旅路の果て 聖域海戦18
◇◆◇◆◇◆◇
ニ等巡洋艦『サンタフェ』の艦橋で、オールドリーブ艦長は帽子をぐしゃりと握りつぶした。
「なんなのだ! 奴らは!」
奴ら、とはオウターリアを襲撃した大日本帝国海軍の艦艇の事である。
「なぜ、地球から一七〇〇光年も離れた所に奴らが居る!? なぜ、同じ地球人の我々を攻撃する!?」
オールドリーブは、怒鳴り散らすが誰も答えない。
あるいは、オウターリアに設置された作戦本部に居るキンメル提督なら知っているのかも知れないが、今となっては確認不可能である。
彼らは、自らの前で合衆国の戦艦が撃沈されるのを見た。そして、逃げ出した。
これ自体の判断は間違っていないとオールドリーブは考える。軍法会議でも胸を張って自らの正当性を主張できるだろう。
あの場に留まっていても、ただ無為に艦を失い戦死だけであったことは明白だ。
「ジャップ共は追ってくるか!?」
「ノーサー! レーダーに反応なし!」
こちらの戦力は、ニ等巡洋艦が三隻に駆逐艦が四隻。
戦艦を含む敵主隊を相手にするには、あまりにも戦力が足りない。
「副長! 在センチュリア艦隊のバックマスター大佐には繋がったのか!?」
「ノーサー。『ヨークタウン』どころか誰も応答しません!」
オールドリーブは考えた。
まさか、センチュリアに展開している艦隊も卑怯な奇襲を受けたのではないか?
「ほかに近くに味方は居ないのか!?」
「チャートによると……『サンガモン』が航空機の輸送任務に就いているはずですが、応答はありません!」
副長がホロタブレットに目線を落としながら、そう報告する。
「なぜ誰も答えんのだ!」
そう叫んで、オールドリーブは帽子を床に投げつけた。
それから一時間、『サンタフェ』に率いられた六隻は単縦陣のまま、センチュリアの方へ向かっていた。
特に当てがあるわけではない。
ただ、センチュリアの方に向かえば味方に出会えるかも知れない。そんな期待があったためだ。
「ん?」
オールドリーブの見据える先で、一瞬星が陰った。
ように見えた。
「今、前方に……」
その言葉を全て言い終わるより前に、突如『サンタフェ』の後方に閃光が生まれた。
「……『スコット』が……そんな……」
誰かがそう漏らした。
今の今まで『サンタフェ』の後方に居た駆逐艦『スコット』が、突如として爆沈した。
『スコット』からは攻撃を受けたという報告すらなかった。
そして、再びの閃光。今度の閃光は『スコット』の弾薬庫が誘爆した物らしい。
内側から爆ぜるように、『スコット』は爆発した。
後にはわずかな破片だけが残った。
「……なんという……なんという事だ……」
今の攻撃が、対艦ミサイルによる物であることは明らかだが、肝心の発射位置がわからない。
わからないのは、『サンタフェ』のレーダー探知県内に敵艦が居ない事を示す。
レーダーの探知範囲は半径三〇〇万キロ。つまりこのミサイルはそれ以上の距離を飛んできたことになる。
オールドリーブはここに至って、自分たちがドラゴンの狩場に足を踏み入れたらしい事を悟った。
「『アンダーソン』被弾! 轟沈します!」
二隻目の被害。こちらも、一瞬で艦が二つに折れての轟沈。
状況からして、生存者は皆無であろう。
「……右転舵! 太陽を目指す」
突如として、オールドリーブはそう命令を下した。
「面舵ーっ」
復唱が行われ、『サンタフェ』の艦体がゆっくりと回答を始める。
聖域の太陽、フラッシュラーは地球の太陽と同じに見えた。
「主砲、各ミサイル発射準備」
厳かに告げて、艦長席に腰を下ろすとオールドリーブは席の脇に挟んでおいた家族の写真を手にする。
◇◆◇◆◇◆◇
「一隻こっちに来ます!」
ソナーからの報告にリスロンドは少し笑った。
「いい読みだわ」
リスロンドが乗る『ブラックバス』級巡洋艦E5312は、全アイオブザワールド所属艦の中で一番オウターリア寄りに展開していた。
地球人同士の戦いに負けて逃げて来たのだろう。
帝国の攻撃を米軍は想定すらしていなかったはずなので、それは完璧な奇襲だったはずである。
