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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
竜の卵と卵の事情

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竜の卵と卵の事情5

 ユーノの言っていることは理解できる。

 要するに、安全に捜索作業を実施できるだけの戦力が、エッグにはないのだろう。

 そして、リスクを抱えてまで捜索作業を実施する気はない。という事だ。

 ……いや、オレでもそうするか……

 アベルがユーノの立場だったとしても、ドラゴンでないラーズや、元々一回こっきりの仕事の為に潜伏していたスリーパーエージェントであるエージェント・クロウラーの為に、多数のスタッフを危険に晒すことはしないだろう。

 そしてなにより、アベルは現状目の前の出来事を優先せざるをえない。下手をすれば、最後に残ったエレーナも失いかねない。

「……失礼します」

 と言って、ユーノは左の中指で耳を抑える様なしぐさをした。

「……ユーノです。はい。

 ……いえ。大丈夫です。はい。お越しください」

 誰かと通信しているようだったが、その相手はおそらくドラゴンマスターなる人物であることは容易に想像できた。

「マイスタ・アベル。ドラゴンマスターがお着きになられました。

 お立ちを」


 ……さて、本番だ。

 アベルは、目の前にある問題に優先順位をつける。

 まず最大優先度を付与するのは、とりあえず手の届く範囲にいるエレーナの安全。

 次は、ラーズとレイルの捜索に必要なリソースの確保。

 三番目に、センチュリア奪還。もしくはその布石。

 ……こんなところか。

 とりあえず、アベル自身の安全は棚上げにしておく。このシチュエーションで保身に走れば、間違いなく相手のペースにはまる。

 アベルが優先順位設定を終わると同時に、扉が開いた。

「……ドラゴンマスター、ガブリエルにございます」

 そう告げて、ユーノは身を退く。

 ガブリエルと呼ばれたそのドラゴンは、美しい女性であった。しかし、美しい以上に巨大だった。単純に身長が高いのもあるが、それ以外の要因もある。

 まず特筆すべき特徴は、翼。ガブリエルの右の翼はアベルと同じ黒と銀。この翼が二枚生えている。反対の左側には、カラスのような羽毛に覆われた真っ黒な翼が二枚。つまり二対四枚の翼がある。

 アベルは震えた。

「……古竜……」

 古竜というのは、一般的なドラゴンと違う身体的特徴を持ったドラゴンの総称である。

 より正確に言うなら、古竜のなかで最も栄えたグループが、現在のドラゴンであり、現在のドラゴンも古竜の一種であると言えるだろう。

 古竜はずっと昔に絶滅したと言われていたし、アベル自身そう思っていたのだが、それは目の前に現れた。

「ユーノ。しばらく二人に」

「御意のままに」

 ガブリエルに命じられ、ユーノが部屋を出ていく。

 ガブリエルの隣を通り抜けるユーノのサイズから考えて、ガブリエルの身長は一九〇センチに達する。さらに尻尾の長さから逆算するなら、有効最大面積時の両翼は二四〇センチ。

「……アベルよくぞ無事だったわ。良かった」

 ガブリエルはベッドに腰掛けたアベルの前まで来た。

「……」

「お姉ちゃんうれしいわ」

 ……は?

 その、は? が言葉になるより早く、ガブリエルがアベルの頭を抱きかかえた。

 アベルは縛られたままだったので、有意な抵抗は出来ずにそのまま、顔面をガブリエルの胸に突っ込む形になる。

 ……でかい! いや、そうじゃない。

 このアクションだけで、それまで考えていた交渉のシナリオが全部消し飛んだ。

「苦しいっ」

 胸で窒息というのも乙な物かも知れないが、まあ苦しい物は苦しいのである。

 そして、なにより姉であると最初に宣言した相手の胸に埋まっているのも微妙な気分だ。

「あら。ごめんなさい。

 ……そうそう。それもほどいてあげましょう。後ろ向いて」

 どうやら、自由にしてくれるらしい。

 まあ、当初アベルが考えていた、情報を聞き出す計画等は既に瓦解して久しいので、自由にしてもらえるなら、それに越したことは無い。

 おとなしくアベルは後ろを向いた。

 ガブリエルが後ろで魔法を使う気配。

 ……土系か……いや木の属性か……

 あまり知らない系統の魔法だな。とアベルは思った。

 樹脂製の拘束具が、何らかの力で破壊されたのがわかった。

 アベルは自由になった両手首をさっていると、再び後ろからむにゅっと、ガブリエルが抱き付いてきた。

「本当に、あなたが見つからなかったら、どうしようか思ってたのよ」

 ガブリエルが言う。アベルはそれを聞き流しながら、ガブリエルの右の翼に自分の翼を合わせ、色を比べてみる。

 黒い翼支の部分、銀色の翼膜部分。色は全く同じように見えた。

 ドラゴンの翼や尻尾の色は、それだけで個体識別に使える程度にはユニークである。

 色が一致する可能性があるのは、肉親……それも、極めて近しい肉親だけであると考えられている。

 つまり、これだけでもがアベルとガブリエルが肉親である査証になりうる。

「……いくつか聞きたいんだが……」

 アベルは言う。

「……ええ。お姉ちゃんに言ってみて」

「突然、姉と言われてもなあ」

 質問の前に、アベルは率直な感想を述べた。

 突然、姉と名乗る人物が出てきても実感が無い。大体本当に姉弟なのか判らない。

「……フローリアの息子と兄弟として育てられたから、当然よね……」

 耳元でガブリエルが言う。

 ……そこまで知ってんのか!?

