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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
魔法使いの本分

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魔法使いの本分6

 そして、トワイライトゾーン的な話であることを裏付けるように、それは立っていた。

「うをっ!?」

 何気なく視線を上げたラーズの見る先にそれは立っていた。

 驚いてラーズは飛びのく。

 気配もなければ存在感もない。無論魔力の流れも感じない。

 着物を着た女性の姿をしたそれは、ゆっくりとラーズの方を振り返った。

 ……これは雪女ってやつか!?

「……日本は妖怪吹き溜まり、と歌ってる歌があったが、その通りとは恐れ入った」

 そんなことを言いながら、暫定雪女を観察する。

 身長は一五〇センチ程。黒髪のおかっぱ。

 着物は白をベースに、淵に青や赤のラインが入っている。

「なんか日本っぽくねえな。なんつったか、アイヌの精霊的な……?」

 最後を声に出していったのは、相手に答えてほしかったからなのだが、暫定雪女はそれを無視してあらぬ方向を指さした。

 それを見て、ラーズはラボの見取り図を思い浮かべる。

 ……ほぼ北東。

 そちらの方向には、小さな町があったはずだ。しかし、距離は五〇キロほど離れている。

 ラーズが位置関係について考えていると、暫定雪女は一礼して消えた。

「……オレに何か頼みたい、って事なのか?」

 トワイライトゾーン的な話なら、自分の死体がその辺に埋まってる的な流れだとラーズは考えた。

 それよりなにより、またややこしい事に巻き込まれそうな予感があった。

「……君っ! 大丈夫かね?」

 唐突に後ろからかかった声に、ラーズは振り返った。

 そこにはいつやってきたのか、ガードマンの姿があった。

「えっ!? ああ、ガラスが割れた音がしたんで見に来たんだけど……」

「こりゃ酷い。明日の朝一で修理しないと……」


「せっかくのお休みだから、街のほうに行かない?」

 休みの日の朝も早くから、那由他が言う。

「眠い。パス」

「ちょっとぉ! 服とか買わないと、着替えもろくにないんでしょ?

 諜報外交費は貰ってきたから、ぱぁっと行きましょう」

「パス。眠い。

 大体、休みの日って、毎日休みの奴に言われたくない」

 再び寝床に潜り込むラーズ。

 ラーズは昼まで寝たら休日出勤するつもりだった。

 月曜日の進捗確認会議までに、虹色回路の性能改善案をいくつか用意しておきたかったのだ。

 それには、現状の性能評価結果の分析が不可欠であるが、データは持ち出せないので出勤せざるを得ない。

 幸い職場は、地下の連絡通路を一〇〇メートルも歩けば到着する。

「……人を無職みたいに言わないで! 内調の職員よ!? 世間的にはエリート中のエリートよ!?

 わかる!?」

 那由他が吠えまくるが、知った事ではない。

 ……そういえば、暫定雪女が街の方を指さしてたな……

 ラーズはがばっと、起き上がった。

「シャワー浴びてくる。

 ……のぞくなよ」

「のぞかないわよ! わたしの事、一体なんだと思ってるのよ!?」

「はいはい」

 ラーズは、シャワールームに入り考える。

 ……昨日のアレが幻覚の類でないと仮定する。

 とりあえず、これは大前提である。

 まず、暫定雪女の正体が気になる。

 センチュリアではああいった、実態が無くて意識がある物をスピリット体と呼ぶ。

 それは大多数が、キングダム後期に製造された人造スピリットである。主にデータの記録媒体として使われていたようだ。

 しかし、この国にキングダムのような魔法王国が存在した事実はない。ないなら、人造スピリットを作る魔法使いも居ないはずである。

 シャワーを頭からかぶる。

 細くて長いラーズの髪の毛は、空気中のごみを絡めとってしまう。日本の空気は澄んでいるが、全くダストが飛んでいないわけでもないので、シャワーの水が微妙に黒く濁って流れる。

 髪の毛は水で洗うだけである。石鹸を使うと痛むのだ。

 人造スピリットの類でないなら、暫定雪女の正体はなんだろうか?

「……ほかにありそうなのは、自分の精神を儀式魔法で分離した奴とか、か……」

 確かそんな魔法があったはずだ。無論その魔法の発動プロセス自体はキングダムと共に失われたが。

 ……大体この国、魔法とか無いって言ってたじゃねえか。なんで魔法前提で考えてんだよ、オレ。

 悲しいかな、この国の文化に馴染み始めたとはいえ、魔法使いは魔法使いである。


「じゃーん! スノーモービル借りてきたのよ」

「ええ……」

 寮の外に止めてあった大型のスノーモービルの前で、ポーズまで取って言う那由他にラーズは死ぬほど嫌そうな顔をした。

「オレ、自分の魔法で飛んでいくから、一人で行ってほしい。

 ……あの世へ」

 ラーズの言葉に那由他はかぶっていた帽子を思いっきり地面に投げつける。

「なんで事故る前提なのよ!? ねえ!? わたしの事運転下手とか思ってる!? 思ってるでしょ!?」

「なゆ太、日本には素晴らしい和歌という文化があるじゃないか……」

「……?」

 突然ラーズの話が飛んだので、その意味が分からず那由他が黙る。

「……一姫、二虎、三ダンプって」

「やっぱりわたしの事バカにしてるでしょう!?

