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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
千年紀の黄昏

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千年紀の黄昏10

◇◆◇◆◇◆◇


「あなたのお姉さん。あれは……すごいわね」

 エッグ行きの『グラミーS』の中で、シュガードールはニクシーに対して言った。

「……すごい、ですか?」

 ニクシーはその意図がよくわからなかった。

 あるいは、艦隊司令官同士でだけ分かり合える、何かがあるのだろうか?

「ええ。才能あふれる司令官が、実戦の中で力を磨いた。そういった類のすごさがあるわ」

「……実戦……」

 その言葉を小さくニクシーは繰り返す。

 ニクシーとて、少ないながら実戦経験はある。

 しかし、聖域海戦は負ける要素のまったくない奇襲作戦だった。先の第二次聖域侵攻に対しては、戦果らしい戦果を上げないうちにレクシーに手柄を攫われた。

 A5126が聖域に出現してから、アメリカ軍を圧倒するのにかかった時間は一時間未満。一方で、数日間聖域で戦った第三艦隊は、敵に戦略的なダメージを与えるどころかG2012を傷つけられた。

 これは、実質的な敗北とニクシーは考えて居る。

 さらに言うとレクシーは気にも留めていない。これはレクシーがニクシーを、一切戦力として計上していない事である。

 組織的にニクシーはレクシーの配下に居るわけではないので、仕方のない事なのはわかっているが、何も言ってこないのは二重に腹が立つという物だ。

「……ところでニクシー。アイオブザワールドは『サーモン』級って持っているのかしら?」

「ありませんが……」

 思わずニクシーは本当の事を答えてしまった。

 これは機密保持の観点から、結構マズい。

「オフレコにしておくから心配しないで。

 ……それはそうと、やっぱりないのね」

 やっぱり。と言っているところからすると、シュガードールはない事がわかっていたらしい。

 もっとも、『サーモン』級の後継にあたる高速輸送艦『アカンソステガ』級は、レクシーやルビィの意向を受けて調達する方針のようだが。

「『サーモン』級をどうしようと言うのですか?」

「いえね。わたしの艦隊にも『サーモン』級、欲しいと思ってね」

 とんでもないない事を、さらっとシュガードールは言った。

「シュガー姉さん」

 それをグレゴールがたしなめる。

「あら? グレゴール。ここのドラゴン達は、流民船団の至宝である『Z3』を隅々まで調べたのよ?

