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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
旅路の果て 聖域海戦

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旅路の果て 聖域海戦3

「まず、最初に作戦の概要です」

 ルビィは指揮棒を振ると、投影されていた画像がズームされ、二つの惑星が大きくホロデッキに映し出される。

「センチュリアとオウターリアです。

 現在、我が方の強行偵察で侵略者たちはこの二つの惑星で活動しています」

「センチュリアはともかく、外惑星でもアメリカ軍は活動している?」

 古賀の質問にルビィは頷いた。

「はい。その通りです長官。

 強行偵察で、アメリカ軍がオウターリアで資源の採掘をしている事、およびオウターリアを基地化している事が判明しています」

「なるほど、補給線か……」

 ガブリエルが政権を取った後、アイオブザワールドの聖域守護艦隊は即座に聖域付近の海域封鎖を実施した。

 この結果、数隻のアメリカ船籍の貨物船が撃沈された。

 現状ラーズが聞いて居る限り、封鎖は完璧に近い状況であるとされている。

 ならば資源の現地調達は、おおよそ納得のいく話だ。もっとも、センチュリアの民としては資源をくれてやるなどもってのほかだが。

「はい。

 ……古賀長官のおっしゃる通り、我々が攻略するセンチュリアとその近海では……

 第一段階として、センチュリアの軌道封鎖の解除と、補給線の破壊。第二段階は、センチュリアへの強行突入と残存艦艇の掃討。という事になります」

 ルビィはすたすたと歩きながら、指揮棒でセンチュリアを示す。

「それでは、作戦の説明と調整を行いたいと思います。

 まずは、エッグ側の作戦要綱から……」

 それから約八時間に渡って、エッグと大日本帝国の将兵による激論が始まった。


「あーっ。疲れた……」

 ぼふっ。っと部屋の隅に積み上げられている座布団に倒れこんで、ラーズは呻いた。

 『翔鶴』の航空兵員待機室の一室、戦闘一七飛行隊に与えられた一室だ。

 航空兵員待機室、などと偉そうな名前が付いているが、なんのことはない、畳敷きの一二畳間である。

 男四人がゴロゴロするには広すぎるくらいである。

「疲れておるのう」

 と言っているのは、男四人ではないケモミミの幼女である。

 航空母艦に幼女を乗せていいのか、という話ではあるが、この幼女は戦闘一七飛行隊のセルフ稲荷神社として空母に積載されている。

 自出も伏見稲荷で申し分のない、お稲荷さんである。

 伏見稲荷と言っても、神社ではなく駅だが。

「聖域の為なのはわかってるけど、八時間ぶっ続けはキツイぜ」

「そういえば、さっき上陸許可うんぬんの放送流れてたよな? ラーズは上陸するのか?」

 坂井はどうやら上陸するつもりらしい。

「……歯ブラシ折れたんで、買いに行ってきます」

 座布団に倒れたまま、ラーズは手を上げてそういった。

「歯ブラシなら『翔鶴』の購買でも買えるんじゃないすか?」

 これは宮部。

 ちなみに『翔鶴』にある購買部は、ちょっとしたデパートくらいあったりする。

「極細軟毛の歯ブラシ、欠品なんだってよー。宮部っち」


 実際の所、歯ブラシうんぬんは置いておいて、ラーズはエッグフロントに用があったのだ。

 エッグ側の入国管理局が用意した連絡船に乗って、その中で入国審査を済ませたラーズはエッグフロントの旅客ターミナルに付いた。

 帝国の将兵の第一陣として、一万人程度が上陸していると言われているので、周囲は日本人ばかりである。

 その雑踏を抜けるや否や、ラーズは高機動魔法を使って一気に目的地へ向かう。

 仮にまともな方法でラーズを追跡している者が居ても、これには早々付いてこれないはずである。

 『翔鶴』を出て約三時間。ラーズは豪華な看板を掲げたイギリス料理の店の前に居た。

「……イギリス料理って、旨いイメージないんだが……」

 ラーズの認識では、世界に轟くメシマズの国。それがイギリスである。

 スコン以外人類が食べるに値する食品はないらしいが、果たして。

「ラーズ・カーマァインツゥア様ですね。こちらへどうぞ」

 ラーズが店の扉を潜ると、タキシード姿の紳士が出迎えた。

 ……なるほど。ここはそういう店なのか……

 タキシード姿の紳士に連れられて、ラーズは店の二階に通された。

 入口に屈強なボディーガードが二人立っていたが、果たして有事の際に使い物になるのかどうか?

「こちらです。ミスタ・カーマァインツゥア」

 扉を開けながら、タキシード姿の紳士は言う。

 その部屋には特になにもなく、奥にもう一枚の扉。

 扉の前で立ち聞きされないための、バッファーという訳か。

「それでは、ごゆっくりどうぞ」

「ああ。ありがとう」

 ラーズの礼を聞くまでもなく、タキシード姿の紳士は既に踵を返していた。

 ……チップとか要らなかったのかな?

