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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
竜の卵と卵の事情

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竜の卵と卵の事情1


 竜の卵と卵の事情


 政治不安と言うが、内戦でも起こさない限り、なにも悪い事ばかりではない、とレクシー・ドーンは考える。

 レクシーはアイオブザワールド聖域守護艦隊所属、『ブラックバス』級巡洋艦E5312の艦長である。

 青灰のおさげ髪に、丸眼鏡のほっそりとした少女で、当然ながらドラゴンである。その背には翼支は青黒、翼膜は水色の一対の翼。尻尾も同様に青黒と水色のツートンだ。

 悪い事ばかりで無い、というのはほかでもない。政治不安によって、聖域守護艦隊の中核を構成していた艦長たちが相次いで船を下りた。

 その埋め合わせとして、辺境で輸送船警護をやっていたレクシーも聖域守護艦隊に移動になり、最新鋭のE5300シリーズの『ブラックバス』を与えられた。

 現在はマザードラゴン直接の命令により、聖域への接近は聖域守護艦隊と言えども禁止されている。

 しかし、レクシーはその命を破って聖域に居た。

 先日、アメリカの侵略部隊によって襲撃された聖域は、現在敵勢力下にあり最新鋭の『ブラックバス』と言えども単独で近づくのは危険極まりない行為であった。

 しかし、

「ブリッジから、天文デッキ。

 レクシーです。

 報告を」

「天文デッキより、ブリッジ。

 現在の所、反応は見られない、との事です」

 レクシーが部下を危険にさらしてまで、聖域のリムに居るのは無論訳がある。

「レクシー。了解」

 ふむ。と唸ってレクシーは顎に手を当てた。

「見つかりませんか? 艦長」

「……さすがにそんなに簡単に見つかるなんて思ってないけれど……」

 副長のリズロンドが言う。リズロンドは辺境で輸送船護衛をやっていたころからの副長である。

 長めの金髪から鮮やかなグリーンの翼が出ている。

「艦長! ソナーです。

 超光速痕跡を探知したとの事です。

 いかがいたしますか?」

「方位は?」

「聖域外部方向へ飛んで行ったようです……超光速痕跡は現在位置から、外宇宙に向かって推定五億キロ」

「……いいでしょう。追います。

 ブリッジから、天文デッキ。

 ドラゴンマスター。聖域の外に向かって超光速飛行した形跡を見つけました。

 本艦はこの痕跡を追跡します。

 ……航海長、アークディメンジョンドライブ準備。準備出来次第、超光速飛行開始」

「ADD。アイ」

 ブリッジのあちこちで復唱が上がり、『ブラックバス』は面てを聖域外部に向けて振った。

 今回、レクシーがマザードラゴンの命令を破ってまで聖域にいるのは、アイオブザワールドの主であるドラゴンマスターの命令だからである。

 無論ドラゴンマスターと言えども、マザードラゴンの命令を無視するのは問題があるので、表向きは辺境惑星を視察していることになっているが。


 エッグというのはドラゴンの国である。

 『聖域』からわずか七光年。国名と同じ名前の天体、『エッグ』を首都とし封建国家的国家形態を取る。

 国家の最高指導者であるマザードラゴン、アルトラシアが奇妙な行動を取るようになって五〇週ほど。

 エッグの領海の守護に当たる、騎士団、近衛隊、アイオブザワールドの主要艦隊もエッグに呼び戻された。

 この措置によって、無防備になった聖域はアメリカ軍の侵略艦隊の前に、抵抗らしい抵抗をすることもできずに陥落。

 エッグ内でも即刻殲滅部隊を構成の上、侵略者を駆逐するべきという意見が出たが、マザードラゴンはこれを却下。

 マザードラゴンの判断を不服とした、主要艦隊の上級士官は艦隊を離れた。


「ADDアウト先に艦艇を検知」

「アラート。

 レベルはイエローで」

「アラート。イエロー。アイ」

