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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
謀略海域

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謀略海域16

◇◆◇◆◇◆◇


「至急! 時空震先進波を探知。大質量の物体が多数、至近距離にADDアウトしてきます!」

 A2119のブリッジに悲鳴じみた報告が上がった。

「ADDアウトまで、推定三〇秒!」

「短い! 友軍識別急いで! 全艦戦闘準備!」

 エレーナは矢継ぎ早に命令を出す。

 当初は素人の集まりだった第三艦隊も、第二次聖域海戦以降は立派な艦隊になったとエレーナは考えている。

 実際、なれないA2119からの戦闘命令も、スムーズに各艦の各部署に伝わっていく。

「どうして直前まで探知できなかったの!?」

「申し訳ありません。ドラゴンマスター、先の緊急通信で超光速機関を使ったあと監視シフトに戻して居ませんでした……」

 これはレモンの失態である。

 しかし、命令を出さなかったエレーナの失態でもあった。

 普段ならG2012が艦隊全周を警戒しているため、『パンデリクティス』が積極的に索敵する必要がなかった事も要因の一つだろう。

 なんなら、強力な主機を持つ『パンデリクティス』の索敵システムはG2012の索敵を、妨害してしまうという事まであるのだ。

「艦隊二二〇度方向ほぼ水平面上、距離……三八〇万キロに複数の艦が降下!」

「IFF応答なし! 友軍艦ではありません!」

「! 三八〇万! 近い」

 エレーナは叫んだ。

「艦種判明! アークディメンジョンから降下してきた艦は流民船団『Z5』級。数四!」

 A2119のブリッジの戦術ディスプレイに、上向きの赤い円錐が表示される。

 進行方向は、第三艦隊とほぼ同じ。相対速度はマイナス……つまり接近中である。

「こっちに来るってことは、一戦交える気?」

 エレーナは思わす口にしてしまったが、当然誰も答えない。

 敵の司令官は、数で勝っているので勝てるとでも思っているのだろうか?

「艦隊を単縦陣に、対艦戦闘!」

 『パンデリクティス』級の主武装は、言うまでもなく『アニサキス』対艦巡行ミサイルであるが、三八〇万キロは撃てないことはないが少々近すぎる。

 そうなると、連装二基の長砲身の四〇〇ミリ主砲が物を言うだろう。

 E型『ブラックバス』の二八八ミリから大幅に強化されたこの砲は、既知のいかなる戦艦の装甲も一〇〇万キロで貫通できる性能を有する。

 強靭な装甲を持つとされる『Z3』級が相手ならともかく、『Z5』級相手なら数の不利もたやすくひっくりかえせるはずである。

「艦隊転進、一八〇。

 右砲撃戦、用意!」

 『Z5』の性能は今一つわからないが、『ブラックバス』級に近い思想の汎用巡洋艦であると言われている。

 実際にそうなのかはわからないが、今はエッグの最先端技術が生んだ『パンデリクティス』級の戦闘力を真実のみである。

「射程まで、推定一分!」

 レーダー士官が報告する。

 エレーナが艦隊を反転させたので、彼我の距離は一気に詰まる。

「『Z5』の一番艦が、こちらの三番艦の射程に入ったら主砲斉射で決着をつけます」

 『パンデリクティス』級の主砲射程はおおよそ一七〇万キロである。

 地球の戦艦の射程がおおむね一〇〇万キロ程度であることを考えると、この射程がいかに長いかがわかると言うものだ。

「距離二〇〇万!」

「『ゴーストヴェール』展開準備」

「主砲用補器、正常。主砲用コンデンサ直列。発射準備よし」

 各部門が、それぞれ報告を上げてくる。

 実にスムーズで頼もしいとエレーナは思った。

「……距離一八〇万……」

「主砲、ヨーイ」

 エレーナは左手を上げた。

 この動き自体に意味はない。

 ……放て!

 その言葉が口から出る直前、ホロディスプレイの向こうの宇宙でいくつかの閃光が生じた。

「!」

 ワンテンポ置いて衝撃。

 衝撃は大した事はなかったが、衝撃があったということは敵の砲撃が当たったと言うことだ。

「主砲、照準は適当なままでいいから、発射できる艦から順次発射!

 ……各艦のダメコンチームは、被害を報告! 急いで」

「本艦の被害は、被弾三発。

 二発は艦右側に着弾。いづれも第一装甲版で止まっています。

 残り一発は、メインマストの照準用レーダーアレイを掠りました。『アニサキス』の個艦運用に悪影響が出る可能性があります」

「『アニサキス』のA2119単体での運用は考慮しなくていいわ。

 他も第一装甲を貫通できなかったんなら、威力は大した事ないわね?」

「アイ。ドラゴンナイト」

 レモンは自信を持って答えた。

「よろしい」

「『ゴーストヴェール』展開。痛くないからって何発も喰らってやるいわれはないわよ」

「『ゴーストヴェール』展開、アイ」

 ちょうどこのタイミングで、A2120からの被害報告もアップロードされた。

 こちらも、二発被弾するも装甲を貫通されなかった為、戦闘続行に影響なしとなっている。

 なお三番艦のA2121は被弾なしである。

 ここまでの情報を統合すると『Z5』の主砲は、射程が長いが威力は低い小口径の長砲身砲らしいと言うことになる。

 しかし、相当な速射砲らしく雨あられと弾が撃ち込まれてくる。

 だがその主砲弾はすべて『ゴーストヴェール』に吸われて、熱と光に変わって宇宙に溶けて消える。

 『ゴーストヴェール』は、無数の艦載衛星が生み出すフォースフィールドの集合体なので、いくら撃っても『ゴーストヴェール』を形成するバリアスターが壊れるだけで一向に母艦に損害は及ばない。

 もちろんバリアスターは、艦の隙間と言う隙間に大量に搭載しているので一戦や二戦で枯渇することもありえない。

 これがエッグの最新鋭技術の結晶たる、第四世代攻撃型巡洋艦の性能である。

「『パンデリクティス』の凄いところを連中に見せてやりなさい」

 エレーナの激に答えるように、敵一番艦に命中弾が出た。

 敵戦闘を走る『Z5』が、ぐらりと揺らいだかと思うと、次の瞬間には艦首付近が爆発を起こした。

 爆発規模からして、主砲弾そのものではなく何かが誘爆したらしい。

 位置的には魚雷か何かだろうか?

