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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
旅路の果て 聖域海戦

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旅路の果て 聖域海戦14


◇◆◇◆◇◆◇


「三機で来やがったか!」

 左に緩旋回をしながら、上空を見上げてラーズは急降下してくる三機の『コルセア』を見た。

 ……意外だな……

 とラーズは思った。

 ラーズの認識では、白人至上主義のアメリカ人は根拠のない自信をもって、単騎で挑んでくると判断していたからだ。

 それも三機である。

 現在、中長距離の通信は全て妨害されているので、敵の編隊指令はなかなかの切れ者という事になる。

 敵は『烈風』のデータも持っていない事を考えれば、この判断は評価に値する。

「まあ、全部まとめて叩き落してやるけどな」

「……敵、戦術陣形はドローンのブロックを意図しています。今までの手法を使うことは推奨されません。ご主人様」

 鈴女が戦術情報を映像情報として、示しながら言う。

 まあ、それでラーズが止める。などと思っているわけでもないだろうが。

「敵機、発砲」

 ほぼ同時に、高高度に陣取っているドローンが見せる映像でそれを察知したラーズは、即座に機体を傾けて急降下に入った。

 高度一〇〇〇メートルほどまで『烈風』の高度が下がった所で、水平飛行に戻る。

 もう一度上空の様子を見ると、三機が執拗に追ってくる。

「……なかなか降りて来ねえな」

 ラーズの意図としては、敵機が低高度に降りてきてから、上昇パワー勝負で一気に背後を取りたい。

 しかし、敵機は降りてきてくれない。

 ……もうちょっと、ドローンの高度を落として……

 などとラーズが考えていると。

 ポン! という電子音。

「電探に感。航空機四接近」

「航空機四んー?」

 もう嫌な予感しかしない。

「友軍識別完了」

「……聞きたくねえなあ……」

「カンムリワシと確認」

 鈴女がそう言うと同時に、電探情報の敵味方情報が更新される。

「なんで来るかなあ、たいちょー」

 帝国海軍最強のパイロット坂井三郎少佐その人である。

「カンムリワシからスズメ。

 即時戦場を離脱し、既定の作戦行動に戻れ」

「隊長! 獲物の横取りはっ……」

「ご主人様、わたしはカンムリワシの命令に同意します。

 『烈風』の戦闘時燃料消費量を考えると、戦闘機動を続行する事は作戦を完遂できない可能性を、著しく上昇させるものと思われます」

 鈴女にそう指摘されて、ラーズはぐっ、っと唸った。

 燃料の事は分かっていたのだ。

「しかし! 隊長!」

「お前の所の戦術AIもそう言ってるだろ。

 敵を倒すのも大事だが、大目標を忘れるな!」

 ぴしゃりと坂井が言い放つ。

 大目標とは、言うまでもない。聖域の解放である。

「……それに、猫の相手ばっかりで少々食傷気味なんだ。

 外での命令不服従は見なかった事にしてやるから、行け!」

「ぐうぅ」

 ラーズは喉の奥で唸った。

「くそっ!

