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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
誰が為の勝利

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241/606

誰が為の勝利12

◇◆◇◆◇◆◇


 一方の宮部機は南に向かう。

 ラーズから受け取った地図によると、目的地はウィンターハールと呼ばれる地方のようだ。

「モニカさん。もうすぐ到着っすよ」

 ランドマークとナビゲーション情報が表示されたホロデッキを見ながら、宮部は言う。

「はい!」

 レシーバ越しに、元気なモニカの声。

 宮部としては憂鬱だ。

 男宮部、春の終わりである。

 やがて海は後方に去り、岩と赤茶色の大地に変わった。


 さらに十五分ばかり飛ぶと、宮部の水練は湖の上に出た。

「……南側……あれか」

 湖の向こう、白っぽい屋根の家々が見えた。

 ウィンターハール。

 その光景は、地中海辺りの街並みに似ていると宮部は思う。

 つまりウィンターという割に、結構な熱帯である。

「紅の豚の世界っすねえ」

 真っ先に出てきた感想はそれである。

「豚?」

 とモニカが呟いたのが聞こえたが、宮部は聞こえなかったふりをした。

「……さてさて……」

 いきなり着水するわけには行かないので、宮部はウィンターハールの上空をぐるりと旋回する。

 水練の落とす影が、街の中を横切っていく。

 ……対空陣地とかも無さそうっすね……

 ここで一番怖いのは、米軍の対空兵器である。

 『烈風』なら大して怖くないような高射砲や対空噴進弾でも、水練にとっては十分以上の脅威になる。

 宮部はさらに旋回して、再び湖の上に出た。

 高度を落としながら、さらに湖の上を旋回する。

「……波高一メートル……風、磁方位三三に向かって二ノット」

 計器を読み上げる。

「モニカさん。降りるっすよ」

 着水目標は、ウィンターハールの街から突出している桟橋である。

 何隻か、ボートがるが問題はないだろう。

 宮部はスロットルを絞りながら、フラップを下げる。

 波がほとんどないので、着水は滑らかな物だ。


「あれは……」

 水練を滑水させながら、宮部は桟橋に集まりつつある人々を見た。

 彼らは、手に手に旭日旗や日章旗を手にしているではないか。

 よくよく観察してみると、旭日旗のデザインがおかしかったり、日章旗の丸が歪だったりするが。

 なおあまり知られていないが、これらの旗のデザインは法律によって厳密に定められている。

 帝国の国旗を振っているという事は、一応は歓迎されているようだ。

 宮部はスロットルを少し開けて湖を滑水、機体を桟橋に向かわせる。

 この辺は難しい事はない。

「……スロットル全閉、ヨーソロー」

 スロットルを全部手前まで引いて、最後は惰性だけで水練を桟橋に付ける。

 プロペラは回っているが、スロットルを全閉にしたことで、ピッチ制御によってプロペラはもう推力を生まない。

 機首は陸地の方を向いているが、実は水練は水上では微妙にバックする事もできるので、離水の時は割とどうとでもなる。

「発動機停止、ヨーソロー」

 水練の主翼についているフロートの支持脚が、桟橋の側面についた古タイヤに当たってギュっ、という音を立てた。

 コンソールのキャノピー解放ボタンを操作して、宮部は主翼の上に出た。

「モニカさん。手を」

 宮部は、後部座席のモニカに手を貸して、翼の上に引っ張り上げる。

「ありがとう」

「……さて」

 言いながら宮部は振り返った。

 桟橋の上には、一人のエルフが立っていた。

 壮年……と言っていいのだろうか? 柔和な印象をうける男性だ。

 問題は、宮部はエルフ語がさっぱりだ。

 そもそも、エルフ語という言語があるのかどうかも分からない。もちろん、翻訳装置もない。

 当たり前である。一介の航空兵が現地人と交流を持つことなど、想定されていないのだから。

 ……そう考えると、ラーズさん凄いっすね……

 まあ、ラーズはこの辺のエルフ語は知らない、と言っていたのだが。

「-。-?」

 その柔和そうな男性は、宮部に向かって何かを言う。

 何を言っているのかは分からない。

 しかし、宮部の仕事はシンプルだ。

 そして悲しい。

「モニカさん……」

 モニカの手を引いて、水練の翼の上から桟橋に降りるのを手伝ってやる。

「--。

 -。ミヤベ、-。--」

 モニカがその男性に向かって、何事かを喋る。

 とりあえず、ミヤベという単語は聞き取れた。

 他は分からないが。

「……モニカさん! これでお別れっす!」

 そういって、宮部は海軍式の敬礼をした。

 モニカも敬礼で答えてくれた。

 この男性とも、モニカの通訳で何か言葉を交わすべきか、宮部は考えたが止めた。

 現地人と関わり合いを持つのは躊躇われた。なにより、あまりモニカの前の留まるのは辛かったのだ。

「さよなら。モニカさん」

 宮部は水練の操縦席に飛び込んだ。


◇◆◇◆◇◆◇


 波の音は癒される。そんな事を言っている奴がいるが、そいつはきっと傷を負ったことがないのだと、ラーズは思う。

 大陸南岸の適当な砂浜に降りて、流木に腰かけてラーズはボーっと海を見ていた。

 水練は砂浜に乗り上げさせている。

 小沢や草加は、ラーズの判断を間違っていないと言う。

 しかし、ラーズがもしセンチュリアに残って戦っていたら、と考えるとやり切れない気持ちになってしまう。

 今、その墓地で眠るうちの何人かは、救えたのではないかと。

