表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
竜の卵と卵の事情

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/607

竜の卵と卵の事情11

「……んで、その宰相院が魔法使いの卵を選ぶ時の基準が知りたい」

「基準……ですか?」

「ああ。なんらかの選別基準が定められているはずだからな」

 これは当然である。

 基準が決まっていないと、審査官によって結果がぶれる事になる。

「……すいません。わたしは存じません。

 ただ、適切な理由を付けて資料請求すれば、情報は出して貰えるのではないでしょうか?」

「適切な理由……か。

 例えば、アイオブザワールドの人事評定基準の見直しに用いる、基礎データの一つとして使用したい。みたいな感じか?」

「いいと思います。

 ただ、請求となるとドラゴンマスター経由で出してもらう必要がありますが……」

「そっちはオレが根回ししとく。文書の作成をよしなに頼む」

「はい」

「……ところで、請求した情報って……どれぐらいで貰えるんだ?」

「わかりませんが……過去の実績ベースだと……八から十二週くらいでしょうか?」

「遅せえ!」

 アベルは叫んだ。

 どれだけお役所仕事なのかと。

 お役所だが。

「……なにか、案があれば聞きたい」

「そうですね……」

 レプトラは困った顔をしながら天井を見た。

 レプトラの困った顔はなかなか魅力的だ、とアベルは思った。

「……いいことを思いつきました」


◇◆◇◆◇◆◇


 翌日。

「レプトラ。恨むわよ」

 アベルを乗せた大型のセダンを運転しながら、シルクコットは唸った。

 レプトラが提示した解決策というのは、魔法アカデミーへの直接訪問である。

 つまり、アカデミーの教師に直接、選別基準を聞こうというアプローチだ。

 確かにこの方法なら、アベルの求める情報が最も確実に素早く手に入るだろう。

 レプトラの根回しは素早く、翌日にはアポイントを入れることに成功した。

 問題はアベルが、ユグドラシル神殿を離れる事になるという事。それは、すなわちシルクコットが護衛をしなければならないという事だ。

 レプトラはどうか知らないが、理屈屋でどうにも実力が伴わない感のあるアベルの事が、シルクコットは嫌いだった。

 当のアベルは、現在後部座席で何かの資料を一心に読みふけっている。


 車は基本、自動運転である。自動運転は個々の車が独自判断で行う形式ではなく、道路に敷設された運行コンピュータが一括でトラフィック制御を行う形式を採用している。

 従って、シルクコットは行先を設定すれば、あとは運転席に座っているだけでいい。

 ユグドラシル神殿を出た車は、しばらく下道を走り高速道路に乗る。

 高速道路は完全なトラフィック制御が行われているので、車は時速二〇〇キロ内外で走ることができる。車の性能的にはもっと出すこともできるのだが、舗装が痛むのでこの速度が巡航速度だ。

 高速道路を十分も走ると、『ウォール』と呼ばれる構造物が見えてきた。

 正確には『ウォール』はずっと遠くから見えていたのだが、それが壁と認識できるようになるのには、ある程度近づく必要がある。

 エッグは内穀利用型のダイソン球であるので、ある程度の大気圧を確保しようとすると、ダイソン球の内穀を満たすだけの空気をためる必要がある。

 しかし、ダイソン球の内穀の広さは尋常ではないので、そこを満たすだけの気体を集めることなど不可能だ。

 ならばどうするのかと言うと、地上を区画ごとに壁で区切り、その中に空気を溜めるのである。

 この区切りは一辺十八キロの六角形で、壁の高さは約四万メートル。

 ちょうど一つの六角形が、コロニーを形成していると考えるとわかりやすい。

 これは、環境を守るだけでなく、ユグドラシル神殿のような重要な施設の警護にも有効だ。

 故に、シルクコットは『ウォール』を超えて、街に出るのが憂鬱だった。

 『ウォール』は、各エリアのエアロックも兼ねている。

 もっとも、普段はそのまま高速道路に乗ったまま通過できるので、煩わしいことは無い。

「……ひょー。街だ」

 これは後部座席のアベルの言葉だ。

 エッグの内穀は真っ平なので、街に起伏はほとんどない。起伏は街を作るときに意図的に作られた丘などだけだ。

 このエリアの建造物は低層建築物が多い。ユグドラシル神殿で働くスタッフのベッドタウン……つまり高級住宅地という事になる。

「すげえ計画都市なんだな……エッグ」


 さらに数枚の『ウォール』を抜けた先、雑多な建築物の立ち並ぶエリア。

 ルイスアビー魔法アカデミーはそこにあった。

 宰相院の補助を受けている魔法アカデミーは他にもいくつかあるが、昨日の今日で訪問を受け付けてくれる処は、ここだけだった。

 長辺三〇〇メートル短辺二〇〇メートルの敷地に、L字型の五階建て校舎。他はグラウンドと言った割と普通の学校である。

 現在、学園長室にてアベルとルイスアビーの学園長ルフラッドの会談が行われている。

「……次に、非魔法使いの選別時に用いられている、血液検査ですが……」

 学園長の出した、資料にアベルが的確に質問を入れる。

 シルクコットが傍から見ていても、アベルの質問は的確で最短で結論を得ようとしているのがわかる。

 レプトラなども、シルクコットから見れば相当頭がいい部類にはいるのだが、アベルはそのさらに上を行くようだ。

 ……典型的な内政型。

 それがアベルに対するシルクコットの評価だった。

「DNA解析はリアルタイムで行われている?」

「いえ……資料によりますと……宰相院がラボに持ち帰って調べている。となっております」

「ふうん。

 ……ちなみに、その検査って、ラボにサンプルを持ち帰ってからどれくらいで、データベースに反映されるか分かりますか?」

「少なくとも、当日には反映されておりません。

 判定会には反映されているので、おおよそ三日から七日くらいではないか、と」

 学園長は汗を拭きながらアベルの問いに回答する。

「んー。そうか、最短、三日……っと」

 ホロタブレットに情報を書き込みながら、アベルは続ける。

「魔法使いの選別時に、基礎魔力以外の選別基準はありませんか?

