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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
流民船団

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306/608

流民船団5

◇◆◇◆◇◆◇


 アメリカ艦隊TF30司令官のフレッチャー少将は、旗艦『レキシントン』の艦橋で戦果確認を行っていた。

「第一次攻撃にて、ドイツ空母一隻を中破。発着艦不能に陥れたか……第二次攻撃で仕留められるか? ウィルソン参謀長」

「問題は無いでしょう。

 もうそろそろ吉報を持って第二次攻撃隊が戻ってきますよ」

 神経質そうな顔で笑顔を作り、ウィルソンはフレッチャーに答えた。

「……しかし、本当にレクシー・ドーンの艦隊は居ないんだな?」

 何しろレクシー・ドーンは聖域に進出していたアメリカ艦隊を粉砕した上、直接大統領の乗る船を狙ってくるようなバケモノである。

 フレッチャーとて、恐れる訳ではないがアメリカにとって残り少ない正規空母を失うのは忍びない。

「CIAからの情報ですと、一〇〇〇光年以上離れた所で艦隊演習をしている事が確認されています。

 いくらエッグの艦が速かろうと、いきなりここに出現することなどありえません」

 ウィルソンは言い切ったが、フレッチャーの不安は消えなかった。

 レクシーと大日本帝国の連合軍が襲い掛かるまで、聖域を攻略する戦力は居ないとアメリカ海軍は本気で信じていた。しかし、それはあっさりと裏切られ、聖域に展開していた艦隊は全滅したのだ。

 不安が消えないのは、ある意味仕方のない事だと言えるだろう。

「閣下、高速熱源の編隊が接近中であります」

 レーダー士官が声をかけてきた。

「速いな」

 ウィルソンは言った。

「……変ですね……少々速すぎるような……」

 その瞬間、宇宙の闇に赤い光がぽつぽつと光始めた。

「なんだ!? 何が起こった!?」

 フレッチャーは身を乗り出した。

 赤い光の正体が、直掩の駆逐艦の対空砲である事が分かったからである。

「外輪右舷の駆逐艦『トマソン』より通信! 正体不明の飛行物体が接近中との事です!」

 スパイが得た情報によると、エッグには超光速で飛行する能力のある巡航ミサイルがあるという。もし、そんな物で攻撃されれば艦隊はひとたまりもないだろう。

 だが、フレッチャーの不安は的中した。

「飛来中の熱源は、敵巡航ミサイル! 巡航ミサイル!」

「対空戦闘! 全て叩き落せ!」


 二〇隻を超える防空艦の弾幕を縫って、そのミサイルは飛来した。

「タイプはアンノウン! 『アニサキス』と呼ばれるミサイルの可能性あり!」

「『ワスプ』回避行動に入ります」

 敵巡航ミサイルは『ワスプ』に狙いを定めたようだ。

 それを悟った『ワスプ』は推進器を輝かせながら加速を始めた。さらにスポンソンに設置された対空砲が一斉に弾幕を形成する。

 『ワスプ』向かったミサイルは、フレッチャーがざっと見た限り八発。

 一般的にアメリカ海軍艦艇の対空能力は高いとされているが、エッグのミサイル技術は未知数であるので、無事で済む保証はない。

 いや、攻撃に使うリソースは攻撃者が決定している以上、八発で『ワスプ』の対空防御を突破できる算段か。

「シット!」

 フレッチャーは吐き捨てるように言った。

 アメリカ軍には聖域でエッグの船と戦ったはずだが、その船籍が一切地球には伝わっていない。

 従って、フレッチャーが知りうる情報は、レクシー艦隊が大統領の座乗する『アメリカ』を襲った時の物だけである。

 しかもそのデータは、大半が『ブラックバス』級の艦隊だった。

 情報の扱い方が上手いヤツがエッグにいるのだろう。

「……『ワスプ』がっ!」

 『ワスプ』の周りを円を描いて飛んでいた『アニサキス』が、突如として軌道変えた。

 その『アニサキス』に対空火力が集中し、撃墜に成功。

 しかし、その直後に反対側から来た別の『アニサキス』が、『ワスプ』の推進器付近に突入した。

 ……核か?