「……」

 キィンという甲高い音。

 ラーズの頭の上を水練が飛び越えて行った。

 ……宮部っちか……

 向こうも用事は済んだのだろう。

 宮部機はバンクを取りながら、大きく左に旋回した。

 もう一度海上に出ると、高度を下げ始める。

 どうやら、宮部も降りるつもりらしい。

 その着水は、おおむね完璧と言えるものだとラーズは思う。

 やはりエースパイロットは、何に乗らせても違う物だ。


「……ラーズさんの方も……ダメそうっ、すね」

 流木のラーズの隣に腰かけて、海に向かって石を投げながら宮部は言う。

「……ありゃ、ダメだな。

 そっちも……いや、聞くまでもない、か」

「そうっすねえ……」

 ラーズは周囲を見回した。

 ダイダリニアの南岸とは言え、この辺りの気候は温暖とは言い難い。

 白い砂浜に、流れ着いた大小さまざまな漂流物が、一層寂しい感じを増幅する。

 砂浜まで迫った森も暗く、まるでバケモノでも潜んでいるようだ。

「宮部っちは寒くないのか?」

「飛行服の電熱だけで、大丈夫っすよ」

 ……。

 海から吹く風は寒い。まるで、二人の心象その物のようだ。

 再びラーズは石を投げた。

 別に意味はない。

「……モニカ嬢は帰ったんだろ? よかったじゃん?」

「ちゃんと、お別れの言葉も、言えなかったんすよ」

「ダメだな」

「ダメっすねえ」

 はあ。と二人同時にため息を吐いた。


◇◆◇◆◇◆◇


「……また一機降りてきやがった。

 奴ら、俺たちに気が付いているのか?」

 大きく旋回してきた水練を見上げながら、ルイスが呟く。

「それならもっとたくさん来そうな物ですが……」

 ケネディは答える。

 廃棄された農村で、帝国陸軍のトラックを盗んだアメリカ海軍の上陸部隊の面々は、そのトラックで東へ進んだ。

 人の気配を避けるように進んでいた所、空を飛ぶ水上機を認めて隠れたというわけである。

 ルイスとケネディは、その水上機の行き先を確認するために、進出してきているというわけだ。

 幸いにも、海岸線に面して植生している木々のおかげで、隠れる場所には事欠かない。

「しかし……何をやってるんだ?」

 ルイスは浜辺の観察を続けた。

 水上機は、間違いなく帝国海軍の物である。翼にミートボール……日の丸も、書いてあるので間違いはない。

 機体から降りてきたパイロットは、砂浜の流木に腰かけて、それから動かない。

 時折、その長い亜麻色の髪が風に弄ばれるのが見える。一瞬ルイスは女かとも思ったが、違うようだ。

 何かを監視しているという風ではなさそうだ。

「……ただ、サボってるだけ、ですか?」

「むむ……」

 ケネディの言葉にルイスは唸った。

 そんな事を話している内に、二機目の水上機も降りてきた。

 着水の挙動で、このパイロットは凄腕であることがわかる。

 ……一体何者だ?

 やはり、この二人はサボっているだけなのだろうか? ルイスは判断に迷った。

 二人は何か言葉を交わしているようだが、ルイスの位置からは聞き取れない。

「……もう少し、近づいてみよう。

 何かわかるかも知れない」

「イエッサー」

 とにかく生き残るためには、正しい判断が必要で、正しい判断をするためには情報が必要である。

 特に大量に展開している大日本帝国軍の情況を把握するのは重要だ。

 カサカサと下生えをかき分けながら、ルイスは進む。

 多少の音は、海から吹く風の音がかき消してくれる。

「……ケネディ、見ろ。エルフだぞ?」

 ある程度近づいたところで、ルイスはその事実に気づいた。

 風に弄ばれた長い髪から、一瞬とがった耳が見えた。

 そのエルフが着ているのは、帝国海軍のパイロットスーツである。軍服を民間人に着せるなど絶対にありえないので、このエルフは帝国海軍の軍人という事になる。

「どう思う?」

 ルイスは振り返って、ケネディを見た。

「少尉! 伏せてください!」

 そう叫ぶが早いか、ケネディはルイスを押し倒す。

 ほとんど同時に、凄まじい爆発音を伴って、周囲が真っ赤に染まった。


◇◆◇◆◇◆◇


「宮部っち」

 立ち上がり小狐丸の鞘を払いながら、ラーズはそう言った。

「……どうしたんすか? ラーズさん」

 突然変わったラーズの口調に、宮部は困惑した。

「……敵だ。二人。

 森の方に居る」

 右手に刀を持ったまま、ラーズは左足を引く。

 胸の高さに上げた左てのひらの上に、一瞬赤い魔法陣のような物が出現して、消える。消えた後には赤い光の玉が出現する。

 これだどう考えても、攻撃用の魔法である。

「敵? ただの地元の人じゃないんすか?」

 これは当然の疑問である。

 普通に考えれば、アメリカ兵である確率より、その辺の住民である確率の方が高いのではないかと思われる。

「センチュリアの住人は英語を喋らない。

 今、この惑星で英語を喋るのは、敵だけだ」

 今聞こえるのは、波の音と風の音。断言してもいいが、宮部にはそれ以外一切何も聞こえなかった。

 この状況下で、ラーズが嘘や冗談を言うとは思えない。

 エルフの聴力は恐ろしい物である。この状況下で、人の話し声を聞き分けただけでなく、それが英語である事まで特定して見せた。

「《ブラスト=コア》デプロイ」

 宮部の返事を待つことなく、ラーズは魔法を放った。

 真紅に輝くその光球は、森に向かって飛翔し、そして爆発が起きた。

「……get out guys!」

 ラーズが声を上げる。

 その左手に赤い光球が再び出現する。


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