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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
帰らざる旅路
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帰らざる旅路4

 フリングスロウブ市街地。

 時間はすでに夜。放棄された時計屋の看板についているデジタル時計は、時々明滅しながらも律儀に二〇時過ぎを知らせていた。

 朝方まで、数百万人が居たはずの市街地はすでに無人。

 いや、謎の侵略者の持ち込んだ装甲車や自走砲の類が動き回っている。

「まず、VMEのバッテリーを何とかしないと、つらいぜ」

「だな。アヴァロンのラボにでも行ければいいんだが……

 ……ここからだと倫理委のビルの方が近いな。

 レイルの補給的にも倫理委の方がいいんじゃないか?」

 アベルは言う。アヴァロン・ダイナミック社に行けばアヴァロン製VMEであるAiXの補給は確実にできるが、クラウン・エレクトロニクス製のVMEを使っているレイルの補給ができるかどうかはわからない。

「残念だけど、LEは水素燃料カードリッヂだから、専用の施設がないとカードリッヂが作れないんだ。

 でもバックアップの燃料カードリッヂはいくつかあるから、ボクはこのペースでもあと丸一日は行けるよ」

 レイルは腰の後ろから、弁当箱程度の大きさの箱を取り出した。クラウン・エレクトロニクスのエンブレムとLE401の刻印が見える。

「それが本体だったのかよ」

「いくらクラウン・エレクトロニクスの技術でも、手の甲に張り付けるだけでいいようなデバイスは作れないよ。

 ……っと、燃料は残二割ってところだね。もったいないから最後まで使おう」

 ケースを脇から覗き込んで、レイルは言う。

「GUIから残量わからねえの?」

「残量じゃなくて、圧力しかわからないんだよ。普段は圧力で問題ないからね」

 VMEの本体を腰の後ろに戻しながら、レイルは座りなおした。

 四人は現在、フリングスロウブ市の北側にある公園の植え込みの中に潜んでいる。

 さすがに市街地で飛ぶのはあまりも目立つという事で、コソコソと徒歩で移動しているのである。

 これには、風系のエレーナの魔法《ノイズキラー》による遮音や、《チェンジエアー》による光学遮蔽などが大いに役立った。

 エレーナ以外の三人が口をそろえて、意外に役に立つ。と言ったのでエレーナが怒ったが、それこそノイズのようなものである。

「じゃあ、行こうか」

 レイルを先頭に、一行はそろそろと歩き出す。

 並び順としては、レイル、エレーナ、アベル、ラーズの順である。

 一見すると、ラーズ先頭がいいように感じるが、実際には探知魔法を使うレイルを先頭に据えることで、事前の危険に対応しているのである。

 戦力的に二強であるレイルとラーズが隊列前後を挟むのは必然なので、ラーズは最後尾で固定。エレーナはアベルが視界内に入れておきたいと主張したため、アベルの前になった。

「なあ、レイル。

 なんか見られてるような気がして仕方ないんだが……」

「ボクもそんな気がするから、きっと見られてるんだろうね。

 でも探知魔法には何も引っかかって来ないから、どうにもならないね」

 ラーズの言葉にレイルは答える。わずか13歳とは思えない。恐ろしい程肝が据わっている。

 場数を踏んだ魔法使いならではの貫禄と言えるだろう。

 魔導師倫理審査委員会の入っているビルまでは、二ブロック。つまり四〇〇メートル程だ。

 通りを進む一行の前には、装甲車と数人の武装した男たち。

「大丈夫。見えないはずよ」

 エレーナは言った。《チェンジエアー》の魔法は、簡易的ではあるが姿を消すことができるのだ。

 だが、その言葉に反して男たちの一人がこちらを見た。ような気がした。

「……見えてない……けど。

 こっちを探してるぞ」

 ラーズは声を上げた。どういった方法なのかはわからないが、敵はこちらの存在を間接的に察知していて、その情報を元に自分たちを探している。

 それがラーズの判断だった。

 おそらく、アベルもレイルも同じ結論に至ったはずだ。

「交戦!」

「《チェンジエアー》リリース」

 アベルの上げた声に、エレーナが《チェンジエアー》の維持を放棄。これは、エレーナも持っている魔法リソースをすべて戦闘に割くためである。

 だが、ラーズが剣を抜き放つより早く、男たちは装甲車に乗り込み走り去った。

 物の数秒の出来事である。

 ……交戦の意思なし?

