表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
サイラースの魔女の伝説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

462/605

サイラースの魔女の伝説17

◇◆◇◆◇◆◇


 一時間ほど前。

「小沢閣下」

 『翔鶴』の艦橋。艦長席に座っていた貝塚は、エレベータから降りてきた小沢を見て、直立し敬礼する。

「よい。仕事を続けるように」

 他の艦橋士官たちも貝塚に習って敬礼しようとしたので、小沢はそれを制した。

「貝塚大佐、変わりはないか?」

「サイラース1の至近での航行禁止命令が出ましたが、現状『翔鶴』には影響はなしであります」

 航行禁止は港の管理者が出す命令なので、港を利用する全ての艦船が従う必要がある。

 この場合、サイラース1の付近には小惑星や破壊されたサイラース1の破片がデブリとなって漂っているので、航行禁止はやむをえない措置だろう。

「既に陸戦隊は送り込んでいるでの、問題はないかと」

「うむ。それに関しては問題はないのだが……どうやってラーズ君達を艦に戻そうかと考えていてな」

 心底困ったように小沢が言う。

「連絡は取れたのでは?」

「取れた。しかし、サイラース1の破損に合わせて、怪しい組織によるテロの可能性があるとの事だ。

 ラーズ君を信頼しないわけではないが、ルビィ・ハートネスト主席参謀が巻き込まれる事態は避けたい」

 それを聞いて貝塚はなるほど。と思った。

 ルビィはアイオブザワールドの重鎮。怪我でもさせれば……レクシー提督は気にしないだろうが……政治的な問題になりかねない事を、小沢は懸念しているのだ。

 とその時、電探士官が貝塚の方を振り向いた。

「お話中の所、申し訳ありません。艦長!」

「よい。報告を優先しろ」

 と小沢。

「ヨーソロー。

 本艦一時方向に時空震先進波を探知。艦船が降下してきます。

 ADDアウト……今っ!」

「随分外れた所に降りてくるな……」

 貝塚は艦長席のコンソールを操作して、個別に電探情報に目を通す。

「『パンデリクティス』級ですね……長官。レクシー提督の艦隊かもしれません」

 エッグで『パンデリクティス』級を運用している組織は、近衛隊とアイオブザワールドだけである事が知られている。

 近衛隊の艦が、エッグ領の果てであるオーウェン・サイラースまで来るとは考えにくいので、必然的にこの『パンデリクティス』はアイオブザワールドの艦と言う事になる。

「レクシー提督と連絡は可能だろうか?」

 小沢が言う。

 少なくとも情報共有、できればアイオブザワールドからの増援を引き出したいと言った意図だろう。

「友軍識別でレクシー提督の艦だと確定した後、連絡を試みてみましょうか?」

「ああ。それで頼む」

「ヨーソロ」


「当該艦は『パンデリクティス』級巡洋艦A2244と認む。

 最新の編成表では、アイオブザワールド第二艦隊所属となっています!」

 五分ほどかけて、降下してきた『パンデリクティス』の友軍識別が終わった。

 妙に時間が掛かったのは、『パンデリクティス』に続いて、多数の輸送船も降下してきた為だ。

「通信士官。A2244に通信を繋げるか?」

「ヨーソロ。通信を試みます」

 貝塚は艦長席から立ち上がって、艦橋のメインディスプレイに向き直る。

「小沢長官が直接話されますか?」

「いや、いきなり俺が話しかけてきたら、向こうさんもびっくりするだろう。頼む」

「ヨーソロ」

 そんなやりとりをしている間に、通信が繋がった事を示すランプが点灯した。

「……こちらはアイオブザワールド第二艦隊所属『パンデリクティス』級巡洋艦A2244艦長、ランドール・へネス艦長」

 こちらが映像付きの通信を送ったので、向こうも映像付きの通信で答えてくれた。

 映像に現れたのは、黒っぽい灰色の髪を大雑把に三つ編みにした、肌の白いドラゴンの女性だ。

