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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
魔法使いの本分

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魔法使いの本分10

◇◆◇◆◇◆◇


 第四一五航空隊:旭川:偵察三三飛行隊所属の『戦風改』は、旭川航空基地を離陸、磁方位三〇向かっていた。

 『戦風改』の操縦席に座るのは、雪村伍長。雪村と背中合わせになっている電探席に座るのは沢田軍曹である。

「なんでもウチと陸さんが共同で、択捉でスパイ狩りをしてるらしい」

「……そうらしいですね。なんでも、川崎重工のドックから直接新型の宇宙艦を回航してきたとか」

「そりゃ豪儀な事だ。

 あんな北のはずれでなにをやってるんだか……

 っと、まもなく変針点……進路九〇。速度このまま……

 ……へんしーん。今」

 沢田の声に従って、雪村が操舵スティックを操作する。

 複座になり、電探の搭載量が増えたために、原型より運動性能が下がっている『戦風改』だが、それでもその機動は軽快そのものだ。

 変針を終え再び水平飛行に入ると、すぐに無線に接触があった。

「……こちらは、海軍巡洋駆逐艦『東雲』。

 データリンク開設を要求する」

「ミミズク、データリンク開設ヨーソロ」

 通信を受け、沢田が電探席でホロコンソールを操作する。

「雪村! 高度一三〇〇〇まで上がる」

「高度一三〇〇〇ヨーソロ。

 択捉まで距離がないので、一気に上がります。舌を嚙まないでくださいよ」

「バカ言え」

 雪村が『戦風改』に鞭を入れると、石川島播磨製ホー117『火鳥』対消滅推進器がそれに答え、機体を軽々と上空へ押し上げる。


「対地全波長電探起動……よし。

 ひょー。こいつはスゴイ」

 沢田は、思わず口笛を吹いた。

 電探に無数の飛行物体が映った。

 それらは、友軍識別情報によると陸軍のヘリ部隊である。

 ざっと見えるだけで六〇機ほどいる。

「四四二空の回転翼機部隊じゃないか。

 奴らも大変だな」

「こっちは、与圧室で冷暖房完備ですからね……この時期に回転翼機は辛いですよ……

 そろそろ哨戒空域に入ります」

 雪村はそういうと、機体を右に旋回させる。

 『東雲』から指定された空域は、単冠湾の南東一〇〇キロを中心に直径七〇キロの円である。

 別命あるまで、『戦風改』はこの空域を反時計回りに旋回し続ける。

 まもなく太陽が沈む。

 地上は既に闇に沈もうとしている。

 しかし、『戦風改』のコンピュータが各種センサから取得した情報を元に、映像を合成して見せてくれるので操縦に不安はない。

「沢田さん。

 我が海軍もなにをやっているんでしょうね?」

「さあな。お偉いさんの考えることはわからん。

 しかし、下に最新鋭の宇宙艦が居るのは心強い。ソ連の領域侵犯があっても安心だ」

 『戦風改』は、策敵機に改造された時に、大半の武装を外して電探などに換装している。

 武器は翼の機銃と、汎用誘導噴進弾が二発あるだけである。

 一方の『東雲』は、八八mm陽電子両用砲や多連装対空噴進弾などを多数の対空兵器を積んでいる。こんなに頼もしい護衛は居ない。

 そうこう言っている間に、太陽が沈み、それを追いかけて夜がやってくる。

「『東雲』より入電……電探を年萌の東に向ける」

 年萌は単冠湾の東側の集落である。その東側は、人の手が入っていない針葉樹林帯である。

 なるほど、スパイが潜伏するにはいい地形だ。

 

◇◆◇◆◇◆◇


 第四四一航空隊:旭川:偵察一八飛行隊と、第五〇一航空隊:網走:偵察一九飛行隊が装備するのは、回転翼機『夜鴉』である。

 『夜鴉』には対地攻撃型と偵察型が存在するが、今回択捉島に投入されているのは、大半が偵察型である。

 全長十五メートルと小ぶりながら、二重反転ローターによる高いペイロードを持つ『夜鴉』は、偵察型といえども二〇連対戦車ロケット砲二基、八〇mm対地超電磁砲二基、三〇mm視線追従式速射超電磁砲一基という重武装である。

