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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
サイラースの魔女の伝説

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サイラースの魔女の伝説15

 それは、唐突に来た。

 キン! という金属音、続いてとんでもない爆発音を伴って、天井が崩れた。

「なっ!? なんだ!?」

 ミスタ・アランは最初の金属音に反応して飛び退いたので、崩れた天井に巻き込まれる事はなかったようだ。

「おー。ちゃんと合ってたな」

 崩れた天井の縁部分から、のんきな声。

「マイスタ・ラーズ!」

 ルビィが歓喜の声を上げる。

「なんだ? ピンチだったのか?」

 ひょいっと、穴の縁から飛び降りながらラーズは言う。

「ふーん」

 クセルとルビィ……というか、件の冷凍光線で出来た氷塊を一瞥して、ラーズはつまらなさそうな声を出す。

「んなモンで拘束されてんじゃねーよ。やる気あんのか。

 あとで、お仕置きな。当然エッチなやつ」

 言いながらラーズは左手を上げた。

 その手の中に出現した赤い光の球がぐにゃりと変形して、鳥の形を取る。

 《フレアフェザー》という奴だ。

「《フレアフェザー・色即是空》デプロイ」

 ラーズは作った火の鳥を、なんの気なしにクセルの方に放った。

「うわあああっ」

 クセルは、《フレアフェザー》という魔法が強力無比な攻撃用の魔法である事を知っている。

 それが突然飛んできたのだから、慌てる。

 しかし、当然感じるであろう熱を感じる事もなく、火の鳥はクセルの体を貫通していった。

 パリン! という涼しげな音に自分の体を見れば、先ほどまであった氷があっさりと砕けて消えていく。

 ルビィの方も同じく、その身を拘束していた氷だけが、砕けて消える。

「……これは……」

 ルビィが呟く。

「色とは事象。魔法で空から生まれた色、これすなわち空」

 ラーズが言う。

 それは今の魔法の説明なのだろうが、クセルにはよくわからない。

「オレの第七世代《フレアフェザー》は、魔法効果だってぶっ壊すぜ」

「すごい! 新技!」

 ルビィが何度目かの歓喜の声を上げる。

 声の感じからして、この魔法はスゴイ物らしい事はクセルにもわかった。

「ラーズさん! 後ろっ! 瓦礫が」

 再び穴の上から、声。

 こちらは宮部である。

 そして、宮部が言うとおり、天井の瓦礫に埋まっていたリフターアイが再び浮かび上がる。

「……!?」

 その姿を見て、ラーズが息を飲むのがわかった。

 当然である。こんなバケモノと対面すれば誰でもそうなるに違いないとクセルは思った。

「ラーズさん! 土下座右衛門っすよ! 鈴木土下座右衛門!!」

「……ああ。まさか、生で鈴木土下座右衛門を拝める日が来るなんて……うっ」

 驚愕した口調で喋っていたラーズが、突然言葉に詰まった。

「どうしたんですか!? マイスタ・ラーズ!」

 心配そうにルビィが声をかける。

 なるほど。リフターアイが未知の攻撃を仕掛けた可能性をルビィは心配しているようだ。

「……くっ。なんか檻に入れられていじめられてる気分になってきた。汚いな忍者。さすが忍者きたない」

「ああっ! あぶない!」

 なにやらよくわからない……しかし元ネタがありそうな事を言っているラーズの死角から、気を利かせた白ずくめの一人が迫っているのをルビィが警告する。

「めんどくせえな」

 そう言うなり、ラーズは左手を掲げた。

「おいザコども。高級耳栓は発動してるか?」

 取りあえず、ラーズはミスタ・アランに向かって言ったが、ミスタ・アランもその言葉の意味はわからなかったようだ。

「《フレアフェザー・阿鼻叫喚》」

 ラーズの掲げた手の中から、巨大な火の鳥が出現した。

 その火の鳥は大きく胸を反らして、息を吸い込むようなそぶりを見せる。

「?」

「デプロイ」

 それが何なのかわからないクセルを無視して、ラーズが魔力を投射する。

 キィーッ! と甲高い鳴き声。

 その鳴き声を聞いた瞬間、クセルは背骨が凍るような冷たさを感じた。鳥肌が立ち悪い汗が流れる。

 これがラーズの魔法の効果である事は明白だ。

 そして、その攻撃を真っ向から受けたミスタ・アランは両耳を塞いでその場にしゃがみ込む。

 回り込んできていた白ずくめは、ひっくり返って悶絶する。

 どうやら、ちゃんとラーズはクセルやルビィを加害対象から外しているらしい。それでも、結構影響は受けたような気がするが。

「予備モーション無しの咆哮大とかエグいっすよ」

「宮部っちは無傷か」

 上の穴を見上げてラーズは気軽な感じで言う。

「プロハンなら咆哮見てからコロリン余裕っすよ」

「流石だぜ。今度ヤマツの素材マラソン付き合ってくれ。

 さてさて、コロリンも出来ないしバケツテンプレも着てない白ずくめ諸君……は全滅だな」

 ラーズはちらっとクセルの方を見た。

 後は治安維持ユニットでなんとかしろという事なのだろう。

「というワケで、あとは土下座右衛門だけだが……

 ルビィ。ちょっと場所開けろ」

「はいっ! クセルさんこっちへ。

 あとマイスタ・ラーズ。その目玉……土下座右衛門、ですか? ……やたら固くて魔法が効きません」

 言うだけ言って、ルビィはクセルの手を取った。

 そのまま部屋の隅っこまで、移動する。

