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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
千年紀の黄昏

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千年紀の黄昏2

 ラーズを乗せた列車は、定刻通り午後一時を少し過ぎたころに、エディンバラに到着した。

 草加が図書館で調べものができるように、根回しをしてくれているはずなので、まずは日本大使館に向かう。

 大使館は、駅から二キロほどの距離にあるらしい。

 ラーズとしては、魔法でひとっ飛びと行きたいところではあるのだが、さすがに真昼間から魔法で空を飛ぶのはどうかと思ったので、観光がてら歩いて行くことにする。

「しっかし、ファンタジーでよくある城下町だよな」

 エディンバラ市街を一言で言い表すと、こうなる。

 重厚な石造りの建物。道路は石畳。まさにファンタジーに出てくる街と言った風情である。

 しかし、スーツケースをゴロゴロと引っ張って移動するには石畳は少々難儀するのも事実だ。まあ、大日本帝国のように裏路地に入れば即未舗装という事がないだけマシではあるのだが。

 平日の昼間だけあって、人通りはそれほど多くはない。観光にはぴったりだ。


「英国在勤帝国大使館附海軍武官、香取久治大佐であります」

 洋館のような外見の大使館でラーズを出迎えたのは、海軍の武官だった。

 歳の頃は四十代半ばと言ったところか。

 それにしても、一介の少尉であるラーズに対して対応が丁寧すぎるのは、草加の権力の賜物なのだろうか?

「海軍航空隊ラーズ・カーマインツゥア少尉であります」

 脇を締めて、海軍式の敬礼をしつつラーズも挨拶する。

 ちなみに敬礼は、階級が下の者からする決まりである。この場合はラーズから敬礼をする。

「遠路はるばるようこそ。草加閣下より話は承っております」

 答礼を返しつつ、やわらかい物腰で香取は言った。

 とりあえず、話は通っている事を確認できたのラーズは胸をなでおろした。

 もし図書館に紹介してもらえなかった場合に備えて、ラーズとしては強行突破まで含めて色々考えていたのだ。

「……まずは、これが大使に作成いただいた図書館の紹介状」

 大日本帝国大使館の封印がされた封筒が差し出される。

「次いで、これがエディンバラ城への紹介状だ」

 これがラーズが草加経由で紹介状を手配してもらった最大の要因である。

 エディンバラの大英帝国図書館は、エディンバラ城の中にあるのだ。

 エディンバラ城自体は観光施設なので、一般人でも出入りできるのだが、図書館となると制約がある。図書館の収蔵物に光や風を当てたくないのは、古今東西共通常識なのだ。

 したがって、図書館で延々と調べものをするために、相応のルートからの紹介状が必要なのである。

 ……これで第一関門はクリアだな。

「香取大佐。どれくらいの期間、文献調査は可能なのでありますか?」

「可能な限りできるように取り計らってある」

 英国は観光目的の場合、六か月間滞在が可能だ。

 ……お金が続く限りは大丈夫って事だな。

 海軍の航空兵というのは、同じ階級のほかの兵科に比べて全体的に軍の給金は高い傾向にあるし、空母の発着艦などにもいちいち手当てが付く。もちろん、敵機の撃墜手当てもある。

 ラーズもそれ相応に貯金はあるという事だ。

 まあ、半年持つかと言われると、怪しいレベルではあるのだが。


 香取に案内されて、ラーズはとりあえず一週間確保した安ホテルに荷物を置いた。

 ヒッチハイカーが使うような安宿はセキュリティに不安があったので、置いておく荷物には魔法のカギをかけておく。

 レイルのような本格的なウィザードロックではないが、基本的に魔法使いが存在しないこの惑星では突破不可能なはずだ。

「それにしても、夕日に城が映える映える」

 重厚な石造りの城が夕日に染まっている様は、中々に絵になると言えるだろう。

 エディンバラ城から出てくる観光客と何度かすれ違う。観光地だけあって、平日でも人通りはそこそこあるようだ。

 観光客用の入り口ゲートの脇を抜けて、ラーズたちはスタッフ用の通用門から城に入った。

 城の表は、まさにスコットランドヤードといった風情の兵士が警備に当たっているのに対して、通用門の中は普段着やスーツ姿のスタッフが目に留まる。

 まあ、こういった事はどこに行っても同じと言う事だ。

「こちらです」

 と司書らしい燕尾服姿の老人が、重々しい木製の扉を示した。

「ひゃーすげー」

 扉の先は、まさにファンタジーに出てくる大図書館の装いだった。

 巨大な図書館スペースは、二階建てになっていて、部屋の真ん中に階段があり、一階部分の半分ほどの面積の二階へ続いているという構造だ。

 案内板によると、この図書館は短辺が七五メートル、長辺が一二五メートルにも達するらしい。

 ちなみに英国はかつては、長さの単位としてヤードを用いていたが、第二次世界大戦でドイツが勝った時にメートル法に改められている。英国の古い建物が、妙に中途半端な大きさなのは、ヤード法を使っていたころの名残だ。

