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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
竜の戦争

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竜の戦争9

◇◆◇◆◇◆◇


 ネイスン・ワランドは流民船団第一侵略軍隷下の強襲魔法兵団第一一三分隊の隊長である。

 まだ若いこのドラゴンは四回の侵略戦争を戦い、その全てに勝ってきた。

 兵器の扱いにも魔法にも長け、非の打ち所の無い兵士であり戦士である。

 強襲魔法兵団は、その名の通り軌道から直接戦地に魔法使いを展開させる事を目的とした兵団で、空挺装輪装甲車と魔法使い。これに支援工兵を加えた二〇名からなる隊だ。

 装輪装甲車は簡易的ながら与圧設備を持っているので、分隊全員を乗せて大気圏をかすめる輸送船から飛び出す。

 飛び出してしまえば、減速時間を考慮しても一五分後には地上で活動できるという案配だ。

「グリーゼは余裕だったが、今回も同じと考えるな。

 奴らも、こっちのやり方を見て対策してるはずだ」

 装輪装甲車の荷台部分に居る十五名の部下に、ネイスンは言う。

 今回は敵の宇宙艦が多く展開している海域での、軌道強襲作戦となるため、彼ら上陸部隊の回収は艦隊が海戦に勝利する事が絶対条件になる。

 だが、流民船団が誇る『Z3』級は無敵である事は疑いようがない。


「塹壕……か。グリーゼからこっちで良く用意出来たものだ……」

 地上に向けて滑空中の車内から、エウロパの地表を見下ろしてネイスンは呟いた。

 その直後、ドンドンドンとリズミカルな低音が聞こえ始める。

 敵が対空砲を撃っているのだろう。

「思ったより早い仕掛けだな……まあ、よかろう」

 ネイスンが左腕を上げると、部下の魔法使いが二人、装輪装甲車の床に手を付いた。

 こうやって防御魔法をかけるのだ。

 防御魔法は、装甲車の装甲部分から少しの空間を空けて展開される。

 そもそも対空砲と言うのは、破片による加害を目的とする物なので、魔法でこれを防ぐのは容易い。

 もちろん、地面に近づけば砲にも近づく事になるため、どこかのタイミングで防御が破綻する事になるのだが、その段階で悠長に対空砲を受けるつもりはないのだ。

「よし、地上五〇〇まで近づいたら、俺達は降りる。装甲車を頼むぞ」

「おう」

 と威勢のいい声が上がった。

 それからしばしの時間、装甲車は対空砲に揺さぶられるが、致命傷を受けることなく指定高度まで落下した。

「良し行くぞ」

 装甲車の後部扉が解放されるやいなや、ネイスンは五名の部下を率いて空中に飛び出した。

 もちろんパラシュートのような装備はない。

 飛び出したのは皆、魔法使いでありドラゴンだ。空を飛ぶのに苦労はない。

 ネイスン達に気づいたのか、茶色い迷彩服を来た敵軍兵士達が、塹壕の中をこちらに向かってくる。

 一部の対空砲もこちらに向かって撃っているようだが、単身空を飛んでいる魔法使い相手では近接信管も作動しないため、ラッキーパンチが当たらない限り脅威はない。


◇◆◇◆◇◆◇


「敵空挺、車両を離れる! 数五!

