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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
魔法使いの本分

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魔法使いの本分9


◇◆◇◆◇◆◇


 明けて翌日。

「……ん?」

 半分まだ寝たままラーズは布団から身を起こした。

 なにか外が騒がしい。

 部屋のカーテンを開けて下に目をやると、二〇人ほどの人々が動き回っているのが見えた。

 ……交通事故か?

 そんなことを考えていると、電話が鳴った。

「……はい?」

「おはよう。ラーズ君。

 内閣調査室の神崎だ」

 ラーズは電話の主は那由他であると思って受話器を取った。

 普段電話をかけてくるのは、那由他となにかのセールスだけだからだ。

 だが、今回は違ったようだ。

「神崎次官……

 なゆ太になにかあったんですか?」

 普通神崎が直接ラーズに連絡してくることはあり得ない。その為の窓口として那由他が配備されている。

 これに、先日の襲撃者。今外で起こっている騒ぎ。

 これらを合わせて考えれば、おのずと答えは決まってくる。

「一応聞くが……そこに柳葉君は居ないね?」

「いません」

「……ふむ。君たちがシッポリといい仲になっていれば、最悪の事態は避けられたのだが……

 やはりダメか」

「……神崎次官。これはやはり失踪事件、ってことでしょうか?」

「カンがいいな。柳葉君の代わりにウチに欲しいくらいだ……

 それはさておき、詳細は後程そちらにお邪魔するよ。

 この電話は盗聴されている恐れがあるんでね」

 神崎は言った。

 言うまでもなく、盗聴云々は盗聴者に対する言葉だろう。

「それでは、二時間程度でそちらに着く。

 年萌ラボの方には、こちららか連絡しておくから、単冠に入っている『東雲』はわかるかね?」

「しののめ……ですか? すいません。わからないですが……」

「君が乗ってきた『漣』の同型艦だよ。昨日、単冠湾に入った。

 海軍さんの方にも連絡を入れておくから、そこへ行って欲しい」

「わかりました。二時間後に。

 では、一度失礼します」

 ラーズは電話を切った。

 神崎自らが出張ってくる、というのは相当な大事なのではないか? とラーズは思う。

 普通に考えれば、那由他は先日の襲撃者に拉致されたことになる。

 なぜ、那由他が標的になったかと言えば、それはもうラーズと一緒にいるのを目撃されたからだろう。

 ……ありそうなのは、展開した陸海軍に退路を断たれて、起死回生の一手として那由他を拉致したと言ったあたりか。

 那由他を人質に、国外脱出を図るか、あるいは虹色回路の秘密を寄こせと言って見るかもしれない。

 そう考えると、那由他の使い道はいろいろ考えられた。

 もっとも、いづれの選択肢も帝国政府が取り合うとは思えない。どう考えても、那由他が切り捨てられて、襲撃者を皆殺しにして何もなかったことにされるだろう。

「いくらなんでも、そりゃ寝覚めが悪い」

 ラーズは苦笑した。


 年萌ラボへの出社をすっぽかして、ラーズが『東雲』に現れたのは、それから一時間ほど後だった。

 ラーズは『東雲』の士官用の会議室に通された。神崎はまだ到着していない。神崎自身が二時間後と言っていたのだから、当然だろう。

「『漣』と変わらねえなあ……」

 会議室の内装を見回しながら、ラーズはつぶやいた。

 『東雲』のスタッフが持ってきてくれたコーヒーをすする。

「熱っ」

 ラーズは熱い飲み物があまり好きではなかったが、まあ文句を言う程のものでもない。

 それに、この国の食事や飲み物は、いちいち美味しかった。

 宇宙艦などの超科学より、こういった地味な部分に文明レベルの高さを感じる。

