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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
歴史のしるべ - エッグ叛乱

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歴史のしるべ - エッグ叛乱16


「……ああ。これね。

 無理」

 アベルの差し出した人事案を見て一番、ガブリエルは無慈悲にそう答えた。

「ええ……」

 なにかどっ、っと疲れが出たような気分になってアベルは、次の言葉を繋げられなかった。

 しかし、聞かない訳にもいかない。

「……なんで?」

 と。

「言うの忘れてたけど……ナイトもプリーストも、というか政治家全部だけど、魔法使いしかなれないの」

 確かに初耳だが、それ以上に意味が分からない。

「魔法使いかどうかと、政治家かどうかに関係があるとも思えないんだが……」

「まあ、確かに能力的には別に関係ないけど……ハードル作っとかないと、際限なく政治家が増えちゃう」

 確かにエッグに置ける政治は院政で、農林院、商工院、貴族院、宰相院、本院に政治家が所属する形で行われる。

 政治と言うのは本質的には数の暴力なので、誰でも自分の味方をする奴を院に入れたいと思うのが、まあ普通だ。

 それを防止するために、なぜかエッグでは魔法使い以外が政治をできないようにすることで、リミットを設けているらしい。意味不明だが。

「大体、なんでモス家とかが魔法使い魔法使いって、騒いでると思ってるのよ」

「うっ」

 確かに言われてみればその通りだ。

 慈善事業でやってるわけではない事は、アベルもわかっていた。しかし、それ以上の意味は考えても居なかった。

 痛恨である。

「まあ、一応商工や農林は代替魔法使い立てればいい。っていうルールがあるけど、他はダメだしね」

 どのみち、政治家一人に付き魔法使い一人が必要。というシステムらしい。

 ……ポイント制か何かか?

