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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
流民船団

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315/607

流民船団14

◇◆◇◆◇◆◇


「サニタリオン、センチュリアの影に入ります」

 青い月サニタリオンが、センチュリアの夜の部分の向こうへ消えていく。

 艦隊はA2119を先頭に、A2125、G2012、A2120、A2121の順に並んだ単縦陣で、センチュリアの赤道上約八〇万キロを東に向かって進んでいる。

「……アメリカ人は、来るかしら?」

 レクシーと大日本帝国の軍隊にボコボコにされたのに、まだセンチュリアに向かってくるアメリカ人の神経が、エレーナには理解できなかった。

「来ますよ。センチュリアを狙っているなら、必ず」

 ニクシーは前を睨んだまま、そう答えた。

 前方左に見えるセンチュリアの影から、赤い月レッドラーが昇ってくる。

 センチュリアの神話や民話において、この赤い月は常に災いの象徴とされてきた。伝説では、レッドラーには悪魔が住む国があり、そこはこの世の地獄であると語られている。

 実際のレッドラーは酸化鉄を主成分とする衛星で、大気はない。悪魔など住めない不毛の地である。

 レッドラーはセンチュリアから大体九〇万キロの距離を回っているので、艦隊はその内側を通過する事になる。

 ……奇妙な感覚。

 エレーナがセンチュリアに住んでいたころ、レッドラーを見上げる事はあっても、その近くに行くことなど想像したこともなかった。

 しかし、今エレーナはドラゴン達の作り上げた最新鋭の宇宙艦に乗って、レッドラーの至近距離を通過しようとしている。

 距離十万キロは、宇宙の距離感では至近距離である。

 地上からは、小指の先程の大きさとしか見えないレッドラーの赤い地表が迫ってくる。

 その時である。

「……緊急! 至近距離に正体不明の航空機を探知!」

 レーダー士官が大声で叫ぶ。

「なんですって!?」

「不明機、数おおよそ一〇〇。レッドラーの陰から出現しました! 距離一二万キロ。接近中!」

 一二万キロは近い。

「ニクシー!」

 エレーナも負けずに叫んだ。

「アイ。ドラゴンナイト。

 艦隊、対空戦闘用意。各艦個別照準で対空攻撃開始。

 G2012を逃がして」

 G2012は艦隊の目であり、耳である。

 航空機の攻撃にさらすわけには行かない。向かってくる航空機が味方である可能性は限りなく低いので、友軍識別している時間も惜しい。

「G2012は個艦防空に徹しつつ、離脱せよ。センチュリアの大気を盾にしてもいいわ」

 いくらコンポジット=ヌルオードライブを搭載していないといっても、G型『ブラックバス』の推進器はE型のそれに準じる。

 艦体が大きくなった分、機動性が落ちているが大気圏上層部で自重を支えるくらいの芸当は余裕である。

「……飛来中の目標、識別完了。『ヘルキャット』二六、『アベンジャー』六六」

「『ミクソゾア』第一斉射、ヨーイ……」

 ニクシーが左手を上げる。彼我の距離は十万キロを切ろうとしている。

「放て!」

 彼我の距離十万キロは、ミサイルによる迎撃ができるギリギリの距離である。これ以上近づくと、ミサイルの加速時間が足りなくなる。

 迷っている時間はない。撃てるうちに撃てるだけ撃つのが上策だ。

 実際にニクシーもそのつもりのようだ。

 『ミクソゾア』をばらまくなり、次の命令を下す。

「主砲、右砲撃戦、用意!」

「右砲撃戦、アイ! 主砲低収束、速射モード!」

 『パンデリクティス』の四〇〇ミリ主砲は、発射時の磁界圧縮に使うパワーを落とすことで、広範囲に向かって陽電子を投射できる。射程距離は落ちるが、それでも二〇万キロは余裕で届くので今回は問題ない。

「……『ミクソゾア』、敵編隊に接近!」

 その時、敵前衛の『ヘルキャット』の翼の下から白い帯が伸びた。

 おそらく翼の下に吊っていたミサイルを放ったのだ。

 探知された『ヘルキャット』は二六機。こちらの『ミクソゾア』第一斉射は九六発。一機が四発撃てば全弾迎撃される計算である。

 『ミクソゾア』は、ミサイルと敵の航空機の区別はできない。

 ぱぱぱっと、レッドラーを背景に閃光が走る。

「当たったと思う?」

「思いません。全弾迎撃されたと考えます」

 エレーナの問いに、ニクシーは戦術ディスプレイを睨みながら答える。

「……主砲発射準備、アイ! いつでもどうぞ!」

「全門斉射、放て!」

 ドドン! と主砲発射音が『パンデリクティス』の構造を伝わって艦橋にも届いた。

「以後、主砲再装填完了し次第、順次発射。狙いはアバウトでもいいわ」

 ニクシーが吠える。

「今の一斉射で、敵機七機を撃墜」

「少ないわね?」

 レーダー士官の報告にニクシーは顔を顰めた。

 理由は聞かなくても、戦術ディスプレイを見れば明らかである。

 敵機は編隊を崩して、散開したのである。

「『ミクソゾア』第二斉射! 友軍艦の同期は待たなくていいから、即時発射!