 どうもここでギャラリーを決め込むつもりのようだ。


◇◆◇◆◇◆◇


「《イザナギ・ネットワーク》アタッチ」

 ルビィ曰く、この目玉のバケモノは固いらしいので、ラーズとしては一発目でどれくらい固いかを見極めたい。

 なら、《イザナギ・ネットワーク》で圧縮した打撃魔法をぶつけて、感触を確かめる。

「《炎の矢・改》デプロイ」

 《イザナギ・ネットワーク》によって効果が上書きされた|《炎の矢・改》は、一本の炎の槍として生成される。

「ほいっ」

 かけ声と共に、ラーズは炎の槍をリフターアイに向かって投げつけた。

「《ホワイトフリクション》」

 目玉のバケモノが魔法を使う。

 直後に着弾した、炎の槍がすっと薄くなって消えた。

 ……なるほど。

 ラーズは当初、レイルのヴォイド効果による魔法無効のような物を想像していたのだが、どうやらリフターアイの防御システムは普通らしい。

 ならば、圧倒的な大火力こそが攻略法である事は明白。

「《フレアフェザー》デプロイ!」

 ラーズの左手の先に、巨大な火の鳥が出現する。

 ちなみに。《イザナギ・ネットワーク》は魔法の使用後に自動的にデタッチされる仕様なので、今回の《フレアフェザー》は非圧縮である。

 ぶぅんぶぅんとリフターアイが羽音の様な音を立てる。

「燃え尽きろ」

 そこへ、甲高い鳴き声を伴って、火の鳥が飛び込んでいった。

 そして爆発。

 ラーズやルビィの開けた穴で大分広がったとは言え、ここがまだ閉鎖空間である事に変わりは無い。

 くぐもった爆発音と爆炎がリフターアイの姿を隠す。

 ルビィも《フレアフェザー》は試しているだろうが、ルビィとラーズでは単位時間当たりに消費できる魔力量に雲泥の差がある。

「ふうん?」

 ラーズは軽く左手を上げた。

 ほぼ同時に、大量の埃を切り裂いて光線が飛来した。

「大した威力じゃねーな?」

 光線はラーズの保護障壁の表面を嘗めたが、それだけである。

「土下座右衛門なら土下座右衛門らしく、土下座キックとか土下座チョップとか使わねーと、オレには勝てねーぞ」

 埃が晴れて、再びリフターアイの姿が見えるようになる。

 見た感じ、《フレアフェザー》による被害は見て取れない。

 ……効いてないって感じでもないんだけどな……

 リフターアイは概ね球型といっていいフォルムなので、爆圧に対しては有利だろうが、果たして無傷で済む物なのだろうか。

「まっ、いいか。バケモノ相手なんでもうちょっと楽しみたかった所だが……」

 ラーズは新・子狐丸の鞘を払い、構える。

「《タテミカヅチ・ネットワーク》アタッチ」

 ラーズとしても、丁度固い相手に試したい魔法があるので、都合がいいのは都合がいい。

「《ブラスト=コア》……」

 右手に新・子狐丸を持ったまま、左手に|《ブラスト=コア》の投射物である赤い光球を生成する。

 このままデプロイして投げてもいいのだが、それでは《タテミカヅチ・ネットワーク》の意味が無い。

 リフターアイはぶうんぶうんと羽音の様な音をさせているが、特に動きはない。

 ……じゃあ、行かせてもらおうか。

「オーバーライド!」

 手にした赤い光球を、ラーズは新・子狐丸の背に押しつけた。

 そう。アーティファクトに魔法の効果を乗せるのが、新技《タテミカヅチ・ネットワーク》の効果である。

 《ブラスト=コア》の効果を吸い込んだ新・子狐丸は、刀身に赤い光を宿した。

「行くぜ? ……《紅蓮剣・改甲『陽炎』》!」

 紅蓮剣・改が内蔵する《ブリンク》の処理で、ラーズはリフターアイの背後まで瞬間移動する。

 そして、そのまま魔力の乗った新・子狐丸を振り下ろす。

 ゾバッ! という派手な斬撃音を伴って、リフターアイの背後に長さ三〇センチ程の斬撃痕が残った。

 訳のわからない、青緑色の体液が飛び散る。

「固いけど……十分にダメージが通るな。

 まあレイドボスとかじゃねーんだから、当然か」

 とラーズは思ったわけだが、次の瞬間には目を疑うような光景を見ることになる。

「ええっ!?」

 なんとリフターアイの斬撃痕が、みるみる内に塞がっていくではないか。

「超回復持ちってわけか……なかなかやるな」

「マイスタ・ラーズ!」

 ルビィの声。

 心配しているのか、真面目にやれと思って言っているのかは不明だ。

「だが」

 ラーズはルビィの声を無視した。

 ルビィは忘れている事があるのだ。そして、それはすぐにわかる事だ。

「タテミカヅチ・ネットワークの追加効果!」

 ばっと左手を振ってラーズは高らかに宣言する。

「オーバーライドされた|《ブラスト=コア》のスーパーが発動するぜ!」

 そう。《タテミカヅチ・ネットワーク》によってオーバーライドされた魔法は、新・子狐丸の強化だけではなく、命中時にその効果を追加で発動することが出来るのである。

 リフターアイの治りかけの傷が、突如として爆発した。

「先進的な魔法の前に、旧魔法王国の遺物なんて無力なんだよ」

 爆風でリフターアイが転がって行く。

 どこかコミカルでシュールな光景だ。

「すっごい!」

 と拍手してくれるのはルビィだけである。

 逆を言うとルビィだけが、ラーズの魔法が凄いことを認識しているとも言える。

「もう終わりか? テロリスト諸君?」

 問いかけた相手は、白ずくめの集団の手近に居た奴だが、|《フレアフェザー・阿鼻叫喚》で全滅した白ずくめがそれに答える事はない。


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