 四四一空所属の『夜鴉』、符丁カラス2-1のパイロット、大村軍曹はこの偵察型がお気に入りだった。

 偵察型は攻撃型より二トン以上軽い。操舵スティックにリニアに反応する機体は、とてもスポーティだ。

 『夜鴉』は単座であったが、索敵などは基本的にコンピュータと地上の前線指揮所で行ってくれるので、大村は操縦に集中していられる。

「……蜂の巣より、カラス全機に達する。

 海軍からの要請により、択捉島上空を飛翔する小さな熱源を見つけても無視するように。

 なお、この命令は松山参謀長殿から出ている命令である。

 各員は留意されたし」

「カラス2-1……了解」

 奇妙な命令だ。と大村は思ったが、ここは軍隊である。

 時折変な命令が来るが、気にせずに従うのが処世術だ。

 ……勘ぐって、ヘリを取り上げられても困るしな。

 大村にとって、『夜鴉』はお気に入りのおもちゃである。

 とりあえず、これに乗っていれば満足だ。

「まあ、できればもうちょっと暖房が効けば文句なしなんだがな」

 日没を迎え、択捉の気温は急激に下がっていく。

 『夜鴉』にももちろん暖房は付いているが、与圧されているわけではないので、外気がどうしても入ってくる。

「カラス2-1から、蜂の巣。

 本気はまもなく有萌に到達。南へ向かう」

「蜂の巣から、カラス2-1了解」

 留別から、磁方位〇四に向かって飛んできた大村は、操舵スティックとコレクティブスティックとペダルを操作して磁方位一八に機首を向ける。

 この方向には、集落等もなくひたすら針葉樹林が続いている。

 陸軍も、この付近がスパイの潜伏確立が一番高い場所と考えている。

 大村は高度を四〇〇メートル、速度を六〇ノットに調整する。

「……しかし、何もないな……」

 ヘルメットバイザー越しの暗視映像が地上の様子を映し出すが、特に人の痕跡を示すものは映らない。

 『夜鴉』の対地電探にかかれば、新雪についた人の足跡すら発見できる。


「……なんだあれは?」

 思わず、大村は呟いた。

 それは数キロ先の森の上に赤い光が見える。

 高度は大村の飛行高度より随分下だ。一〇〇メートルかそこらだろう。

 それは熱源だったが、非常に小さい発熱しかしていないため、『夜鴉』のコンピュータも正体が推定できないようだ。

「……人だ……」

 赤い円盤状の光の上に人影を認め、大村は呟いた。

 ベーリング海から遥々やってきた風に吹かれ、長い髪と羽織ったマントが舞う。

 その人物は、空中に静止したまま左手を横に伸ばていた。

「なんだ……

 いや、あれが蜂の巣が言っていた……?」

 一キロ程の距離を維持したまま、『夜鴉』の機体を横に滑らせながら大村はそれを観察する。

「蜂の巣より、カラス2-1。

 その熱源は、友軍。

 繰り返す、その熱源は友軍」

 ほどなく、地上の指揮所から通信が入った。

「カラス2-1、りょうか……」

 大村は通信に応答しようとした瞬間、通信が途切れた。

「こちら海軍、この通信が聞こえているヘリ!