 そうこうしていると、先ほどコーヒーを出してくれたスタッフが現れ、神崎がついた旨を教えてくれた。

「ラーズ君。待たせたね」

「いえ、神崎さんの予告した時間まではまだ……」

「早速だが、話の詳細を詰めたい。

 かけてくれ」

 そう言われたので、ラーズは神崎の向かいの席に座った。

 併せて神崎も腰を下ろす。

 神崎はジュラルミン製のアタッシュケースを机の上に置いた。

「まずここが盗聴されている恐れはないし、これからの発言を記録するつもりもない。

 ここまではいいか?」

 ……ああ。そういう話か。

「大体察しました。神崎さん」

 神崎は満足そうにうなづいた。

「担当直入に言う。

 ウチの柳葉だが、放って置くと政府に見捨てられる」

 本当に単刀直入に来たな。とラーズは思った。

「それはわかります」

 ラーズは慎重に言葉を選んで返す。

 自分にとって不利な取引をするつもりはない。さりとて、那由他を見捨てるつもりもラーズにはなかった。

 ぱちぱちっ、と神崎は持ってきたアタッシュケースを開けた。

 ラーズの方からはふたが邪魔で中身が見えない。

「?」

 ラーズがその意図を図りかねていると、神崎がくるりとアタッシュケースを回転させた。

「……AiX2400……持ち出してきていいんですか?」

 これは今、東通工が解析作業を行っているはずである。

 それをわざわざ組み立てて……不格好にテープで固定されているのはバッテリーだろうか? だとすると、このVMEは稼働できる状態になっていると推測できる。

 さらに、その下に敷かれている青い布はラーズが羽織っていたマントである。

「内調としては、柳葉を失いたくない。

 そこで相談だ」

「相談……ですか?」

 一応ラーズは聞き返すが、VMEまで持ち出してきたのだ。次の言葉は、想像に難くない。

「……どうか、魔法の力でウチの柳葉を救い出してくれ」

「……」

 ラーズは沈黙し、神崎の言葉を吟味する。

 救い出してほしい、というのは恐らく本心だろう。

 しかし、真の目的が別の場所にあることは明白。

 神崎は見たいのだ。

 ラーズが本当に戦闘時に運用する魔法を。

 おそらく、これ自体海軍公認。

 『東雲』は魔法観測用に回航されてきただろうとラーズは考えた。

 そういった目的でもなければ、いくらなんでも、スパイの為に宇宙艦を持ってきたりはしないだろう。

 ……難しいぜ。

 これが政治か。と、ラーズは思う。

 魔法使いは政治と無関係では居られない。それはセンチュリアの常識である。

 力のある魔法使いならなおさらだ。

 そして、センチュリアから一七〇〇光年彼方でも、それは同じようだ。

 ……本当に難しいな。

 笑う。

「……わかりました。助けに行きましょう」

 ラーズは答えた。

 答えはもともと決まっていたので、これ自体に問題はない。

 しかし、意思は通さなければならない。

「魔法はそれを扱う者に責任を要求します」

「?」

 突然、話始めたラーズに、神崎が怪訝な顔を向ける。

「……ここで言う魔法を扱う者というのは、魔法使いだけではなく、魔法使いを運用する者にも当てはまります。

 自分はこの辺りの、考え方をゆっくり浸透させるつもりでした。

 しかし、帝国がそれを望むのなら、魔法の『使い方』……お見せしましょう。

 だが、くれぐれも忘れないでください。センチュリアにおいても『それ』で滅んだ文明があることを」

 唯一の魔法王国であった『キングダム』。今、この惑星で唯一の魔法王国になろうとしている帝国。

 かつて那由他はラーズ『を』文明汚染してしまった、と言った。

 しかし、現実はラーズ『が』この国を文明汚染している。

「……なるほど。お見通しというわけか。

 正直言って見破られるとは思わなかった。

 まず、騙すような事を言った事については謝罪したい」

 神崎は答える。

 さすがは、内閣調査室のトップだけの事はある。とラーズは関心する。