「……わたしがあなたの姉である事の査証は簡単よ。

 宇宙空間を漂流している、あなたをわたしが探知してみせた。これが偶然成立する確率かどうか、魔法使いならわかるはずよね?」

 魔法にはいくつか、妙なルールが存在する。

 その内の一つに、自己施術原則という物がある。

 これは、自分自身を目標にかけた魔法は一〇〇%成功する。という、魔法のふるまいだ。

 このふるまいは、文字通り自分いかける魔法だけでなく、実は血縁者にも及ぶ。さすがに一〇〇%ではないが、血縁者が相手なら魔法の成功率は劇的に跳ね上がる。

 通常の探知魔法は、一〇〇キロも離れれば、探知精度は極端に落ちる。一〇〇〇キロ離れれば、探知することもできなくなるだろう。

 一〇〇〇キロは宇宙で探し物をするには、あまりにも狭い距離であることは、アベルにも容易に想像が付く。

「……確かに、それは査証になりそうだが……

 それなら逆説的にオレは、古竜という事になる?」

「残念ながら、母親が違うの。

 その母方に、古竜の血が混ざっていたらしくて、わたしが生まれた時に発現したの。

 アベル……あなたは古竜ではないわ」

 むう。とアベルは唸った。こちらはすぐに検証のしようがない。

 もっとも、時間をかけていいなら、DNA鑑定をすれば一発で姉弟かどうかがはっきりする。

 もしガブリエルが、アベルに何らかの働きを期待しているなら、こんな変なウソは付かないだろう。という結論に至らざるを得ない。

「……わかった。古竜云々は了解した。

 それじゃ、なんでオレはセンチュリアに?」

「細かい経緯を話すとキリがないから、かいつまんで話すわね。

 あなたがまだ赤ちゃんの頃の話よ。その頃に丁度、当時のドラゴンマスターが死んで、その席が空いた。

 ドラゴンマスターは、後継者を指名しなかったので、当時のドラゴンナイトやドラゴンプリーストの間で争いが起こったの」

 アベルは、ああそういう……と思った。

 よくある話過ぎて困る。

「……当時、お姉ちゃんはドラゴンプリーストだったわけだけれど……」

「そのドラゴンマスターの地位争いにオレが邪魔になった?」

 ガブリエルの先回りをする形で、アベルが言う。

「……まあ、そう取られても仕方ないわね」

 なんとも言えない微妙な表情を浮かべて、ガブリエルが答える。

「その時、お姉ちゃんはドラゴンマスターになる気は無かったわ。

 信じてもらう以外に、証明する方法がないから、判断はあなたに任せるけど」

 今のアベルに判断は不可能である。

 判断材料が無さすぎる。

「当時のドラゴンナイト、アルカンドスはわたしを取り込むために、あなたを狙った。

 その事件の途中で、あなたをフローリアに託した……いや、託さざるを得なかったのよ」

「……それなら、なんで事態が収束してからオレを呼び戻さなかった?」

「……」

 一瞬の沈黙。

「……フローリアの息子と合わせて、フローリアがあなたを別目的で運用しようとしたの」

「……」

 今度はアベルが沈黙した。

 言われてみれば、アベルとラーズは共闘を前提にビルドされている。これは、なにか具体的な目的があるとも考えられる。

「……じゃあ、なんで奪い返しに来なかった?」

「まず聖域には、そんなに簡単に出入りができないし……

 お姉ちゃん、出歩くとすごく目立つの」

 それはわかる。確かに古竜など見たら絶対忘れないに違いない。

「それと、フローリアは途轍もなく強力な魔法使いよ。戦ってあたなを奪い返すのは難しいわ。

 なにより、事態が収束した時、二年……立っていたわ。

 既にあなたは、フローリアの息子になっていた……」

 これもフローリアに確認しなければ、真相はわからない。

 そのフローリアは侵略者によって封鎖されたセンチュリアに居る。

 アベルは、これ以上自分の事を詮索するのを止める判断をした。

「……経緯は大体わかった。可能ならあとでいろんな資料を査読したいけど……

 本題に入りたい」

「ええ。いいわ」

「オレをここまで連れて来るコストを考えると、他では代替えの効かない事をオレに要求しようとしている」

「……さすが、フローリアが最高の魔法使いと称するだけの事はあるわね、アベル……

 率直に言うと、わたしは現マザードラゴンの打倒を考えている」

「マザー……ドラゴン?」

「封建国家に置ける、王様のイメージが一番近いかしら?」

「……つまりクーデターか……

 オレがそんな事に顔を突っ込むと?」

「思わない。だから、お姉ちゃん不本意だけど……」

 ガブリエルがパチンと指を鳴らした。

 そのショックかどうかは知らないが、ガブリエルの左の翼から巨大な黒い羽根が一枚抜け落ちた。

 再び、入り口の扉が開いた。

「んー!」

 現れたのは、拘束服を着せられて、口にテープを張られたエレーナを抱えたユーノだった。

 ……ああ。ここでそう使うのか……

 アベルは、割と素直に関心した。

 エレーナが着せられているのは、精神病院などで使われるような本格的な拘束服だ。これはビジュアル面のインパクト狙いだろう。とアベルは予想した。

 同時にエレーナに危害を加える気はない、という意思表示でもある。

 やはり、最初から最後まで完全にガブリエル……もしくはそのブレインの手の中で踊っている格好だ。

 要するにもう詰んでいるのだが、アベルはもう少し茶番を続けようと思った。

 これは単純に、このセットプレイを考えた誰かの手腕を見たいという、アベルの好奇心だったが。


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