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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
HELLO, HELLO America

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HELLO, HELLO America7


◇◆◇◆◇◆◇


 ロックフェラー家の人間との面談や、いろいろな文献などを研究した結果、レイルはアメリカという国の政治システムを概ね理解していた。

 この国は自由の国であると自称しているが、その本質は理想的な政治力学のモデルであるとレイルは考えている。

 要するに権力者と扇動者によって、国の動きが決定するのがこの国の政治の本質である。

 権力者……この場合は、ロックフェラー家の力は政治力学的に大統領より強い。力の弱い大統領は一方的に抑え込まれる。

 ……シンプルでいいね。

 レイルはそう思った。

「ところで、ミスタ・ロックフェラー」

 レイルとロックフェラーは、ここまで乗ってきた車に乗り込んだ。

 黒いフォード社製『リンカーン・コンチネンタル・マーク4』。後部座席はやや狭いように感じる。

 もっとも、六メートルほどある全長に対して、という意味であるが。

「本当に大統領を売るような真似をして、大丈夫なの? この国じゃ、愛国心。ってやつが大丈夫なんじゃないの?」

 右隣りに座ったロックフェラーに対して、レイルは率直な疑問を投げかけた。

「はっはっは。

 まさか君に心配されるとは」

 ロックフェラーは真っ白な髭を揺らしながら、笑った。

「いやいや。失礼。

 我々はアメリカという国を愛している。これは偽りない」

「……ああ。なるほど、そういう奴ね」

 そこまで聞いただけで、レイルは大体ロックフェラーの言わんとする事を理解した。

 国を愛しているのと、政治家を愛しているのは違う。そして、ロックフェラー家の利という点でも違う。

 そういう事だ。

「説明しなくても理解してくれて助かる。

 君を仕込んだ人物は、なかなかのやり手のようだ」

 ロックフェラーは再び満足そうに笑った。

 センチュリア最大の企業連合であるクラウングループ総帥の直轄ワークグループによって、レイルは育てられた。

 レイルは魔法使いとしてだけでなく、将来のクラウングループの幹部として帝王学も叩き込まれた。

 ……本当に人生は、なにがあるかわかないね。

 レイルもまた笑った。

 極限状態で自分を守るのは、卓越した魔法のテクノロジーだとレイルは考えていた。しかし、ふたを開けてみれば母なるセンチュリアを一七〇〇光年離れたこの惑星で、レイルを守っているのは帝王学の方だった。

