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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
HELLO, HELLO America

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251/605

HELLO, HELLO America4

 そこに居たのは、ムーアと三人の武装した水兵だった。

「一体何の真似かね? ムーア少佐」

 そう聞いてみたものの、ロックフェラーはどういう真似かわかったのだが。

「中佐。あなたはこの『ロングアイランド』を危険に晒している!

 あなたの任務続行は不可能であると、私は判断したのですよ」

 そう言って、ムーアは醜い笑みを浮かべた。

「まるで君なら、この状況から『ロングアイランド』を救えるとでも言いたげだね。少佐」

「……っ! お前がっ! あのポッドを拾わなければっ!」

 ムーアは怒鳴ったが、それは問題のすり替えでしかない。

 あの状況で通常航行していたとしても、『ブラックバス』に発見される恐れはあったのだ。

 いや、通常航行で推進器を稼働させていれば、発見された危険は今よりも高かったかも知れない。

「とにかく! シーバー・ロックフェラー中佐! 副長権限であなたの権限をはく奪する!」

 ムーアの声に答えて、控えていた水兵がサブマシンガンを銃口を上げた。

 どうもこの水兵たちは、ムーアの味方のようだ。

 現状武器もないロックフェラーとしては、いかんともし難い。

 ここは大人しくするするしかなさそうである。

 ……しかし……

 ロックフェラーは思う。

 仲間割れをしてるが、先ほどの格納庫での爆発の方が危険ではないだろうか。


 『ロングアイランド』は元は民間の商船だったので、拘禁施設のような物はない。

 それこそ、会議室にでも閉じ込めておくしかないのである。

 会議室はブリッジの五層下にある。艦長室ブリッジと同じフロアなので、五層降りなければならない。

 最新鋭の軍艦なら、駆逐艦でもブリッジにエレベータがあるのが普通なのだが、『ロングアイランド』にはそのような物はなかった。

 つまり階段を降りるしかないのだ。

 『ロングアイランド』の階段はそれほど急ではないのだが、銃を突きつけながら降りるのは少々骨が折れる作業だ。

 三フロア降りた時、再び低い振動が伝わってきた。

 今度は、先ほどより近いようにロックフェラーには感じられた。

「……なんだこの振動は?」

 ムーアがそういうが、ロックフェラーには知らない。

 仮に知っていても、教えてやる言われは無いわけだが。

 そんな事をロックフェラーは考えていたわけだが、どうも教える必要も無さそうな雰囲気になってきた。

 非常ベルが鳴りだしたのだ。

 そして、放送が火災発生の旨を伝える。

「火災だと!? こんな時に一体!?」

 ロックフェラー達の目の前を、ダメージコントロール班が防火服を着て走り抜けていった。

 ……火災はこのフロアなのか……

 そうロックフェラーは思ったが、煙も熱気もない。

「おい! 火災はどこだ!?」

 ダメージコントロール班の若者を呼び止めて、ムーアが問いただす。

「副長! この先で、与圧扉が爆発したようであります」

 その言葉が終わるか終わらないかの内に、再び爆発。

 今度は爆発音が聞こえた。そして、乗組員の悲鳴もだ。

 ……二次遭難……いや!?

 最初、ダメージコントロール班が爆発に巻き込まれたと考えたロックフェラーだが、すぐにその考えを改めた。

 理由は単純だ。ダメージコントロール班が悲鳴を上げながら逃げてきたからだ。

「化け物! 化け物がいる!」

 口々にそんな事を言いながら、彼らはロックフェラーの前を走り抜けていった。

 そして、その化け物は現れた。

 黒髪の少年だった。ジーンズ生地のズボンにジャケット。金色の杖を持っている。

 ロックフェラーはその少年と目が会った。

 鮮やかなグリーンの瞳。直感的にこの少年が地球人でないことをロックフェラーは悟った。

 ほとんど反射的に、ロックフェラーは前に転がる。

 その少年は、ロックフェラーに銃を向けていた水兵に躍りかかった。

 これは、別にロックフェラーに加担したようと言う種類の行動ではないだろう。

 単に、武器を持った水兵が最大脅威であると評価した結果に過ぎない。

 その動きは、洗練を通り越して美しいとすら言える物であった。

 まずは一人目。

 わずか一歩で、水兵の目の前まで来た少年は、手にした杖の先端でその胸を突いた。

 その一撃には見た目以上の威力があったらしい。訓練を受けた水兵が、体をくの字に折り曲げたのだ。

「シャアっ!」

 という裂ぱくの声を共に、今度は杖の柄の部分で水兵の顎を打ち上げた。

 水兵が倒れる。

 二人目はシンプルな攻撃だった。

 少年は真横に薙ぎ払うように、左手に持った杖を振るう。

 攻撃された水兵は慌てて右手を上げて、顔を守った。

 これは良くない対応であるとロックフェラーは思った。

 現に、追撃の蹴りが水兵の横っ腹に撃ち込まれる。

 彼我の体重差を考えるなら、その一撃が致命傷になることは無いと思われたが、実際の所はそうはならなかった。

 水兵はその場に崩れ落ちたのだ。

 そして、少年は三人目に杖の先端を向けた。

 ロックフェラーは目を見張る。

 杖の先に、金色の輝きが灯ったのだ。

 処理にして八フィート。ごく至近距離と言っていい距離を金色の光球が飛翔し、爆ぜた。

 ……爆発の正体は、これか!?