 フレッチャーは不安に思ったが、爆発は普通の規模だった。

 それでも、『ワスプ』は艦尾から破片をばら撒きながら、艦首を左に振り始めた。

「ダメだ」

 誰かが言った。

 その直後、数発のミサイルが一斉に『ワスプ』に襲い掛かる。

「高速熱源、さらに飛来! 本艦に接近中!」

 悲鳴にも似た声がブリッジに響き渡った。

「長官! CICへお願いします」

「そうだな」

 司令官が艦橋に居る意味は薄い。指揮を執るならCICに映るべきだ。

 参謀長の言葉を受けて、フレッチャーはCICへと向かった。


「どうだ!?」

 CICに着くなり、フレッチャーは手じかに居たレーダー士官に対して、率直な質問をぶつける。

「飛来したミサイルは、七発。内三発は迎撃に成功」

 残り四発。『レキシントン』の対空能力は『ワスプ』より高い。それでもこのスコアは褒められてしかるべき物だと、フレッチャーは思った。

 だが、今重要なのはそこではない。

「七発!? 間違いないのか!?」

 問いただす。

 『ワスプ』に八発が割り振られて、『レキシントン』に七発というのはおかしいと考えたからである。

「今の所、本艦に向かってきたのは七発です」

 レーダー士官が答えたその’時、ゴゴゴという低い音がした。

「食らったのか!?」

「撃墜したミサイルが至近弾になりました! 損害警備!」

 報告にフレッチャーは安堵のため息を吐く。

「ミサイル、突っ込んできます!」

 別の士官が叫んだ。

 その直後、『レキシントン』の飛行甲板で盛大な炎が上がる。

 どうも、ミサイルは飛行甲板を貫通できなかったらしい。

 あるいは、近接信管だったのかも知れない。

「被害を報告しろ」

「機関異常なし!」

「飛行甲板が破壊されるも、半日程度で復旧可能との連絡です」

「格納庫で火災発生! 弾薬庫の閉鎖は成功。火災には消化班が対応中」

 次々と各部署から報告が上がる。

 報告を総合すると、『レキシントン』はまだ戦えそうだとフレッチャーは考えた。

 しかし、『ワスプ』は既に品詞。断末魔の悲鳴を上げながらのたうち回っている。

「『ワスプ』は行けそうか?」

「残念ながら……」

 参謀長が悔しそうに言った。

「既に総員退艦命令が出たようです。駆逐艦に乗員を移すようです」

 確かに二隻の駆逐艦が果敢にも『ワスプ』への接近を試みる。

 その直後、駆逐艦の一隻が爆発した。

 『アニサキス』が飛び込んだらしい。

「……ここが引き際か……」

 フレッチャーは呟いた。

 まだ、聖域攻略作戦は始まったばかりである。ここで全滅する手はない。

「全艦回頭一八〇。一時撤退する」

「長官!」

 参謀の一人が非難の声を上げた。

「まだ作戦は始まったばかりだ。それにそろそろ頃合い。リーの艦隊が突入した頃だ」

 リーとは、ウィリアム・リー少将の事である。今回はTF29の司令官として参戦している。

 巡洋艦駆逐艦を中心とする高速打撃艦隊を率いて、聖域内部から敵を攻撃する役割を追っているのだ。


◇◆◇◆◇◆◇


「逃げたみたいね」

「はい。ドラゴンナイト」

 合流したG2012から受け取った超光速精密索敵情報を眺めながら言ったエレーナの言葉を、ニクシーは肯定した。

「……とりあえず、これで一旦無力化したと見ていいかしら?」

「レンネル長官から貰った敵機の迎撃数と、我々が仕留めた敵機の数を合わせると、大体二〇〇程度になります。

 敵空母の数を考えると、補給を受けない限り反撃は不可能であると判定します」

 ニクシーは言った。

 アメリカの空母は一隻当たりの搭載機数が多い傾向にあるが、それでも中型空母で一五〇機、大型空母で二〇〇がいい所のはずである。

 つまり合計三五〇機。ウチ二〇〇機を撃墜され、中型空母は残りの搭載機と共に沈んだ。

 残存機はせいぜい一〇〇。戦力七割の喪失は部隊の壊滅である。

「今後、敵はどう動くかしら?」

「……そうですね……

 やはり、姉……失礼。レクシー提督の言葉通りもう一隻の空母が存在するなら、そちらと合流しようとするかと思います」

 これは当然の帰結であると言える。

「どこに居るのかしらね、もう一隻の空母」

「G2012の超光速走査に引っかからないので、居るとしても数億キロは離れているかと」

 視線を巡らせてから、ニクシーは答えた。


 『グラーフ・ツェッペリン』の艦載機が着艦するのを待って、艦隊は聖域内部へと移動を開始した。

 緊急措置として、レンネルはアイオブザワールド第三艦隊の指揮下に入る事を了承した。

 これにより、エレーナの権限でドイツとイギリスの軍艦を聖域内部へ入れる事が可能になった。

 まずは、傷ついた『フォン・ヒンデンブルグ』の修復を行わなければならない。飛行甲板をやられた空母は邪魔にしかならない。

「『フォン・ヒンデンブルグ』の修理はできそうなのですか?」

「それは問題ない。『フォン・ヒンデンブルグ』級は我がドイツの最新鋭艦。ダメージコントロールも多分に考慮されている」

 現在、艦隊はフラッシュラー第五惑星ファーラリア近海に展開している。

 巨大なガス惑星であるファーラリアは、敵の索敵から艦隊を隠すいい隠れ蓑になるはずである。

 しかし問題もある。ニクシー艦隊の目であるG2012の索敵能力では、ここからセンチュリアを望めない。

 ニクシーは心底『ユーステノプテロン』級が欲しいと思った。

 『ユーステノプテロン』の超光速走査能力なら、ファーラリアに居ながらセンチュリア付近まで索敵の目が届くのだ。

「……修理はいつ頃終わりますか? アドミラル・レンネル」

「報告によると……四八時間以内には終わる予定だ」

 ニクシーの問いに、レンネルは答えた。

「ドラゴンナイト。やはり、索敵に不安があります」

 レンネルとの通信を切ったあと、ニクシーはエレーナの方を振り返って言う。

「わたしもそう思う。

 ……けど、どうするの? G2012を前進させるのはいくら何でも許可できないわよ?」

 なにしろG2012は索敵の要である。

 ピケット艦的な運用をして、失えば後がない。

「それは同意します。

 しかし、敵の別動隊が居ることは確実です。連中はセンチュリアを目指しています」

 第三艦隊と第四艦隊の五隻でセンチュリア近海に展開する事もニクシーは考えたが、これも危険である。

 『パンデリクティス』は強力だが、所詮は四隻しかいない。数で押し込まれると、厳しい。

「……でも、ここは安全策で行きましょう。

 レクシーが後からきて、戦果をかっさらっていくのは癪に障るけど、急いで艦隊を危険に晒す必要はないわ」

 最終的に、エレーナは『フォン・ヒンデンブルグ』の回復待ちを選択。

 ニクシーには、それが最適解であるかどうか、判断する事は出来なかった。


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