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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
千年紀の黄昏

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千年紀の黄昏17

◇◆◇◆◇◆◇


 内地からの輸送船に乗せられて、ラーズはトリトン海軍基地に移動してきた。

 母艦である『翔鶴』で検疫を受けた後、息つく暇もなく空母航空隊のブリーフィングが実施される。

 艦隊は準戦時状態になっており、温度感は相当高い。

 ちなみに、お稲荷さんは艦隊がごちゃごちゃしていて危ないので、トリトンに置いてきている、

「すいません。話が見えないです。

 ……アメリカ人を粉砕しに行くのではないのですか!?」

 ブリーフィングと言っても、ラーズと草加が会議室で話しているだけだが。

 ラーズはアメリカが再び聖域に侵攻し、大日本帝国の民間船を撃沈したと聞いて急いで戻ってきたのだが、実際に話を聞いてみると流民船団なる謎の勢力が出現していた。

「そもそも流民船団とはなんなのですか?」

 ラーズの問いに草加は苦笑した。

「……エッグではないドラゴンの国。となっているが、不明点が多い」

「そんなので戦争するのですか?

 大体、地球と戦争するメリットが、その流民船団にはあるのですか?」

「ラーズ君の疑問はもっともだが、詳細は軍令部でも不明となっている。

 それに宣戦布告された以上、戦わざるを得ない」

 困り顔で草加は答えた。

 本当に、情報がないのだろう。

 もっとも、センチュリアを襲ったアメリカの理屈も意味不明だったので、元来戦争とは意味不明なものなのかも知れない。

「……あー。そういやローズベルトが、ドラゴンが地球を侵略云々言ってたな……

 サイコ野郎の妄想だと思ってたけど……これの事言ってたのか」

 ……とばっちりじゃねえか。

 ラーズは思った。

「そういえば、草加参謀長。

 アメリカ人は、どうしようとしているんですか?」

「やる気満々で、地球連合軍の設立を呼び掛けているよ」

 再び草加は苦笑した。

 草加の反応から、その連合軍が不人気なのは想像に難くない。

「現状、オーストラリア以外は態度を保留しているがね」

 それはそうだろう。とラーズは思った。

 エッグと同盟関係にある国が、下手にアメリカと手を結べば、エッグが流民船団側に付く可能性が出てくる。

 そうなると、人類対ドラゴンの最終戦争という破滅的な局面になってしまう。

 各国が慎重になるのは当然の話である。

「……エッグは、当然中立宣言してるんですよね?」

「当然。な」

「むー」

 と唸ってラーズは黙り込んだ。

 一言で言うと、流民船団なるドラゴンの国と戦うのがイヤなのである。

「とは、言っても宣戦布告をされた以上、我々は戦うしかない。軍人である以上、臣民を守って戦うのは当然の義務であることは改めて言うまでまでもなかろう」

 草加が言っている事は当然の事である。

「臣民を守るために戦う事に異議はありませんが……アメリカ人と共闘することには大いに意義があります」

 アメリカ人は裏切る。

 裏切ったうえで、自分たちがまるで正義であるかのように、都合のいい歴史を捏造するに違いない。

「ラーズ君の気持ちはわかるがね。それを決めるのは政治家の仕事だ。

 我々が口を出す事じゃない」

 草加はぴしゃりと言った。

 あるいは、草加自身が納得いっていないのかも知れないとラーズは考えた。

「それより、明日艦隊内で模擬航空戦がある。

 模擬戦の前に、『烈風』の調子を見ておいたほうがいいだろう」

  