 なるほど、これなら火気の一切ない場所で爆発が起こっている説明がつく。

 しかし、これは厳しい状況である。

 水兵三人が倒された以上、次のターゲットはムーアかロックフェラーであることは明白。

 今の立ち回りを見るにつけ、到底格闘戦で勝てそうにはない。

 ……どうする!?

 そう自問していると、ムーアが突然手にしたトンプソンサブマシンガンを連射した。

 倒された水兵が持っていた物だ。

「死ね! クソガキ! 死ね!」

 口汚くののしりながら、ムーアはトリガーを引き続ける。

 が、少年はそれに驚いた様子すらない。

 一歩飛び退き、さらに大きくとんぼ返りを切りながら下がる。丁度そこは路地になっている場所だった。

 少年はあっさりと路地の角に身を隠した。

 それを見た、ムーアは怒号とも悲鳴ともつかない声を上げて、階段を転がるように降りていった。

 この状況で敵に背を向けて逃げるのも、それはそれで勇気のいる行為だとロックフェラーは評価する。

 実際にロックフェラーは逃げられなかったのだから。

 手にした杖をクルクルと頭の上で回しながら、少年はロックフェラーの方に向き直った。

 ……来る!?

 なんの根拠もなくそう思った瞬間、少年自身も杖と同じ方向に半回転。同時に、ロックフェラーに躍りかかる。

 その速度のなんと速い事か。

 数フィートの距離は、瞬きをするほどの間に溶けて消えた。

「くっ」

 と次の瞬間来るであろう激痛に、ロックフェラーは備えた。

 が、打撃は来なかった。

 その代わりに、一瞬地面が見え、次に天井が見えた。

 何が起こったのかは、直後に襲ってきた衝撃で分かった。

 おそらく杖で足を払われたのだ。

「-!」

 少年は何事かを喋ったが、それはロックフェラーの知らない言葉だった。

「オーケイ。ボーイ。

 君の喋っている言葉はわからないが、少し落ち着こう」

 ゆっくりと上半身を起こして、ロックフェラーはそう言った。

 相手が襲い掛かってこないか、それは一種の賭けだったのだが、幸運はロックフェラーの元に訪れたのだ。

「-。--!」

 やはり少年の言葉はわからない。

 艦内を探せば翻訳装置があるだろうが、今ない物は仕方ない。


 この少年の言葉をロックフェラーは理解できないし、少年はロックフェラーの言葉を理解できない。

 時間があれば、あるいは友好的に解決ができるのかも知れないが、残念ながら時間はなかった。

 もしムーアが機関部にでも行って、推進器を起動でもしたら、『ロングアイランド』は撃沈される運命だ。

 そうでなくとも、下手に通信しただけでも『ブラックバス』に発見されるだろう。

 膠着状態を破ったのは、数名の足音だった。

「艦長!」

 声をかけたのは武装したグレース伍長だ。背後には六人の水兵がはやり武装して続いている。

 がっ! と衝撃が来た。

 少年が杖で、ロックフェラーを壁際に突き飛ばしたのだ。

「-!」

 何かを毅然と言い放ち、少年はロックフェラーの首元に杖を突きつける。

 グレースは銃を上げた。

「艦長を放せ!」

「待て! グレース伍長! 銃を下ろせ!」

「しかし!」

 グレースは反論した。

「今はここで人質ごっこをしている場合ではないのだ!」

 ロックフェラーの剣幕に驚いたのか、グレースが銃を下げる。

「誰か翻訳装置を持っていないか!?」

 普通は持っていないだろうが、脱出ポッドを回収したのに伴い、医療チームなどは翻訳装置を用意しているかもしれない。そんな希望的観測からの言葉だった。

「あります」

 と声を上げたのは、ロックフェラーが予想した通り医療チームの一人、エルタース医師だ。

「よし。いいぞ。

 ゆっくりこちらに滑らせろ。ゆっくりだ」

 ここでこの少年を刺激してはいけない。

 先ほどの調子で襲い掛かってくれば、ここに居るチームは全滅してしまう。

 アメリカ軍で標準的に使われている翻訳装置は、プラスチック製のイヤホン型だ。

 装着すれば、相手の言葉が分かるようになるという、シンプルな物である。

 ……あとは、ボーイがこれを装着してくれるか、だが……

 それが一番難しいとロックフェラーは思った。

 普通に考えて、この状況で相手の差し出した機器を耳に突っ込むという行為は、相当怖いはずだ。

「よし。ボーイ。聞いてくれ」

 ロックフェラーは少年の方に向かって、ゆっくりと話しかけた。

 言葉ではない。口調で相手にわからせるのだ。

「……こいつは翻訳装置だ」

 言いながら、ゆっくりとロックフェラーは白い箱に入った翻訳装置に手を伸ばす。

 これは中々緊張する作業だった。何しろ失敗は、この場にいる人間の全滅と同義だからだ。

 少年は動かない。よっぽど肝が据わっているのか、この箱が武器だったとしても対処できると考えているのか。

 ロックフェラーは箱を取って、少年の方に見せながら蓋を開ける。

 そこに収まっているのは、イヤホン状の翻訳装置が二つ。

「これを耳に付ける」

 翻訳装置の一つを摘まみ、ロックフェラーが翻訳装置を装着して見せる。

「さあ、次はボーイの番だ」

 そう言って、ロックフェラーは箱を少年の方に差し出した。

 ……伝わっていてくれよ……

 誰に祈っているのか自分でもわからなかったが、ロックフェラーは何かに祈りを捧げる。

 少年は、一切の躊躇も見せず、翻訳装置を摘まむと自分の耳に入れてくれた。

 一同から安堵のため息が漏れる。


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