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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
旅路の果て 聖域海戦

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202/605

旅路の果て 聖域海戦9

 『クリーブランド』は、あの日、逃げるラーズの乗った船を雷撃した船である。

 ラーズが『クリーブランド』の名を知ったのは、それから随分後だった。

 あるいは、エージェント・クロウラーがその名を口にしていたかも知れない。

 あの時、ラーズは狩られる立場だった。しかし、今は違う。

 そこまで考て、ラーズは闘争心の命じるに任せて、操舵スティックを思いっきり左に倒すと同時に、左のラダーペダルを蹴り飛ばして、スロットルを防火壁いっぱいまで押し込んだ。

「鈴女! ドローンも連れて来い!」

「ヨーソロ……ですがご主人様、編隊を離れたら怒られますよ? もう離れてますが」

 鈴女のアバターが困り顔で言う。

 そう言いながらもドローンを操作して、ラーズに追従させる。

「コラ! ラーズどこ行く!?」

「あー」

 ラーズは瞬時に言い訳を考える。

「……本隊の大気圏突入を妨害せしめる敵巡洋艦を補足しました。

 本機は、本体の大気圏突入を援護します」

「何言ってるっ! ラーズ! 特務をほっぽり出す気か!?」

「特務はこなします! でも『クリーブランド』は放置できませんっ!」

 きっぱりとラーズは言い切った。

 どのみち、編隊の戦闘を飛ぶ坂井はもう赤道上空へのアプローチルートに乗っている。

 今更止めることはできないはずだ。

「っ! 遅れても必ず来いよ!」


「上官の命令への不服従は、軍法会議物ですよ?」

「目の前にカタキ……少なくともカタキと同型艦が居るのに放っておけるか、っての!

 軍法会議上等だ!」

 センチュリア近海には、『ユーステノプテロン』が投入したという強力な電波妨害がかかっているので、帝国海軍も無線などはかなり限定的にしか使えなくなっている。

 軌道突入部隊と距離が開いたラーズ機はすでに無線の通信範囲外だ。

「……わたしは戦闘機なので、ご主人様の意向には全面的に従いますが……

 どうやって、巡洋艦を攻撃するんですか? 体当たりとか言わないでくださいね」

 鈴女が釘を刺す。

 実はラーズは、ドローン一機くらいならぶつけても構わない、とか考えていたので笑えない。

「イの四六を使って、防空システムに穴を開ける。

 そのあと、至近距離から機関砲を四機で浴びせる。どうだ?」

 『烈風』の二八ミリ機関砲は、それ単体でも十分強力な物である。これに加えて、宇宙空間での戦闘では相対速度が速くなる傾向にあるので、その破壊力はさらに上がる。

 ニ等巡洋艦の装甲相手なら十分な打撃力を得られるはずだ。

「『クリーブランド』級の装甲データを見る限り、有効だとは思いますが……

 巡洋艦の防空能力を考慮すると、機関砲の射程まで近づくのは困難かと」

 鈴女がそういうと同時に、前方の『クリーブランド』級の前甲板が光った。

「敵、対空噴進弾を発射。弾数八」

「イ号四六番投射始めっ! 目標敵対空噴進弾」

 双方、エッグ側の強力なジャミングを受けている状況である。

 照準は必然的に画像シーカーになる。

 違いがあるとすれば、狙っている物だ。

 敵の噴進弾は『烈風』を狙っているわけなので、『烈風』が等速直線運動をしていれば、その動きは単調になる。

 つまりイ号噴進弾の餌食だ。

 自分に向かって噴進弾が飛んできているのに、回避行動を取らないというのはそれはそれで度胸が居る。しかし鈴女によって誘導された噴進弾によって次々と、宇宙に炎の花が咲く。

