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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
イツカ カエル トコロ

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イツカ カエル トコロ15

 その時、ガサゴソというノイズが通信に混ざった。

「コラ! シャーベット! やめなさい!」

 続いて入ってきたのは、シルクコットの声だが声が少々遠い。

 通信機のマイクを奪われたと言った雰囲気だ。

「提督! サイラース1の住民を見捨てるつもりですか!?」

 ほとんど悲鳴のような声を上げたのは、シャーベットだろうか。

「あら? 帝国海軍の将兵が聞いているというのに、そんなに取り乱すとアイオブザワールドの権威が落ちるわよ。ドラゴンプリースト」

 対するレクシーはいつも通りマイペースである。

 というより、マリーゴールドはレクシーが取り乱しているところを見たことがない。まあ、司令官が慌てたり迷ったりすれば指揮に影響が出るのは必至なので、レクシーが何があっても動じないのは、ある意味当然の話ではあるのだが。

「レクシー提督はサイラース1を見捨てるつもりですか!?」

「見捨てるもなにも、都市の防衛……それも自治領の防衛なんてアイオブザワールドの権限ではできないわ。

 例えば、住民に避難を強制する権限もないし、住民を勝手に自治領の外に出す事もできないわ」

 アイオブザワールドは正規軍ではないので、この辺りの権限は著しく制限を受ける。

 なぜなら、そういった作戦行動は正規軍である騎士団が行う物だからである。

「今は緊急事態なんですよ! そんな事を言って……」

「緊急事態だからよ」

 シャーベットの叫びをピシャリと遮って、レクシーは言う。

「緊急事態だからって、それぞれの組織が好き勝手やり始めたら、それこそ収拾がつかなくなるわ」

 シャーベットは沈黙した。

 若い……本当に若いシャーベットは、今理想に燃えているのだろうことは、マリーゴールドにもよくわかった。

「それにね。よく聞きなさいシャーベット。

 わたしは、誰もが苦い失敗を経て成長すると考えているわ。

 だから、部下の出してきた作戦が失敗するとわかっていて、許可することもある」

 これはマリーゴールドとしても耳の痛い話である。

「でもね。成長の大前提は生きて帰ってくることよ。死んだら得るものなんて何もない、ただそれまでの育成にかかったコストをドブに捨てるだけ」

 言い聞かせるようにレクシーは続ける。

「重ねて言うけれど、住民をどう助けるかを考えるのは騎士団で、それを実現するのも騎士団で、失敗したときに責任をとるのも騎士団よ。

 我々にできる最善手は、後続の騎士団主力の邪魔をしないこと。いいわね?」

 シャーベットは沈黙したままである。

 これは良くない兆候ではないかと、マリーゴールドは思った。

 基本的に、レクシーの部下にはマリーゴールドを含めてレクシーの信奉者しかいない。

 しかし、これが艦隊の外となると話が違い、器用万能でドラゴンマスターの覚えもめでたいレクシーへの反発も多い。典型的な例が前のドラゴンナイトであるエレーナであり、レクシーの忠告を無視して出撃していき、帰って来なかった。

 マリーゴールドはそのことをシャーベットに言うべきか迷ったが、艦隊の外の話であり、相手はアイオブザワールドの幹部の一角のドラゴンプリースト。口を出すのは憚られた。

「他に何か報告はあるかしら?

 ……無さそうね?

 マリーゴールド。追加の艦は必要? 『パンデリクティス』なら追加で二隻くらいは回せるけれど」

「ありがとうございます提督。しかし、打撃力は充足していますので、『パンデリクティス』は主隊の警護に使ってください」

 マリーゴールド的には『ユーステノプテロン』なら欲しいところなのだが、残念ながら他の艦は動けないらしい。

「わかったわ。では、小沢長官にはわたしから話をしておくから、首席参謀の回収を進めるように。

 以上。レクシー、アウト」


◇◆◇◆◇◆◇


「シャーベット! 待ちなさい!」

 レクシーが抜けたあと、繋がりっぱなしだった無線から聞こえた悲鳴で、ルビィは状況を知った。

「ネーロウ! トラブルよ!」

 移動の足を止めてルビィは声を上げた。

「クセル氏と宮部さんを連れて陸戦部の主力と合流を。

 わたしはシャーベットを連れて来ます」

 シャーベットは《ウォースカイ》の魔法で普通に空を飛ぶので、同等以上の高機動魔法を扱える魔法使いを投入しない限り、これを捉えるのは困難である。

 実戦経験こそ少ないが、シャーベットはアイオブザワールド内ではナンバー2の実力者。シャーベットの部下が追跡しても追いつけないのは明白だ。

「オレは?」

「わたしについて来ざるを得ないでしょう」

 ラーズは小沢の命令でルビィを守っているので、言うまでもなくルビィと一緒居ることになる。

 ラーズの《フレアフェザー》による飛行能力は、ルビィの《ダークネスフェザー》の飛行能力を上回るので、シャーベット追跡に置いてもデメリットなしの純粋なプラス戦力として計上できるのはありがたい。

