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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
イツカ カエル トコロ

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イツカ カエル トコロ9

◇◆◇◆◇◆◇


 陸戦部はコロニー外壁近く、比較的高木の密度が高い場所を選んで借りの陣地としていた。

 陣地を形成しているのは、外にいる艦隊との通信を確保するためである。

「連中は一体何をどうしたいんですか!?」

 艦隊から受け取った情報を見て声を上げたシャーベットの声は悲痛だったが、シルクコットにその答えはなかった。

 戦略と戦術と作戦はそれぞれ違うものだし、現場レベルでは戦術はともかく戦略は見えない場合が多い。多くの場合、現場指揮官は全てが終わった後に、どういった戦略だったかを知ることになる。

 今回もきっとそういう現場なのだろう。

「アメリカ人の動きより味方の動きよ。

 何をするにしても、ルビィの確保が優先!」

 現場の指揮官は、決して目先の目的を見失ってはいけないのだ。

 今はルビィとの会合こそが肝要。

 それも、安全に会合して安全に撤退することが要求されている。

「ルビィはどうやって移動してくると思う?」

 シルクコットはシャーベットに、もう一度ルビィの動きを確認するよう促した。

「……こっちに向かって少しづつ移動しています……

 地上を……おそらく徒歩です」

 さっと魔法をかけて、シャーベットは現状を報告してくる。

 この早さこそが、最新鋭VMEであるAiXエボリューションの性能なのだろうとシルクコットは思った。

 そう。アベルから最新鋭のVMEを与えられているシャーベットもまた、アイオブザワールドの誇る最高の魔法使いの一角なのである。

「偵察班、何名かで街に様子を探ってきて。言うまでもないけど交戦は厳禁。あと、ドラゴンプリーストから攻撃されないように気をつけて」

 あまりゾロゾロ移動するのを良しとしないシルクコットは、まずは偵察を出すことにした。

「承知しました。陸戦部長。

 連絡はいかが致しますか?」

 そう聞いてきたのは、第一偵察班の班長であるネーロウだ。

 ネーロウはアイオブザワールド陸戦部としては比較的古参になる歩兵で、偵察と対戦車班を率いている。

 なお、今回は編成の都合上、偵察班は一班四名しかいないし、対戦車班にいたってはゼロである。

 それでもネーロウは赤毛を束ね直してヘルメットを被る。

「通信は禁止よ。偵察班はいいとしてコッチの本隊の場所がバレる危険があるわ。

 最悪、交戦することになった場合は赤の発煙筒で知らせて」

 知らせて。というのは、助けには行かないという意味である。

 シルクコットとしては心苦しいところではあるのだが、これは現在の陸戦部の戦力ではアメリカの上陸部隊とは戦えないという判断だ。

 駄目だとわかっているのに、助けに行く事などできないのだ。

「承知しました。ドラゴンプリーストと会合出来た場合は、ドラゴンプリーストの指揮下に入るという事でよろしいですね」

 最悪見捨てられるという自覚はネーロウにもあるはずだが、こういったことは戦場に投入される歩兵の間ではよくあることなので、特に気にする様子もない。

「ええ。ルビィによろしく言っておいて」

「はっ! 総員、初弾装填!」

 ネーロウは標準装備のアサルトライフルである『ワースレイヤー』のチャージングハンドルを操作した。

「出発」

 小さくそう宣言すると、偵察班はネーロウを先頭に静かに街の方に向かった。


◇◆◇◆◇◆◇


「これは……なかなかスリリングですね……楽しくはないですが」

「まったくだぜ」

 薄暗い雑居ビルの間、打ち捨てられたなにかの看板の裏に隠れて、ルビィとラーズは小声で軽口を交わした。

 現在、ルビィたちはシャーベットが居ると思われるコロニー外壁方向へ向かって進んでいるわけだが、進捗がよろしくない。

 街中には結構な数……しかも時間経過でさらに増える……アメリカ軍の兵士。これだけでも大概なのだが、アメリカ軍の後続が空から来る都合上、こちらが空を飛んで移動すると確実に見つかってしまう。

 加えて、実質的に戦力に計上できないクセルに宮部を抱えているので、どうしてもコソコソと移動する事になってしまう。

 火竜であるルビィはコソコソするのが苦手だし、それはきっとラーズ同じはずだ。

「ところでルビィ」

「はい。なんでしょう?」

 隣で小声で囁くラーズに、ルビィは丁寧に答える。

「手元の時計だと、そろそろ夕方って感じの時間帯なんだが……明るいままだよな?」

 右手の手首の内側につけた航空時計を示しながら、ラーズが言う。

「……言われて見ると……確かに」

 雑居ビルの間の狭い空を見上げて、ルビィは同意した。

 ルビィは建造物としてのコロニーには詳しくないが、それが建造物である以上昼夜も設計者の意図で生まれているのではないかと思えた。

「……コロニーの自転制御を奪われた?」

 揚陸を楽に進めるために、コロニーの中を昼間に固定する。揚陸が終わったら夜に固定して制圧を楽に進める。

 戦術的な評価はともかく、ありそうな話ではないか。

「それってマズいんじゃねーの?」

「局地戦レベルなら我々にはそんなに影響ないと思いますが……治安維持ユニットの戦闘能力が大幅に制限される事にはなると思いますが……」

 まあ現実問題、そんな小細工なしでも治安維持ユニットの戦力で訓練を受けた兵士の相手は無理がある。普通に戦っても無理なものが、戦術的不利を受けてまともには戦えないに違いない。