 約三〇分の超光速飛行を経て、『ブラックバス』は通常空間に降下する。

「IFF。コンタクト。

 大日本帝国海軍艦艇、二号海防艦……『雛菊』と確認」

「……アメリカ艦艇じゃないのね……

 アメリカの侵攻に気づいて見に来たのかしらね……

 航海! ここはエッグ領?」

「いえ。三億キロ程度外です」

「わかったわ。イエロー解除。

 ソナーはパッシブで。

 方位〇九〇-〇九〇-二〇〇。推力八分の一」

 レクシーの命令で、『ブラックバス』が五五〇メートルにも達する巨体を加速させる。

「通信! 『雛菊』にWAYを」

「WAY送信。アイ」

 復唱が上がる。

 WAYとは、宇宙艦同士のあいさつの定型文である。

「ブリッジから、天文。

 ドラゴンマスター。魔法探知はいかがですか?」

「残念ながら……なしね。

 レクシー。船を聖域へ戻しなさい」

「アイ。ドラゴンマスター」

 レクシーが通信にそう答えた時、ソナー席から声が上がった。

「艦長! もう一つ超光速飛行の痕跡を探知しました……ただ、ノイズが多いようです」

「ノイズ?」

 レクシーは聞き返した。

 E5300から採用されている複合センサマストの性能は、すばらしいの一言に尽きる。

 近距離での超光速飛行の痕跡が、ノイズまみれなど考えられない。

 可能性があるとすると……

「……センサの不調でないなら、アークディメンジョンでの事故ね。

 調べましょう。

 もう一度、超光速飛行に入ります」


 『ブラックバス』は再び、聖域内部の第四惑星と第五惑星の中間に降下した。

「艦長! ドラゴンマスター! 前方約三〇〇万キロに艦艇と思われる物体を検出しました」

「よろしい。艦艇と思われる物体をアルファ目標に設定。

 航海長。アルファ目標に航路設定。

 脱出ポッドがあるかもしれないから気を付けて」

 と、レクシーは言ったが、宇宙の広さに対して脱出ポッドというのはあまりにも小さい、見つけるのは困難だろう。

 故にドラゴンマスター自らが同行しているわけだが。

「……! 大変です艦長! 聖域内部方向に時空振先進波を探知! 数一。

 アメリカ艦艇の可能性大と出ています!」

「戦闘配備!」

 その報告にレクシーは即座に戦闘態勢を指示した。

 アメリカ艦艇なら、完全な敵艦である。

「ブリッジから、天文。

 ドラゴンマスター! 敵艦がこちらに向かっている可能性があります。

 捜索の障害になる恐れがある為、撃沈します。許可を」

「許可します。味方に通信される前に、確実に沈める事」

「アイ。喜んで。

 ……本艦は、降下してくるアメリカ艦艇に対して先制攻撃を行います。

 降下してくる船をベータ目標に設定」

 アメリカ艦と断言しているが、現状聖域にはエッグの艦艇はE5312しかいないはずなので、この船はアメリカ艦と断定しても問題はない。

 まして、ここはエッグの領海である。他国の戦闘艦が居れば問答無用に撃沈しても問題はない。

「戦闘配備! アイ」

 ブリッジのあちこちで復唱が上がる。

「ジャムスター投射準備、数四。ベータ目標降下予想地点周辺にばら撒いて」

「ジャムスター四。アイ」

「ベータ目標、出現予定地点精密計測……完了」

「弾道設定アイ。投射!」

 ジャムスターとは、全波長の通信妨害用艦載衛星である。

 この場合は、アメリカ艦の通信を妨害する意図での投射だ。

「進路、三三〇-〇九五-〇。戦闘速度」

「左回頭三三〇、アイ」

「下げ舵〇〇五、アイ」

「進路変更完了……

 コンデンサ直列。一番ヌルオードライブ推力八〇%から六〇%へ。

 6番ヌルオードライブ推力六〇%、コンタクト」

 グン。といううなり音と共に、主機のホーリーオーダーI型ヌルオードライブが『ブラックバス』の巨体を加速させる。

 驚くべきことに『ブラックバス』には、地球の艦船のような反動推進器は搭載されていない。

 空間傾斜を利用して船を進めるヌルオードライブによって、この船は駆動されているのである。

「魚雷で沈めます。艦首魚雷戦用意!

