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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
竜の卵と卵の事情

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竜の卵と卵の事情14

 ……解析終わったか。

 VMEがデータを流し込んでくる。

 やはり、アルカンドスが持っている剣はアーティファクトである。データベースに該当するアーティファクトは無しとしながらも、系統は金。属性は雷と判明。

 アルカンドスは現状、保護障壁を上げていないので各種パラメータは不明。

 しかし、アベルは雷属性だろうな。と推察していた。

 通常、武器型のアーティファクトは自分の属性と合ったものを選ぶからである。

「……さて、できれば校庭の方で戦いたいと思うんだが?」

「いいぜ」

 アベルの提案をアルカンドスはあっさりと承諾。

 雷属性と推定されるアルカンドス的にも、広いところはやりやすいのだろう。

 逆にアベル的には、ギャラリーが欲しいので、校庭はいい舞台であると言える。

 結果的に二者の思惑が一致、校庭のど真ん中に向かって移動する。


 ……さて。

 アベルの見立てでは、アルカンドスは相当強いようだ。

 もっとも、ガブリエルに喧嘩を売ろうと言うのだ。相応の実力が無いわけはない。

 アベルは、間合いを取るために背中を見せて歩いていくアルカンドスを観察した。

 ……左腕になんか付けてるな……VME……AiXっぽい形だが……

 少し大振りの小手のような形状。AiXのデザイン思想である。

 センチュリアはエッグの領内なので、その中で作られたAiXシリーズがエッグにあってもそれほど驚くに値しない。

 実際、アベルもAiX2700用のバッテリーをエッグで入手できたので、やはり流通しているのだろう。

 ……このあたりの事も調べないとな……

 それには、まずこの局面を打開する必要があるが。

 おおよそ十五メートル離れて、アルカンドスが振り返った。

「さあ、準備はできた」

「そうだな」

「……行くぞ! 《サンダーブリット》デプロイ!」

 この男、乱暴な物腰のわりに意外に正々堂々としている。とアベルは感じた。

 いわゆる騎士道精神という奴だ。

 アルカンドスは予想通り雷の魔法を使った。

 これは、水の系統の魔法使いであるアベルに対して優勢である。

 この属性の相性は、三〇%程度と一般的には考えられている。

 つまり、アベルは攻撃防御の両面にわたって、三割のハンデを背負うという事だ。

 ……でもまあ、雷属性はキライじゃないんだよな。

 正直言って、雷は特性が素直な魔法が多い。対策は簡単だ。

「《エクストコラムス》!」

 アベルは事前に用意しておいた魔法を展開する。

 数本の光の円柱が地面に立つ形でアベルの周囲に出現した。

 直後に飛来した《サンダーブリット》が《エクストコラムス》の作った光の柱に吸い込まれた後、一瞬魔法陣が見え、消える。

「被雷魔法か……おもしれえ」

 アルカンドスは剣を振り上げ、魔法の展開を始める。

 ……遅いな。VMEの性能が悪いのか?

 それがアベルの感想だった。

 正直、雷の魔法はアベルに取って脅威ではない。劣勢であるが故、十全の対策が打ってある。

 そして、雷の魔法使いがこういったシチュエーションに遭遇した時に取るリアクションも、検証済みだ。

 つまり接触による直接攻撃。

 アルカンドスは低い軌道でジャンプした。

 《フリーズブリット》のいい的だが、ここは自重。もうしばらくは防御に徹する。

 アルカンドスの狙いは、魔力を乗せた剣による一撃だろう。

 センチュリアでは既に、戦術的に意味がないと言われている攻撃方法だ。

 アベルは、アルカンドスに合わせる形で後ろに飛んで間合いを開ける。

 武器というのは、それが届く距離まで近づかない限り当たらないのだ。

「《サンダーエッジ》……デプロイ!」

 アルカンドスは間合いを離したアベルに向かって、剣を振るう。

 雷をまとった刀身から、電撃が刃のような形で打ち出される。

 だが、ただの雷撃魔法である。

 アベルは再び《エクストコラムス》でそれを防ぐ。

 もともと、攻撃と防御なら防御魔法の方が有利なのだ。まして、アベルのVMEはセンチュリアにおける最新鋭のAiX2700である。アルカンドスのそれとは圧倒的な性能差がある。