 鈴女! ドローンを集めろ! 北へ離脱する」

 たっぷり三秒程唸っていたラーズだが、やはり坂井の言い分が正しいのは、覆らない。

 諦めて、戦場離脱を決める。


◇◆◇◆◇◆◇


「逃げるのか……いや、バトンタッチと言う訳か」

 それがどういった意味を持つのか、グレンジャーにはわからなかった。

 新たに戦域に突入してきた四機のドロシーに、目をやる。

 中高度から緩降下に戦場に突入してきたドロシーは、僚機の『コルセア』とすれ違いざまに一閃、居合う。

「!?」

 あっという間に、『コルセア』が翼をもがれて錐もみしながら海に向かって落ちていく。

「気を付けろ! 新手は凄腕だぞ!」

 先ほど逃げたドロシーは、言うなれば連携の取れた一流パイロットが操る四機。今度のドロシーは突出した天才パイロットとその他、三人と言った組み合わせのようだ。

 特号装置による無人機の操縦という概念を知らないグレンジャーには、少なくともそう映った。

「……あいつ、ホワイトリボンをまいてやがる」

 ドロシーの左の水平尾翼と垂直尾翼に跨る形で白い線が引かれているのを認めたグレンジャーは、それが隊長機である事を知った。

 そして、そのパイロットにも心辺りがあった。

「……さっきの機動……サムライ坂井かっ!」

 生ける伝説である、帝国海軍最強の戦闘機乗り、サムライ坂井。

 まさか地球から遠く離れたこの惑星で出会うとは思っていなかったグレンジャーは、瞬時に全身の血が沸騰するような興奮を覚えた。

 もはや逃げるドロシーを追っている場合ではない。

 ぐいっと『コルセア』の機首を上げ、グレンジャーはドロシー目掛けて空対空ミサイルを放つ。

 元から当たるなどとは思っていない。

 グレンジャーが高度を取る数秒間を稼ぐための牽制である。

「!?」

 目の前で起こった事象に、グレンジャーは目を見張る。

 通常、ミサイルへの対策は急加速とフレアやチャフによる欺瞞と相場が決まっている。

 しかし、そのドロシーは加速する事も無く、ギリギリまでミサイルを引き付けた後、ヒラリと左旋回から急降下に移行した。

 あまりの機動の速さに、ミサイルの誘導用シーカーは目標を見失い、あらぬ方向へ飛んで行く。

 そして、ミサイルを回避したドロシーはノータイムでグレンジャーを目指して落ちてくる。

「っ!?」

 乱暴に操舵スティックを倒すと同時に、ラダーペダルを蹴り飛ばしてグレンジャーは急降下に移行した。

 操縦席の左側を、赤い曳光弾が流れていく。

「これが、サムライの戦いかっ!」

 聞きしに勝る、すさまじい格闘能力。

 ……勝てない!

