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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
マザーランド・リターン センチュリア逆上陸

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マザーランド・リターン センチュリア逆上陸18

 陸軍航空隊の放った噴進弾の餌食になったのは、主に前衛を務めていた『バッファロー』だった。

 米軍は旧型機を、噴進弾の発射プラットフォームとして使うと同時に、後続の盾として活用するという非常な選択をしたようだ。

 もっとも、軌道封鎖状態の米軍側からすれば、戦力の逐次投入のような愚策は取れない。

 たとえ膨大な損害が予測されようと、他の選択肢はないのだ。

「目標群、散開します」

 『疾風』の戦術コンソールが『空海』の捉えた戦況を伝えてくる。

「ハヤブサから各々。

 敵戦闘機には構うな。敵爆撃機を集中して狙え!

 荒井! 志村かかれっ!」

「応!」

 と返事が返ってきて、二機の『疾風』が加藤機を追い抜いていく。

 加藤の指示通り、一直線に敵の『ドーントレス』に向かう。

 『ドーントレス』は空母艦載機であるため、その搭載能力は限定的である。

 しかし、その限定的な搭載能力でも、戦術核程度は乗せられる。

 米軍が正気を保っているかの判断は加藤にはできなかったが、米軍は実績ベースで核兵器を使った軍隊だ。

 それも帝国本土に対して、だ。

 この状況においては、米軍が正気であることを信じる。などというのは愚の骨頂だろう。

 加藤は一旦、高度を四〇〇〇程度まで上げた。

 そして、バック角を大きく取って敵爆撃機を探す。『疾風』のコンピュータが捉えた各種情報から、外の様子はまるで昼のように見ることができる。

「……居たな……」

 『ドーントレス』の一群が高度を下げながら、プラチナレイクに向かって降下してく。

 いったん南側へ抜ける構えのようだ。

 ……その意図は……一行過で爆撃して北へ逃げる。か。

 しかし、プラチナレイクの上空へ行ってくれたのは、加藤にとってはありがたい事である。

 湖の上なら、遠慮なく撃墜できる。

「行けっ!」

 加藤は操舵スティックを翻して、スロットルレバーを思いっきり引いた。

 『疾風』は腹を上にして、一気に高度を下げた。

 照準器の向こう側に、ぐんぐん『ドーントレス』の機体が迫ってくる。

「ヨーイ……」

 加藤はギリギリまで、発砲を我慢する。

 何をどう言いつくろった所で、空気中を飛ぶ砲弾は時間と共に威力を失う。そして、相手は防御力に定評のある米軍機だ。

「テッ!」

 機首を上げながら、二機の『ドーントレス』を機関砲で薙ぎ払う。

 分間三〇〇〇発に設定しておいた機関砲が、容易く『ドーントレス』を引き裂いた。直後、自身が抱えていた爆弾によって、二機の『ドーントレス』は爆ぜて消えた。


 戦闘開始から二〇分。

 『空海』の戦術情報によると、敵は約三分の一を喪失した事になっている。

 味方の被害は約二〇機。これらは果敢に『ドーントレス』を狙って、『ワイルドキャット』や『バッファロー』に撃墜された物がほとんどだ。

 そして、プラチナレイク付近は既に帝国の支配地域である。脱出に成功したパイロットは、陸軍の地上部隊によって回収され、可能なら新しい機体に乗り換えて、また戦場に舞い戻ってくる。