 そんなわけはない。現にフリングスロウブ市の市街地はほとんど無人になっているのだ。戦闘行為が行われたに違いない。

 なら、なぜ逃げるのか。

 センチュリアの魔法使いのドクトリンに照らし合わせれば、これは広域殲滅用の大魔法の投射準備である。

 この侵略者のドクトリンは、センチュリアのそれと異なる事は明白だが……

「これは……まずいんじゃないか?」

「集まっとけよ。集中防御以外できねえぞ」

 アベルがそう言うが、言われなくても全員アベルの周りに集まっている。

 高度な回復魔法を運用することもできるアベルだが、その本質は防御型である。回復は枝葉の能力だ。

 アベルの運用する第三類防御魔法は、制約こそあるものの、実質的に絶対防御レベルに達している物も複数ある。

「……どう、来る?」

 エレーナはゴクリと喉を鳴らした。

 ありそうなのは、その辺のビルに爆薬でも仕掛けて、一気に崩す。といった辺りだろう。とラーズは考えた。

「ん?」

 それは唐突にやってきた。

 天空が赤く染まったかと思うと、雲を突き破って火球が飛来する。

 おおよそ、六〇度ほどの落下角度を取って落下してきたそれは、ラーズたちが居る場所の南にあるビルの中ほどに突き刺さった。

 火球は何の抵抗も受けなかったかのように、ビルの横腹を貫通。さらに別のビルに突き刺さる。

 こんな物が貫通したビルが構造を維持できるはずも無く、六〇階を超える高層ビルが中ほどから折れる。

 スロー映像のようにゆっくりと折れ曲がっていくビルの上層が、通りを挟んだ別のビルの側面を押しつぶす。

「冗談じゃねえぞ」

 アベルが叫んだ。さしものアベルもこんな物は防げないだろう。

「……走れ!」

 その声を合図に四人は今まで南下していた道を、北に向かって走り出す。

 この時、ラーズは思った。今日がこの世界の最後の日なのかも知れないと。


 一行は息を切らして、再び北部の森まで逃げ帰った。

「こりゃダメだ」

「……打つ手が、ないね」

 そういえば、息を乱しているレイルを見るのは初めてかも知れない。とラーズは考えたが、そういったものはもっと平和な時に見たかった。

「しかし、ヤバイぞ。このままだとVMEのバッテリーが枯れる」

 アベルが電池の残量を調べながら言う。

 VMEの電池が無くなるという事は、魔法の発動にコンピュータの支援が受けられなくなるという事である。

 これは複雑な計算式をコンピュータの助けなしに解け、と言われているような物なので効率は最悪であると言える。

 それでも、ラーズとアベルはコンピュータの助け無しに魔法を使う訓練を受けているが、エレーナは完全に魔法を発動させられなくかもしれない。

 レイルは後二四時間は大丈夫だと言っていたが、それはほかの三人が正常に稼働している前提での数値だろう。

「なんとしても補給しないと、身動きもできなくなるぞ」

 徒歩で地上を移動する速度は、どう頑張っても時速九キロと言われている。

 対する飛行魔法は、遅くとも時速五〇キロ。しかも地形を無視できる。比べるだけ無駄というものだ。

 補給に行くなら、バッテリーが切れて魔法の運用に問題が出る前、という事になる。

「とは言っても、暗い中で動きたくないね。

 目立つし」

 レイルは言った。

 普通に考えると、夜の方が隠密行動に向いているように思えるが、こと魔法使いの運用に関して言えば、その考えはは違っていると言える。

 魔法というものは発動時に派手に発光するため、夜に使うととにかく目立つのである。

「少し、休もう」

 そういうと、レイルは近くにあった石の上に積もった枯れ葉を払って、腰かけた。

 どうにも忘れがちではあるが、レイルは今年十三歳。年齢を考えると恐るべきタフネスであると言える。

 それでも、随分消耗しているのが見て取れた。

「しゃあない。休むか」

 ラーズも同意した。

 ラーズとレイルが休むと言えば、もう他も休まざるを得ない。

「ローテーションで見張りだな。

 しかし、まさか野宿とは。

 学生時代に学校の用水路爆破した時以来か?」

「なんでオレに同意求めるんだよ?」

 ラーズに同意を求められたアベルは言い返す。

「大体、あれは一〇〇%ラーズが爆破したんだろ。

 なんか巻き添え食って、めちゃくちゃフローリアさんに怒られたんだぜ!? オレ」

「盛り上がってるところ。ごめん。

 わたし寝るわ」

 いよいよ盛り上がってきた、ラーズとアベルの会話を他所に、エレーナが寝落ちした。

 見れば、レイルもいつも間にやら眠っている。

「あーあ。オレらがローテーション一回目か」

「だな。

 まあ、体力的には相応だろうしな」


 未だに赤く染まっている南の空を睨みながら、数時間が経過した。

 時間はちょうど日付が変わるくらいだろうか?

