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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
千年紀の黄昏

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千年紀の黄昏5

「……で、オレになんの用だ?」

 ぶっきらぼうにラーズは言い放った。

「そう。いうなれば情報交換。これでどうだろう?」

「つまり、オレの欲しい情報をくれると?」

 老人は意外な申し出をした。

 だが、その申し出には矛盾があるとラーズは考える。

「……天下のロスチャイルドが、オレから得られる情報なんか無いと思うけどな」

 その場合、ラーズがロスチャイルドから得る情報は、彼らにとって都合のいい物という事になる。

 これは結果的に、ロスチャイルドの思惑通りにラーズやその関係者が動く事になりかねない。何しろラーズの発言は、アベルを経由してエッグの政府を動かしてしまう可能性まであるのだ。

「なに、君が地球の事を知りたいなら、君の知っているセンチュリアの事を話すのは、取引として正当だと思わないかね?」

 要するにロスチャイルドのネットワークも、センチュリアには及ばないという事だろう。

「確かに、取引としては正当だと思う。でも、ロックフェラー……というかレイルから情報は得られるだろ。あいつオレより高学歴だぜ?」

 そう言ってから、ロスチャイルドはすでにレイルから情報を得ようとしたが、果たせなかったのではないかとラーズは思った。

 そうなると、ロスチャイルドの知りたい情報はレイルが知らないか、隠したい事に関する物という事になる。

 ……そんなモンあるか?

 率直な疑問がラーズの脳裏をよぎった。

「かつてセンチュリアに魔法の王国があったころの遺跡。君の知っている物はどれくらいある?」

 キングダムは数百年にわたって、センチュリアの大半を支配した文明である。

 その遺跡の数など想像もつかない。

「知ってる遺跡となると……有名どころではグレートルーンの三日月入り江と王の墓、ファーラリアの嘆きの壁とサウスポイント異端礼拝堂、メール山脈のダンジョン、オーゼンティア砂漠のストーンサークル……ぱっと名前が出てくるのはそれくらいか……

 と言っても、地図も写真もないから名前聞いても仕方ないと思うけどな」

 ラーズが今あげたのは、教科書にも載っているような超有名どころの遺跡である。

 一部は観光地化されていたりもするし、サウスポイント異端礼拝堂はラーズも行ったことがあった。

「……ふむ。やはり出てくる名前は同じようなものか……

 プロテクトウッドの名前が出なかったが、プロテクトウッドに遺跡は?」

 プロテクトというのは、エルフの長老院のある広大な森である。

 確かにここなら、レイルが知らなくてラーズが知っている遺跡がある可能性がありそうだ。

 実際、レイルがラーズなら知っているかも知れない。という話をしたのかも知れない。

「残念ながら、少なくともオレの知っている限り、遺跡は存在しない。

 森への侵入を妨げるアーティファクトならあるけど、それは長老院の施設内に設置されてるしな」

「長老院とやらが隠ぺいしている可能性は?」

 今回はやけに老人が食い下がる。

「長老院が本気で情報を隠蔽してたら、末端がどんなに頑張っても、あの広大な森の中から遺跡なんか見つけられない」

 プロテクトウッドは大体半径五〇〇キロ。四国より広いし、そもそも自由に散策できる場所でもない。つまり、最初からあることを知っていない限り、見つける事は出来ないのだ。

「ついでに言うと、長老院に隠すメリットがあるとも思えないし、センチュリアにだって人工衛星くらいある。

 遺跡っぽいものがあるなら、陰謀論めいた話の一つくらいは出てくるだろ」

 ラーズの言葉を聞いて、ロスチャイルドの老人は渋い顔をした。

 ロスチャイルドといえばヨーロッパにおける陰謀論の主役である。気持ちはわかる。

「……そうか……例えば、君なら我々のエージェントを、その長老院に紹介することは可能かね?」

「そりゃ無理」

 ラーズは即答した。

「あそこはエッグの領海で……いや、もう大使館なり外交ルート経由でアプローチはしたんだろ?