 上司である草加に『烈風』の調子を見ておけ、と言われれば、ラーズとしては別に断るいわれはない。

「ドローンは連れて行くか?」

「もちろんであります。大黒大尉」

 ラーズは特号装置まで含めて『烈風』であると考えて居るので、無人機も同時に飛ばすのは当然の判断だ。

「哨戒飛行枠に二時間、飛行時間をねじ込んだ。

 実際の飛行データがあれば、明日の模擬戦までに完璧に整備してやるから、壊すなよ」

「空戦もしないのに壊れるなら、それは整備不良であります」

 言いながら、ラーズはスズメ1のコクピットに滑り込む。

「おかえりなさいませ。ご主人様」

 計器類の電源を入れると、まずは鈴女のアバターがコンソールの中央に出現した。

 続いて、各種計器類が次々と表示されていく。

「よう鈴女。いい子にしてたか?」

 言いながらラーズは、目の前に出現したチェックリストに指を走らせる。

「もちろんです」

「よしよし……

 大黒大尉! 搭載兵装は機関砲弾一〇〇〇発、イの四六が四発で間違いありませんか?」

「ああ。その通りだ」

 大黒の答えを聞いて、ラーズは親指を立てた。

 キャノピーが閉鎖される。

「気密、環境制御、生命維持問題なし……よし、行けるな」


「『翔鶴』管制からスズメ1。

 スズメ1およびスズメ2は、メインデッキから発艦。スズメ3およびスズメ4はアングルドデッキから発艦するように」

「スズメ1から『翔鶴』管制。ヨーソロ。スズメ1およびスズメ2はメインデッキから発艦する。

 ……メインデッキからも飛べるようになったんだ」

 聖域海戦の段階では『翔鶴』は発艦プログラムの制約で、アングルドデッキからしか発艦ができなかった。

 おそらく『天鶴』『光鶴』の就役タイミングで、『翔鶴』のプログラムも更新されたという事だろう。

 むろん、これは姉妹艦である『瑞鶴』も同じはずだ。

 アングルドデッキから発艦する機は、待機デッキから艦の後方に引き出されるのに対して、メインデッキから発艦する機は艦の前方に引き出される事になる。

 引き出されるのは、艦橋の前方にエレベータである。このエレベータはメインデッキに着艦してきた機を、待機デッキに引き込むのに使われるエレベータと同じだ。

「わお」

 ラーズは感嘆の声を上げた。

 現在『翔鶴』は、海王星を左に見ながら航行しているので、エレベータから見ると真正面に美しい海王星を望むことになる。

「絶景かな絶景かな」

「絶景は結構ですが、スズメ3とスズメ4の発艦許可が出ています。

 こちらで勝手に飛ばしますが、よろしいですか? ご主人様」

 アングルドデッキとメインデッキの導線は被らないようになっているので、基本的にどちらから飛ばしても問題にはならないのだが、多くの空母では先にアングルドデッキに並べた機体を発艦させる。

 これはメインデッキ上の航空機が推進器を吹かした時に、後ろに居る機体がその影響を受けないようにするための措置だ。

「ヨーソロ。頼む」

 ラーズは答えた。

 別にラーズがやってもいいのだが、鈴女に任せた方が安心安全で確実だ。

 そうしている間にも、ラーズの乗ったスズメ1とドローンのスズメ2はメインデッキに横並びになった。

 ラーズ機が進行方向左、ドローンが右という配置だ。

「スズメ1から『翔鶴』管制。先にスズメ2を飛ばす」

「『翔鶴』管制了解した。先にスズメ2を発艦させる」

 これは完全に好みの問題だが、ラーズは先にドローンを飛ばす事を好む。

 離間順序に優劣はないと考えられているので、順番は完全にパイロットの好みで決めてよい決まりになっている。


 いろいろ言ったところで、結局のところ発艦は簡単である。

 最初の頃はびくびくしながらやっていたラーズだが、実戦を経験した後は慣れたものだ。

「そういや、海王星の大黒斑って消えたのか?」

 左方向に視線を向けながらラーズは言った。

 大黒斑とは、海王星の大気が渦巻いているところで、定期的に現れたり消えたりする。

「なんでも、大黒斑には秘密基地があって、そこで帝国海軍が極秘で巨大戦艦を作ってるらしいですよ! ご主人様」

「デマデマ」

 鈴女の噂話をラーズは否定した。

 大体、帝国海軍が戦艦『大和』と作ってるという話は、定期的に出てきて定期的に消えていく。

 まさに大黒斑と同じである。

 大体、大日本帝国海軍のドクトリンは空母打撃戦力の集中運用なのだ。戦艦を作るぐらいなら、空母を作るに決まっている。

「まさか否定されるなんて……

 絶対ご主人様は、この話が好きだと思ったのに」

 計器類のど真ん中に居座っている鈴女のアバターが、恐ろしく作りこまれたモーションでしゅんとした。

「『大和』型戦艦のロマンはわからんでもないが、ミエミエのデマじゃ燃えないし萌えない。

 男心のわからん奴め」

 まあ、実際問題戦艦が役に立たないかと言えばそんなことはない。

 例えば惑星への上陸支援の艦砲射撃は、それだけで敵の戦意を挫くには十分だし、強靭な艦体は大型の巡航噴進弾の運用プラットホームとしても有用だ。

「……あの、ご主人様……」

「んー?」

「男心ついでに、教えて頂きたい事があるんですが……その、オフレコで」

 戦闘機に限らず、今日の兵器はあらゆる情報をネットワーク経由で共有している。

 それをオフレコと言っているのは、よっぽど聞かれたくない話なのだろうとラーズは思った。

 ラーズは普段触ることのない、操舵スティックの奥の防火壁のボタンとダイヤルを操作した。

「……スズメ1からトリトン管制。聞こえたら応答してくれ」

「こちらはトリトン管制。スズメ1。よく聞こえる」

「通信装置の再起動を行うから、しばらく黙る。

 復旧までに何かあったら、緊急チャンネルの方で頼む」

「スズメ1。トリトン管制了解。通信復旧後、その旨連絡されたい」

「ヨーソロ。スズメ1アウト」

 通信を切ってから、ラーズは無線機の主電源を切った。

「さっ、これでオフレコだぞ」

 正確には、コクピットボイスレコーダーは四八時間は音声を記録し続けるのだが、それが解析されるのはスズメ1が墜落した場合のみなので気にしなくてもいいだろう。

「ありがとうございます。ご主人様」

 そう言ってから、鈴女は黙り込んだ。

 しばし、『烈風』の推進器であるネー二二八の軽快なエンジン音だけが操縦席を満たした。


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