「……ちょろちょろと……しかし、ガブリエルとは違うな……」

 不敵な笑みを浮かべてアルカンドスは言う。

「まあ、おんなじだったら、オレいらないだろうしな」

 アベルも答える。

 アベルの見立てでは、アルカンドスの実力はラーズに若干劣る程度。

 しかも、ラーズやレイルと違ってちゃんとアベルと駆け引きをしてくれる。これは嬉しい。

「まったく……天使かよ」

 それがアベルの偽らざる感想だった。


 わずかばかりの時間、膠着。

「お嬢ちゃんは、もうちょっと離れてな」

 アルカンドスは、正眼に構えた剣をアベルに向けたまま言う。

 お嬢ちゃんとは、特等席でギャラリーしているシルクコットの事だ。

「だ。そうだ……離れてろ」

 アベルも声をかける。

 次のアルカンドスの攻撃は間違いなく、広域のダメージ魔法。

 《アークサンダー》辺りとアベルは読んだ。

 理由は簡単。一方向から攻撃してダメなら、広域に雷撃を投射しようと言うのである。

 アルカンドスが剣を振り上げ、魔法を展開する。

「こいつが防げるか? 《アークサンダー》……デプロイ!」

「防げるぜ! 《エクストコラムス》!」

 《アークサンダー》は、術者を中心に直径五〇メートル程度の空間に雷撃をばら撒く魔法である。実質的に無指向の浸透型打撃魔法なので指向性防御では防げない。

 しかし、これもセンチュリアにおいては雷の魔法のスタンダードな運用であると言える。すなわち、対策が存在するのである。

 《エクストコラムス》は別に、自分の周りにしか出せないわけではない。

 今回はアルカンドスを囲むような形で、効果を出現させる。

 術者を囲んで《エクストコラムス》が展開している以上、それより外に《アークサンダー》の効果が漏れる事は無い。

 やはり、虚空に一瞬魔法陣を描いたのみで、雷撃が消えて無くなる。

 ……三発目。

「しゃあっ!」

 気合の声と共に、アルカンドスが迫る。再び剣撃戦に入りたいようだ。

 だが、付き合ういわれはない。

「《アイスウォール》デプロイ!」

 アベルの振った右手の先に、氷の壁が出現。

 アルカンドスの突撃ルートをつぶす。

 《アイスウォール》をこういった用途で運用した場合、統計的に相手は上を飛び越えてくる事をアベルは知っている。

 もっとも、向こうも飛び越えに当たって牽制を振るだろうが。

「《雷の矢》デプロイ!」

 声だけが聞こえ……直後、氷の壁の上にアルカンドスが飛び出してくる。

「ぶち抜け!」

 《雷の矢》は十発程度の電撃を放つ、初歩のダメージ魔法である。

 着地までの時間稼ぎだろう。

「……遅い! 《エクストコラムス》!

 《氷の矢》……デプロイ」

 対するアベルは《雷の矢》を《エクストコラムス》で迎撃。続けて対空砲火として《氷の矢》をばら撒く。

「ちっ」

 アルカンドスは舌打ち一つ、剣の一振りで《氷の矢》を散らす。

「……やっぱ強えな」

 間合いを開けたアベルは言う。

「……よかったら一緒に、働かないか? テロ組織なんてバカらしいぜ」

「はははっ。

 面白い事を言う奴だ……だが、俺様の狙いはガブリエルの命だぞ?」

「話し合いで何とかならねえかなあ?」

「……そうだな。もっと前なら……そうしても良かったんだがなっ!

 《サンダーブリット》……デプロイ!」

 アルカンドスは再び、《サンダーブリット》でアベルを攻撃。

 さらに《サンダーブリット》を追ってアベルとの間合いを詰める。

 明らかに《サンダーブリット》を迎撃させて、その間に剣の間合いまで距離を詰める算段だ。

「《エクストコラムス》!」

 いつも通り《サンダーブリット》を迎撃した後、アベルは自分からアルカンドスに向かって距離を詰める。

 アルカンドスが目を見開き、驚愕の表情を浮かべた。


◇◆◇◆◇◆◇


 ……なんという事だろうか。

 遠巻きに二人の戦いを見ていたシルクコットは、驚嘆せざるを得なかった。

 シルクコットの見たところ、アルカンドスはかなり強い魔法使いである。もしかすると当代のドラゴンナイトであるシャングリラ=トリブラウより強いかもしれない。

 そして、魔法のポテンシャルでは明らかに劣っているはずのアベルが、そのアルカンドスを戦術で圧倒している。

 訳が分からない。

 シルクコットにとってそれは、まったく未知の魔法の運用思想だった。


 間合いの詰まった二者が交錯する。

 アベルが右手の先に作った防御魔法によって、アルカンドスの剣……アーティファクトを受け止めて見せた。

 直後、二人は弾かれたように離れる。

「《氷の矢》デプロイ!」

「《雷の矢》デプロイ!」

 二人の声が重なり、雷と氷が交錯する。

 各々、段数の半分程度が相互に干渉して消滅。

 アルカンドスは横に走って《氷の矢》を避け、アベルはもう何度目か分からない《エクストコラムス》で、《雷の矢》を防ぐ。

「……重ねて言うが……」

 アベルが再び声を上げた。

「本当に、ウチにリクルートする気はない?」

 この期に及んでアベルは、まだアルカンドスを口説こうとしている。

 シルクコットには、この思想もわからなかった。

「……ありえないぜ」

「そうか」

 心底残念そうにアベルは言った。

「……だが、強力な魔法使いの喪失は、魔法文明にとっての損失だからな……

 手加減しとくぜ」

 アベルの声のトーンが変わったと思ったのは、シルクコットの気のせいだろうか?

 しかし、その分を差っ引いてもアベルは今、実質的な勝利宣言をした。

 ……一体どういう……?

「……インスタント《エクストコラムス》は、雷撃魔法を受けるとメタアーティファクト《フロストコラムス》に変わる」

「!?」

 アベルが右腕を大きく横に振る。

 それ合わせて、アベルの足元から同心円状に魔法陣が広がる。

「儀式魔法だと!?」

 アルカンドスの驚愕の声。

 当然である。今までアベルは普通に戦っていただけである。儀式魔法を準備している様子など無かった。

 儀式魔法とは、発動に魔力以外のコストを要する魔法の総称である。

 発動プロセスが複雑である代わりに、絶大な効果を発揮する。

 直径五〇メートルにも達する巨大な魔法陣が校庭に出現し、さらに《フロストコラムス》の周りにも魔法陣が書きあがる。

「……おおおっ!」

 気合の声と共に、アルカンドスは剣を振りかざし、アベルに切りかかる。

 だが、アベルの周りに展開されている障壁の効果により、一定距離から先アベルに近づくことはできないようだ。

「くそっ……

 ……だが、なにを儀式魔法のコストに捧げる!? 捧げるものが無ければ……こんなものこけおどしだ!」

「捧げるのは……《フロストコラムス》だ。

 お前の魔力で生まれた、氷の柱だ。この意味わかるよな?」

 不敵に笑って、アベルはアルカンドスに答えた。


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