「取りあえずアメリカ軍の支配地域に入る前に確保したいです。

 魔法探知で追うので付いてきてください」

 ここまでは問答無用である。

 ネーロウは何を言っても無駄とでも思っているのか、沈黙を決め込んでいる。

 いや、単にルビィの命令は上官命令なので大人しく従う方針なのか。

 どちらにせよ、文句を言わずに従ってくれるのはありがたい。

「……《ダークネスフェザー》デプロイ」

 ルビィが宙に舞い上がると、数秒遅れてラーズが飛び立つのが見えた。

 ラーズの追いついてくるまでの一秒ほどの時間で、ルビィはシャーベットを探す。

 ここで最新鋭VMEであるAiXエボリューションが真価を発揮する。

 旧型とは一線を画する処理能力と高度なアルゴリズムがノイズを排除して、ルビィの魔法探知を際立たせる。

「……居た! けど、なんでコンテナのある方向がわかるのかしら?」

 魔法探知の結果によると、シャーベットはおおよそ時速七〇キロのスピードで、件のアーケード街に一直線に飛んでいる。

 こんなスピードで飛ばれたら、歩兵が追いつくのは絶対に不可能だ。

 だが、ルビィの扱う高機動モードの《ダークネスフェザー》の巡航速度は時速一〇〇キロを大きく超えて時速二〇〇キロが見えるレベルである。シャーベットの補足は容易い。

 ルビィは大きく左に旋回、ついででラーズが付いてきていることを確認すると、最大加速でシャーベットの方……アメリカ軍の支配地域へ向かう。


「ルビィ! まっすぐ飛ぶな。撃たれるぞ」

 ルビィの左後ろから来たラーズが、ルビィの頭の上を超えて右側に並んだあと、今度はルビィの腹の下を抜けて左側へ移動しながら言う。

「あっ……わかりました」

 高機動魔法で最高速を出すとき、魔法の出力と空気抵抗が釣り合うと魔法使いは等速直線運動することになる。

 さすがに等速直線運動している的なら、現実的な命中率が期待できるわけで、もし対戦車用の弾でも飛んできたら余裕で保護障壁も貫通されてしまう。

 ラーズの忠告は、確かにその通りであるとルビィは判断したので、意識して速度の緩急をつけながら蛇行するように務める。

 ……シャーベットも撃たれないといいけど……

 なにしろ、ルビィと違ってシャーベットには細かい立ち回りを指導してくれるより上位の魔法使いはいない。

「ところで、そのシャーベットってやつ。コンテナの所に行って、何かできることがあるのか?」

「ないです」

 ラーズの質問にルビィは即答した。

 シャーベットの実力はドラゴンプリーストの名に恥じないレベル……つまりトップレベルにある。しかし、こういっては何だがプラスアルファがないのである。

 ルビィはラーズと出会った事で、そのプラスアルファを得たワケだが、残念ながらシャーベットにそういった出会いは無かった。

「じゃあ、本当に後先考えずにコンテナに?」

「……シャーベットは……ここの出身なんです」

 ドラゴンプリーストの素性を喋っていい物かどうか、ルビィは一瞬悩んだが、結局は本当の事をラーズに教えた。

 ラーズを信用せずして、何を信用しろと言うのか。

「なるほど、居ても立っても、って感じか……」

「とにかくぶん殴って連れ戻します!」

 アイオブザワールド最強の魔法使いはルビィである。それに加えて攻撃型のルビィが汎用型のシャーベットに戦闘で負ける道理はない。


◇◆◇◆◇◆◇


 シャーベットは確かにラーズはもちろん、ルビィにすら劣る程度の魔法使いだが、それら格上の魔法使いに対する圧倒的なアドバンテージがあった。

 地の利である。

 ネーロウが向かった先と、アーケード街という情報だけで件のコンテナの位置を特定するのは難しくなかった。

 そして、飛行魔法が使えることで歩兵は絶対に追いつけない。

 ルビィは魔法探知で追いかけてくるだろうが、最短距離を移動するシャーベットには追いつけないという読みである。

 シャーベットはチラッとAiXエボリューションのホロデッキを確認した。

 ルビィを示す光点が、とんでもない速度で加速を始める。

 ……狂った速さ……

 ラーズから授かったという高機動魔法だろう。

 本当に狂った速度だった。《ウォースカイ》の倍ほどの速度が出ているのではないだろうか。

 当然ラーズも同等以上の速度で追ってくるだろう。

「……」

 歯を食いしばってシャーベットは加速する。


 シャーベットはまっすぐにアーケード街に到達した。

 ネーロウ一行の進んだルートを逆算して、コンテナの位置を予想して降りる。

「あった」

 シャーベットの予想は的中。いくつかのコンテナを見つけた。

 すたっと、着地してシャーベットは周囲を見回した。

 誰かの気配はない。

 そして、慌てて腰のホルスターからハンドガンを抜く。

 レーザー照準器の電源を入れて、右に左に向けて敵が居ないか確認する。

 ネーロウからの報告にあった通り、コンテナの周囲には誰も居ないようだった。

「……これも報告通り、開け方が分からないわ……仕方ないわね」

 とにかく中身を確認しないことには、次のアクションが取れない。

 もし爆発物だったりした場合、パニックルームに避難している市民にも危害が及ぶ可能性がある。

 パニックルームは最悪、サイラース1が破壊されたとしても、与圧を維持しながら救助が来るまで待つことができるのだが、爆発物が近距離で爆発した場合はどうなるか分からない。

 最悪、パニックルーム内の市民を避難させる必要がある。

「《アブソリュートフリーズ》……デプロイ!」

 コンテナの外板を抉り取るように、シャーベットは氷の魔法を放つ。

 《アブソリュートフリーズ》は絶対零度に近い冷温で、物質を破壊する魔法である。

 アベルの魔法にしては珍しい、実用的な大出力の打撃魔法と言える。

 逆を言うと、《アブソリュートフリーズ》はアベルがわざわざキープしている大技である。その効果は絶大だ。


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