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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
31世紀戦争

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395/608

31世紀戦争4

◇◆◇◆◇◆◇


「敵艦隊、続けてADDアウトしてきます!」

「やっぱり……まだ居るのね……」

 そう呟きながら、シュガードールは手元のコンソールで、敵戦力を確認した。

「……? ソナー。このデータに間違いない?」

「間違いありません。司令官」

 ADDアウトしてきたのは、八隻。

 それはいい。問題はその質量。既に観測されている『パンデリクティス』級より明らかに重い。

 レクシーの手持ちの艦は、『パンデリクティス』と『ユーステノプテロン』のみ。

 『パンデリクティス』でないなら、必然的にADDアウトしてきたのは『ユーステノプテロン』という事になる。

「電子戦艦でしょう……? なぜ?」

 実際問題、シュガードールは『ユーステノプテロン』のスペックがわからない。

 エッグのエンジニアは、修理の際に『Z3』を調べたので、こちらの手札はばれている。対して敵の手札はわからない。

 これは戦術面で圧倒的に不利と言わざるを得ない。

 だが、それでも索敵通信特化の電子戦艦が戦場に現れる事に、シュガードールは不信感を抱いた。

「敵の旗艦がこちらの射程に入ってきてくれたのなら、好都合」

 イクアノックスが言う。

「そう簡単な話じゃないわよ。イクアノックス艦長。

 レクシーが何を考えているか……そもそも向こうの戦術目標も不明なのよ」

 ざっと考えられる戦術目標は三つ。一つは嫌がらせ紛いの強行偵察。もう一つは、グリーゼ581cの奪還。最後に、シュガードールの艦隊自体。

 投入されている戦力から考えると、一つ目の可能性は低そうな気配である。

 二つ目と三つ目は一見似ているようだが、違う。二つ目ならグリーゼ581cを奪還できれば良く、シュガードールの艦隊が逃げ去っても関係ない。一方で三つ目だった場合、グリーゼ581cはどうなってもいい代わりに、シュガードールの艦隊を壊滅させようとする。

 ようするに優先順位が違うわけである。

 優先順位が違えば、当然戦術が変わってくる。

 現状、レクシーの艦隊はグリーゼ581c側に取り残された残存戦力を集中攻撃しているように見えるが、これが『ユーステノプテロン』の出現でどう変わるか。

「……では、我々は……引き続き集結しつつ、待機ですか? 司令官」

「その通りよ。しかし、グリーゼ581c側に取り残されている艦をどうするか、難しい判断が求められるわね」

 レクシーの目的がグリーゼ581cだった場合、この艦隊は守備の為に使う必要がある。

 対して、目的がシュガードールの艦隊だった場合、即急に主隊と合流させないと各個撃破される。

「今は砲撃をしながら様子を見ます」

 ……条件次第とはいえ、艦の性能でも数でも劣ってるのは、辛いわね。


 グリーゼ581cとシュガードールの艦隊の間に展開していたレクシー艦隊は、グリーゼ581cの方へ移動していく。

 これはシュガードールの手持ちの『Z3』の砲撃から逃げる為なのか、衛星軌道上の施設を守ろうとする『Z3』や『Z5』を追って行ったのかは不明である。

 しかし、手持ちの『Z3』の射界から『パンデリクティス』たちが離れたのは間違いない。シュガードールが追撃命令を出さなかったので、必然的に砲撃は中止された。

「グリーゼ581c側の残存戦力は?」

「『Z3』は二隻とも健在です。『Z5』はZ531とZ532を残して無力化された模様。

 これにより『Z5』は、我が方に随伴するZ535を含めて三隻になりました」

 情報を聞いて、シュガードールはしばし考えを巡らせる。

 ……レクシーは意図的に『Z5』だけを狙ってる?

 最初のミサイル攻撃はともかく、『パンデリクティス』は『Z5』を狙っているように見える。

 ……どうする、グリーゼ581cに向かって詰めるか?

