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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
竜の卵と卵の事情

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竜の卵と卵の事情9


◇◆◇◆◇◆◇


 翌日。

「……現状、ドラゴンマスターに対して危害を加えようとしている、テログループが存在しています」

「つまり、そいつを殴り倒せばいい、と?」

 アベルの問いにユーノは、首を振って続ける。

「いいえ……いえ、壊滅させられるなら、それでもいいのですが……

 まずは、敵性組織の特定を行っていただきたいと思います」

「……まずは、練習。ってことだな」

「毎度、話が早くて助かります。マイスタ・アベル」

 情報分析局のユーノのデスク……いや、引き継ぎをやっているので、アベルのデスクだ。

 しかし、聖域に居座っている無法者を殴り倒したいのに、いきなり内輪もめである。

 ……やってられねえな。

 とはアベルの感想だが、とにかく今は目の前の問題を、一つずつ解決していくしかないのが現状だ。

「では、詳細はデータベースの引き継ぎフォルダに入れました。

 直通の電話も使えますので、なにかありましたら連絡を。マイスタ・アベル」

 そこまで言うと、ユーノとユーノが呼んだ引っ越しスタッフが、デスクを片付けて去っていった。

 引き継ぎ時間は、一時間ほどだった。

 ……まあ、詰まったら電話すりゃいいか……

 アベルはこっそりため息をついた。


「……政治的な資料……ですか?」

 そう言ってレプトラは顔を上げた。

 ユーノが去って、アベルがまず手を付けたのは、エッグの政治に関する情報集めだった。

 これは、もちろんテログループへのアプローチの意味合いもあるが、どちらかと言うとアベルがエッグの政治を知りたい、という思いが強かった。

「ああ。

 まずは、そうだな……有力な貴族の情報が知りたい」

 したがって、まずは欲しい資料をレプトラに出してもらおうという魂胆だ。

 レプトラ以下のスタッフが、この情報をまとめるのにどう動くかを見極めようという意図もある。

「貴族ですか。

 ……どう言った、情報をご所望で?」

「……レプトラさんは、有力貴族と聞いて、誰を思い浮かべる? そうだな、三人上げてみてくれ」

 そう問いかけられたレプトラは、少し考えて答える。

「ここの所、動きが活発なのは、フィッシャー家。

 スポンサーをしている企業が惑星改造に関する技術を開発しました。この技術は、近年の農業惑星開発に用いられることが決まっています」

「公的資金の注入か……さぞかし株価は素敵な事になってるんだろうな……」

「はい。前年比三〇〇%以上に上がっているはずです。

 ……続いてアモッド家。ここはこれと言った名声があるわけではないですが、単純に領民が多いので、相対的に政治的発言力が高いです」

「民主主義の基本は、数の暴力だしな。

 次を頼む」

「はい。三人目。最後になりますが……モス家」

「ユーノん家か」

「モス家は旧王家の宮廷魔術師の家系です。

 しかし、モス家には優秀な魔法使いが生まれなかった為、昨今のモス家は優秀な魔法使いの子供を見つけて、これを養子縁組する事で力を付けてきました」

 なるほど、ユーノはモス家の養子というわけか。その理屈だと、やはりユーノも優秀な魔法使いという事になる。

「ふん。ありがとう。大体わかった。

 今の三貴族の情報を……夕方までに、大雑把でいいからまとめて欲しい」

「了解いたしました」


 アベルは一人になると、エッグの情報を集め始めた。

 エッグの国家体系を一言で言い現わすなら、資本主義封建国家である。

 貴族の集合体である貴族院が政治を行い、国王にあたるマザードラゴンがそれを承認する形で国家が運営される。

 貴族院に置ける各貴族の発言力は、資産量や領民の数などによって決定する。

 このシステムの優れている所は、優秀な貴族に発言権が集まりやすい事、だれが政治をやっているかわかりやすい事。

 逆に問題点は、あらゆる政治的決定の最終段階にマザードラゴンが干渉できてしまう事。

 マザードラゴンが拒否すると、一切の政治活動ができなくなる。

 ……なるほど。センチュリアとは、魔法使いに対する考え方が違うのか……

 どうもエッグに置いては、民は全員魔法使いである。という前提らしい。

 ただし、その魔法使いの平均値の見積もりは、センチュリアのそれより低い。

 これはアベルの魔法使いとしての絶対性能が、相対的にアップした事を示す。

 ……まあ、平均値。なんつう最も信用ならない数値と比べてどうすんだ、って話だがな。

 これに加えて、エッグの特徴として、男女比が狂っていることが挙げられる。

 一言で言うと統計データ上、男がほとんどいない。

 実際、アベルもエッグフロントからこっち、男に会った覚えがない。

 デスクから、下のフロアを眺めてみても、情報分析局のスタッフも女ばかりだ。

「……この国、本当に大丈夫なのか?」

 これがアベルの偽らざる感想だった。

 そこまでアベルが考えた時、扉がノックされた。

「マイスタ・アベル。貴族に関するデータの取りまとめが完了いたしました」

 現れたのは、レプトラだ。

 いつの間にか、夕方になっていたらしい。

「……ああ。もうそんな時間か……」

 目元をもんでアベルは言った。