 地上から狙われているぞ!」

 暗号化もされていないその通信は、南東の遥か上空から来た。

 その警告に答えるより早く、周囲を見回す大村にコンピュータの発する警告。

「警告! 地上に攻撃性熱源探知」

「……! フレアをばら撒け!」

 雪の針葉樹林の中から、まばゆい光を放ちながら噴進弾が舞い上がってくる。

 個人携行型の対空噴進弾だ。

 噴進弾は八〇〇メートル程の高度まで一気に上昇すると、バーニアを吹かして向きを変えると一直線に大村の機体に向かって飛来する。

「南無さん」

 二〇発ほどのフレアがキャニスターから落下していくのを確認した後、大村は愛機の高度を一気に下げる。

「我、攻撃を受く!」

 大村は無線機に怒鳴った。これで自分が撃墜されても、攻撃を受けたことは自軍に伝わる。

 噴進弾は、大村のばら撒いたフレアに食いついた。

 一〇〇メートルも離れていない空に、不吉な花火が咲く。

「蜂の巣、指示を!」

「蜂の巣より、カラス2-1。

 交戦は不要。該当空域を離脱せよ。後は地上部隊に任せろ」

「……くっ。

 ……カラス2-1。了解。留別の前線陣地に帰還する。

 それと、警告してくれた海軍さん。聞いてるかどうかわからんが、助かったよ。礼を言う」

 通信が来たと思しき方向に敬礼をして、大村は空域を離脱する。

 ふと、思い出して後ろを振り返ったが、先ほど宙に浮いていた人影は消えていた。


◇◆◇◆◇◆◇


「まったく、お前もポンコツだな」

 左腕に付けたAiX2400に向かってラーズは言った。

 前に見た時より故障個所の増えたAiX2400は、それでも飛行魔法とエアコンジャケットの維持に必要な性能は十分に発揮していた。

 宇宙にほっぽりだして、ノーメンテであることを考えれば十分な性能だ。

 ラーズは単冠湾の南西側に居た。

 やることは簡単である。低空を飛行魔法で飛び回りながら、熱源を探すのである。

 単冠湾の周りはほとんど無人なので、熱源があれば探知魔法に引っかかる。あとはシラミ潰しで行くとラーズは決めていた。

 ラーズが南西側を最初の探索場所に選んだのは、南西側に開けた場所があるからである。

 スパイが飛べない、かつお荷物……ようするに那由他だ……を連れていると仮定した場合、車両が走れる場所は先に調べておきたい。

「……うーん。やっぱり難しいな」

 ラーズの手持ちの探知魔法はかなり限られている。これ系が専門のレイルなどに比べると、悲しくなるほどバリエーションが少ない。

 しかし、手持ちで何とかするしかない・

 幸いにも、ラーズの手持ちには《ディテクトファイア》がある。

 これは、赤外線や放射熱に頼らず、『燃焼』自体を探知する魔法である。

 この魔法のもっとも優れている所は、直視不可能な場所にある熱源でも発見できる事だ。

 実際ラーズには判らなかったが、この性能は上空を飛んでいる航空機の電探にはない性能だった。

 ……那由他自体がなんかアーティファクトでも持ってりゃ、早いんだが。

「まあどっちにしても、なんとか日没前に発見して襲撃準備したいな……」

 現状ラーズは、海軍にも陸軍にも頼らずに那由他の奪還を行うつもりだった。

「……やはりこっちには居なさそうだな……」

 これは予想通りである。

 単冠の南西……トマカラウスから豊浜にかけては、択捉島唯一の空港がある。

 軍の航空隊は進出していないが、空港の警備自体は陸海軍が共同で行っている。

 スパイが近づくにはリスクの高い場所であると言えるだろう。

「じゃあ、単冠湾をぐるっと一周するか……」

 この辺りの人の分布は事前にわかっている。

 ラーズは海岸線に沿って移動を開始した。


 択捉島に闇が落ちる頃、ラーズは年萌地区の上空に達していた。

 気温がぐんぐん下がっていくが、幸いVMEの制御により、飛行魔法の余剰熱で暖房されているエアコンジャケットの内側は暖かい。

 ……絶対、VME要るよな。

 そう思う。やはりVMEの有無で快適度が全然違う。

 ただ、このAiX2400はそんなに持たないのだろう、とラーズは考えていた。

 なにしろ、センチュリアから一七〇〇光年も離れたこの地では、補修部品もなく、このデバイスを修理するエンジニアもいないのだから。

「……さて、やるか」

 気合一発、ラーズは魔法を展開する。

 ラーズの足元に一瞬で、赤く輝く複雑で美しい魔法陣か描かれる。

「《ディテクトファイア》……デプロイ!

 さあ姿を見せろ!」

 《ディテクトファイア》の効果により、いくつかの熱源がラーズに示される。

 ……真下は年萌……南はヤンケトウだから……もう少し東の森に行くか……


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