 そもそも、それは和歌じゃないし、大体どこで覚えてきたのよ!?」

「うむ。『日本交通標語一〇〇選』民明書ぼ……」

「嘘おっしゃい!」

 ぜーはーと肩で息をしながら、那由他。

「うるさい奴だな……朝から近所迷惑だぞ」

「午前十一時は朝とは言わないの」

「メンドクサイ奴だな。

 じゃあ、こうしよう。

 なゆ太がスノーモービルで走る後ろをオレが飛んでいく。

 安全そうなら乗る。

 どうよ?」


 沙那村落は択捉島唯一の民間人による街である。

 人口二〇〇〇人強。主な産業は漁業であるが、北に陸軍の国境警備隊、南に海軍の泊地があるため、これらの軍人相手の商売もまたこの街の重要な産業である。

「普通の冬の漁村って感じだな……」

 率直なラーズの感想である。

 街の中心部にある商店街、そこにある衣類専門店。

 衣類専門店である。決してブティックなどというおしゃれなものではない。田舎の商店街の服屋さんだ。

 那由他が、服を買ってくれるというので、ここはありがたく買って貰おうとラーズは考えていた。

 まあ、その予算が内調から出ているのも分かっているのだが。

「ところで、寒くないの? そんな薄着で?」

「いや……まあ、エアコンジャケットあるし……」

 ラーズの恰好は、セーターにコート。ボトムは綿のズボンである。これに毛糸の帽子という物だ。

 この時期でも氷点下二〇度にもなる択捉では、寒い恰好であると言える。

 那由他の疑問は当然であるかも知れない。

 だが、センチュリアのテクノロジーも地球のそれに勝る面もあるのだ。

「ああ。エアコンジャケットってのは、魔法使いの自己保護用の障壁の一種な。

 まっ、障壁内部の暖房だな」

 エアコンジャケットを含む術者保護システムは環境制御と言われ、本来はVMEによる集中管制が行われている。

 現在、そのVMEがないのでラーズの使っているエアコンジャケットは本当にただの暖房である。

「……なにそれ。胡散臭い」

 那由他が言った。

「いや、この国の色んなものの方が圧倒的に胡散臭い」


「よくお似合いですよー」

 というのは、服屋の店員におねーさんの言葉である。

 ……センチュリアと変わらねーな。

 どうも店員の接客と言うのは最適化されるとこの形に収束するらしい。

「……なんかこう……ダークグレイとか赤とか使ったようなのがいいなあ。

 あとアウタースカートとかないの?」

「それよく似合ってると思うけど」

 これは那由他の意見。

 黒いズボンに少し黄色がかった白のトップ。いずれも表面は化学繊維で内側はネルっぽい生地で着心地はいい。

 選んだのは那由他なので、似合ってると思うのは当然だろう。

 もっとも、極寒の地における普段着なので、あまり無茶なファッションも無理ではあるのだが。

「……アウタースカート?」

「あー。腰の周りの外装。

 本来は太ももの外側を守るための分厚い布だけど」

 ラーズは説明した。

 アウタースカートは現状ただ下半身にボリュームを出すだけの物だが、魔法使いのデザイン上非常に重要な装飾品であるといえる。

「グレイのトップスならこちらに」

「んー。……もうちょっと濃いのがいいなあ」

「……意外にファッションにうるさいのね……」

 魔法使いが魔法を行使する際、光が出る。センチュリアに置いて、アクセサリーはこの色に合わせるのがいいと考えられいる。

 無論これは迷信であり、ラーズ自身も迷信であると断言しているが、絵的にも色は合わせた方がカッコいいのは間違いない。

 結果的に、ラーズは赤とダークグレイという組み合わせを好むのだ。

 さすがに、赤とグレイだけだとくどいので、マントはびろうど色だが。


「……結局半日かかってしまった……」

 薄曇りの空を見上げ、ラーズは呟いた。

 最終的に、ダークグレイのトップにライトグレイのボトム、白いマフラーとベレー帽。という姿に落ち着いた。

 ちなみにアウタースカートは取り扱っていなかった。

 服屋で買い物をした後、那由他が晩飯を奢ると言うので、奢ってもらって本屋によって街を出たらこの時間である。

「早く帰らないと、日が暮れるぜ」

 スノーモービルで走る那由他の頭の上を飛びながら、ラーズは言う。

 択捉の冬、宵闇は一気に訪れるのである。

「本屋であんなに粘るから……」

「……好きな本ぐらい物色させろ。

 それに極めて知的なビジネスの本も手に入ったし。まあいい買い物だった」

「『ごんぎつね』と『つるのおんがえし』のどこら辺が……」

 那由他がこぶしを振り上げ、文句を言おうとしたとき、ラーズは別の音を聞き取っていた。

「なゆ太! 後ろからデカいトラックが来る。五台くらい。

 道幅ギリギリだぜ。ありゃ」

「……しかたないわね。脇にどいてやり過ごしましょ」

 そういって、那由他は路肩……かどうかは分からないが、道の脇にスノーモービルを止めた。

 ラーズもその隣に着地する。

 一分もしないうちに、トラックの走行音が聞こえてきた。

 さらに一分ほどで、二人の前を巨大なトラックが通過する。

「……陸軍の軍用トラックだわ。

 何処にいくのかしら?」

 那由他の言う通り、この先は単冠の海軍基地くらいしかない。

「軍港に行くんじゃねーの?」

「んー。確かにまだ本土への連絡便はあると思うけど……」

「じゃあ、それだろ……

 ……しかし、すげえな二〇〇人以上乗ってるぜ」

「わかるの?」

「ああ。先頭のトラックは空だったけど、ほかの四台に三〇人弱ずつ」

 こともなげにラーズは答える。

 ……でも、本当になんなんだろうな? なんか重武装しているっぽい気配がするし。

 無論、越冬訓練というのが陸軍にあることはラーズも知っている。これがそうで無いと言い切れるわけでもない。

 しかし、何か違う気配をラーズは感じていた。


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