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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
歴史のしるべ - エッグ叛乱

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歴史のしるべ - エッグ叛乱13


◇◆◇◆◇◆◇


 クインテラはアベルとの戦闘に入った。

 従ってエレーナとシャーベットの相手は、最終的にヒルトハルトとその部下四名で固定されることになる。

シャーベットの放った《フリーズブリット》が、ヒルトハルトの至近距離で弾けた。

この《フリーズブリット》の魔法、アベルが使っているものと全く同じバイナリを使っているそうだ。

つまり、近接信管も普通に作動するし、殺傷力だけ見てもアベルのそれとそん色はない。

 ……しかし、厄介な布陣ね。

 倒すだけなら、それほど問題はない。

 しかし、できるだけ怪我をさせずに。という制約を付けられると、一気に状況が変わる。

 具体的には、エレーナの持ってきているバードスリーパーではヒルトハルトに有意なダメージは期待できず、ヴォルカニックバックショットはその他の近衛隊隊員には過剰火力である。

 つまり、シャーベットにヒルトハルトの相手をしてもらうか、自分が相手をするか。という問題になる。

 アベルの弟子であるシャーベットは、よくない事に速攻性の無さや低火力と言ったアベルの特徴まで受け継いでいるので、ヒルトハルトの相手は辛いのではないかとエレーナは思う。

「コイツはわたしが!」

 エレーナは宣言。シャーベットの答えを待たず、再びヒルトハルトに躍りかかる。

 ヴォルカニックバックショットと言えども、離れてちまちま撃っていては有効打にはならない。

 大体、ヴォルカニックバックショットはガブリエルをして、その製造には結構なコストが必要らしく、それほど数はないのだ。

 と言っても、出し惜しみはしないが。

 ヒルトハルトも応じた。

 長物を大きく振り回す。

 同時にエレーナはヴォルカニックバックショットを放つ。

 が、やはりヒルトハルトの直前で、ヴォルカニックバックショットは弾けて、虚空に火の粉を散らす。

 ヴォルカニックバックショットが弾ける直前、エレーナは圧力のような物を感じていた。

 ……やっぱり倒すのは難しそうね。

 この場合、『倒す』のは『殺す』のより遥かに難易度が高い。

「おおっ!」

 ヒルトハルトの追撃である。

 この辺りは予想の範疇。普通なら、後ろに下がる所だが、エレーナはあえて前に踏み込む事を選択。

 ハルバードの間合いの外から攻撃が届かないのなら、内側からという発想だ。

 エレーナはショットガンのトリガーを引きながら、体を半回転。ヒルトハルトの左側面に滑り込む。

 ヒルトハルトは右手でハルバードを振ったので、今武器は体の反対側。二者を隔てる物はない。

 じゃっ! という耳障りな音を立てて、ヴォルカニックバックショットが虚空に弾ける。

 しかし、全弾遮断するには至らず、防御を抜けた散弾のいくつかがヒルトハルトを捉えた。

 今回ヴォルカニックバックショットを防いだのは、防御魔法ではなく、保護障壁である事はエレーナにはわかった。

 そして、その性能も想像が付く。

 結構な強度を持っているが、それは平均値と比べての事。例えばラーズやレイルクラスのバケモノ達と比べれば、その強度など知れている。

 この事実から、ヒルトハルトの性能をエレーナは自分より下であると判断した。

 近接戦能力込みならまだわからないが、魔法の絶対出力では勝てる。

 そして、近接で駆け引きをするつもりはエレーナにはなかった。

「《スラッシュエアー》……デプロイ!」

 エレーナ手持ち、最大殺傷力を持つ魔法である。

 不可視の真空を十発程度相手に打ち込む魔法だ。もちろん、AiX2700の機能により誘導機能が付与されている。この誘導は完全自動のファイアアンドフォーゲットだ。

 魔法使いの性能は、個人の能力ではなくシステム全体で語るべき、とはアベルの言葉であるが、これはその通りだとエレーナは思う。

「……くっ!?」

 《スラッシュエアー》の最大の脅威は見えない事。攻撃されているとわかっても、範囲防御以外の具体的な対応は保護障壁に投射物が接触するまで取れない。

 そして、目標を特定できない攻撃を防ぐのは、極めて高等な技術である。

 まさにその瞬間、隣でアベルの《アイスストーム》がクインテラの魔法を拭き散らすのが見えた。

 対して、ヒルトハルトの大腿部やわき腹の辺りに、数条の切り傷が生じる。

 ヒルトハルトは後ろに飛んだ。間合いを開けて回復したいのだろう。

 それはほとんど無意識の動作だったのかも知れない。

 しかし、エレーナはそれを待っていた。

 《スラッシュエアー》による奇襲を受けた被術者は、極めて高い確率で後ろに飛ぶ。

 見えない攻撃への防御反応なのだろうが、統計的にそう動くことがわかっている状況下で、その通りの行動を取ってしまうのは良くない。

 エレーナはヒルトハルトを追った。

 もともと距離は無かったので、すぐに追いつく。

 着地の瞬間。つまり最も不安定な瞬間。

 ヒルトハルトにエレーナは体当たりした。

 ここまで近づいてしまえば、長物はただ邪魔なだけで用をなさない。

 それはヒルトハルトもわかっているだろうし、実際手にしたハルバードを捨てて、腰の短剣に手をかけた。

 だが、遅すぎた。

「流石にこの距離なら防げないでしょう?」

 馬乗り状態で、ヒルトハルトの喉元にショットガンの銃口を向けて、エレーナは宣言した。

 さすがに密着して放たれたヴォルカニックバックショットを保護障壁では防げない。散弾そのものは防げるかもしれないが、衝撃までは防げない。それは撃たれているのと同じだ。