「アベル。足音だ。

 東、一人」

「なに?」

 ラーズに言われてアベルが立ち上がった。

 併せてラーズも立ち上がる。

「距離は一〇〇メートルかそこら」

 東側……木々が乱立しているため、見通しは悪い。

「レイル! 起きろ!」

 そういいながら、アベルがレイルを蹴る。

 うう。と唸った後、レイルは目を覚ました。

 ラーズやアベルの気配から察したのだろう、ぱっと立ち上がる。

 エレーナは眠ったままだが、まあいいだろう。とラーズは考えた。ほかのメンツも異論はなさそうなので、放置することにした。

 やがて、ガサガサと音を立てて茂みを掻き分け、一人の男が現れる。

「待ってください。私は敵ではありません」

 その男は両手を挙げて、敵意の無いことを示して見せた。

 なるほど、その男の背中には一対の翼があった。ドラゴンである。

 それ以外は、まるで先ほどまで会社で仕事をしていたような、よれよれのスーツ姿だ。

 ここまで、敵性勢力はたしかに人間のみで構成されていた。だからと言って目の前に現れたこのドラゴンが味方だと考えるのはあまりにも短絡的だと言えるだろう。

「何者?」

 とはレイルの言葉。油断なく杖を構えている。

「私は、エージェント・クロウラーと言います。

 マイスタ・アベルにお伝えしなければならない事があります」

「……知り合いか?」

「いいや」

 ラーズが耳元で、アベルに尋ねるとノータイムで回答があった。

「だよな」

 そもそも、ラーズにしてもアベルにしても、エージェントなどと名乗るような知り合いは居ない。

 このパターンで一番ありそうなのは、バッドゲームズ関連のファンか何かが強引に会いに来ているという流れである。

 まあ、フリングスロウブ市街地が壊滅状態なのに会いに来ているなら、それはそれで凄い情熱と言わざるを得ないだろう。

「……伝えたい事?

 いいぜ。言ってみてくれ」

 と、これはアベル。

「申し訳ありませんが、マイスタ・アベルだけに伝えたく。

 願わくば人払いを」

「……バカじゃねーの?

 この状況で、主力を分断するとかありえる訳ねーだろ」

 ラーズは剣を構えた。

 次の挙動次第では、首に剣を叩きつける用意がある。

 一太刀で首を切り飛ばす、などという芸当は無理だがそれでも致命傷には十分届く。

「まっ、ラーズの言う通りだな。

 この状況でばらけるメリットはないぜ?

 なにより、オレだけに喋ったとしても、直後にその内容は二人にも話すしな」

 アベルは言った。エレーナは徹頭徹尾蚊帳の外である。

「……困りました。時間がありません。

 分かりました。私の独断で今ここでお話しします。

 まずはこれを」

 エージェント・クロウラーは懐から、一枚の板を取り出した。

 ラーズにはそれはアクリルの板に見えたが、違うようだ。

「?」

 ラーズのみならず、アベルもレイルも興味深げにそれを覗き込んだ。

 元来魔法使いとは好奇心の塊である。彼らの本分は世界の成り立ちを理解し再現する事なのだから。

「映像を出します」

 と言って、エージェント・クロウラーが端末を撫でると、その上に青い球体が現れた。

「……うを?」

 わざわざ映像を出すと宣言したのは、驚かせない為か。とラーズは思った。

 こんなテクノロジーは見たことがない。

「……これは……

 センチュリア?」

「はい」

 レイルの問に、答えエージェント・クロウラーはさらに操作を進める。

「これは、今……正確には五分ほど前の映像です」

「んー?」

 ラーズは映像を覗き込んだ、よくよく見れば、センチュリアだと言われている青い球体の周りに黒く長細い何かが無数にいる。五〇以上はいるだろうか。

「……この黒い点というか、線は?」

「それが侵略者です」


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