 ……艦首魚雷発射管一番から六番。通常魚雷装填」

「艦首魚雷発射管、一番から六番、通常魚雷。アイ」

「ソナーからブリッジ。まもなくベータ目標、通常空間に降下してきます」

「艦種の特定、降下予想地点の算出急いで」

 レクシーはブリッジの正面ディスプレイを見た。

 星空が歪む。

 超光速飛行から船が降下してくる前兆である。

「……艦種、アメリカ駆逐艦『ファラガット』級。数一。

 降下予想地点、〇〇〇-〇九二!」

「ブリッジから魚雷発射室! 照準修正〇〇〇-〇九二」

「魚雷発射室から、ブリッジ。

 修正完了。発射準備よし」

「放て!」

 レクシーの号令で、六発の魚雷が『ファラガット』の降下予定位置に向かって放たれる。

 直後、閃光を伴い星空をバックに長細い艦影が出現した。

 ……若干遅かったわね。

 敵艦船の出現と同時に、魚雷が直撃するのが理想だったわけだが、そんなにうまくいくとはまれである。

 画面の向こうで、『ファラガット』が大慌てで推進器を吹かしながら、回頭を始めたのが見えた。

 超光速飛行を抜けたら、いきなり通信妨害の真っただ中で、しかも雷撃を受けたのだ。向うの艦長もなかなかの腕だ。

 しかし、駆逐艦一隻で『ブラックバス』を相手にするのは、不可能である。

 ましてE5300シリーズは最新鋭艦、彼我の戦力比は二〇倍では収まらない。

「ベータ目標、ミサイルを発射、数二〇」

 報告が上がる。

 魚雷の処理をする間の時間稼ぎだろうと、レクシーは考えた。

「射程に入り次第、主砲、スタンダードミサイルで敵性ミサイルを迎撃。

 自走対空ファランクス、自走アクティブレーザー発射準備」

「……全VMCにスタンダードミサイルを装填」

 VMCとは、垂直ミサイル発射管である。ただし、地球の艦船が採用する弾薬庫を兼ねるタイプとは異なり、艦内の弾薬庫からミサイルを揚弾して、装填する形式を採用している。言うなれば、垂直に付いている魚雷発射管だ。

 E5300シリーズの『ブラックバス』級は、このVMCを十二連装一基搭載している。

 つまり斉射一回で二〇発のミサイルは迎撃できない。

 しかし、この十二発で可能な限りミサイルの数を減らし、近接防空火力で残りを迎撃する。

 『ブラックバス』の背びれの後ろで、装甲が持ち上がった後に横にずれて二x六のキャニスターアレイが露出する。

 さらにその中にあるキャニスターのハッチも跳ね上がる。

「放て!」

 レクシーの号令で、VMCから次々にミサイルが舞い上がっていく。

「陽電子砲、接近中のミサイル群を照準。射程に入り次第射撃開始」

 『ブラックバス』級は陽電子砲を主砲として採用している。これは背びれの前に連装一基を装備されている。

 『ブラックバス』はその巨体にふさわしい、大出力の主機を持っているため、主砲の威力もきわめて強力である。

 ちょうど主砲が回頭し、飛来するミサイル群を指向したとき、宇宙に無数の花火が瞬いた。

 先ほど放たれた迎撃用のスタンダードミサイルが、敵艦から放たれたミサイルと接触したのだ。

「……ミサイル、エンゲージ。

 撃墜十一。敵ミサイル残数九、本艦に向け接近。着弾まで六〇秒」

「主砲発射準備完了。順次発射!」

「魚雷、まもなくベータ目標に到達します。

 ベータ目標、回避機動を開始」

 次々と報告が上がってくる。

 敵のミサイルは接近中だが、『ブラックバス』にそんなものは効かない。

 主砲がさらに三発のミサイルを叩き落す。

「自走対空ビームファランクス、自走アクティブレーザー射撃開始!」

 『ブラックバス』艦体表面には軌道が縦横無尽に走っている。これは、荷物の運搬やメンテナンス用の車両を走らせるためのものだが、無論これらは戦闘中に使用されることはない。

 しかし、使わないのももったいないという発想で、この軌道上に対空砲を乗せた車両を走らせているのである。

 これにより『ブラックバス』の表面を走り回っている対空砲銃座は、理論上全天を死角なくカバーできる。

 そして、走り回っている車両の数は、ファランクス砲、アクティブレーザー砲合わせて二五〇両以上。

 これらの車両が、飛来するミサイルを狙える位置にコンピュータによって配置され、一斉に弾幕を形成する。

 対空ビームファランクスの緑色の光線と、アクティブレーザーの赤い光線がミサイル群に降り注ぐ。

 あっと言う間に、残りのミサイルも花火になって宇宙を彩る。

 ほぼ、同時に遥か彼方にそれよりもはるかに巨大な花火が上がった。

 『ファラガット』が迎撃に失敗した魚雷の一発が、命中した瞬間であった。

 艦尾付近に命中した魚雷により、『ファラガット』は船体後部四分の一ほどを失い、直後に艦尾VLSが誘爆。一瞬で船体が真っ二つに折れて轟沈。直後に大爆発を起こした。

「……ベータ目標撃沈を確認。

 敵性戦力の消失を確認。

 ……艦長!」

「戦闘終了を宣言します。

 ……全艦へ通達、本艦はこれより遭難者探索フェイズに移行します。進路をアルファ目標へ」


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