す。

 事前の取り決めで、一定ランク以上の魔法使いに対しては出し惜しみはしないとされている。

 ジョンソンはやや遅い発射間隔で、黒い火の鳥とその周辺に向ってロケット弾を撃ち込む。

 発射間隔を長めに取っているのはレールガンのチャージ時間を稼ぐためで、周辺にもばらまいているのは上手くすれば火の鳥の裏側に破片被害を与えられる可能性があるからだ。

 ロケットポッド一つ分、二〇発をおおよそ二〇秒で撃ちきったところで、レールガンのチャージが完了した。

「……」

 ノスリーは迷うことなく機関砲のトリガーを引いた。

 距離は二〇〇フィートもないので、絶対に外れない距離だ。

 命中。

 黒い火の鳥が絶叫を上げるように天を仰ぎ、火の粉になって消えていく。

「そんな……子供じゃないか!」

 黒い火の鳥に守られていた魔法使いの姿を見て、ノスリーは驚愕した。

 その姿は、今年ジュニアハイスクールを卒業したノスリーの娘と大差ないように見えた。

「中尉! あれは子供ではない。ドラゴンの魔法使いだ。それも超強力な奴だぞ」

 確かにそうだとノスリーは頭を振る。

 火の鳥の魔法で輸送ヘリを攻撃し、自分たちには爆発する魔法を使ってきた。

「ジョンソン大尉! 攻撃を!」

 ノスリーが言うが早いか、ジョンソンはロケット弾を放っていた。

 ワンテンポ遅れて、少女が横へ走り出す。

 これは恐怖で身がすくんで動けなかったのではない。ロケット弾が無誘導なのを見切って一セット発射されるのを待って動き出したのだ。

 ただのハイスクールの生徒は、レールガンを向けられた状態で動くことなどできない。

 ジョンソンの言う通り、この少女は訓練された魔法使いなのだ。

 走る少女の左手が炎の軌跡を引く。

 次の瞬間、炎は黒い火の鳥の形を取るとノスリーの方に一直線に向かってくる。

 先程輸送ヘリを攻撃していた魔法だ。

 当然ながらレールガンと電磁バリアは同時に使えない。

 実に嫌なタイミングでの攻撃と言えるだろう。

 これに対してノスリーは攻撃続行を選択。火の鳥は回避機動でやり過ごす事にする。

 ギリギリまで火の鳥を引き付けて、ノスリーはコレクティブスティックを思いっきり引き上げた。

 GE社製の高出力対消滅エンジンが唸りを上げて、『アパッチ』の巨体を上空へと引っ張り上げる。

 火の鳥を飛び越える格好で高度を上げたノスリーは、再び少女をレールガンで照準した。

 こんな魔法使いが地上部隊と接敵すれば、どんな被害が出るかわかったものではない。

 言うなればこれは、敬意のこもった畏怖である。

 ノスリーがトリガーを引くその瞬間。

 ガツン! という衝撃。

 衝撃で機首が下がり、放ったレールガンが手前に外れる。

「さっきの火の鳥が機体尾部で炸裂した」

 ジョンソンが言う。

 なるほど。とノスリーは感心した。

 事後誘導も可能とは、恐るべき魔法である。

「ダメージはないか? ノスリー中尉」

「イエッサー。少し機体が右に流れるようになったものの、作戦行動に支障なし」

 この僅かなやり取りの間に、少女は路地に逃げ込んだ。

「追うぞ。あんな化け物を野放しにはできない」

「イエッサー」

 ジョンソン大尉の判断をノスリーは指示する。

 それでも慎重に、ノスリーは機体を少女が飛び込んだ路地を俯瞰できる位置に移動させる。

「引き続き対地ロケット弾で攻撃する」

 それを聞いてノスリーは、少女が隠れているであろう場所付近に機首を向けて、機体を静止させた。

「居た! 路地右側、荷物の影」

 ジョンソンがロケット弾の照準操作をして、ロケット弾が放たれる。

 その瞬間。

 想像を絶する衝撃。

 同時にあらゆるアラート表示がコンソールを埋め尽くす。

 アラートの原因は明らかだった。

 突如『アパッチ』で一番硬い機首部分が消滅したのだ。

「バカな! バリアを貫通してきたとでも言うのか!」

 それに答えるはずのジョンソンは、既に機首もろとも消滅している。

 バランスを崩して暴れる機体をなんとかなだめて、ノスリーは状況を確認した。

 レールガンを全損、機首レーダー全損、ガンナー死亡。ノスリーの機体は一瞬で攻撃ヘリとしての全機能を喪失した。

 そもそも、どこから何に攻撃されたのかもわからない。

 少なくとも、接近警報の類は無かった。

「アステカよりHQ。アステカは攻撃を受け損傷。ジョンソン大尉は死亡。撤退許可を……」

 二度目の衝撃。

 今度は機体後方に着弾。

「テールローターが!」

 水平方向への制御が効かなくなり、機体が水平回転を始める。

 これはシステム的にテールローターの制御ができなくなったわけではなく、物理的にテールローターが失われたのだとノスリーは悟った。

 ノスリーは反射的に緊急脱出レバーを引いた。

