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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
謀略海域

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341/607

謀略海域4

「こちらは、フランス海軍第三航空艦隊のヒース・ドレイコ少将である。

 いかなる要件か、ミズ・シュガードール」

「即刻の退艦を勧告します。我が艦隊は十五分後に貴艦隊を殲滅します」

 シュガードールがちらりと横を見ると、ニクシーが驚いたような顔をしていた。

「ふむ」

 と言って老齢の提督は苦笑いを浮かべた。

「侵略者にしては有情な言葉だ。

 ……どうだろう。少しばかり侵略者殿の目的を教えてはいただけぬだろうか?」

「お言葉ですが、提督。

 十五分は、総員退艦にはギリギリの時間ではないかと思いますが……」

「総員退艦命令は出そう。しかし、私は話を聞きたいのだ」

 シュガードールは首をひねった。

 つまりこの老人は、今乗っている軽空母と共に沈むと言っているのだ。

「生き残れば反抗の機会もあると思いますが……」

 ヒースはシュガードールの言葉に首を振った。

「例え生き残ったとしても、わたしのような老人に次などないよ。

 竜は何百年も生きると聞いた……しかし、人間はそんなに生きられない」

 哀愁のような物をシュガードールは感じた。

「……わかりました。後十分程ですが、提督の最後の話し相手を務めさせていただきましょう」

 わざわざ退艦命令を出させて、撤退の時間を与えているのは別に酔狂ではない。

 退艦命令は退艦してくる乗組員の数の統計に、待ち時間は敵艦の構造の走査に、それぞれ充てられている。

「そうか。ずっと女気のない職場だったが、最後に美しい娘さんと話ができるのは、艦隊トップの特権だな。

 ……さて、シュガードール司令。君たちはエッグのドラゴンではないと聞いたが?」

「違います。我々は流民船団。

 エッグとは違う国のドラゴンです」

 ヒースはこの情報を地球に伝えるだろう。

 つまり、これで現場レベルで流民船団の存在が知られる事になる。

 エッグのドラゴン達が無用な戦争に巻き込まれるのは、シュガードールとしても望まない事なので、ここで正式に宣言できた事は有意義だった。

「エッグ以外にもドラゴンの国があるとは……いやはや、驚きだ。

 ……それでは、なぜ君たちは地球に対して戦争を仕掛けるのかね? 地球人がエッグのドラゴンに迷惑をかけたのは事実だが、流民船団がエッグと違う国なら、君たちが戦う理由にはなるまい?」

 これは噂の、超大国アメリカによるエッグ侵略の事を言っているのだろう。

 実際この侵攻による利害関係によって、地球の国はいくつかのグループに分かれて、一枚岩ではなくなった。

 もしこの状況が事前に立ち上がっていなければ、流民船団も戦争を仕掛けたかどうかはわからない。

「戦争理由、ですか?