 例えば、炎系有利、みたいな」

「選別段階では、特に考慮はしていません。

 ただ、結果的に属性が偏る事があります」

「なるほど。そうなってるのか……」

 これもアベルが興味深げにメモっている。

「……次に、資料の七ページ目の選別対象母集団に対する、最初のカテゴリー分けの選定基準ですが……」

 どうもアベルの質問はまだまだ続くようだ。

 シルクコットはアベルが何をしたいのか、がよくわからなかった。

 いや、正確にはアカデミーの選別に漏れたグループを、再審査しようとしている気配を感じていた。


 アベルの質問が一通り終了したのは、すでに昼を回った後だった。

 シルクコット達がアカデミーに到着したのが、十時頃だったことを考えると、アベルは三時間に渡って学園長に質問を続けていた事になる。

「なかなか、有意義だったな。

 レプトラはプラス査定にしておこう」

「……しかし、あれで何がわかったんですか?」

「興味あるんだ……意外」

 とアベルは言った。

「……なに。ちょっとリクルートの種まきでもしとこうと思ってな」

「はあ」

「よろしければ、昼食などいかがですかな? マイスタ・アベル」

 学園長の誘いに、アベルはちらりとシルクコットの方を見た。

「問題ありません」

 特に警備上の問題があるとも思えないので、シルクコットは了承した。

「……それでは、教師用の食堂へ……

 お連れの方には、別途食事を運ばせますので……」

「いやいやいや。ちょっと待った」

 アベルが、両手を上げて学園長を止める。

「食事はかまわないが、シルクコットも一緒だ」

「しかし、従者と同じ食卓などと……」

「……マイスタ・アベル」

 シルクコットは小声で言った。

 もしかすると、アベルは貴族が下賤な民と食卓を共にするという事が重大なマナー違反であるという事を知らないのではないか、と思ったのだ。

「ん?」

「貴族が一般の民と食卓を……」

「黙れ」

 アベルは人差し指を立てて言う。

 その仕草になんとも言えない迫力を感じて、シルコットは黙ってしまった。

「少なくともウチは実力主義。貴族とかクソくらえだ」

「……さて、学園長?」

「で……では、学生用の食堂に参りましょう。マイスタ・アベル。

 それで、よろしいですかな?」

「ふむ。なるほど、そういう切り返しか……結構。シルクコット行くぞ」

 ……わからない。今のは……なに?

 シルクコットには、アベルが何かを確かめるためにこれをやっているのは分かった。しかし、それでアベルが何を得られるのかはわからなかった。


◇◆◇◆◇◆◇


「……ところで学園長。この学院の生徒は、何人くらいで?」

「全体では、一〇〇〇名ほど……宰相院の特待生は一〇〇人弱。個々の生徒の事は、情報保護の為お教えできませんが……」

「ああ。問題ない」

 なぜならアベルが興味があったのは、どれくらいの魔法使いが特待生になるのか、の数値の方だったからである。

「……マイスタ・アベル。申し訳ありませんが、ユグドラシル神殿への定時連絡の時間ですので、少々失礼を」

 定時連絡は絶対に絶やすな、とユーノにうるさく言われている。

「連絡の時間か……頼む」

「はい」

 シルクコットは軽く会釈をして、食堂を離れた。

「……ところで、マイスタ・アベルはどちらの学院の出身で?」

「……あー。オレ、エッグで育ったわけじゃないんで、多分知らないと思う」

 聖シャルル・ライナンス魔法学園工学部。センチュリアにおける電子工学の最高学府の一つである。

 だが、宇宙船まで作れるエッグの科学力の前には意味のないものだ。なにより、ここで聖域の事を言っても仕方ない。

「では、マイスタ・アベルは植民星で魔法の習得を? ……いや、ドラゴンマスター直々の伝授で?」

「んー。まあ、そんな所かな」

 アベルは適当にはぐらかした。あまり情報を洩らしたくない。

 情報と言うのは、自分から離れた瞬間から、どこをどう伝わっていくか判らない。そして、制御を失った情報は、忘れたころに自分の足をすくう。

 情報を出さないに越したことは無い。

 アベルは、窓の外を見た。

 窓の外は丁度正門の辺りだ。

 ……はて、あんな車停まってたっけか?

 正門前に見える範囲で、3台の大型バンが停車している。

「……気になるな……」

 なにしろ、ドラゴンマスターに対して危害を加えようと言う、テログループが居るとされているのである。

 ガブリエルのガードが固すぎて手出しできないなら、ガブリエル以外を狙うというオプションもありうるのではないか?

 ……ミスったな。ユグドラシル神殿を離れたのは、軽率だったか……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