「……と言うわけで、あなたの配下だと、エレーナ、ルビィ、シャーベットが候補ね」

 一気に質が下がる。

 アベルの希望通りの人事はルビィだけである。

 だからと言って、数を減らせば相対的にアイオブザワールドの発言力が低下する。

「あと、レクシーは返してもらう、ってユーノが言ってたわよ」

「それは断固拒否する」

 当たり前である。

 ドラゴンナイトにできなかろうが、今のアイオブザワールドに残っている数少ない艦船運用のプロフェッショナル。そうそう手放せるわけはない。

「本人の意向次第だと、おねえちゃんは思うの」


 クーデターから一週間が経った。

 ドラゴンマスターの執務室。アベルは既に消耗しきっていた。

「と言うわけで、もう疲れたからここで人事発表する事にする」

 本来なら、式典でも開いて勲章でも授けるべきなのだろうが、そんな余裕がアベルにはない。

 ついでにアイオブザワールドにはそんなお金もない。

「はーい」

 顔ぶれはいつもの六名だ。何か得も知れない安定感がある。

「まず。ドラゴンナイト。エレーナ」

 パチパチパチ。と適当な拍手が起こる。

 拍手一つ取っても、みんな疲れているのがよくわかる。

「次、プリースト。まずはシャーベット。

 んで、ルビィ」

 再び拍手が起こる。拍手する手が減ったので明らかにスカスカの拍手である。

「ルビィは、後述の別の役職を兼任してもらう」

「えーっ」

 心底嫌そうな顔でルビィが、ぶうたれる。

「給料は多いぞ」

「嬉しくないです」

 ドラゴンプリーストになった地点で、上級魔法使いのルビィの給料は、並みのサラリーマンが一生届かないような金額になっている。

 これ以上増えても。という事なのだろう。ちなみに税金も高い。

「次、レクシー。

 アイオブザワールド艦隊司令長官をやってくれ。オレが用意できる最高のポストだ」

「……はい。喜んで承ります」

 レクシーは概ね納得の人事。と言ったところか。

 これはユーノに連れ去られないための人事だが、アイオブザワールドにおける艦隊運営のノウハウを最も蓄えているのがレクシーであるのも、事実。

「あと、『ユーステノプテロン』の一番艦。わたしが貰いますね」

 この辺りは抜け目がない。

「あら? 一番艦はてっきりドラゴンナイト殿かと……」

 シルクコットが所感を述べるが、まあそう思われても仕方ない所ではある。

「……わたしは……とりあえずG型貰う約束だから、いいわよ」

 エレーナがそれに対して、ぼそっ。と呟く。

 アベルの直属で、艦船の受け取りに絡むのは、エレーナとレクシーだけなので必然的にこの二名間で合意された事は、アイオブザワールド全体で合意されたのと同じ事になる。

「まあ『パンデリクティス』の一番艦は、こっちに優先配備してもらうけど」

「出来てない船の話をしない。

 で、レクシーの艦隊だが、ここの主席参謀長をルビィにやってもらいたい」

 ちなみに、主席参謀長という役職は、作戦立案の最高責任者である。そして、最高責任者は前線に出て自分が立てた作戦の指揮を執る、

 言うなれば艦隊トップのポジションである。

「んでシルクコット。もう、ここまで来たら言うまでもないけど、陸戦ユニットの司令官に任命する。

 こっちは、シャーベット配下の陸戦魔法使いまでまとめてもらう予定だ」

「あの……」

 とボソッ、とレプトラが呟く。

「……ひょっとして、この人事って必要な役職を六人で割っただけ、って事なんですか」

 いきなり本質を付く。

「鋭いな。その通りだ。

 何しろこれだけしか手持ちのリソースが無いからな」

「いや、できれば否定してもらいたいんですが……」

「そんなレプトラには、情報分析ユニットの取りまとめをやってもらう」

 アベルはうんうんと頷きながら、レプトラの仕事を告げる。

「やった! もうマイスタ・アベルの秘書もどきはしなくていいんですね」

「いや。それはやってもらう」

 ノータイムでレプトラの希望をへし折る。

 外から秘書を連れてきても無茶はさせられないので、レプトラのようにつぶしの効く秘書は、ドラゴンマスターにも絶対必要だ。

「……ですよね……」

 半ばあきらめたような声で、レプトラは呻いた。


◇◆◇◆◇◆◇


 時間は飛ぶように流れて、クーデターから三週間。

 その日、ルビィはエッグフロントでの会議を終えて、寝床として確保しているウィークリーマンションへと引き上げようとしていた。

 ドラゴンプリーストの職務は多忙を極める。

 多忙の原因の大半は、人手不足ではあるし、関係機関には増員の要請を延々と出し続けているのだが、一向に改善されない。

 もっとも、使える人材が突然湧いて出てくる訳はないので、仕方ない所ではあるのだが。

「よいしょっと」

 ルビィは、ずっと昔から使っている革のカバンを肩にかけた。

 幸いな事に、ルビィの仕事はホロノート一つとネットワークがあれば、ほとんどの場合事足りる。

 荷物はそれほど多くはない。

「お疲れさまです。ドラゴンプリースト」

 ルビィは黒地に赤のラインの入ったドラゴンプリーストの式服の袖を上げて、職員に答えた。

 実はアベルはアイオブザワールドに制服を設定していない。

 しかしこれが不評で、多くの職員がガブリエル時代の制服をそのまま使っていたりする。ルビィもガブリエル時代のドラゴンプリーストの式服をそのまま使っている。

 まあ、アイオブザワールドの台所事象が見えているルビィとしては、それを面等向かって批判する事もできないのだが。


「ドラゴンプリースト」

 ルビィが声を掛けられたのは、まさにオフィスを出ようとしてセキュリティカードをセンサーにかざした時だった。

「申し訳ありません。実は……」

 そう言っているのは、確か外交部の女性だ。名前は何といったか……

「いえ。いいわ。何かしら?」

 ドラゴンプリーストというと、何か魔法の研究に没頭しているようなイメージがルビィにはあったのだが、実際にはそんなことをしている時間はほとんどない。

「……実は、ドラゴンマスターに面会したいという方が見えておいででして……」

「……?」

 ここはエッグフロントである。ドラゴンマスターへの面会ならユグドラシル神殿に行くべきだ。

 もちろん、アベルも連日の激務でそれどころではないだろうが、だからと言ってエッグフロントで面会、などと言っても仕方あるまい。

「地球人の方です」

 ……よくわからない。

 それがルビィの感想だった。

 ドラゴンマスターというのは、あまり対外的には意味のない役職である。なぜなら、対外利権にあまり関わらないからだ。

「どこの誰かしら?」

 正直なところルビィは人間がキライである。人間が怖いと言ってもいい。

 だからおのずと警戒する。

「ミスタ・キドと名乗っています」

「キド?」

 聞き覚えは無かった。

 少なくとも、英独辺りの有名人ではない。

「大日本帝国の外務省の人間だと名乗っています」

「大日本……帝国。ねえ……?」

 ルビィの認識では、大日本帝国はそこそこ国力のあるその他の国。くらいである。

 なぜ、その国の外務省の人間がドラゴンマスターに面会を求めるのか?

 マザードラゴンに祝辞を言うために、とか言うならまだわかるし、実際そういった話はよくある。

 ……なぜ、ウチのドラゴンマスターに?

 また、とんでもない謀略劇の幕開けではないか、とルビィとしても疑わざるを得ない。

 しかし、一国の外務省の人間が面会を求めてきている以上、ルビィの所で握りつぶすのも問題がある。

「……わたしから、ドラゴンマスターに話を通します。

 面会情報は、わたしの個人データベースに送っておいて。ミスタ・キドに対しては明日中に日程を連絡する旨、伝えてちょうだい」


「……キド……キド……いや、思い当たらねえな。

 それに、マザードラゴンへの面会実績も予定も無いみたいだ」

 電話の向こうでアベルは言った。

「はい。わたしの方でも確認しています。

 大日本帝国としては、首相のミスタ・ココノエからマザー宛てに電報があった程度です」

 つまりこのキドという地球人は、わざわざアベルに会うためにエッグまで来たという事になる。

「メリットって何かあると思うか?」

「わかりません」

 アベルの問いにルビィは即答した。

 判断材料が少なすぎて、何も答えられない。

「……だよな。

 ところで、オレは出現タイミングが気になるな……」

「タイミング……ですか?」

「ああ。クーデターから今日で丁度三週間。

 地球からエッグまで一七〇〇光年。大体四週間の旅のはずだ」

 確かに、民間の貨客船だとそれくらいかかる。

「……つまり、クーデターより前に地球を出発していた、と?」

「逆に、クーデターを見てから動いたとすると、足の速い軍艦に乗ってきたことにならないか? って話だ」

「どっちにしても、コストが重いですね……」

 ルビィにもアベルの言いたいことがわかって来た。

 要するにアベルは、キドというより大日本帝国そのものの動向を気にしているらしい。

「と、なると当然面会する。と言う事でよろしいですか?」

「うん。話を聞いてみようじゃないか。セッティング頼めるか?」

「はい。明日の予定で手配は掛けますが……わたしは参加できませんよ?」

 ルビィに限った事ではないが、今アイオブザワールドの上級職員は皆死ぬほど忙しい。

 とても、同じ会議に二人以上出席する余裕などない。

 ちなみに、ルビィは同じ時間帯に英国海軍上層部との意見交換会が設定されている。

 今、エッグには治安維持を目的として、英独の合同艦隊が入っているので、こういったイベントも目白押しである。


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