 そもそも残り二隻の『Z5』が、二〇隻以上の『パンデリクティス』に勝てる見込みは少ない。

「ADDアウトした『ユーステノプテロン』級の艦隊、我が艦隊前方二七〇万キロを通過する模様」

「こちらグレゴール砲術長。シュガー姉さん! こいつらも砲撃しやすぜ!」

 言うが早いか、グレゴールが砲撃命令を下したらしく、新たに戦列に加わった二隻を含む六隻の『Z3』が一斉に主砲を発射する。

 その瞬間、八隻の『ユーステノプテロン』が一斉に加速して射界から逃げ出す。

「……速い……なんて加速性能だ……」

 イクアノックスが呟く。

 それは率直な感想だろう。シュガードールもそう思う。流民船団の高速試験艦でも、あそこまで狂った加速はしない。

 『ユーステノプテロン』という艦、電子戦艦と言いながら戦闘艦以上の加速性能とは、一体どれほど強力な推進器を搭載しているのか。

 続けて第二射。

 『ユーステノプテロン』達は、発射の十秒後には上下左右に散開しながら回避する。

 彼我の距離二七〇万キロは、光の速さで約九秒。これを加味すると、『ユーステノプテロン』が光速を無視して『Z3』の砲撃を感知しているのは間違いない。

 『Z3』の主砲弾は、大体光速の八割ほどの速さなので、あの機動力なら比喩ではなく見てから避けられる。

「グレゴール。砲撃中止。この距離じゃ、何発撃っても当たらないわ。

 艦隊、グリーゼ581cに向かって砲撃陣形のまま前進。『ユーステノプテロン』を追います」


「追いつけません!」

 悲鳴じみた声をイクアノックスが上げた。

 Z318は高速用機関を全開にして走っているのだが、『ユーステノプテロン』との差は縮まらない。

 それどころか、どんどん広がっていく。

 『ユーステノプテロン』が『Z3』より重い事は計測でわかっているので、それを加味すると推進器の出力は数倍はあるのではないか。

「……」

 唐突に、シュガードールはゾワっ! という悪寒を覚えた。

 殺気、あるいは強烈な悪意。

 そうとしか言いようのない、感覚である。

「艦隊グリーゼ581cに相対停止! 最優先!」

 シュガードールは叫んだ。

 さすがにシュガードールが乗っているZ318は即時反応した。

 しかし、ほかの艦の反応は遅れた。

 逆進をかけたZ318を残して、左右に並んでいた『Z3』級は進んでいく。

 ぱぱぱっ。と宇宙の暗闇で何かが光った。

「あれは、何!?」

 シュガードールの疑問には誰も答えない。

 そして、Z318の左舷側に居たZ332の艦首で爆発が起こった。

「報告を」

 落ち着いてシュガードールは報告を求める。

「Z332より通信。艦首に触雷。被雷数五。

 主砲損傷発射不能。第三第四副砲、全損。高速用機関緊急停止、低速用機関のみ使用可能」

 被害報告によると、Z332はもう戦闘不可能である。

 『Z3』の強靭な装甲をあっさり食い破った所を見ると、これは自走機雷の類ではないかとシュガードールは考えた。

 となると、この自走機雷は『ユーステノプテロン』の群れが敷設していったという事になる。

 まさか電子戦艦が魚雷敷設機能を擁するなど、想像できようはずもない。

「各艦は前方空間を精密走査。機雷が敷設されてるわよ」

 普通に考えて、Z332が何もない空間にたまたま置いてあった数発の機雷に接触したとは考えにくい。

 多数設置された機雷原に一番最初に近づいたのがZ332であると考えるべきである。

「グレゴールからシュガー姉さん」

「シュガードールよ。意見があるなら聞くわ」

「主砲で艦が通る空間を焼き払えば、機雷なんか全部無くなりますぜ」

 グレゴールの意見は砲術らしい、シンプルな発想だった。

「悪くない意見だけど、ダメよ。

 Z332が被雷する直前に、閃光が観測されてるわ。だからこれは自走機雷の類いとみていいでしょう。

 感知範囲も射程もわからない……いえ、レクシー・ドーンの事だから主砲発射で確保できる安全圏の外からでも、こちらを攻撃できる自走機雷を選定してると考えるべきだわ」

 この機雷、効果範囲が不明なだけでもやっかいなのだが、十分に『Z3』級に対する加害能力もある。Z332は一発で戦線離脱を余儀なくされたのだ。他の艦が戦線離脱で済むという保証もない。

「……そうことなら……」

 グレゴールも納得したのか、すごすごと引っ込んだ。


◇◆◇◆◇◆◇


「トラックナンバー167から173、減速。グリーゼ581cに対して相対停止します」

「トラックナンバー171が『テンタクラリア』八発に接触。大破した模様」

 その報告にマリーゴールドは頷いた。

 『テンタクらリア』敷設型自走機雷は、簡易的なステルス機能をもった三角柱型のポッドに格納された自走機雷で、実質的な対艦魚雷である。

 その探知範囲は二〇万キロと狭めだが、一つの『テンタクらリア』が獲物を捕らえた際に、近くにある別の『テンタクらリア』も魚雷を発射する仕組みになっている。

 威力のほうも、そもそも地球の戦艦を一撃で葬ることを想定して設計された自走機雷なので、十分な威力を有する。

 そういう意味では、八発食らって大破で済んでいる『Z3』の装甲の厚さがわかるという物だ。

「トラックナンバー171、反転離脱していきます」

「当面は放置でいいわ。他の艦はどう?」

「高周波数のソナーを使い始めました。『テンタクラリア』の発射母機を探しているようです」

 ソナーは用いられる周波数から、相手がどの程度のサイズの物を探しているのか推定できる。

 通常宇宙艦は、十メートルに満たないような物体を能動的に探知しようとはしないので、これは流民船団が『テンタクラリア』を警戒しているという査証であった。

「恐ろしい程、レクシー提督の読み通りの流れだわ」

 まるで全てが、レクシーの手のひらの上で弄ばれているように感じて、マリーゴールドは心底震え上がった。


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