「敵一番艦、戦列を離れます」

 艦首が吹き飛んでなお舵は利くらしく、先頭の『Z5』はよろよろと左へ旋回していく。

「無力化したかしら?」

「アイ。ドラゴンナイト。敵一番艦を無力化したと判断します」

 胸を張ってレモンが答える。

「いいわ。しかし、『パンデリクティス』の主砲は少々威力過剰なように思うけど、レモン艦長はどう思う?」

「同意します。主砲は高速連射モードでの運用を具申します」

 高速連射モードとは、要するに一発当たりの威力を下げる代わりに、単位時間当たりの発射数を増やすというモードである。

 主に対空戦闘での使用を想定したモードだが、防御の弱い相手ならこちらのほうが扱いやすい。

「他の艦も、艦長判断で高速連射モードでの運用を許可する旨を艦隊内通信で送って」

「主砲、高速連射モード」

「高速連射モード、アイ」

 レモンが命令を下し、復唱がなされると、すぐにドコドコというリズミカルな振動がブリッジに伝わってきた。

 『パンデリクティス』は高速連射モード使用時、主砲を毎分一二〇発のペースで連射できる。

 これが、連装二基四門。都合、毎秒八発の弾が発射されるのだ。

 艦の構造を伝わってきた振動で、ブリッジが少々騒がしくなるのも当然だろう。

「敵艦、下げ舵を切りました」

 レーダー士官が叫ぶ。

 三隻の『パンデリクティス』が浴びせる主砲弾に怯んだのか、残る三隻の『Z5』は艦首を下げた。

 この間も『Z5』は、絶え間なく主砲をこちらに向けて撃っているが、敵の攻撃はすべて『ゴーストヴェール』に吸収されて、有効な打撃にならない。

 『ゴーストヴェール』を構成するバリアスターは外部からの攻撃をすべて遮断しつつも、『パンデリクティス』が主砲を放つ瞬間だけ、その弾道上のフォースフィールドをカットすることで一方的に敵を攻撃できるのだ。

 『Z5』の攻撃は、すべて無効化されたような物であり、勝負にはならない。

「……!」

 その瞬間、エレーナは見た。

 星が一瞬瞬いたのだ。

 宇宙空間で星が瞬く理由は一つ、観測者と星の間に何かがあるという事だ。

「レモン! 何か飛んでくるわよ!」

「!?」

 エレーナの警告に、レモンは手元のコンソールを操作した。

 ここでノータイムで緊急回避命令を出さなかったのは、レモンの経験不足から来る物だろうか。

 ともあれ、ソレはエレーナの座乗するA2119に到達した。

 ドーン。という破砕音。続いて衝撃。

「被害報告!」

 レモンが叫ぶ。

 被害は相当大きいのではないかとエレーナは思った。

 ブリッジは、全長八七〇メートルにも達する『パンデリクティス』の重心近くにある。そのブリッジではっきりわかる揺れがあったのだ。重心から遠い場所では、いったいどれほどの衝撃があったことか。

「通信! 他の艦が被害を受けたか教えて」

「アイ。ドラゴンナイト」

 取り合えずA2119の被害に関してエレーナができることはないので、艦隊の状況把握をエレーナは選択した。

 僚艦からの返信は、程なくもたらされる。

「20、21ともに被害なし」

 ということは、最悪A2119が戦線を離れても二隻は戦闘続行可能となる。

 二対三で再び数的不利な状況になるが、艦の性能差を考えればまだ行けるはずだ。

「レモン! こっちは?」

「艦のダメージは、第四デッキ右、セクション二三と四九付近に被雷。反物質により装甲が浸食されて与圧が失われた区画がありますが、主機及び推進器にダメージなし。

 しかし、艦のあちこちの部署で被弾の衝撃による死傷者が報告されています。正確な死傷者数は集計中ですが、戦闘続行は可能!」

 死傷者が出たのは痛恨の極みだが、A2119はまだ戦闘力を保持している。

「21が右へ転進、本艦の前に出る意図です」

 つまり、A2120とA2120で暫定旗艦であるA2119を挟んで守ろうと言う事である。

 ここまでスムーズな陣形変更ができるまでに、艦隊は練度を上げているのだ。

 ……戦力はこちらが明らかに優勢。加えてこの練度なら、負けない!

「砲撃再開!」

 自信を持って、エレーナは命令を下した。

「レモン艦長は、復旧作業の陣頭指揮に当たるように」

 艦の与圧制御にダメージがあると、艦の構造に圧力差によるストレスがかかる事はよく知られている。

 これ自体は問題がないのだが、『パンデリクティス』級は運用実績が少ないために、予想外の不具合が発生する可能性があるのだ。これを防止するには早く与圧を回復されるしかない。

「現在、ダメコンチームが現場に向かっています!」


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