 一見すると関係なさそうな、ラーズの言葉から真実を短時間で導きだした。

 高い知性を感じる。

「だが、柳葉をここで失うのはなんとも惜しい、というのは事実であることは重ねて言っておく。

 さらに言うと、内調も人材不足だ。

 再び、信頼関係を築く所からやり直すのは骨だ。

 もっとも、変更してほしいというなら、今度はもっと君好みの女性を用意することもできるがね」

「いきなり本音で来ましたね。

 なゆ太は……あのままでいいですよ。ちゃんと、お望みの方法で奪い返してきますので」

 ラーズは苦笑した。

「それと、一つお願いがあります」

「……お願い、とは?」

「いえ。簡単な事です。

 このVMEの作動ログを年萌ラボに持って帰りたいだけです。

 帝国国産の虹色回路の方の開発状況が芳しくなくて、困ってるんです」

「……それくらいお安い御用だ」

「では」

 そういうと、ラーズはVMEを手に取った。

 慣れた手つきで、それを左腕に装備してマントを羽織る。

 このマントは三層からなっているが、一番内側の一枚がアーティファクトである。


◇◆◇◆◇◆◇


「……魔法使いも難しいのだな……」

 『東雲』の後部甲板から舞い上がっていくラーズを見送りながら、神崎は呟いた。

 おそらく、ラーズは優秀な魔法使いなのだろう。

 それこそ、魔法のない世界の人々に魔法を教えられるほど。

 ……それにしても、魔法の運用の心構えを説かれるとは……

 苦笑する。

 神崎とて、自分が魔法を使えたら……あるいは、使える部下が居たら、と考える事がある。

 そして、ラーズが言うように魔法を運用する責任、などという事は一切考えなかった。

「……なるほど、確かに彼は我々に、魔法を教えてくれようとしているらしい」

「……神崎次官。

 まもなく、『東雲』の電探を起動します。危険ですので艦内へ退避してください」 

 艦尾格納庫の側面についている扉から現れた下士官が言う。

 『東雲』の電探の最大出力は、それだけで人間を丸焼きにするほどのエネルギー量である。

 もちろん、最大出力を惑星の大気圏内で出すことは無いが、それでも至近距離なら人間に危害が及ぶ恐れがある。

「わかった。行こう」

 神崎はもう一度、ラーズが飛び去った空を見て、身をひるがえした。

 十二月の択捉の空は鉛色で、とても寒かった。


「浜田大佐、陸軍側からの情報はありませんか?」

「神崎さん。

 今のところ具体的な情報は入っていません」

 『東雲』の中央作戦室……CICに入った神崎は、『東雲』の館長である浜田を見つけ声を掛けた。

 CICの天井に浮かんでいる択捉島のホロマップを見ながら、浜田は続ける。

「ただし、現地点では陸軍側もスパイは択捉島のどこか……

 高確率で単冠の東……に潜伏していると考えています。

 夜になれば、熱探知機を積んだ航空機で森林地帯を捜索すると通報を受けています」

 浜田が手元の端末を操作すると、択捉島のホロマップに陸軍の捜索予定範囲が書き込まれる。

「では、合わせてこちらもA6KーCを出すように手配しましょう」

 A6KーCとは、川西飛行機の戦闘機A6K『戦風』の偵察型で『戦風改』と呼ばれる。

 『戦風改』は単体での大気圏突入脱出性能は持たないが、高度一万メートルを二〇〇ノットで二四時間以上滞空できる優秀機である。

「一番近くに居るのは……旭川の四一五空ですね」

「永井閣下に連絡して寄越してもらおう。

 データリンクの準備はしておいてくれ」

「ヨーソロ」

 ……さてラーズ君はどうやって、柳葉を見つけるのかな?

 神崎はやはりラーズがどういった魔法を運用するのか、に興味があった。

 こればかりは、実際にラーズを戦闘状態に遭遇させてみないとわからない。そういう意味では、このシチュエーションを作ったのは那由他の僥倖であると言えた。

 


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