魔法使いの本分18
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「……ラーズ君! 無事だったか!?」
定時直前に開発室に駆け込んできたラーズに向かって都築は言った。
「無事の定義によりますが……
……虹色回路も、ほらこの通り!」
おお。という感嘆の声がエンジニア達から上がる。
「……解像度問題の解決方法、わかったかも知れないんで、早速試したいんですが」
「おお。それも朗報だ。早速やってみよう」
ラーズを伴って、都築は大テーブルへ移動。
ベース基盤に、ラーズがコガメ基盤を接続する。
「……なにか、必要な物は?」
解像度問題の解決の為に、なんらかの変更をハードかソフトに入れる必要があるのか? と都築は言っているのだが。
ラーズは首を振った。
「いえ。原因は単純です。
なんで気づかなかったのか、恥ずかしいくらいです」
そういうと、ラーズはベース基盤に手をかけ持ち上げた。
「……データの取得を、お願いします」
「ああ……それはいいが一体……?」
ワケがわからない。と言った風情の都築が言う。
「単純な事です……すぐにわかります。
行きます!」
そういって、ラーズは魔法を展開した。
都築の目の前にあるホロディスプレイに、今までに見たことが無いような鮮明な画像が浮かび上がった。
「!?」
うをををを、というような歓声が周囲のエンジニア達から上がる。
「……センチュリアのVMEは左腕に固定して使います。
しかし、東通工製のこの基盤は魔法使いに対して固定されていません。
これじゃブレるのは当然」
「……そんな単純な……」
「単純故、見落としてました。
まったく恥ずかしい限りです」
ラーズは下を向いて、頭をかいた。
「いやいやいや。これはスゴイぞ。
早速、ハードウェアの設計からやり直そう。
制御ソフトも開発しないと……
……よし、まずミーティングしてチームを再編成しよう。
忙しくなるぞ」
都築は心底嬉しそうにまくしたてた。
これを境に、それまで滞っていた開発が一気に動き出した。
年内に実験用の基盤が再設計され、その性能は有意な向上を果たした。
明けて二九九八年、春を待たずに最初の帝国製のVMEのプロトタイプが完成した。
このデバイスは、当初の予定通りマジックシンセサイザーと名付けられた。
マジックシンセサイザーは、直径5センチ、厚さ1センチほどの腕時計状のデバイスであり、虹色回路PSM-1と制御用にスーパー日立シリーズの車載グレードのMPU、ユーザーインタフェースとして早川電機製モバイルホロデッキを備える。
センチュリア製のVMEの、一万倍の処理能力、二四万倍のメモリ、一兆倍以上の電力効率も持つモンスターの誕生である。
OSはiTronを採用、対応する制御ソフトは開発中であるが、ベンチマークレベルではすでにAiX2400を遥かに超える性能をたたき出している。
◇◆◇◆◇◆◇
こんこん。と執務室の扉がノックされた。
「入りなさい」
と永井が言うと、すぐに扉が開き、現れたのは草加だった。
「……珍しいね。確かトリトンに居たと思ったんだが……」
「はい。閣下に内々の話があり、戻ってまいりました」
「ほう。どれ、この爺でよいならば、聞こう」
永井は真っ白な髭をなでながら答えた。
「……ラーズ君から、こんな手紙が来まして……」
草加が差し出した手紙を受け取り、永井はその文面に視線を落とす。
わざわざ紙に書かれた手紙である。
「……なるほど、魔法の次はこれか。
彼もいろいろ考えているようだ」
「いかがいたしましょうか?」
草加はそう言うが、わざわざ内地まで戻ってきているという事は、既になにか考えがあるのは明白である。
「いかが、か。
君の考えている事を、言ってみなさい」
「……はは。見抜かれていますか。
では……
海軍の新規部隊編成計画に沿って、現在坂井大尉が部隊のメンバー集めをしています。
彼に預けてみようと考えています」
「ほう。『サムライ』坂井か。それは面白い」
「それでは、よろしいので?」
「ラーズ君は我々に魔法を教えてくれたからな。今度は、好きにさせてみようではないか。
九重総理には私が話を通しておこう」
「はっ。ありがとうございます」
草加は敬礼した。