 我が陣地の前方五〇〇乃至一〇〇〇メートルに降下するもののごとし!」

 塹壕の末端部分で双眼鏡をのぞいて、丸亀一等兵が大声で叫ぶ。

 車両の方は、パラシュートをいくつか開きながら飛び去る。

「機関銃兵、前へ!」

「たった五人で何が出来る?」

「我が、帝国陸軍の力を見るがいい!」

 あちこちで声が上がる。

 大日本帝国陸軍の士気は高かった。

 グリーゼでの戦闘がいまいちだった反動である。

 次々と機関銃兵が機関銃を塹壕から出して、三脚を立てる。

「着地まで引きつけろ」

 一瞬の沈黙。

 敵はふわーと滑空する様に飛んでくる。パラシュートの類いは開いてない。

 もとより相手はドラゴン。自前の翼がある以上、装備なしでも空を飛べるのだろう。

「……」

 皆が息を潜めた。

 その直後、滑空中の敵から光の球が放たれた。

「……これは……魔法攻撃か!」

 誰かが叫ぶ。

 これは良くないと丸亀は思った。

 高度十数メートルとは言え、上空から放たれる攻撃は塹壕内の兵士に取っては悪夢以外の何者でもない。

「伏せろ!」

 例え上空から放たれた魔法攻撃でも、真上からでさえなければ、塹壕内で伏せれば遮蔽物を確保できる。

 丸亀も塹壕内に転がった。

 直後にドカドカと爆発が起こり、土や小石がバラバラと塹壕内に降ってくる。

 見れば、皆塹壕内に転がっている。とりあえず、敵の最初の攻撃は凌いだようだ。

 だが問題もある。

 この空白時間の内に、敵は地上に降りたはずだ。

 丸亀は帝国陸軍の標準装備である三八式突撃銃を手に取った。

「通信兵! 司令部に敵上陸の報をっ! あと増援要請もだ」


◇◆◇◆◇◆◇


 ネイスンは最初に着地した。

 敵陣地から二〇〇メートルほど離れた場所である。着地地点は、赤茶色の土に所々雑草が生えている平地で、有用な遮蔽物はない。

 これは、偶然平坦なワケではなく、そういう場所に敵が陣地を敷いているという事だろう。こちらは、遮蔽物が確保できないので一方的に攻撃することができるという意図だ。

 即座に防御魔法を展開して、簡易的な陣地とする。

 もちろんただの防御魔法なので、そんなに長時間展開はしていられないし、榴弾砲などを撃ち込まれれば被害は避けられない。

 だが、分隊が集結するには十分な時間であるし、何より目印にもなる。

 ちなみに集結するのは、ネイスンの分隊五名のみである。

 分隊同士は一定の距離を開けて展開しているので、通常合流はしない。

 これは、敵の戦力を分散させて、一つの分隊が集中攻撃されない為の動きだ。

「ネイスン。どうだ?」

「デイヨーか、他の連中は?」

「対空砲火を嫌って少し向こうに降りたみたいだ。ウェッジスが着地時に脚を怪我して治療中との事だが、数分で合流すると聞いている。

 ……敵の様子は」

「今のところ、目立った動きはないな。空中から魔法をばらまいたから、警戒してるのかもしれん」

 ネイスンはそう答えたが、雰囲気的には敵の携帯できる武器の射程の問題で、仕掛けてこれないのではないかと考えていた。

 この場合、敵の陣地内で今まさに大型の兵器が移動されている事になる。

 もっとも、その兵器がネイスンの所に来るのか、同時に降下した他の分隊の所に行くかはわからなかったが。

「攻撃予定時間までは……もう少しあるな……」

 腕時計を見て、デイヨーが言う。

 攻撃予定時間というのは、降下した他の分隊と事前に示し合わせた時間である。

 複数の分隊が連動して一気に魔法で敵陣地突破し、内部から蹂躙する予定だ。

 その時、パンパン! と破裂音がした。

 ネイスンの張った防御魔法の表面で、熱線がはねる。

 どうも我慢できなくなった敵が撃ってきたらしいが、目に見える驚異はない。

「この距離で防御魔法が抜けないなら、歩兵の武器は怖くないな」

「ああ」


◇◆◇◆◇◆◇


 敵は魔法で防御陣地を作ったあと、その後ろから動かなくなった。

 丸亀はその様子を双眼鏡で確認していた。

 司令部からの通信によると、他の場所も似たような状況らしい事がわかる。

「支援砲撃が期待できないのは……辛いな」

 独り言を言って、丸亀は再び双眼鏡を覗く。

 丸亀としては、敵が動いていない今のうちに、榴弾砲などで攻撃するべきではないかと思っているのだが、司令部はそれでこちらの砲配置を知られるのを嫌っているらしい。

「むっ!」

 ちょうどその時、敵に動きがあった。

 灰色の戦闘服に身を包んだドラゴンが五人ほど、魔法による防御線を越えて進み始めたのだ。

「敵接近!」

 丸亀は大声で警告を発した。

 それに呼応したように、各隊の隊長達が攻撃命令を下す。

 パンパン! と破裂音を立てて、そこかしこから三七式突撃銃がら熱線が放たれる。

「駄目だ……効いてない」

 誰かが叫んだ。

「もっと敵を引きつけるんだ!」

 それに対して、別の誰かが怒鳴る。

 直後。

 敵が光った。

 いや、色とりどりの光の筋が、帝国陸軍の塹壕に向かって伸びてくる。

「隠れろ!」

「伏せろ!」

 魔法攻撃である。いったいどんな攻撃なのか、実際着弾するまで帝国陸軍の将兵にはわからないので、塹壕の中に引っ込む以外の対応はない。

 他の将兵と同じく、丸亀もてっぱちを押さえて、塹壕に身を隠した。

 とりあえず、これで敵からは見えなくなった。

 そして、こちらは塹壕の中を隠れながら、移動することが出来る。

 現状、制空権は取られていないので、敵がこちらの配置を知るのは難しいはずだ。

「注意! 敵の第二射!」

 無線から警告。

 司令部の観測班だろうか? と丸亀は思った。

 その時、塹壕の中で自分の影が揺らいだような気がした。

 影が揺らぐのは、影の投影先か光源のいづれかが揺らいだからだ。そして、塹壕は揺らがない。

 丸亀が塹壕内から空を見上げると、低い位置に木星。高い位置に別の光源が見えた。

「魔法の榴弾!」

 魔法の榴弾という表現が正しいのかは甚だ疑問ではあるが、曲射された魔法と言う意味ではそれはまさに的を得た表現である。

 この場合の的は、丸亀ら帝国陸軍の将兵なのだが。

 塹壕の中に砲弾が落ちれば、そこに居る兵は死ぬ。

 本来なら、敵の運用する榴弾砲の類いは警戒対象であり、敵が発射準備を始めた地点で、こちらの榴弾砲を撃ち込むのがセオリーなのだが、相手が魔法使いだと警戒のしようもない。

 おそらくグリーゼ侵攻の際にも、同じ事があったのだろうが、その攻撃を受けた連中は全滅した為に情報がもたらされなかったのだ。

「南無三」

 思わず、そんな祈りの言葉が口を突いた。

 だが、神も仏も今まさに飛来する魔法から、彼らを守ってはくれないのだ。

 おしまいだ。そんな考えが、丸亀の頭を支配した。

「《氷の矢》っ!」

「《炎の矢・改》!」

 突如として、味方陣地内部から戦場の喧噪をかき消すように声が上がった。


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