 若いな。と貝塚は思ったが、ドラゴンの年齢など見た目で判断は出来ない事を思い出して、言葉を飲み込んだ。

「応答感謝する。こちらは大日本帝国海軍第一航空艦隊旗艦『翔鶴』、貝塚武雄艦長である。

 レクシー提督と連絡が取りたいのですが、連絡は可能ですか? ランドール艦長」

「少々お待ちを……」

 ランドールはそう答えて、通信がミュートされた。

 レクシーの所在を確認しているのだろうと貝塚は想像する。

「お待たせしました、通信の中継は本艦で可能ですが、三〇分程待っていただければレクシー提督が座乗する旗艦も本海域に降下してきます」

 貝塚は小沢の方を見た。

「出来れば早く情報共有をしたい」

 小沢は答えた。

 ルビィを危険に晒しているのが、小沢にとっては結構なストレスになっている事がうかがえる。

「ランドール艦長。お手数ですが、すぐにレクシー提督と話したいので、通信の中継をお願いできますか」

「わかりました。この回線をそのままリレーします」

 画面外に向かってランドールが何かを合図すると、通信が一度ブラックアウトしてアイオブザワールドのロゴに変わる。

 律儀にロゴの左下に、接続中というアイコンと接続完了まで、という数字まで表示されていて残り四八秒を示している。

 四八秒の表示のは十秒ほどそのままで、残り三七秒に変わり、四四秒に戻ったのちいきなり五秒になったあとは、一秒ずつカウントダウンしていき、〇秒になった。

 それから五秒ほど固まったあと、画面にレクシーが現れた。

 貝塚は艦長席を小沢に譲る。

「小沢長官、ごきげんよう」

 にっこりと笑いながらレクシーが言う。

 なんとも魅力的な笑顔なのだが、表現不可能な不安を感じる笑顔でもある。

「応答いただきありがとうございます。レクシー提督」

「いえ。こちらもそろそろ連絡しようと思っていた所なので、丁度よかったです」

「……実はレクシー提督に報告がありまして……

 提督はオーウェン・サイラースの出来事はご存じで?」

 そこで小沢は一度話を切る。

「隕石衝突の話ですか? それなら既に報告を受けていますが……」

「本当に申し訳ないのですが、その隕石衝突の混乱でルビィ・ハートネスト主席参謀が本艦に戻れない状況になっています」

 レクシーのホロ映像に向かって、小沢は頭を下げた。

 向こうでレクシーは、こちらの映像を見ているのだろうかと貝塚は疑問に思った。

 ホロ映像のレクシーは少し考えるそぶりを見せる。

「我が主席参謀が、その程度のトラブルでどうこうなるとは思えませんが……わかりました。アイオブザワールドからも手持ちの陸戦戦力を投入できるように検討しましょう」

「おお」

 小沢は驚きの声を上げた。

 アイオブザワールド陸戦部は艦隊司令部とは別の組織であるというのが、大日本帝国内での認識である。


◇◆◇◆◇◆◇


「ではお手数をおかけしますが、対応の方、よろしくおねがいします」

 そう言うと、小沢からの通信は切れた。

「小沢長官も大変ね」

 今まで小沢のホロが移っていた空間を見ながら、レクシーは言った。

「プリシラ艦長。ちょっと陸戦部長と話してくるわ。

 ルーチンだから大丈夫だとは思うけど、何かあったら連絡ちょうだい」

「アイ。提督」

 プリシラが艦長席から立ち上がって、レクシーに答えた。

「提督ブリッジアウト。レクシー提督は仮設陸戦司令部へ移動される」

 高らかにプリシラが宣言する。

 別にこれは酔狂でやっているわけではなく、レクシーの所在を士官に知らしめる為の重要な仕事である。

 もっとも、『ユーステノプテロン』のコンピュータは、環境制御の為にどこに誰がいるかをリアルタイムでモニターしているので、調べれば所在を知る事は容易いのだが。


 ブリッジからエレベータで五フロア降りて、艦尾方向へ一五〇メートルばかり行ったところに、仮設陸戦司令部はある。

 司令部と言っても、艦に乗っている限り陸戦部に仕事があるわけではないので、実質的に陸戦部員の居場所というだけの部屋なのだが。