 結果として、数字に現れている損害よりも、帝国陸軍の損害は少ないのだ。

 もちろん、『呑龍』と共に高高度へ上がって行った『烈風』隊も被害は皆無だ。

 加藤は、それでもクラウンハブの滑走路を目指そうとする『ドーントレス』を、急降下からの砲撃で撃墜する。

 周囲に視線を巡らせれば、高木と中本のペアがまた一機『ドーントレス』を喰った。

「そろそろ、限界のはずだが……」

 航空戦に置ける損耗率三割は、前略的には全滅と同義である。

 引き時は今しかないはずだ。

 なにより加藤の『疾風』は、そろそろ弾薬が窮屈になりつつある。

「こちらは、海軍航空隊の坂井少佐だ。

 敵機が逃亡する模様」

 サムライ坂井は、既知宇宙に最も視力のいい哺乳類であると坂井は聞いた。

 どうもその視力は、『空海』の電探よりもよく見えるらしい。

 確かに、坂井の指摘通り生き残っている『ドーントレス』が爆弾を捨てて、旋回していく。

 それを追って、遥か上空で光の帯が無数に伸びていく。海軍の『烈風』隊が追撃に移るのだ。


◇◆◇◆◇◆◇


「坂井より各々。

 敵機は逃亡を図る模様。

 このまま追撃するか、着陸して爆装するかは各員の判断に任せる。通信終わり!」

 坂井が通信を切るより早く、右前方の方で光が膨れ上がった。

 ホロディスプレイ上で、スズメ1という文字が急激に遠ざかっていく。

 少し遅れて、スズメ2とスズメ3がそれを追っていった。

「元気いっぱいだな。アイツ。

 ……はて、もうスズメ4はどこ行ったんだ?」

 と声に出してから、スズメ4が遥か上空を飛んでいる事に坂井は気づいた。

「空中管制に一機割り当ててるのか……」

 ラーズもいろいろ運用を考えているらしい。

「まあ、なにをどう言っても、隊長機が後れを取るわけには行かないよなあ?」

 坂井の右隣を、宮部操る『烈風』の一群が飛び去って行く。

 それだけではない。溢れんばかりの敢闘精神で、海軍航空隊が追撃戦に入る。

「俺も行くか……っ!」

 坂井がスロットルを開く横で、一部の『烈風』は高度を下げていく。

 これらは、クラウンハブで自由落下爆弾を補給する機体だろう。

 目視はできないが、村田の機体もこの中に居るはずである。


「しかし、アメさんは何処から来たんだ?」

 『烈風』のホロデッキに映し出される戦略地図を睨んで、坂井はそう呟いた。

 米軍機は全て北の方から来たわけだが、プラチナレイクの北側は亜寒帯の貧しい針葉樹林帯があるだけで、その向こうは北極海である。

 センチュリアの北極は地球のそれよりも、かなり強力な寒気団に覆われている。航空機の運用には向かない。

 そうなると、北極の向こうという事になるが、プラチナレイクから一直線に北上した先は、エクスディア大陸である。ここにも帝国陸海軍が展開している。

 これだけの規模の航空機が展開すれば、メール半島に展開した部隊が攻撃するだろう。

「秘密基地でもあるのか……」

 坂井の『烈風』は、海岸線と飛び越えて北極の海へと出た。

 灰色の海に灰色の空、何処が地平線かも曖昧な世界。

「警告。十二時方向熱源」

 戦術AIが告げると同時に、ホロデッキに熱源の輪郭が表示された。

「坂井から各々。

 大物だ! 取って喰うぞ!」

 操舵スティックを翻して、坂井は一気に高度を落とした。


◇◆◇◆◇◆◇


「コイツは……っ!」

 ホロデッキに映し出された赤い輪郭線を見て、ラーズは思わずそう口にした。

「『ヨークタウン』級航空母艦の輪郭モデルと一致率、九七パーセント」

 鈴女が告げるが、そんな事は見れば分かる。

 こいつは行方不明だった『ヨークタウン』級の三番艦、『ホーネット』である。

 さすがにラーズも、航空母艦がセンチュリアの北極に隠れているとは想像もつかなかった。

 ……ヤロウ。オレが前に北極飛んだ時は、黙って見てた。ってわけか……

 不意打ちを仕掛ければおそらく、ラーズは撃墜されていた。

「なるほど、ここに空母が居たから、長老院の時すぐに敵機が来たんですね」

 現在地から、長老院まで直線距離で五〇〇キロかそこらである。航空機にとっては文字通りひとっ飛びという奴だ。

 しかし、問題はそこではない。

 なぜ、前回無かった熱源が今回はあるのか?