 機体の性能でも、パイロットの腕でもサムライに勝てないとグレンジャーは判断した。

「全員でかかれ、はぐれたらやられるぞ!」

 先ほど逃げて行った、小隊とは違いこちらはサムライ坂井のワンマンチームのようだ。

 他の機体は、高度二五〇〇〇フィート付近で待機している。

 グレンジャーが一度戦線を離れて機体を立て直している間に、四機の『コルセア』がドロシーに襲い掛かる。

 普通に考えれば、急降下して回避しようとするのが定石である。

 しかし、サムライ坂井のドロシーは、一瞬ふわりと浮かび上がるなり、急減速。

 あまりの急減速に対応できなかった、『コルセア』一機がドロシーの腹下を通り過ぎてしまう。

 次の瞬間には、その機体はバラバラに砕けて宙に舞った。

 気が付けば、グレンジャーの隊の残機は五機。

 もう、数の上での優位もほとんどない。

 グレンジャーは覚悟を決めて、再び戦場へと戻った。


◇◆◇◆◇◆◇


「……猫より多少歯ごたえがあるな。海賊は」

 戦闘空域の突入時に一機。今しがたの攻防で二機を喰った坂井は、まだまだ不満だった。

「と、あいつが隊長機か……」

 ラーズを追い回していた『コルセア』。おそらく指揮機だ。

 どうやら坂井と一戦交えるつもりらしい。正面からまっすぐ突っ込んでくる。

「敵ながら敢闘精神旺盛だな。飛行機乗りはそうでないとな」

 他の『コルセア』はブレイクした。どうやら逃げるらしい。

 一瞬坂井は、それをどうするかを考えた。

 さすがの坂井も、自身が空戦をしながらドローンを扱えるわけではない。この分野ではラーズに一日の長がある。

「仕方ねえな……コンピュータ。ドローンを逃げる機体を追わせろ。攻撃はしなくていい」

「ヨーソロ」

 戦術AIが答えて、ドローンたちが逃げる敵を追って散開していく。

 ドン! と音を立てて坂井の『烈風』は敵機とすれ違った。

「……トマス・グレンジャー……か……」

 二機の戦闘機がすれ違うその刹那、坂井の脅威の動体視力はキャノピーのすぐ下に書かれたパイロットの名前を読み取っていた。

 彼我の相対速度は、おおよそ一五〇〇ノットだった。

「さあ。遊ぼうぜ」


「いい腕だ」

 三度四度と、互いの後ろを取る為の機動を重ねるうち、坂井はそのパイロットがかなりの腕であると読み取っていた。

 正式配備前の『コルセア』を、与えられているだけの事はあるという訳である。

「『疾風』だったら、いい勝負してたかもな」

 だが、今坂井が乗っているのは『烈風』。新世代の艦上戦闘機だ。

「悪いが、『烈風』に乗ってからこっち、ラーズ以外に黒星は付けられてないんでな」

 坂井は、急旋回を仕掛ける。

 『コルセア』は受けない。

 左に捻りこんで、急降下に移る。

 坂井も左のラダーペダルを蹴っ飛ばすと、『コルセア』を追う。

 普通の機動では、やや『コルセア』が勝るようだが、加減速のレスポンスは『烈風』に分がある。

 周囲の海は浅いらしく、とてもきれいな青に輝いている。

 その青の中を、『コルセア』が一直線に海に向かって行く。

 海面までのチキンレースの趣旨だろうか? と坂井は考えた。

 となれば、付き合う言われはない。

 スロットルを少し絞りながら、坂井は別の敵機を探した。

「……残り四機のはずだが……」

「敵機、失探」

 『ユーステノプテロン』から放たれた『エンハンスド・アニサキス』によって軌道投入された全波長ジャマーは、残念ながら帝国の電探も妨害している。

 無論、一定時間ごとに取り決められた周波数にジャミングの穴が開くのだが、そんなに都合よく穴が開いている訳でもない。

 どうしても、敵機の失探が起こってしまうのは避けられないのだ。

「味方を逃がす為の時間稼ぎ、か……」

 現在『翔鶴』『瑞鶴』から発艦した大部分の『烈風』は、センチュリア赤道上の敵対空陣地を徹底的に攻撃している。

 逃げた『コルセア』がそこに行ってしまうと、重量のある対地爆弾を抱えている『烈風』での格闘はツライかも知れない。

 戦闘十七飛行体に限定して言えば、モズの直掩にはチョウゲンボウを残してきてあるので、それほどの問題にはならないだろうが。

 坂井は操舵スティックを引いて、先に上昇に転じた。

 敵からは、日和ったように見えたかもしれない。

 これで、『コルセア』が上昇してくれば、坂井の背後を取れるだろう。

 そして、それこそが坂井の狙いだ。

「さあ、お前の力を見せてみろ!」

 坂井はスロットルを防火壁いっぱいまで押し込んだ。


◇◆◇◆◇◆◇


「ぐっ! くそっ!」

 空に向かって狂ったように加速して行く、坂井のドロシーをグレンジャーは絶望的な目で見た。

 サムライ坂井が、突如上昇に転じるという愚行を行った時、グレンジャーは勝ったと思った。

 しかし、ふたを開けてみれば機体の性能差でイージーに振り切られる。

 この後に待っているのは、ブレイクしたグレンジャーの背後を坂井が取る展開であるのは明らかだ。

「なら、どこまででも付き合ってやる」

 グレンジャーもまた、防火壁いっぱいまでスロットを押し込んだ。

 現実的な高度内での航空機の上限速度は五〇〇〇ノット付近である。これは一種の物理限界なので、新型機だろうがなんだろうが早々かわらない。故に加速さえ終わってしまえば、追いつけずとも引き離される事もない状況に持って行くことはできる。

 このまま上昇すれば、大気圏を突破してしまう。必ずどこかで坂井がブレイクするはずだ。

 だが、グレンジャーはある要素を忘れていたのだ。


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