 地球人は、相手の領土を奪うために、有史以来戦争を繰り返していると聞き及んでいます。

 フランスもそうなのでは?」

 この辺りの情報は、エッグで入手したいくつかの地球の歴史書で確認している。

 地球の歴史を読み解くと、何かの冗談かと思うほどに、延々と戦争を繰り返しているのだ。

「なるほど。それは耳の痛い話だ」

 ヒースは笑った。

 その時、Z318の警報アラームが大音量で鳴り始める。

 これは艦隊所属のいづれかの艦が、緊急警報を発したという事を示す。

「通信切断。アラーム解除。

 報告を」

「Z522からの通報です」

 Z522は艦隊後方で警戒に当たっている艦である。

「Z522は、未確認の航空機と思われる反応を多数探知。

 指示を求めています!」

「航空機ですって!?」

 これにはさすがのシュガードールも驚いた。

 この海域に展開している航空戦力は、フランス海軍の空母艦隊のみである事は既に確認されている。

 しかも、近接するオーストラリアは空母を持っていない。

「探知した航空機の映像をください!」

 ニクシーが叫ぶ。

「コンソールに出してやって!」

 すぐにシュガードールはそれを承認する。

 ニクシーが敵の正体を看破すれば、必然的に何者がやってきたのかが確定するからである。

「……コイツは……」

 コンソールの映像を見て、ニクシーはそう呟いた。

 どうも知っている相手らしい。

 これは、情報戦と言う意味ではいい事だが、純粋に軍事的な事を言えばいい事かどうかはわからない。

 と言うより、おおむね悪い事だろう。

「ニクシー! 報告を」

「あっ! すいません指令。

 コイツは、F4U『コルセア』……アメリカ海軍の艦載機です。

 わたしの艦隊の『ブラックバス』をやったのもコイツです!」

 振り返りながら、ニクシーは言う。

「『コルセア』は戦闘機と記憶しているけど……脅威になるの?」

「なります! つい最近、対艦攻撃型のサブタイプが現れました!」

 なるほど、その対艦攻撃型がニクシーの艦隊の艦をやったらしい。

 そうとなれば、悠長にしている時間はない。

「各艦へ緊急通信。フランス艦隊への攻撃を即時中止。各艦は個艦防御に徹しつつ集合。

 イクアノックス艦長! 対空戦闘よ! 敵が散らばる前に、一発お見舞いしなさい」

「艦首、二二〇度方向。主砲、拡散モードで発射準備。

 グレゴール砲術長! 子細な照準は任せる」

「砲術了解!」

「副砲! 敵が射程に入り次第、個別に照準しつつ攻撃。攻撃開始タイミングは各砲塔に任せる!」

 イクアノックスから矢継ぎ早に指示が飛ぶ。

「ニクシー。どうする?」

「敵がどれだけいるかわかりません。わたしの持っている情報では、アメリカ軍に実働する空母は居ないはずなので、敵の規模が予想できません。

 したがって、撤退を具申します」

「弱気、ですな」

 強気な発言はイクアノックスの物だ。

「イクアノックス艦長。対空戦闘に集中しなさい」

 言いながらも、シュガードールはどうするべきかを考える。

 まず、ニクシーの言い分はもっともだ。未確定の戦力と戦うのは愚行である。

 しかし、地球人のドクトリンについて十分に調べられたか、と言えばノーと答えざるを得ない。


◇◆◇◆◇◆◇


「面白い事になりましたね」

 アップデートされた情報を見て、レクシーは感想を述べた。

「アメリカ人か……あいつらどんだけ戦争したいんだ?」

 うんざりを通り越して、もはや敬意を覚えるような感覚でアベルは言った。

「詳細は調査してみないと、なんとも……」

 ホロディスプレイから顔を上げる事もなく、ルビィが言う。

「……多分、近所のオーストラリア領のどこかに寄港してた艦隊なんでしょうね」

 レクシーは推理を述べる。

「でも、アメリカ海軍ってもう大型の正規空母持ってないはずじゃないのか?」

 戦術情報によると、シュガードール艦隊を襲っている航空機は約一〇〇機。全機攻撃に使うわけはないので、少なくとも二〇〇機。第二次攻撃隊を用意しているならプラス一〇〇機程度の規模の航空機を運用している事になる。

「商船改造の空母を多数配備しているのでは?」

 これはレプトラの疑問だ。

「その可能性はあるけれど、海戦勃発からこっちでオーストラリア領から駆けつけてきたのなら、商船改造の小型空母じゃ厳しいんじゃないかしら? 遅い艦が多数集まったんじゃ、艦隊運動もつらいわよ」

 艦の運用に関しては、やはりレクシーの言葉に重みがあるが、アベルとしては同時に疑問も湧くというものだ。

「じゃあ、未知の空母が居るって事か?」

「わたしは『エセックス』級が秘密裏に就役しているのではないか、と考えています」

 アベルの疑問に対してレクシーはあっさりと答える。

「おいおい……情報部の報告だと、まだ作ってる事になってるんじゃなかったか?」

「流石に、すべての情報を完璧に集めるのは不可能でしょう。確か、『エセックス』級は四隻船台に乗っていたと思いますが、リソースを二隻に集中するなどすれば、前倒しで完成させることは可能でしょう」

 レクシーは言う。

 確かに、その可能性は否定できない。

「でも、そこまでやって作った『エセックス』が、なんでフランス領とかオーストラリア領みたいな外れた場所に居るんだ?」

 引き続きアベルはレクシーに対して疑問をぶつける。

「これは完全な予想ですが、おそらくこの空母は聖域に投入される予定だったのではないかと思います」

「あっ、それは確かにそうかもしれないです」

 予想を述べるレクシーにルビィが同意する。

「なんというか、聖域に展開していたアメリカ軍の戦力が物足りなかったように感じました。

 二つに分けた空母艦隊の裏で、さらにもう一つ空母艦隊を隠していた。十分にありそうです」

「ルビィの言う事はもっともだが……それって結構危なかったって事だよな?」

「危ないか危なくないかは前提条件が不明ですし、実際には発生しなかった事象に対して、どうこう言っても仕方ないですが、一定の潜在的リスクがあったのは間違いないと思います」

 レクシーの言っている事を簡単に言い換えると、リスクはあったけど何とかなる。という事である。

「第三艦隊はわかりませんが、わたしの艦隊には『ユーステノプテロン』が居るので、航空攻撃に対しては必ず先手が取れます。

 またアメリカ軍の航空機の航続距離はいいところ一億キロなので、空母は五〇〇〇万キロ以内に必ず展開している事になります。

 これは『ユーステノプテロン』の超光速走査の範囲内であり、超光速機関搭載型の『エンハンスド・アニサキス』の射程内なので、敵が航空攻撃を行えば必ずその母艦を攻撃することができるという事を示します」

「つまり、レクシー艦隊が傷を受けるにしろ敵の空母は必ず喰えるから、最低でも比較勝利は取れる。と」

「その通りです、ドラゴンマスター」

 アベルの言葉に、満足そうにレクシーは頷いた。


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