「ひょっとして、ずっとデータベースを?」

「ああ。基本的な情報を集めとかないと、指示もなにもできたモンじゃないからな。

 レポートは?」

「データベースのマイスタ・アベルの個人フォルダにアップロードしました」

「わかった。ありがとう」


「……ふうん」

 報告に目を通しながら、アベルは唸った。

 なにか、お菓子が欲しいような心境だったが、今はない。

 明日にはレプトラに言って手配させよう、とアベルは思った。

 アベルはお菓子を食べながらでないと、頭脳労働ができないタイプである。

「テロリストにアメリカ軍に貴族……マザードラゴンに、あとはドラゴンマスター」

 目の前に浮かぶ無数のウィンドウを眺めながらアベルは言う。

 正直言ってアベルにとって、貴族もテロリストも差はない。

 全ての組織は、定量的に数値化してリスク評価を行い、最終的に味方に取り込むか、破壊するかを決定する。

 特に貴族の評価は重要だ。

 それとは別に、アベルがある程度自由に動かせる手札が欲しい。

 現在、ガブリエルから与えられている手札は、レプトラとシルクコット。若干の制約があるがレクシーの三人。これでは圧倒的に足りない。あと三人くらいは直属が欲しい。

「誰を味方に、誰を敵に……か」

 ふと、アベルが時計を見ると、既に二二時を示していた。

 エッグの一日は二四時間。ぴったり二四時間なのでうるう年的な物もない。

「……いい時間、か……」

 一日が短い。

 こんな事は、新入社員の頃と決算前くらいしかない。

 ……まったく、刺激的で困るぜ。

 アベルは席を立った。

 別に荷物はないので、そのまま退出する。

 セキュリティは、ユグドラシル神殿の警備部のコンピュータが行っているので、スタッフが全員退去した地点でロックさせるらしい。


 ユグドラシル神殿から寝床までは、徒歩十五分といった距離だ。

 ユグドラシル神殿の付近は夜間飛行禁止なので、日没後は歩いて帰るしかない。

 無論、街から通勤しているスタッフは、車で帰っていくわけだが。

 理由は不明だが、ガブリエルが用意したマンションは、なぜか誰も入っていない。

 したがって、そこに向かう人々はいない。

 ……ん?

「……車……か」

 四枚ドアのシルバーのセダンだった。

 この辺りのマンションに人は居ないはずである。

 ……ユグドラシル神殿のスタッフが違法駐車してるのか?

 ユグドラシル神殿にも、駐車場はあるがスタッフの数に対して少ない。駐車場に入りきらなかった車は路上駐車されることになるだろう。

 そして、路上駐車するなら人気のないこの辺りは最適だ。

 盗難車の可能性もあるかも知れないが、エッグの政治中枢の近くに盗難車を放置する意味があるのだろうか?

「……テロ目的?」


◇◆◇◆◇◆◇


「不思議な人ですね。マイスタ・アベル」

 レプトラとシルクコットは、ユグドラシル神殿のカフェに居る。

「ドラゴンマスターの弟って言ってるけど、本当なんだか。

 ……気に食わないわ」

 腰に手を当て、シルクコットは不満を漏らす。

 シルクコットはガブリエルの弟が来る、という話を聞いた時、タフな男をイメージした。

 当然である。タフで強力な古竜であるガブリエルの弟が、貧弱であるはずがない。

 しかし、ふたを開けてみれば、やってきたのは華奢な男だった。しかも、ガブリエルはアベルの直属にシルクコットを入れるという。

「まあまあ。そうイライラしないの。

 マイスタ・アベルはエッグの外から来た見たいなのよ。

 今、必死でエッグの事を勉強してるわよ」

「外って、どこかの植民星? ドラゴンマスターの弟が?」

 普通に考えて、ドラゴンマスターの弟が植民星に居る理由がない。まして、それが優秀な魔法使いだと言うのなら、ガブリエルがドラゴンマスターになった直後に出てくるのが正しいのではないだろうか?

「……それは単にマイスタ・アベルが若いからでは? 多分生まれて二〇年とかしか経ってないわよ。マイスタ・アベル」

 レプトラが指摘する。

 実際、ドラゴンは途轍もなく長生きな生き物なので、そういったことは起こり得るだろう。

「それより、なんでそんなにマイスタ・アベルを嫌がってるのよ?」

「……なんか、弱そうなのよ。ああいうガリ勉タイプって嫌いよ。

 わたし、アレのボディーガードしないといけないのよ。憂鬱だわ」

「ふふ。男日照りのウチのスタッフが聞いたら起こるわよ。

 ……で、まじめな話だけど、反政府組織の動きが活発化してるらしいっていう情報が、諜報局の方から出てきてるわ。どう思う?」

「どう、って。どう?」

「……アメリカの領海侵犯。反政府組織の動き。そして、ドラゴンマスターの弟君。

 これがここ十日の出来事」

「陰謀論? 笑えないわね」

 シルクコットは肩をすくめた。

 分析官が陰謀論などとは。

 と。

「どうも」

「あら、レクシー。戻ってたの?」

 大きいバッグを抱えて現れたのは、レクシーである。

「新しいおもちゃの調子はいかが?」

「E5300の事? いいわよ。まさに役得ね。

 ……役得ついでに、こっちに移ってきたわけよ」

 シルクコットにレクシーは答える。

「デスクワーク、お望みじゃなかったの?」

「E5300に乗った後じゃあねえ。もうデスクには戻れない体になっちゃったわ」

「そんなにいいの? 今度乗せて……!」

 その時、低い振動。

「っ!? なに?」


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