元より、後出しで絶対に負けないだけの戦力を揃えてきているこちらに、戦力の補充の効かない米軍が勝てる道理はないのだが。
「マリー、どうしましょうか?」
傍らのマリーゴールド副長に、リスロンドは謎かけでもするように言う。
「……敵は『クリーブランド』級のようですので、我が艦隊にとっての脅威は薄いかと。
引き付けて主砲での撃破が良いと思います。艦長」
確かに『アニサキス』は超光速機関搭載型でなくとも、射程威力のいづれも高い水準にある。
しかし、それゆえ高価なのも事実だ。
戦争をやっているのに、兵器の値段を考えているというのも変な話ではあるが、クーデターで生まれたガブリエルの政権は予算の正常化が上手く機能していない。
エッグと言う国家を考えた時、これは戦争云々以前の問題として国を滅ぼしかねない問題である。
故に、アベルからはなるべくケチるように。そして、使うべき時は躊躇わずに使うように。という何とも難解な指示が出ている。
今のマリーゴールドの発言は、その指示を受けての事だ。
「そうね。E7228とE7229にも通達を。
砲撃戦用意。目標アメリカ艦」
「砲撃戦準備、アイ」
「照準用レーダー起動、アイ」
「機関出力ミリタリーへ、両絃前進。出力二分の一」
E5312の主砲である二八八ミリ連装陽電子砲が起動すると同時に、僚艦を伴ってE5312が進み始める。
E型の『ブラックバス』が採用する二八八ミリ陽電子砲は、純粋に砲の性能で比較した場合、地球の戦艦以上の火力を有する。
『クリーブランド』級など、かすっただけでバラバラになりかねない。
「さあ、さっさと片付けましょう。
獲物はまだまだ居るわよ!」
◇◆◇◆◇◆◇
チカチカとレーザー通信の光が光っている。
航空母艦『レンジャー』の艦長、ブランフォード大佐は艦橋から『レンジャー』に接近して来る船を見ていた。
「『ミッドウェイ』と『クリスマス』か。
神はまだ我々を見放していないようだ」
ブランフォードが視線を巡らせると、そこには一隻の護衛空母は停泊していた。
『サンガモン』級護衛空母のネームシップ。『サンガモン』である。
正規空母の『レンジャー』とは比べるべくも無いが、この護衛空母はオウターリアから多数の航空機をセンチュリアに向かって輸送する任務についていた。
そして、『レンジャー』はセンチュリアから引き揚げた航空機をオウターリアで整備すべく運搬していた。
『レンジャー』が単体で運んでいた航空機の量は、定数を大幅に下回っていたが、今『サンガモン』から新品同様の航空機が載せ替えられている。
これで『レンジャー』は定数の九五機の艦載機を得た。そして、航空機輸送任務で艦載機の発着艦機能を奪われていた『サンガモン』も、搭載三三機の小型空母として運用可能になる。
そこに『ミッドウェイ』と『クリスマス』である。
そう。第二航空戦隊の偵察機が接触した平甲板を持つ船は、山口が予想した通り『ミッドウェイ』『クリスマス』だったのである。
それらが、たまたま近くに居た輸送艦を生贄とすることで、攻撃隊の目を逃れていたのだ。
この『ミッドウェイ』と『クリスマス』は、オウターリアで年末の休暇を楽しんだ将兵を乗せている。
もちろん、艦載機のパイロットも、だ。
「どういうことかは分からんが、卑怯な不意打ちをしたジャップ共に合衆国の力を見せてくれる」
それには今しばらくの時間が必要だ。
少なくとも、『サンガモン』から『レンジャー』へ航空機を乗せ換えて、飛べるように整備する必要がある。
「艦隊をニアまで動かす」
フラッシュラー第二惑星のニア。
ニアは、大気もなにもない地球とほぼ同じサイズの岩石の塊である。艦隊が身を隠して作業をするには最適なはずだ。
少なくとも、意図して探さない限り見つからないだろう。
かくして、米海軍が臨時に編成した空母打撃艦隊はセンチュリアから遠ざかる。
いくつかの幸運が彼らを生き残らせた。
センチュリアを巡る攻防戦はまだ始まったばかりである。
ユニバーサルアーク