 まあ、要らなかったのだろうが。


◇◆◇◆◇◆◇


 扉が開いた。

「ラーズ!」

「アベル!」

 本日二度目ではあるが、アベルとラーズはがしっ! とハグをした。

「まずは……本当に生きていてくれてよかった!」

「バカ野郎! 宇宙に放り出されたくらいで……大体、負けて逃げたまま死にました。とかあるかよ」

 ラーズは一度アベルから離れた。

 アベルは、わざわざラーズとの情報交換の為にこの場を用意したのだ。

「まあ、メシは適当に食ってくれ。アイオブザワールドのおごりだ」

 ラーズに席を進めつつ、アベルは自分もテーブルに着く。

「……色々交換したい情報はあるんだけどな……まずは……

 レイルは?」

「……ダメか」

 ラーズの問いかけにアベルは思わず唸った。

 ラーズがそう言う事を聞いていると言う事は、大日本帝国にレイルは居ないという事になる。

「そっちもダメかぁ……エレーナが居たから、あるいは。とか思ったんだけどな……」

 椅子の上で大きく反り返って天井を見ながら、ラーズはそう呻く。

 あるいは、大日本帝国側がレイルを捕えて隠しているという可能性もあるかも知れないが、果たしてラーズに探知されずに隠し通す事が可能な物だろうか?

 ……あんまり考慮する必要もなさそうだけどな……

 しかし、そうなるとレイルがどうなったかは概ね二択。宇宙を未だに漂っているか、あの場にいたもう一つの勢力。つまりアメリカの船舶に拾われた可能性だ。

「宇宙に放り出したごときで、レイルの野郎が死ぬとは思えねえしな」

「だな」

 アベルとラーズはそこで話を切った。

 お互いの意見が一致している事が確認できたからだ。

「あと、エージェント・クロウラーはどうなった?」

 ラーズと共に、あの日宇宙に消えたエージェント・クロウラー。アベルは、ルビィやレプトラに痕跡を追わせた事は何度かあったが、見つけることはできなかった。

「……残念だが……」

「……そうか」

 ラーズのその言葉だけで、事情を察するには十分だった。

 おそらく遺体は宇宙に流されたのだろう。

「家族への補償とかは……」

「そりゃ心配すんな。配慮するから」

 実際、潜入工作員の家族への補償などはない。そもそも、工作員になった地点で死んだのと同じような物である。


「なあ、アベル」

 何かのパイをつつきながら、ラーズは唐突に口を開いた。

「んー?」

「……お前、これで終わると思ってるか?」

 食べるのを止めて、ラーズはアベルの方に向き直る。

「これで、ってのが聖域奪還作戦の事なら、終わりじゃない。

 ここからセンチュリアの復旧やら、対米の政治的な……」

「違う」

 そう言って、ラーズは身を正した。

「違う? 違うってのは、どういう事だ?」

「……アベル。お前、センチュリアの赤道グルっと一周、何キロか覚えてるか?」

 その質問の意味がアベルにはよくわからなかった。

 しかし、数値は覚えている。

 だから、アベルは首を傾げながらもその数値を口にした。

「四万四千四百……三七キロ。だったかな? 小数点以下は忘れた」

「ご名答」

 ラーズはぱちぱちと手を叩いた。

 そして、真顔に戻る。

「……お前、この数値、中途半端だと思った事、ないか?」

 アベルはその質問の意図を計りかねていた。

「そんなん、都合よくピッタリの数値になるわけないだろ?

 ピッタリの数字の方が気持ち悪いぜ?」

「だよな。オレもそう思う。

 アベル。地球の赤道グルっと一周、何キロか知ってるか?」

 さすがにアベルも外惑星のサイズなど知らない。

 ……確か、センチュリアよりちょっと小さいんだよな。地球。

「四万キロくらい、か?」

「おっ。さすがだな。正解だが。正確じゃない」

「?」

「答えは四万キロだ」

 やはり、アベルにはその言葉の意味が分からない。

「四万キロは正解だけど、正確じゃない? よくわからん」

「正確じゃない、ってのはそこじゃねえよ。『くらい』の部分だ」

「はあ?」

「地球の赤道……まあ、より正確に言うなら極から赤道までの距離は一万キロ。その四倍で四万キロだ。ピッタリな」

「……? っ!? おい! まさか!?」

 さすがにここに居たって、ラーズの言いたい事を察して、アベルは声を上げた。

 つまり、逆。

 偶然ピッタリ四万キロなのではない。地球のサイズを元にメートル法が決まっているから、ピッタリなのだ。

「ああ。オレもあまりにも普通過ぎて考えても居なかったんだが……メートル法は地球の単位だ」

「そんなバカな! キングダムの古文書だってメートル表記だぞ!」

 キングダム時代の文書の多くは遺失したが、それでも時折見つかるそれらの中にメートル法を見る事はできる。

 しかし、である。

「地球人類が超光速機関を発明したのは二四世紀。今はほぼ三一世紀。七〇〇年前だ。

 連中。到達してたんだよ。キングダム時代のセンチュリアに」

「……じゃあ! アメリカ軍は!」

「いや。それは違う。

 アメリカはヤード法の国だ。今も昔も、な。

 だから入植者はアメリカ人じゃあない」

 これは恐るべき情報である。とアベルは戦慄した。

 事と次第によっては、地球人類そのものとの付き合い方を考えなくてはならない。

「……残念ながら、入植者が何者なのかはわからなかったが……

 確実に言えることがある。

 誰かが嘘を付いていて、本当の事が見えなくなってる」

 ラーズはアベルの方を見た。

「アベル……この話、少なくとも悪い宇宙人を退治して終わり。って訳にはいかねえぜ?

 終わるどころか、下手すりゃ始まってすらいないのかもな」


 ラーズは去った。

 会談はアベルが想像したよりも、遥かに有意義な情報をもたらしたが、同時に不安ももたらした。

「だが、もう始まってしまう」

 もたらされた情報を検証する時間もないまま、戦争の火は一気に燃え上がろうとしていた。


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