 そんなことは決まっている。『ホーネット』が主機を起動しているのである。

「散開!」

 ラーズが指示を出すのと、眼下の氷原に無数のヒビが走るのは同時だった。

 右旋回しながら高度を落とすラーズの軌跡を追って、無数の曳光弾が氷原から撃ちあがる。

 『ホーネット』の対空砲火である。

 ……大気圏内だから陽電子砲は使えないだろ。

 つまりこの濃厚な弾幕は、すべてボフォース製の対空機関砲という事になる。

「ひょーっ。

 鈴女! もっと高度落とせ! 撃たれるぞ!」

「ヨーソロっ!」

 鈴女のコントロールされて、スズメ2とスズメ3が高度を下げる。

 氷の下から弾を撃っている都合上、低高度を飛ぶ航空機を『ホーネット』から狙うのは不可能なはずだ。

 ……それより気になるのは……

 ここまで逃げてきた敵機である。

 帝国陸海軍は、迎撃の教科書通りに敵攻撃機を集中的に攻撃した。つまり敵の戦闘機の大多数は無傷で稼働しているのである。

 ラーズは戦術情報をチラリと確認した。

 送り狼として、敵機を追跡してきた烈風は十六機。村田を除く戦闘十七飛の十二機と、戦闘一一二飛の四機。

 状況を考えると、これは罠にはまったと言えるかも知れない。

 『ホーネット』上空で大きく旋回して、急降下して来る『ワイルドキャット』の編隊を目で追いながら、ラーズはそう考えた。

 しかし、戦力比で言うと『ワイルドキャット』八〇機ほどと十六機の『烈風』は、ほぼ同じかやや『ワイルドキャット』有利程度。

 加えて、こちらはこの後攻撃隊と、その護衛の『疾風』の増援がある。

「総員、『ホーネット』から離れて、敵戦闘機の撃墜に集中せよ!」

 坂井からの指示に従って、ラーズは『ホーネット』の防空エリアから離脱する。

 低空を飛んでいたため、六機の『ワイルドキャット』が頭を押さえる形でついてくる。

「うっとうしいな……鈴女!」

 言葉での説明はいらない。勝手に鈴女のほうで特号装置経由で読み取ってくれる。

「ヨーソロ」

 高高度に対空しているスズメ4が、イ号四六型噴進弾を放つ。

 俯瞰視点の確保のために、戦域から離れた高高度に置いておいたスズメ4だが、別に武器を積んでいない訳ではない。

 ウェポンベイの中は、空対空噴進弾ガン積みだ。

 計十二発の噴進弾が雲の上で放たれた。

 ワンテンポ置いて、ラーズを追ってきていた『ワイルドキャット』がブレイクした。

 ……いい電探積んでるな……

 ラーズは機首を上げて、高度を上げる。

 おおよそ高度五〇〇〇。この高度なら『ホーネット』の対空砲もほぼ無効だ。

 ……で、避けたか……

 チラリと振り返ると、フレアやチャフをばら撒きながら『ワイルドキャット』が弧を描いて飛び去って行く。

 そして、そこへ『烈風』が襲い掛かる。

 これは宮部機である。既に四機すべてを、特号装置で操れるようになっているらしい。

 宮部機の機関砲を避けて『ワイルドキャット』が、急降下。それを宮部操る別の『烈風』の機関砲が打ち抜く。

 この間、わずかに二秒。

 見れば他の『ワイルドキャット』も、『烈風』達に追い回されている。

「じゃあ、オレも一機くらいは喰わないと……な!」

 右下方、高度二〇〇〇付近から上昇してくる『ワイルドキャット』を視認した。

 どうもこの機体は、坂井の頭を取りたいらしい。

 故に、散漫。

 ラーズに気づいていない。

 『烈風』は元々電探に映りにくいのだが、これは敵パイロットのミスである。

「けっ!」

 ラダーペダルを蹴り飛ばし、ラーズは操舵スティックを返した。

「オレの撃墜数になれ!」

 ここで『ホーネット』を沈めて、それで終わりである。もう米軍にチャンスはない。


 ユニバーサルアーク


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