 車が動き出した。

 七リッターのアメリカンエンジンがうなりを上ると、図太いトルクが発生した事は後部座席に座っていても容易に感じ取る事が出来る。

「ありがとう。ロックフェラー。

 きっと、ジャック・クラウンも喜ぶと思うよ。もっとも、アメリカの軍隊に殺されてなければ、だけどね」

「これは手厳しい」


 数日後、ホワイトハウスから連絡があった。レイルに対してNSAのエージェントの身分を与えるという物だ。

 レイルは、リッツカールトン・ワシントンDCホテルのスイートルームに滞在していた。

 あれもこれも、すべてロックフェラーの手配によるものだ。

「……こんな簡単でいいのかな?」

 そう呟いて、レイルは重厚な樫のテーブルに置いた、ノート型のワークステーションをキーをいくつか操作した。

 ワークステーションの周囲には、文字と数字が羅列された無数のホロウィンドウが浮かび上がっている。

 その多くが、この国の歴史に関する文書だ。

 レイルはこの国の歴史を疑っている。

 アメリカ合衆国という国の歴史は、かなり異常であるとレイルは思う。

 通常、国という組織は自国の利益が最大になるように動く。当然の事である。

 ところがこの国は、自ら利益を放棄する判断を下した。それも、かなり大規模な利権。

 第二次世界大戦。

 レイルの呼んだ歴史書にはそう書かれていた。

 ドイツのポーランド侵攻で幕を開けたとされる世界大戦。

 アメリカはこの戦いにわざわざ参加した。太平洋の彼方にある小さな島国に対して、謀略まで仕掛けて、だ。

 正義を掲げる国家のやる事ではないとレイルは思うのだが、これは国家利権と言う意味では納得できる。

 ドイツの同盟国が合衆国と開戦した事で、アメリカは堂々とヨーロッパを侵攻することができたのだから。

 ここまでして参戦しただけあって、アメリカの力は強大だった。

 時間が経つにつれ、アメリカとその同盟国はドイツ陣営を追い詰めるに至った。

 だが、西暦一九四三年の年末。突如としてアメリカはヨーロッパ戦線から撤退したのだ。

 これが納得いかない。

 いくら圧倒していたと言っても、自国の兵士にも少なくない被害を出している以上、勝てる戦争から身を引く理由がレイルにはわからないのだ。

 加えて、アメリカはその後一〇〇〇年にわたって、孤立主義を掲げて自国の国力増強に傾倒し始める。

 これもまた納得行かない。なぜ、一〇〇〇年という長きにわたって貫いた孤立主義を破って、センチュリアに侵攻したのか。

 ……まるで……

「まるで、センチュリアを攻めるために、国力を蓄えていたみたいじゃないか」

 これははっきり言って異常である。

 権力とはすなわち利権。権力を握れば誰だって肥え太りたい。

 地球人の寿命はせいぜい八〇年。一〇〇〇年先を見据えての戦略など考えられない。

 ……やっぱり、調べないといけないみたいだね。

 それに合わせたように、ピロンと間の抜けた音を立てて、メッセージが着信した事を知らせるホロウィンドウが浮かび上がった。

「FBIは色々見せてくれそうだね」


◇◆◇◆◇◆◇


 二九九八年六月。

 DCからニューヨークへと伸びる、ルート95。

 ペンシルベニア州の州兵を乗せたトラックが連なって、東を目指す。

 夕刻を前に降り出した雨は、いよいよ強さを増していた。

「酷い雨だ! 前が見えない!」

 彼らの乗る軍用トラックのワイパーは既に最高速度で動いているが、十年に一度レベルの大雨の前ではその役割を果たすことはできないようだ。

 イーサンは耐えかねたように、ハザードランプを焚いてトラックの速度を落とす。

 トラックの後ろには、州兵が三〇人ほど乗っている。無用なリスクは犯せない。

 ルート95は、DCからフィラデルフィアを経てニューヨークへ至る幹線道路だが、周辺に人家はなく明かりもない。

 栄華を誇る合衆国ではあるが、新大陸の住人は約五〇〇〇万人。それ以外は、宇宙の彼方へ移住していった。

 首都のDCでも、一歩外に出ればそこは無人の荒野である。

「おい、ザックス! 地図を取ってくれ」

 イーサンは、助手席の男に言った。

「ほらよ」

 と相棒が地図が入ったホロタブレットを寄越す。

「……ここは……フィラデルフィアの手前か……」

 現在地を確認して、イーサンは無線機に手をかけた。

 州兵とは言え、時間厳守は軍人の務めなのだが、さすがにこの雨で強行軍をするのはためらわれる。

 州兵事務所に連絡を入れて、遅延する旨を伝えるのだ。

 無線はすぐに繋がったが、パリパリというノイズが乗っている。

 これも大雨の影響なのか? とイーサンは首を捻った。昨今、無線機にノイズが乗っているのを、イーサンは聞いたことがなかったからだ。

「こちらはペンシルベニア州兵四三歩兵大隊のイーサン・ホーナーだ。応答してくれ」

「……こち……く……」

 応答はあった。しかし、内容が聞き取れない。

 無線機の調整用ダイヤルを弄りながら、イーサンは続ける。

「聞こえないのか!? 聞こえたら応答してくれ」

「……だ……あ……とま……」

 やはり通信は改善しない。


 数分に渡って、イーサンは通信を試みた。州兵事務所だけではない。近隣の警察や消防に向かってもだ。

 だが、通信は一向に繋がらなかった。

「ちくしょう! ダメだ!」

 イーサンは通信機を放り出した。

 雨は一向に収まる気配を見せない。近年見たことのないような雨量である。

「イーサン。隊内無線だ」

 右となりに座るザックスが、無線機を差し出す。

 こちらは、トラック間で通信するためのトーキーである。

「八号車のサムスです」

「イーサンだ。どうした?」

 八号車は隊列の最後尾である。

 イーサンがトラックを止めた為、後続のトラックも全て路肩に停止しているはずだ。

 それを確認するべく、ドアミラーをイーサンは覗き込んだが、後ろの方の車両は雨にさえぎられて見えなかった。

「兵が不安がってる」

 それを聞いてイーサンは、八号車まで行ってサムスをぶん殴ろうかと思った。

 州兵はピクニックに来ているジュニアハイスクールの生徒ではないのだ。

「誇りある合衆国の州兵が、雨ごときで泣き言を言うな!」

 そう怒鳴って、イーサンは無線を切った。

「……まったく、どいつもこいつも……」

 確かに今直面しているのは、歴史的な大雨かもしれないが、それが直接的に命に影響するとは考えにくい。

 幸い、フィラデルフィアに近いこの辺りは平坦な地形である。土砂崩れの心配もないだろう。

 また海が近いので、洪水になるリスクも無視していい。つまりは安全なのである。

 そして、雨が延々と降り続くなどという事もない。

「……おい! イーサン、前を見ろ……なんだありゃ?」

 ザックスが、前の方を指さしながら言う。

「ん? なんだ?」

 その指の示す先をイーサンも、見た。

 フロントガラスの向こう。降りしきる雨のさらに向こうだ。

「……なんだ……?」

 率直な感想が、イーサンの口をついた。

 雨に遮られてよく見えないが、水平に並んだ光の粒がいくつもあることがわかる。

 それが何かは分からない。

 イーサンには、それが車のライトの列のように見えた。

 対向車だろうか? とイーサンは考えたが、この大雨の中を結構なスピードで近づいてくるように見えるそれは、本当に車なのだろうか?

 よくよく見ていると、そのライトの列は上下にも揺れているように見える。

「……近づいてくる! 近づいてくるぞ!」

 ザックスが叫んだ。

 イーサンは目を見開いて、その光景を見た。

 それは、車のライトなどではなかった。

 いや、光は車のライトだったのである。

 視界を一杯に埋めるようになったそれは、まるで垂直に切り立った水面だった。

 光は水面に映った、自分たちのトラックのライトだったのである。

「……!」

 悲鳴を上げる暇もなく、イーサンの乗ったトラックは、その水面に飲み込まれた。


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