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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
サイラースの魔女の伝説

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サイラースの魔女の伝説7

 受付担当のお姉さんが出してくれたコーヒーを飲みながら待つこと、さらに数分。

 スーツ姿の人間がエレベータから姿を現した。

 レクシーの使いの者の相手にするには、やや若いと感じるような外観の男だ。

「ルビィ・ハートネスト様!」

 明らかに年下であるルビィに対しても、丁寧な態度である。

 やり手の、中間管理職と言ったところかとルビィは想像した。

 そして、その男の雰囲気からなにかトラブルめいた気配も感じた。

「ルビィ・ハートネストです」

 なんとなくルビィは、レクシーの立ち居振る舞いを真似ているのだが、上手くできない。

「エドウィン・村山と申します。お見知りおきを」

 そう言って、名刺を差し出す。

 今時レアな紙の名刺である。

 対する芝山も、これに紙の名刺で応じる。

 それを見て、ルビィはなにか居心地の悪さのような物を感じた。

「わたしも紙の名刺用意しとこうかしら?」

「それでですね、ルビィ・ハートネスト様」

 ……ああ。だめそう。

 とルビィは思った。

「実は、ピットマンズ総合商社社長である、アイラ・マスクスが急用の対応に当たっておりまして……

 わざわざ来ていただいて、恐縮なのですが……」

「芝山さん。どうされますか?」

 そもそもこの話自体のハンドリングは帝国海軍にある。

 次に行くかどうか、ここは芝山が決めるべきだろルビィは思った。

「次に行きましょう。我々としては、なるべく早く事を進めたいと思います」

 予想通りの回答だが、問題は時間である。

 サイラース1は昼夜があるタイプのコロニーなので、必然的に夜になれば経済活動が停止する。

 ビジネス目的でずっと昼になっているコロニーも多いのだが、オーウェン・サイラースは農作を主とする植民星であるため、昼夜型が採用されているとルビィは聞いている。

「では次へ急ぎましょう。定時過ぎて訪問するのは、失礼に当たるので……」

 アベル曰く、定時後は落ち着いて残業する為の時間だからして、それを邪魔するのは礼儀に反する。との事だ。

 この辺り、サラリーマン社長のアベルらしい発想だとルビィは思った。


 ペコペコと頭を下げる、村山に見送られてビルの外に出ると、どうにも騒がしい。

「何かあったのか?」

 ラーズが大通りの方を指さして言う。

「サイレン音が聞こえるぜ? 事故とか火事にしちゃあ、数が多いような気がするんだが?」

 事故の規模にもよるだろうとルビィは思った。

 自動運転の車が普及して久しいが、交通事故は無くならない。

 当たり前である。道路は車以外の車両も多数通るのだ。

「事件っすかね?」

「身の安全の為、離れる事を具申しますが……」

 そう言ったのは、陸戦隊の隊長である。

 強面で大柄。ルビィの苦手なタイプだ。名前は知らない。

 隊長の意見具申を受けて、芝山は考え込んだ。

 この場を離れるというのは、本日の仕入れ交渉を止めるという事である。

 ついでに言うと、ここは閉鎖されたコロニーなので、離れるにしても安全圏はない。極論するとコロニーが二つに折れたら全員死ぬ。

 ゴゴゴという地鳴りが聞こえた。

 周囲の通行人が立ち止まって、周囲を見回しながらざわつき始める。

「地震か?」

「宇宙に地震はないっすよ」

 これはラーズと宮部。

「じゃあ、何があった!?」


◇◆◇◆◇◆◇


 時間は少々遡って、三〇分程前。

 『翔鶴』のCIC。電探士官の青木原少尉は、電探の表示に違和感を覚えた。

「CICから艦橋。貝塚艦長」

 青木原は手元の艦内電話で、艦橋を呼び出す。

「貝塚だ。どうした?」

「青木原であります。艦長。

 電探に奇妙な物が映っていまして……」

「奇妙な物とは?」

 通信機の向こうで、貝塚が移動する気配。

 おそらく、艦の外を見に行ったのだろう。

「はっ、一万トン超の質量を持った船が、等速直線運動で移動しています」

 等速直線運動をしているという事は、この質量は一切の推進力を持っていないという事になる。

 これはCICのコンピュータにより検出され、青木原自身が存在を確認した。

「デブリか?」

「わかりません。しかし、デブリならコロニーに近づく前に破壊されるか、向きを変えるかすると思います」

「船が漂流している可能性があるのか……わかった。わたしからオーウェン・サイラースに警告を出そう。

 青木原少尉。艦隊に共有した後、そのまま監視を続けるように」

「ヨーソロー」


「あっ、危ない!」

 さらに十分程、等速直線運動をする物体を見ていた青木原だが、接触コースに貨物船が現れた事で思わず声を上げた。

「CICから艦橋! 至急!」

「貝塚だ。こっちでも見ている……貨物船の制動力だと……少々キツいか」

 貨物船の不注意なのか、サイラース1側の誘導の不手際なのかは不明だが、直進する貨物船の左上方からその物体は迫っている。

 この段階になると、飛来した物体が直径一〇〇メートル程度の小惑星だと映像解析で判明している。

 直径一〇〇メートルで重量一万トン超だとすると、密度は水より重いので岩石質の小惑星なのだろう。

「貨物船、わずかに減速していますが……接触ルートです。おおよそ三分後に接触します!」