「シルクコット陸戦部長!」

 景気よく声を上げて、レクシーは仮設司令部のプレートが貼られた扉を開いた。

「ドラゴンナイト! おい! 誰か部長をお呼びしろ」

 幅二〇メートル。奥行き三〇メートル程の部屋に、陸戦部の士官の声が響き渡る。

 レクシーはしばらく入り口で待っていると、眠い目をこすりながらシルクコットがパーテーションのカーテンを開けて出てきた。

「お休み中だったのね?」

「今は、標準時で午前四時前よ。普通は寝てるわ」

 寝癖を直そうともせず、シルクコットはレクシーを伴って奥にある作戦テーブルへ向かう。

「何かお持ちしましょうか?」

 陸戦部の士官が、レクシーとシルクコットが席に座るなりやってくる。

「コーヒーを頂戴。熱いやつ。レクシーは?」

「いらないわ」

 突き放すようにレクシーは言うと、士官は小走りに去って行った。

「で、わたしを起こしたってことは、臨検?」

「残念ながら違うわ。当初から言ってるとおり、臨検はやらないのがアイオブザワールドの方針よ」

「じゃあ、なに?」

「オーウェン・サイラースに上陸してもらうわ」

 状況がわからないのか、シルクコットの動きが止まった。

「……? 状況がよくわからないんだけど?」

 そう言われて、レクシーは重大な事を思い出す。

 すなわち、艦隊のスタッフではないシルクコットは、今この瞬間自分がどこに居るか知らないのだ。

「あー。そうね。最初から説明するわ」

 手元のホロタブレットを机の上に置いて、起動しながらレクシーが言う。

「現在、わたしの艦隊はオーウェン・サイラースまで一時間以内の距離に居るわ。もうオーウェン・サイラースに入港してる艦もある。

 で、今現在オーウェン・サイラースでトラブルが起こってて、ルビィが帰ってこれない状況になってるの」

 レクシーはタブレットをシルクコットの方へ押しやった。

 それをシルクコットが手に取って、情報に目を走らせる。

「天体の衝突? そんな事って起こる物なの?」

「起こるか起こらないかって言う話なら、起こりうるわ。超低確率だけど」

 レクシーとしては、問題は隕石の類いが飛んできた事ではなく、迎撃用のシステムが動かなかった事の方だと思っているのだが、それも今はどうでもいい。検証は後でもできるだろう。

「……で、それに呼応してテロリストが動き出した……と。

 この連中って、前にルビィのレポートにあったドラゴンの血を飲んでハッピーになってる奴ら?」

「ハッピーになってるやつらよ。今もハッピーかは知らないけど」

 何しろ、ルビィが前にサイラース1に居たときと、今では魔法使いとしてスペックはまさに段違いになっている。

 武装した人間がダース単位で襲って来ようが、それが魔法使いでないなら簡単に蹴散らせるはずだ。

「まあ、そのハッピーになってた奴らが暴れてるけど、サイラース1の治安維持ユニットは隕石による被害にリソースを取られて対応できないっていう状況ね」

 レクシーが話を切ると、丁度シルクコットの注文を受けた士官がコーヒーを持ってきた。

「ありがと……で、陸戦部に助けにいけ、と」

 ずずっとコーヒーカップのコーヒーをすすって、シルクコットが言う。

「有り体に言えば、そう。

 艦がADDアウトしたら、部下を連れてサイラース1に向かって。

 指揮権は一端陸戦部長に預けるわ。地の利はシャーベットの方があると思うから、以後の指揮権の設定は陸戦部に任せるわ」

 ちなみに、艦隊司令長官としてのレクシーは陸戦部に命令する権利はないのだが、ドラゴンナイトとしてのレクシーはアイオブザワールドで最高の指揮権源を持っている。

 これはなかなか便利なのだが、正直言って危険な状態だとレクシー自信も思っていたりする。

「わかったわ。なんとか一時間くらいで用意できると思うわ。

 上陸はこの艦の『グラミー』を二隻ほど借りるわよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