 ……放て!」

「敵機散開中……」

 エレーナは敵の動きの良さの舌を巻いた。

 やはり、第三艦隊は実戦経験が足りない事を実感せざるを得ない。

「G2012は?」

「……センチュリアの赤道に向かっています、ドラゴンナイト」

 センチュリアに近づけば、センチュリアの大気がG2012を敵機の攻撃から守ってくれるはずである。

 地球の航空機というのは、大気圏内でも宇宙空間でも活動できるが、惑星大気表層付近では機動性が制限される。

 小さな航空機では、大気の表層弾かれたり、大気圧で燃え尽きたりするのだ。

「……なら、そっちは安全ね」

 最新鋭の『パンデリクティス』は、個艦防空でも十分な対空兵装がある。

 一〇〇機ほどの航空機の攻撃なら、なんとかなるはずだ。

 ……果たして……

 エレーナは思う。

 果たしてレクシーなら、こんな事をするだろうか?

 そんな思いが頭をもたげる。

 もちろん、レクシーとエレーナでは手持ちの艦の性能が全然違う為、一概に比較はできないのは言うまでもない。

「G2012より緊急通信!」

「なんですって!?」

「……センチュリアの向こうに、空母を含む艦隊を探知! 距離三二〇万」

 戦術ディスプレイの表示が更新されて、センチュリアの向こう側に下向きの円錐が出現する。

「味方……じゃないわよね?」

「違います。友軍のどの艦隊とも編成が違います」

 味方でないなら、この艦隊は敵である。

 ……この艦隊の航空機?

 とエレーナは考えてみたが、この位置から航空機を放ったのなら、G2012はもとより『パンデリクティス』のレーダーにも引っかかるはずである。

 つまり、この艦隊とは別にもう一つ空母部隊が存在し、それは未だに発見できていないという事になる。

 空襲をうまくやり過ごせば、どこに帰るかわかるかもしれないが、第三艦隊に被害が出ればそこまでだ。

「ニクシー! 対空戦闘は任せるわ。対処して」

「アイ。ドラゴンナイト」

「通信、ムースに繋いで」

 ムース・アウロンはG2012の艦長である。

 エレーナの部下の中では、ニクシーの次の席次であり、現在は第四艦隊の最先任だ。

「ムースです。ドラゴンナイト」

 すぐに通信が接続され、ムースが出た。

「ムース! センチュリアの大気圏に入って、守りを固めて」

「……しかし、それでは艦隊の射撃管制が……」

 ムースの言いたいことはわかる。

 第三艦隊の『パンデリクティス』は強力な攻撃性能を持つが、その攻撃性能の中核をなす超光速機関搭載型の『エンハンスド・アニサキス』の運用には、超光速走査システムが必要不可欠である。

 大気圏内では超光速機関は起動できないので、超光速走査ができない。これは艦隊が超光速攻撃能力を失うという事である。

「ダメよ。G2012は艦隊の目と耳よ。万が一にも失えない」


◇◆◇◆◇◆◇


 特徴的な逆ガルの翼の下に、AGM56『マーベリック』を搭載した『コルセア』の編隊が青い海の上を行く。

 スプルーアンス提督が駆る空母『レキシントン』を飛び立った、攻撃部隊である。

 攻撃部隊を指揮するのは、カール・オーガスタ中尉。攻撃部隊はF4U『コルセア』艦上攻撃機四〇機。

 センチュリアの海上八〇〇〇フィートを飛んでいる。

 カールはチャートを確認した。

「……魚野郎は、この先だ!」

 予定通り『ブラックバス』が高度を下げてきている。

 スプルーアンスは、この艦を旗艦と読んだ。

 フレッチャーの攻撃部隊から逃れようとすれば、必然的にセンチュリアの大気圏を盾にする。

 そこをカールたちの攻撃部隊が攻撃する。完璧な作戦だ。

「高度を上げる、野郎ども続け!」

 操縦桿を引きながらカールは、部隊に指示を送る。

 『コルセア』は元々戦闘機なので、四発の大型対艦ミサイルを抱えていても、その動きは普通の攻撃機よりも遥かに軽快である。

 カールの見上げる先、青空の彼方に魚影が見えた。

 『ブラックバス』が白い腹を見せながら、高度を下げてくる。既に成層圏まで下りてきている。

「デカいな……」

 比較対象が無いので、具体的な大きさはわからないが、心証としてその船が巨大であることが分かった。

 白い航跡を引いているのは、『ブラックバス』が既に大気のある場所まで潜ってきている事を示している。

「高度三〇〇〇〇」

 見える『ブラックバス』は後ろ姿へと変化していく。高度は六〇〇〇〇フィートと言ったところか。

 こちらに気づいているかは不明である。

 しかし、事前のブリーフィングではこちらがレーダーを起動しない限り、敵は気づかない可能性が高いとなっている。

 実際に、『ブラックバス』は進路を変えることも、速度を変えることもなかった。

 高度四八〇〇〇フィートでカールは編隊に水平飛行を指示した。

 『ブラックバス』は前方やや上方、六〇マイル付近を悠々と泳いでいる。

 既に巨大な超光速機関……要するに尾びれと、四枚ある尻びれが見て取れる。

「全機、アタックポジション。

 射撃レーダーを起動しろ!」

 AGM56『マーベリック』対艦ミサイルは、弾頭に八〇〇ポンドの高性能爆薬を搭載している。

 戦艦相手でも四発で大破、八発で撃沈できるとされている。

 これが『コルセア』一機に付き四発。編隊四〇機で一六〇発。

 狙われた『ブラックバス』の運命は既に決しているのだ。

「ファイア!」

 ミサイルは全弾発射である。

 その後、戦果は確認せずに即座に離脱するように厳命が下っている。

 カールたちには、まだまだ対艦攻撃任務が残っているのだ。

「全機、撤収」

 無数の『マーベリック』が引く白い雲を見て、カールは命令を下した。


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