 データによると、貨物船はエッグ船籍だがイギリスの海運会社が保有している船である。そうなると、地球の常識的な貨物船のスペックしかない。

一見すると、余裕をもって回避できそうな距離なのだが、貨物船というのは驚くほど加減速に時間が掛かるし、曲がらない物なのだ。

「小沢長官は……お休み中か……仕方ない、起こして采配をお願いしよう。

 わたしの手には余る」

 事故が起きて、救助要請が出た場合、まさか『翔鶴』で事故現場に接近するわけには行かないので、駆逐艦を分離する事になる。

 そうなると、必ず小沢の命令が必要になるのだ。


◇◆◇◆◇◆◇


 一端手持ちの仕事を片付けて、ようやく寝るかという気になっていた小沢だが、緊急呼び出しの艦内電話により、急遽艦橋へ上がってきた。

「事故が起きそうだという話だが……?」

「あれです。ご覧ください」

 貝塚が指さす先のディスプレイには、貨物船に迫る小惑星が映っていた。

 貨物船の全長は二〇〇〇メートル程。小惑星は直径一〇〇メートル。

 当たれば大惨事になると小沢は考えた。

 双方の距離は、もう百キロも無さそうに見える。

「オーウェン・サイラースへの通報は?」

「既に通報済です」

 小沢は少々考えた。

「オーウェン・サイラースの航路管理は、この小惑星の事は把握していたのか?」

「天文部門が把握していなかったとは考えにくいですが、航路管理のほうでは把握していなかったようです」

「独立系のツラい所だな」

 危険な小惑星や隕石と言うのは、どこでも一定の確率で飛んでくる物だ。

 故に、それらの軌道は厳密に計測されている。しかし、コロニーに直接害のある軌道を飛んでいる小惑星や隕石ならともかく、近くを通過するだけの物をいちいち破壊していてはきりが無い。

 そして、小さい隕石一つでも、それを破壊するには相応のコストが必要なのである。

 故に、小惑星を放置していたからと言って、オーウェン・サイラースの怠慢だと言うのは無理があると言えるだろう。

「一応、小松君のところに改『島風』型を何隻か、いつでも動かせるように命令を出そう」

 『島風』と改『島風』型の『雨花』型駆逐艦は、帝国海軍の誇る最新鋭攻撃型駆逐艦である。足の速さはピカイチだ。


「しょーとーつ……今っ!」

 CICからの音声からワンテンポ置いて、貨物船の艦首部分に小惑星がぶつかった。

 小沢は、貨物船が一方的に破壊されると予想していたのだが、実際の挙動は少し違う。

 貨物船は舳先を少し下げただけだった。

 対する小惑星の方は、大きく三つに割れてはじけ飛んだ。

「小惑星は脆かった様だな?」

「ヨーソロ……ですが……」

 貝塚は砕けた小惑星の破片を目で追った。

 破片の一つ、おそらく直径五〇メートル程度の物が、向きを変えて飛んでいく。

「CIC! 貝塚だ。

 砕けた小惑星の破片の行き先を計算してみてくれ。嫌な予感がする」

「ヨーソロ」

 CICから返答があり、数秒間の沈黙。

「艦長! 一番大きな破片の軌道上にサイラース1があります! 三〇分も経たずに衝突するルートです!」

「そんな都合良く跳ね返る事があるか!?」

 小沢が言うが貝塚も同じ意見だ。

 しかし、実際に跳ね返った物は跳ね返ったのだから、放置は出来ない。

 サイラース1には、『翔鶴』の乗組員も上陸しているのだ。

「……そうだ。貨物船は無事か?」

 小沢の問いかけに、貝塚は部下に確認するように指示を出す。

「確認させていますが……あの手の貨物船は、艦首部分に人が乗っていることはないと思いますので、おそらく人的な被害は限定的であると思います。

 それより、小官といたしましては、小惑星の破片が気になります」

 貝塚はそう言うが、コロニーに向かって隕石や小惑星が飛んでくるのは、日常茶飯事とまでは言わないが、それなりの頻度で発生する事象である。

 当然、コロニー側に対応できる設備と担当者が居るはずなので、小沢はそれほど心配していない。

 実際、サイラース1の方で動きがあり、近隣の船舶がコースを変え始めた。

 加えて、小惑星に衝突した船へ警備艇が向かって行くのが見える。

「……取りあえずは、問題なさそうだな?」

「ヨーソロ。お疲れの所、呼び出してしまいすいません。長官」

「なに。部下にこき使われるのが我々の仕事だ。気にするな。

 しかし、せっかくだ、小惑星の破壊ショーを特等席から鑑賞と行こう」

 艦橋の長官席にどっかりと腰を下ろして、小沢は言った。


「なにか……おかしくはないか?」

 貨物船と小惑星の衝突から二〇分以上が経とうとしているが、サイラース1に向かう小惑星が破壊される気配はない。

 砲の射程があるにせよ、いくらなんでも待ちすぎだと小沢は思った。

「確認してきます」

 貝塚は艦長席を立ち、通信コンソールに向かった。

 通信士官と一言二言言葉を交わして、ヘッドセットに耳を当てる。

 一分程の会話の後、貝塚は小沢の元に戻った。

「天体迎撃用の陽電子砲にトラブルが発生しているようです。

 サイラース1内では、緊急避難の検討に入っているとの事です」

 都合良く貨物船に当たって軌道を変えた小惑星が、都合良くサイラース1に向かって飛んで行って、都合悪く陽電子砲が故障しているなどという偶然がある物か? と小沢は考えた。

 だが、実際に目の前でその偶然は起こっている。

 ……テロか?

 とも考えたが、それにしても都合が良すぎる。

「とにかく、我が乗組員に対して警告を発報せよ。

 状況次第では、駆逐艦をやって拾い上げる」

「ヨーソロー」


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