 輸送艦くらい手に入れないとフェアじゃないと思わない?」

 どうやらシュガードールは本当に高速輸送艦が欲しいらしい。

「そういうわけでニクシー。どこなら持っているのかしら?」

「……騎士団の設営部隊が持っていますが……」

 これも教えるべきかニクシーは迷ったが、こちらの情報は調べればすぐにわかる事なので、公開することにした。

 持っていない事を確認するのは難しいが、持っている事を調べるのは簡単なのだ。

 ちなみに、騎士団は設営部隊の中に輸送隊が組み込まれている。『サーモン』級はこの輸送隊が運用しているのだ。

「そう。ありがとう。

 我が流民船団の外交官に伝えましょう」

 手帳に何事かをメモしながら、シュガードールは言う。

 その姿を見ながら、ニクシーはずっと考えて居たある考えを口にしようと思った。

「……あの……シュガードール司令。実は、お願いがあります」


◇◆◇◆◇◆◇


 実質的なレクシーの家は、アイオブザワールド総旗艦A5126の長官の私室である。

 これはA5126がドッグ入りしている今でも変わらない。

 長官の私室を含む上級士官の居住スペースはブリッジ後方にあり、ほかの乗組員は入れない区画になっている。

 この士官用居住スペースには、秘密の会議室も設置されているので、聞かれると困るような会話をするにはもってこいだ。

「こちらです。ドラゴンマスター」

 レクシーに招かれてアベルは会議室に入る。

 木目のパネルに乳白色の間接照明、アクリル製の大きな会議テーブルも高級感がある。

「……こんな部屋があったとは……」

 その高級感にアベルは半歩引いた。

 ……少ない予算がこんなところに……

「この部屋はロイ・アンド・ロジャーがサービスで作ってくれたので、お金はかかってませんよ」

 そんなアベルの心を読んだのか、レクシーが言う。

 確かに言われてみれば、『ユーステノプテロン』自体の値段に比べれば、会議室の高級家具など誤差みたいな物だろう。

 なにしろロイ・アンド・ロジャー社は、A5100型とA5200型の『ユーステノプテロン』を受注しているのだ。

「……そうか」

 アベルはそういって椅子に腰かける。

 この椅子も、革張りの高級品である。

「いい椅子だあ……まあ、それはそうとして、秘密の会議を始めようか」

 ドックで改装中の艦にアベルが乗り込んできたのは、これが目的だ。

「はい。まず流民船団の目的ですが、これは地球への侵攻で決まりのようです」

 ルビィがホロブックのキーボードを叩きながら言う。

「ふん」

 とアベルは鼻を鳴らした。

「……やっぱりな」

「やっぱり、という事は予想していたんですか?」

 レクシーも席に着きながら言った。

「……予想、って程でもないけどな。

 覚えてるか? ローズベルトが聖域に侵攻した理由」

「確か、エッグが地球を侵略するとかいう与太話だったかと……

 ……ドラゴンマスターは、この話が実は流民船団を誤認したものだと?」

 怪訝そうな顔でレクシーは言う。

 まあ当然だろう。

 アベルは、アメリカは不完全にせよ未来を予知したと言っているのだ。それこそ与太話と思われても仕方のない話だ。

「……ドラゴンマスター」

 キーボードを叩くのをピタリとやめて、ルビィが顔を上げた。

「わたしたちに……何か隠してませんか?」

 ……うっ。

 妙に鋭い事をルビィは言う。

「別に隠してるわけじゃないけどよ……」

「王様が隠し事をしている分には、わたしは構わないですが……」

 いつもの調子でレクシーが言う。

「参謀部としては、中長期の戦略に関わる情報なら教えて頂かないと、後々不都合が生じる可能性があります。

 是非開示を」

 ……まあ、仕方ないか……

「……そうだな、まず原理は不明だが未来予知的なものが実在すると仮定する」

「はい……?」

 胡散臭い訪問販売員でも見るような目で、ルビィが言った。

「アメリカ人は、その未来予知ができる機械をずっと昔に手に入れた」

「そんな! そんなバカな話がありますか!?」

 極めて常識的な反応をルビィは示した。

「王様にバカとか言っちゃダメよ。主席参謀。

 時代が時代なら、首が飛んじゃうわ」

「そんな王様いりません」

「仮定だ、つってるだろ?」

 変な方向に話が進みそうなので、アベルは話を引き戻す。

「……なるほど。確かに仮定を否定すれば、話が先に進みませんね……

 しかし、もしドラゴンマスターが言うように未来予知とやらが可能なら……そうですね、例えば聖域海戦の枝作戦などは失敗したのでは?」

 ルビィの言う事はもっともである。

 基本的に数で押しつぶした本作戦とは異なり、枝作戦の方の本質は大統領奇襲だった。もし、アメリカ人が襲撃を予知して逃げ出していれば作戦は失敗していたはずだ。

「制約があるんだとオレは思ってる」

「制約……ですか?」

「ルビィならわかると思うけど、未来を予見するために集積する必要のある情報量は膨大だ。しかし、情報を集積するのには限界がある」

「ベッケンシュタイン限界って奴ですか?」

 半眼になりながらルビィは言う。

 ベッケンシュタイン限界というのは、ある体積に蓄積できる情報量には限界があるという理論である。

 アベルが大学院で習ったことを、碌に学校にも行っていないはずのルビィが知っているのは、驚愕に値する。

 やはりルビィは不出世の天才なのだろう。

 ……ドラゴンプリーストにしたのは大正解、ってこった。

「詳しいな。さすが。

 おそらく、距離的な遠さ、時間的な遠さ、空間的な広さの積がベッケンシュタイン限界を超えると、機能しなくなるんだろうな。

 だから、ずっと昔になされた予言は、今の時代にドラゴンが攻めてくる。ってことだけしか、わからなかったって事なんじゃないかとオレは考えてる」

「にわかには信じがたいですが」

 レクシーが言う。

「しかし、確かに侵略するドラゴンは現れたわけで……」

 どちらかと言うと独り言を言いながら、レクシーはうつむいた。

「……ん? じゃあエッグはとばっちりを受けた、という事ですか?」

 思考の途中で、別の事実に気づいたらしいレクシーが顔を上げた。

「とばっちりを受けたのはセンチュリアの人々だな。

 エッグは少なくとも自衛するだけの戦力を持ってるが、センチュリアは知っての通りだったからな」

 とはいう物の、センチュリアはエッグ領なので、とばっちりはとばっちりである。

「……まあ、話の信ぴょう性はともかく、ドラゴンマスターの考えはわかりました」

 どうであれ、ルビィはこれで納得したらしい。

「空想科学的な話は置いておくとして、わたしは実務レベルでの話が気になります」

 こちらはレクシー。

 アイオブザワールドの艦隊の司令官としては当然の考えだろう。

「流民船団が地球と戦争始めたとして、エッグはどうするんですか?」

「それについては、国の方針だからな。決めるのはマザーだろう。

 オレは局外中立以外ないと思ってるけど」

 現在エッグはイギリス、ドイツ、大日本帝国と同盟関係にある。この条約には共闘条項はないが、困っていれば助け合いましょう。的な考えが根底にあるのは否定できない。

 しかし、エッグとしてはドラゴン同士で戦うなどありえないのに加え、エッグを侵攻したアメリカとは戦争状態にある。

 つまり地球側の戦力の中に、敵と味方が混在している状態になるため、単純に同盟三国だけを助けるという事はできないのだ。

 落としどころは、局外の中立国となる事以外にはありえない。

 これがアベルの考えである。

「中立を保っているなら、流民船団と地球人が戦争している間に、こちらは戦力の拡充に集中できますね」

「そうなるな」

 レクシー直轄の第一第二艦隊には、間もなくA2200型『パンデリクティス』級が配備される。

 流民船団と地球人のいざこざは、レクシーにとっては願ってもない訓練期間だろうし、A2200の後には第五艦隊用にA4200型『パンデリクティス』級が、続いて新編成される第六艦隊用にA7100型『イクチオステガ』級が次々と就役してくる予定になっている。

 現状、時間をかければかけるだけレクシー艦隊は強化されていくのだ。


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