「入口にフクロウでも居れば完璧だったな」

「それはそうと……少々寒いのう」

 と言ったのはお稲荷さんである。

 そう言われてラーズが確かめてみると、外気温は十八度。この時期の英国の気温としては普通の気温だが、ひんやりしているのは間違いない。

 もっとも、ラーズ自身はエアコンジャケットが保護障壁内の温度を適切に保つので、別に寒くない。

「寒いなら、外で待っててもいいぜ? 多分めちゃくちゃ長引くし」

 図書館が広いということは、つまり調査対象の数が多いと言う事である。

 確か文書を高速検索する魔法があるという話を聞いたことがあるが、もちろんラーズにそんな魔法のストックはない。

「それは、なんか嫌じゃ」

 お稲荷さんにそういわれて、ラーズは司書の老人の方を向いた。

 続いて、香取の方へ視線を向けた。

「……まあ、スコットランドヤードは……アレだしな」

 仮に、人が死んだ数を心霊スポット力とでも言うならば、エディンバラは中々に強心霊スポットと言えるだろう。

 大日本帝国で言うなら、関ケ原辺りでキャンプしているような感じか。

 ……別に関ケ原でキャンプしても怖くねえけど。

 ラーズは思った。

「……実際のところ、『出る』んですか? 香取大佐」

 ラーズが司書の老人に聞かなかったのは、外交的配慮であるが、香取がノーと言ってくれれば、以後気にしない事にしようという考えでもあった。

「地下にある牢獄で『見た』という話は、昔からよくあるらしい」

 真顔で香取が答える。

「出るのかー」

 センチュリアで幽霊だの神様だのと言っても、非科学的と笑われるだけだが、この惑星では違う。少なくとも神様は居るし、妖怪も居る。なら幽霊だって居てもおかしくはない。

 所変われば、という奴である。

 出ると言われれば仕方ない。出てきたら、物理的に除霊するまでの話だ。

 大体、生きている人間より怖いものなどこの世にはない。


 ぴらり、と雑誌をめくる音すら、結構響く。

 時刻は二〇時を少し回った。

 観光客への開放時間が終わったエディンバラ城は、とても静かだ。

「……あの、香取大佐……それと司書さん」

「ダニエル・イスリー。イスリーとお呼びください」

 ここまでタイミングがなくて、名前を聞いていなかった司書の老人が名乗った。

「じゃあ、イスリーさん。

 付き合って、残ってもらうのも悪いんで、帰ってもらってもいいんですが……」

「草加閣下より、ずっと付いているように命をうけましたので」

 香取が答える。

 要するに、ラーズのお目付け役と言ったところか。

 別にラーズとしては、積極的に爆破したり燃やしたりするつもりはない。勝手に厄介事がやってくるのが悪いのである。

「わたくしは、図書館に人がいる限り、ここを離れるわけには行きません。

 それに、今回は手当ても付きますので、クリスマスに息子にプレゼントも買ってやれます故」

 ……。

 そういわれてしまうと、仕方ない。

「……そういう事なら、お付き合いお願いします。お稲荷さんは……飽きたら寝てていいから」

 日没後はぐっと気温が下がったため、お稲荷さんには、ラーズが羽織っていたパーカーを渡してある。

 幽霊は暑いときに出るイメージなので、気温的に幽霊が出そうな気配はなかった。

 幽霊が出た場合、どう考えても調べ事は進められないので、出ないに越したことはないだろう。

 ラーズは再び、雑誌のページをめくった。

 ラーズが読んでいる雑誌は、西暦二四五〇年頃の物である。今から五五〇年前と言う事になる。

 今のところ有用な情報はなし。である。

 地球で超光速機関が実用化されたのが二一世紀の終わり頃。一方でセンチュリアに宇宙人が来たタイミングは、文献にメートル法が現れる四〇〇年から五〇〇年前の間辺り。

 当時はコールドスリープ併用で航海を行っていたことが、雑誌などの記述から読み取れるので、五〇年かそこらは航海にかかってるだろうと予測しての五五〇年前である。

「……しっかし、全然それっぽい話、ねえな」

 頭を掻きながらラーズはつぶやいた。

 しかし、地球における当時の世界情勢については、否応なく目に飛び込んでくる。

 曰く、ソ連がアイスランドへ侵攻した。

 曰く、南米が共産化された。

 曰く、ポーランドがドイツ駐留軍を追い出す法案を通した。

 どれもこれも、侵略や戦争の話である。

 わかってはいたが、この惑星では戦争や紛争は日常茶飯事なのだ。

「気が滅入るぜ」

 そんな戦争大好き民族に攻められたらセンチュリアなど、ひとたまりもないのは必然と言えるだろう。

 当人たちは、いつもの延長線上でセンチュリアを侵略しようとしたのだろうが、非常に胸糞が悪い。

「……それにしてもなあ……」

 大きく伸びをして、ラーズは天井を見上げた。

 調査は始まったばかりだが、前途は多難だ。

 その大きな原因は、なんといってもこのセンチュリアに辿り着いた冒険家が、地球に帰還していないという事だ。

 実際に、多くの地球人は聖域に文明がある事を知らなかった事は、ラーズ自身が確認している。

 少なくとも、一般に対してセンチュリアの存在は秘匿されていたことになる。ラーズが一般的なメディアを調べる以上、センチュリアに向かっていつ出発したかもわからない冒険家を、ピンポイントで数百年の幅の中から探さないといけない。

 これはとんでもない労力である。

 しかも、調査は始まったばかりだ。


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