「全弾迎撃成功。距離六〇〇〇」

 ……そろそろ射程距離内か……

「鈴女、ドローンを散開させろ。対空砲を分散させる」

「ヨーソロ」

 ラーズの指示に従って、ドローンたちがブレイクしていく。

 その直後、ラーズには『クリーブランド』級の船体が膨れ上がったように見えた。

「……つぅっ!」

 ほとんど条件反射で、ラーズは操舵スティックを返した。

 左に機体を振った後、右のペダルを思いっきり踏みつける。

 機種が右を向いたところで、スロットルを一瞬戻してスティックを中間位置へ。

 『クリーブランド』級の放つ弾幕が機体の下方を流れていく。

「うひょお。怖っ!」

 後続のドローンたちも、それぞれ巧みに弾道から逃れている。

「距離三〇〇〇……二〇〇〇……」

 彼我の距離が一〇〇〇キロを割り込めば、米軍が使っているターレットの旋回速度は『烈風』の運動速度に追従できなくなるはずだ。

「鈴女、ドローンにはランダム回避を徹底させろ」

「ヨーソロ」

「イの四六、全機二発づつ。敵対空兵装を狙え」

「……攻撃目標の割り振り完了。いつでもどうぞ」

「もうちょっと引き付けてから発射だ。行くぞ!」

 ラーズは慎重に間合いを詰める。

 一気に詰めないのは、動作が単調にならないようにするのが主な理由だが、他の意図もある。

「……『クリーブランド』級、VLSを解放しました。

 第二射、来ます」

 これである。

 対空砲火が当たらないなら噴進弾を使うしかない。

「撃ち方、始めっ!」


◇◆◇◆◇◆◇


 サザーランド艦長は『クリーブランド』の艦橋にて、指揮に当たっていた。

 通常戦闘指揮はCICで行われるが、敵機襲撃時に艦橋に居たため、そのまま指揮を執っている。

「……アンノウン接近中」

 突如として現れた謎の戦闘機隊は、あろうことか『エンタープライズ』を攻撃。大破に至らしめた後、センチュリアの大気圏への突入ルートを取った。

 しかし、その中の四機が突如として『クリーブランド』に向けて襲い掛かってきたのである。

 その意図は不明だが、明瞭な殺意のような物をサザーランド艦長は感じていた。

「『シースパロー』、各目標へ二発。準備でき次第ロンチ」

 実際のところ、宇宙空間を飛び回る航空機に対して、ミサイルの類はあまり効果がない。

 相対速度が速すぎて、ミサイルが追い付けないのだ。

 ましてや、現在センチュリア近海は強力なジャミングが行われており、これもミサイルの誘導を阻害する。

 アメリカ艦艇の防空は、ある程度の数の船が集まって弾幕を形成することが前提なので、『クリーブランド』一隻だけではどうしても火力は限定的になってしまう。

「CIC。敵機の正体は分からんのか?」

「……データベースにない機体です。

 構造からして地球の物だとは思われますが……依然アンノウンのままです」

「地球製か……」

 サザーランド艦長の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは、エッグと親交厚いイギリスとドイツであった。