 一瞬の沈黙。

「……わかった。どうやら精進が足りないようだ」

 ヒルトハルトは手にした短剣を落として、降参した。

「賢明な判断、助かるわ」

 エレーナはヒルトハルトの上から立ち上がり、手を差し出す。

「まさか、ドラゴンですらない相手に負けるとは、不覚」

 そう言いながら、ヒルトハルトはエレーナの手を掴んで、立ち上がった。

「名を聞いても?」

「エレーナ。聖域の民……元、聖域の民よ。

 後、わたしはドラゴンよ」

 実体がどうであれ、エレーナは書類上ドラゴンである。もっとも、この事実はあまりユグドラシル神殿内でも知られていないらしいが。

「……聖域の……

 いえ、近衛隊の立場から、この発言は不適切ね」

「とりあえず、邪魔にならない所に移動して後はギャラリーしてましょう」

 この戦いに置ける最初の撃破判定は、エレーナが取った。

 撃破判定をとっても、事前の取り決めにより他者への援護はなるべく控えるようにガブリエルから命令が出ている。

 曰く、戦力差が一定を超えたら近衛隊が崩壊するから、だそうである。

 近衛隊にはどうであれ、善戦したがマザードラゴンを守れなかった。という状態になってほしいという意図があるようだ。

 エレーナが部屋の隅に促すと、意外におとなしくヒルトハルトも付いてきた。こちらももう戦闘意欲は無さそうである。


◇◆◇◆◇◆◇


 シャーベットが対峙した四名は、明らかに格下であった。

 だからと言って、数的不利は否めない。きちんと対応しないと、包囲殲滅の憂き目に会うだろう。

 四名はそれぞれシャーベットに向かってくる。武器はスタンバトンのみ。

 近衛隊は数で勝るが、それは同時に銃火器の運用を困難にしている。どうしても、同士討ちの可能性があるからである。

 これは、ガブリエルが魔法使いを中心に攻略チームを組んだ事からもわかる。乱戦前提なら魔法使いの方が強いのだ。

「《フリージングチェイン》デプロイ!」

 この《フリージングチェイン》という魔法、低コストで発生が速く、敵への阻害能力が高い。使い勝手のいい魔法なのだ。

 アベルのそれより、やや青みの強い光の筋が、左右に暴れ狂いながら近衛隊の兵隊を目指す。

「散開!」

 それは正しい判断であるとシャーベットは思う。自分の《フリージングチェイン》を見たら散開するだろう。

 しかし、それは間違っているのだ。

 《フリージングチェイン》は、一度捕捉した目標を自動で延々と追い続ける。効果範囲内に居る限り逃れられない。

 実際、シャーベットは適当に《フリージングチェイン》を撒いている訳ではない。

 差し所から目標は絞ってあるのだ。

 ただ狙われていく側からすると、ランダムな軌跡を描いて走る《フリージングチェイン》が誰を狙っているかは、非常に分かりづらい。

 つまり、事故が起きるのである。

「ぎゃっ」

「ぐっ」

 という悲鳴が上がり、一瞬で二人が《フリージングチェイン》に捉えられる。

 威力は絞ってあるので、凍り付くのは膝の辺りまでであるが、それでも局地戦に置ける拘束としては十分だ。

 ……さすがっ。

 シャーベットは感嘆する。

 アベルが『これだけ垂れ流してれば勝てる』と言うだけの事はある。《フリージングチェイン》とAiX2700の性能は素晴らしい。

 調子がいい。ここはイケイケだ。

 間合いを詰めるべく、シャーベットは前進する。

「ゾクめ!」

 そんな声と共に、近衛隊の一人がスタンバトンを振り上げる。

 ゾク呼ばわりは心外であるとシャーベットは思う。

 まあ、向こうがどう思っていようと、やる事は同じなのだが。

 スタンバトンがシャーベットの保護障壁を叩いた。

 シャーベットの保護障壁もまた、アベルによって最適化を受けている。

 正直言って、調整後のシャーベットの基本性能は、オーウェン=サイラースの頃とは全く別次元の物に仕上がっている。

 スタンバトン程度でどうこうなるレベルではないのだ。

「《フリーズブリット》デプロイ!」

 威力は最小設定で、至近距離から打撃魔法を叩きこむ。

 設定は触発。効果範囲は最小。

 ……これで三つ。

 その直後、背後からシャーベットに飛びついて来る影。

 最後の一名だ。

「っ!?」

 さすがに、シャーベットもこんな事をする相手が居る、などとは考えていなかった。

 ……《アイスコフィン》……いや、自爆する。

 シャーベットは手持ちの魔法の中で、最適な選択が出来なかった。

 とはいえ、二者はそれほど体格差があるわけではない。そもそもドラゴンという生き物は体格差が少ないのである。

 つかみ合いともなれば、優劣を決めるのは体格と体重なので、そういう意味では近衛隊側の悪手であると言えるだろう。

 なにしろ、アイオブザワールド側はタイムアップでもいいのだ。


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