 メインローターとキャノピーが爆発ペレットで吹き飛び、続いて座席ごとノスリーは空中に放り出される。

 落ちていく『アパッチ』を見れば、機首と尾部を失いもはや原型を留めていなかった。

「一体、なにが起こった」

 攻撃を受けたのは間違いないが、どこからどんな攻撃を受けたのかがわからない。

 攻撃の予兆すらなく『アパッチ』の電磁バリアを安々と貫通する。

 その時、ノスリーは遥か遠方のビルの屋上で何かが光るのを見た。

 ほぼ同時に、兵士を降下させようとしていた『チヌーク』の前半分が消し飛ぶ。

「……コイツにやられたのか……」


◇◆◇◆◇◆◇


「ハエ二匹に三発も撃っちまった。柔らかすぎんだよザコが」

 左手に握った弓を腰の後ろに収めつつ、シャングリラは毒づいた。

 おおよそ八〇〇メートル先のヘリを狙撃したのは、マザードラゴンが作った至宝。磁力の弓『ガウス=キャスター』。

 術者の魔力とガウス=キャスターの効果を合わせて矢を加速させる究極魔法|《MAC=ショット》は、歩兵が運用できるサイズのレールガンであり、駆逐艦程度なら撃沈できる威力がある。

 当然弾速も光速の一割程度は楽々出るため、八〇〇メートル程度なら目標を外すことなどありえない。

「とにかく害虫共を踏みつぶさねえと、俺様の腹の虫が収まらねえ」

 シャングリラは大きく翼を羽ばたかせて、エッグの空に舞い上がった。


 取りあえず、二機のヘリが墜落した辺りに達したシャングリラは、状況を確認する。

 最初に撃ち落としたヘリは、大通りのド真ん中に墜落し、外れたローターが近くのビルの二階に突き刺さっている。

「ふん」

 とシャングリラは鼻を鳴らした。

 パイロットが脱出するのは見えていた。

「おい、出てこいよハエ野郎」

 大声を上げる。

「出てこねえなら……」

 シャングリラは腰に吊った剣を抜き放つ。

 こちらもマザードラゴンが生み出した至宝である。電荷の剣『エレクトロン・バランス』。

 全長一二〇センチのこの剣は、剣としての性能もさることながら、単純に雷魔法に対する増幅装置としても機能する。

 まさに雷竜であるシャングリラの為の武器と言っても差し支えない。

「《アークサンダー》デプロイ」

 《アークサンダー》は術者を中心とすり空間に、無差別放電を起こす打撃魔法である。

 掲げた剣を中心に、雷撃が周囲に広がる。

 低威力広範囲が《アークサンダー》の持ち味だ。

 効果範囲は障害物の配置に影響を受けるが、大体直径八〇メートル。障害物が無ければ一二〇メートルにも達する。

 威力は、生身で食らって運が悪ければ即死するといったレベルで、魔法使いなら結構痛いレベルの効果しかない。

「ギャン!」

 と甲高い悲鳴が上がった。

「害獣のくせに随分カワイイ声で泣きやがるな?」

 まあ場所が分かればなんでもいいのだが。

 シャングリラは剣を片手にぶら下げたまま、悲鳴の聞こえた裏路地に進んだ。

 裏路地に入って真っ先に見えたのは、パラシュートと思われる巨大な布。

 その布に大量の血痕は見て取れる。

 布から伸びる無数の紐の先、うつ伏せに転がった脱出座席でパイロットらしい兵士が死んでいるのは見えた。

 シャングリラの意識が死体の方に向いた瞬間、ザッと何かが流れていく感覚。

 これは大魔法の発動に伴う魔力量の変化である。

 味方だ。と声をかけようとした、丁度そのタイミングで路地の脇道から小さい影が飛び出してきた。

 高さにして二メートル強。普通に地面を歩いて出てくるとばかり思っていたシャングリラの対応が遅れる。

「《ダークネスフェザー》デプロイ!」

「《イオン・レプタイル》」

 放たれた黒い火の鳥を、うろこ状に展開した無数の霞が受け止める。

 ……なんだか知らねえけど、えげつない威力だな!

 《イオン・レプタイル》はガウス=キャスターによる増幅を行う防御魔法である。

 今回はそれを行っていない簡易発動なので、防御力が落ちる。

 シャングリラは剣を振り上げた。

 同時に、《イオン・レプタイル》を火の鳥が貫通した。

 ……騎士団のトップ魔法使いより強いってか!

 簡易版《イオン・レプタイル》ですら、並の魔法使いでは突破は不可能であることを考えると、これは中々の出力であると言えるだろう。

 下手に食らったら大火傷しそうだ。

「《イオン・ブレイク》!」

 《イオン・レプタイル》がガウス=キャスターによる防御なら、《イオン・ブレイク》はエレクトロン・バランスによる渾身の斬撃である。

 シャングリラは、魔力と雷を帯びた剣を飛来する火の鳥に叩きつけた。

 既に《イオン・レプタイル》で減衰しているにも関わらず、火の鳥は消えず《イオン・ブレイク》を押し返して来る。

 約一秒のせめぎ合いの後、火の鳥は霧散して消えた。


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