 何らかの政治的な取引の結果として、エッグと共同して聖域侵攻を企ててもそれほど不思議ではない。

「……『シースパロー』全弾、迎撃されました。

 アンノウン、全機本艦への接近を続行」

 この航空機がどこの物かという疑問は今はあまり関係ないのかもしれない。

 すでに、この航空隊によって米海軍の空母が被害を受けているのだ。すでに状況は敵なら撃墜する。という所まで進んでいる。

「距離三五〇〇で、全対空砲斉射。叩き落せ」

 三五〇〇というのは三五〇〇マイルという事である。キロメートル換算で六〇〇〇弱。

 だが、その瞬間アンノウンがブレイクした。

「……読んでいたのか!?」

 サザーランド艦長は驚愕した。

 実際には、マイルとキロメートルのキリのいいところの差なのだが、メートルの文化のないアメリカにそれを理解するのは不可能である。

「……アンノウン散開します」

「火力を分散させるな! 一機を狙い打て。

 他の機体には、もう一度『シースパロー』で対処する」

 そうこうしている間にも、四機は対空砲火を軽々とかいくぐり、間合いを詰めてくる。

 ……マズイ。

 その様子に、冷たい汗が流れるのをサザーランド艦長は感じていた。

 アンノウンの加減速の速さに、『クリーブランド』のFCSが対応できていない。

 いや、もっと距離が詰まればFCS以前にターレットの旋回速度が追い付かなくなる。

「取り舵一杯。推力最大。アンノウンからの距離を稼げ」

 しかし、船舶としては高速な巡洋艦も、十分に加速が乗っている航空機に比べると圧倒的に遅いと言わざるを得ない。

 それでも『クリーブランド』は、旋回を終えて加速を始める。

 距離を取る。という判断は良かったかもしれないが、迫ってくるアンノウンに対して艦尾を向けた事で、射撃できる対空砲が減ったのもまた事実だ。

「『シースパロー』……ロンチ!」

「アンノウン1から4、ミサイルをロンチ。弾数合計八。

 急接近!」

「CIWS自動迎撃開始!」

 CIWSは最終防御手段である。毎分六四〇〇発のレートを誇る対空レーザー砲だ。

「……ミサイル1、迎撃成功……」

 ブリッジから見える後方で、爆発が起こった。

 これが迎撃に成功したミサイルだろう。

 残り七発。

「このミサイル……性能がいいな……」

 思わずサザーランド艦長はそう呟いた。

 残り七発のミサイルが一斉に襲い掛かってくる。

「続いてミサイル2、迎撃成功」

 かすかに『クリーブランド』の船体が揺れた。

 迎撃に成功したものの至近弾になったらしい。

 だがアメリカ製のCIWSも負けていないとサザーランド艦長は思った。

 『クリーブランド』は激しく蛇行を繰り返しながら、それでも接近するミサイルの迎撃を続ける。

「……ダメか……?」

 また『クリーブランド』が揺れた。

「……艦尾CIWS被弾。沈黙しました!」

 敵のミサイルがCIWSの至近距離で炸裂、その機能を奪ったらしい。

「取り舵一杯。主砲も機関砲も全て迎撃に充てろ。

 向こうは本気だ。こちらも本気で迎撃してみせろ」

「イエッサー」

「航空機、全機引き続き本艦に接近中」

 そして、サザーランド艦長は見た。

「ミートボール……?」

 ミートボールとは、日の丸の事である。

 『クリーブランド』に背を見せて、旋回していく航空機の翼には確かに日の丸があった。

「……なぜ?」

 航空機の内二機が急旋回をかけ、『クリーブランド』へ向かってくる。

 対空砲は全てミサイルの迎撃に向かっている。航空機への対応はできない。

 ……なかなかの飛行機乗りだ……

「直接本艦を攻撃する気か……」

「突っ込んでくるぞ!」

「艦長! 退避してください! 艦長!」

 航海士に手を引かれて、サザーランド艦長が艦橋から転がりでるのと、航空機の砲撃が艦橋を引き裂いたのはほぼ同時だった。

「なんて野郎だ! 撃ってきやがった!?」

「CICから艦長! 艦の気密にダメージ。

 対空レーダーの一部が損傷、統制射撃機能喪失!」

 CICからの悲鳴に似た報告。

「ダメージ区画から、要員を退避させたのち、閉鎖。急げ!」

 インコムに向かってサザーランド艦長が怒鳴り返した時、『クリーブランド』が大きく揺れた。

 今までの揺れとは違う。どうやら、敵のミサイルが命中したらしい。

「……くそっ。なんなんだアイツは」

 艦にデータのない航空機の攻撃、組織的迎撃ができない特異なシチュエーション。これらが合わさった結果、今の状況になっているのは明らかだ。

 そのシチュエーションを生み出したのが、二年以上前に撃沈できなかった脱出船に起因している事を、ついにサザーランド艦長は知ることはなかった。

 『クリーブランド』の艦橋上部に命中したミサイルが、ブリッジ要員の大半を殺傷したからだ。


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