「本当は駄目なんですが、大日本帝国の兵士はどうなんですか? マイスタ」

 少しばかり考えてからラーズは答えた。

「海軍陸戦隊が精強なのは疑う余地がないけど、海軍は海軍だから陸軍が持ってるような戦車も二足歩行兵器もない。多分、できて撤退支援がいい所だろうな……それも政治的な問題を考慮しないっていう前提で、だ」

 つまり、無理ということである。

 大体、交戦が可能なら小沢は手持ちの艦載機を出しているはずだ。

「いよいよ進退極まって来ましたね」

「だいぶん盛り上がって来たな……見ろよ」

 ラーズが上を見上げたので、ルビィもつられて上を仰ぎ見る。

「強襲揚陸用の大型コンテナ……

 ……中身は……良くて歩兵戦闘車、最悪は普通の軽戦車とかですね……

 ここで見てるのもアレなので、一旦戻りましょう」


 ゴンゴンゴンとラーズがクセルたちの隠れている雑居ビルの鉄扉をノックする。

「……ミンキーモモのお供三匹の名前は?」

 宮部の声である。

「海か空か、どっちだ?」

 ラーズが返す。

「宇宙」

「おう。ハマーン様の事、魔法のプリンセスって言うのやめろよ」

 ガチャっと音を立てて扉が開いた。

「さすがはラーズさん。淀みがないっすね」

「……あの……今のやり取り、必要なんですか?」

 恐る恐るルビィは聞いた。

「いる」

 とラーズが即答する。

 偉大な魔法使いであるラーズが必要だと言うのなら、それはやはり必要な事なのだろうとルビィは納得する事にした。

「……それで首尾はどうでした?」

 さらに奥から出てきたクセルが聞いてくる。

「モリモリ増えてるぜ、あいつら」

「無限湧きっすかねぇ」

 これは宮部。

「ゲームと違って、エリア内に同時にポップする敵数の制限なんかないから、普通の無限湧きより質が悪いってもんだ」

 肩をすくめてラーズは言う。

「でもこれで、連中の目的がサイラース1の破壊ではない事がわかりました」

 サイラース1を破壊するつもりなら、こんなに大量の上陸部隊は送り込んでこないだろう。

 なにしろ、サイラース1が破壊された場合はアメリカ人も宇宙に放り出されて、全滅である。

 ルビィが考えるに、アメリカ側はサイラース1を占領した上で、エッグに講話を呼びかけるつもりではないかと思えた。

 もちろんサイラース1を人質に、有利な条件で講話を申し入れて来るに違いない。

「それより、昼夜制御を敵に奪われた可能性がある以上、暗くなるまでここに留まってるって選択はナンセンスだぜ。

 さっさと市街地を出ないと包囲されちまう」

 まあ、包囲のために敵が一か所に集まってくれるなら、大規模打撃魔法で一網打尽という選択肢もとれるので、それほど悪くもないのだが。

「……なんか、官憲が使う秘密の通路とかねえの?」

「それが先ほどまでいた地下の連絡通路です」

「そっかー」

 ラーズはあまり戦いたくないのか、逃げる算段をしている。

 やはり、他国に派遣されてきているというのが問題なのだろう。


◇◆◇◆◇◆◇


 ネーロウは、ガブリエル時代からアイオブザワールド陸戦部に所属している。

 騎士団再編の際、当然シャングリラによって招聘されたのだが、ネーロウはそれを断った。

 単純にシャングリラの部下になるのがイヤだったというのもそうだが、今のドラゴンマスターの下のほうが楽しそうだと感じたのだ。

 しかし、実際にはアベルは陸戦のそれほど重視していなかったので聖域奪還作戦以降、初めて出番が回ってきたのである。

 低木の間に生えた植生を丁寧に押しのけながら、ネーロウは部下四名を率いて進んだ。

 植生を切り払ったりしないのは、敵に痕跡を悟らせないためである。

 痕跡をたどられると、その先には陸戦部の仮設司令部があるのでリスクは負わないに限る。

 ネーロウは部下を従えて、たっぷり二〇分ほど使って市街地の淵までやってきた。

 部下が片手を上げて、グーを出す。

 止まれという合図だ。

 そして、自分の目を指さした後、市街地の道路……ネーロウから見て左のほうを指さした。

 そこにはアサルトライフルを持って、話ながら歩いている兵士の姿。

 見回りなのだろうが、ネーロウは練度は低そうだと判断した。

 視界の通らない植生の近くを、おしゃべりしながら歩くというのは考えにくいからである。

 本来ならサプレッサー付きの銃で射殺して、茂みの中に引き込む所なのだが、残念ながらシルクコットから交戦禁止命令が出ている以上、それはできない。敵は命拾いをしたという事だ。

 ネーロウも部下も息をひそめて、兵士の通過を待つ。

 兵士の姿が曲がり角の向こうに消えるまで、五分。さらに様子見に五分程待ってから、ネーロウはチームに前進の指示を出した。


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