 長老院云々以前の問題として、センチュリアに入れないって」

 特にアベルは、地球人を胡散臭がっているのが気配でわかるレベルなので、絶対にオッケイなど出さないだろう。

「あと、オレは敵前逃亡してるしな」

 敵前逃亡が罪になるかどうかはともかく、自分だけ安全圏に逃げたのは事実なので、長老院が怒っていなくても現場レベルでは相当怒っているだろう。

「やはり難しいか……」

 老人は少しうつむいた。

 この老人が長老院に接触して、何をしようとしていたかは知らないが、そもそもセンチュリアの民は地球人に対して不信感を持っているのは間違いないだろう。

 復興に尽力している大日本帝国の人間ならともかく、それ以外の人間が相手では交渉のテーブルを用意する事すら困難だ。

「……わかった。

 では、君の欲しい情報を与えよう……イスリー」

「はっ」

 老人に呼ばれ司書のイスリーが一冊の雑誌をラーズに手渡す。

「これは?」

 渡されたのは、二四六六年一月発行の雑誌だった。今から五三〇年程前の物だ。

「それはレプリカなので、多少乱暴に扱っても問題ありません」

「レプリカ?」

 レプリカがあるという事は、何か記念的な号だという事だとラーズは理解した。

「……今から約五〇〇年前。イングランドの冒険家であるサー・ジェームズ・シルバーレイクという男が居た」

 老人は語り始めた。

 そして、最初から驚愕の名前が出た。

「シルバーレイク!?」

 サーというからには、英国貴族だという事はわかるが、問題なのはその苗字。

 ……まさか、レイルの野郎の先祖か……

 ラーズにとって、こういった想像は難くない。

 よくよく考えてみれば、レイル自身が知っているかはともかく、シルバーレイクという名がロックフェラーの目に留まった可能性は十分考えられる。

 しかし、今は情報を一通り聞き出すのが大切だ。

「……失礼、続きを頼む」

 こちらの表情を楽しむような表情を一瞬見せた後、老人は話を続ける。

「……彼は、開発されたばかりの超光速機関を使って、冒険航海をする計画を立て、時の女王から航海証を手に入れた」

「航海証?」

「英国王室が認めた冒険家だという事を証明する文書だ。これを持っている事で、冒険家の発見した土地は大英帝国の物となる」

「……ああ。新大陸発見的なヤツか。理解した」

 地球の歴史を見ていく上で、頻繁に領土問題を起こしているヤツである。

 ……胸糞だな。

 要するに、この国はセンチュリアにも地球で起こっている領土問題を持ち込もうとしたのだ。結果的にセンチュリアはエッグ領になったわけだが、まあ気分のいいものではない。

 ちなみにエッグは、センチュリアを聖域として干渉を禁じた。禁じたバックで、どんな政治的な力学が発生したのかはわからないが、少なくとも見た目上の領土問題はない。

「そして、我がロスチャイルドの資本で、外宇宙探査船を用意した」

「おお」

 よくよく考えてみると、一七〇〇光年彼方を目指すなら相応の資本が必要なのは当然の帰結である。

 冒険家が英国人なら、その資本がロスチャイルドから出ている可能性は高いではないか。

 これはラーズの情報収集順序に問題があったという事であるが、そもそもラーズに宇宙船の建造コストを測るというのは無理な相談でもある。前提になる知識がないのだ。

「さぞ、大々的な出航式をやったんだろうな」

 くす玉を割って、ハトが飛ぶ。そんなシーンを勝手にイメージしながらラーズは言った。

 英国でも、くす玉割ったりするのかどうかは知らないが。

「残念ながら、そうではない。

 大体、世界初の有人ディープスペースミッションが大々的に行われていれば、英国どころか世界中の……それこそ大日本帝国にも記録ぐらい残る」

 ディープスペースとは、要するに宇宙の未知領域の事である。老人の言う事はもっともな話だとラーズは思った。

「じゃあ、大々的ではなかったと?」

「当時の超光速機関は性能が低かった……ディープスペースに到達するには、コールドスリープ併用が必要だった。

 コールドスリープ装置は……今でもそうだが、信頼性が低く、その低い信頼性の装置を使う事にバッシングがあったのだ」

「アングロサクソン特有の変なバッシングだな。

 ……まあ、そりゃいいとして、情報が少ない理由はわかった」

 そして、ラーズはある疑問が解決していない事を思い出す。

「……そもそも論の話しをするんだが……そのサー・ジェームズ氏は、センチュリアを目指して出航したのか?」

「と、言うと?」

「当時の……いや今でも……果たして、地球からセンチュリアに文明がある。なんてこと、わかるのかな、って」

 なにしろ、地球とセンチュリアは一七〇〇光年離れているのだ。

 仮に一七〇〇光年彼方の惑星が見える望遠鏡があったとして、見えるのは一七〇〇年前の光景である。

 一七〇〇年前のセンチュリアには文明らしい文明はなかったので、そこに人が住んでいるかどうかなどわかるはずがない。

「記録によれば、特に目的地は決めなかった事になっている」

「それは無茶苦茶じゃね?」

 ラーズは率直な感想を述べた。

 宇宙などすっからかんでほとんど何もない事は、宇宙を旅するものなら感覚値として知っている。

 そこへ、偶然どこかに辿り着くことを期待して出ていくなど、遠回しな自殺と同義である。

「あっ。それでコールドスリープ併用で旅するのに反対運動なのか」

 なるほど、これならバッシングが起きるのも納得である。

「……それはわかったけど、聞いた感じ、税金対策くらいしかロスチャイルドにメリットが無いように感じるんだが……」

 それは率直なラーズの感想である。

「税金対策か……確かにそうだ」

 老人は少し面白そうに答えた。

「しかし、残念ながら当時のロスチャイルドが何を考えて居たのかは、今となってはわからない。なにせ五〇〇年も前の話だ。

 いくらロスチャイルドでも、すべての情報を知っているわけでもない」

「そりゃそうか……」

 答えてラーズは上を見上げた。

 そりゃそうである。

 五〇〇年は、情報が劣化するには十分な時間だろう。

「……じゃあ、そのジェームズ氏は地球に帰ってきたのか? まあ、帰ってきたとは思えないけど」

「その通り。

 実は我々も、サー・ジェームズ・シルバーレイクが冒険航海の末に、聖域に辿り着いたことを知ったのは、最近の事だ」

「……これもまあ、そうだよな」

 何しろ大半の地球人は、件の聖域侵攻まで聖域に光速未満の文明が存在する事を知らなかったのだ。これはラーズが地球に来た直後に確認している。

 もし、冒険家が地球に帰っていれば、もっと広範囲にセンチュリアの事が知られていても、不思議ではないだろう。

 ……つまり、ロスチャイルドはレイルの存在を知って、初めてサー・ジェームズ・シルバーレイクがどうなったか知ったって事か……


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