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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
歴史のしるべ - エッグ叛乱

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歴史のしるべ - エッグ叛乱9

 進みましょう。とガブリエルは言ったが、それ自体に大した苦労はない。

 現れた近衛隊の警備達は、全てユーノの呪歌の前に沈黙を余儀なくされる。

 何しろ聞いただけでアウトなのに加え、接敵したユニットは全滅していくので近衛隊としても状況が把握できず、有効な対策が取れない。

 もっとも、状況が把握できれば対応できる種類の脅威ではないのだが。

 しかし、ユーノだけを前面に押し出して進むわけにも行かない。

 一つは、E4422を動かしているスタッフの殺傷を避けなければならない為だ。E4422は損傷しているのでダメージコントロールが機能不全に陥るようなことがあってはならない。

 もう一つは、ユーノの攻撃は無差別なのでマザードラゴンも昏倒させてしまう可能性が高い事。クーデターの性質上、ガブリエルがマザーを倒す必要があるので、どさくさ紛れに倒れられては困る。

「ここから三フロア下に降りるわ」

 連絡用階段を示してガブリエルは言う。

 さすがにエレベータは使えないので、階段を下りざるを得ない。

「ここは……音が反響するので呪歌の効きは保証できませんね……」

 階段を覗き込んで、ユーノは答えた。

 驚くべきことに、E4422の連絡用階段は特に内装工事も行われていない、無骨な金属製の階段だった。

 アイオブザワールドの『ブラックバス』が、連絡用階段もきちんと内装工事がしてあるのとは対照的だ。

「ケチる所はケチってるのね……」

 ガブリエルが誰にともなく呟いた。

「エレーナ! 先頭に立て」

「じゃあ、シャングリラあなた最後尾よ」

 アベルとガブリエルからそれぞれ指示が飛ぶ。

 エレーナ、アベル、シャーベット、ユーノ、ガブリエル、そしてシャングリラという隊列で一行は階段に突入する。

 普通に考えて、阻止線はこの階段にあるだろう。

 エレーナがコンバットショットガンを構えて、階段を下りていく。

 最初の踊り場に達した時、早速銃声。

 エレーナの周囲で火花が飛ぶ。

 どうやら、アベルが魔法で銃撃をカットして見せたようだ。

 アベルが二番目を歩いているのは、エレーナが攻撃を受けた時、即座にフォローする意図だったらしい。

「一度下がれ。挟撃に注意しろ!」

 阻止線は一フロア下。

 階段の幅は一.八メートル程。二人並んで歩けるが、二人並んで戦闘はできない。

 それでも火力に物を言わせてねじ伏せる、などは可能だが、できればマザードラゴン以外に人的な損害を出したくないという前提がガブリエルにはある。


◇◆◇◆◇◆◇


「ざわついてるわね」

 ディスプレイの向こう側、無数のE2400やE4400を見ながらレクシーは呟いた。

 先ほど、レプトラから強制接舷成功の連絡があった。

 近衛隊側の考えは分かる。

 このままドラゴンマスターがマザードラゴンを倒した場合、それを妨害しようとした近衛隊は反逆者のレッテルを張られるだろう。

 マザードラゴンとエッグを守るための組織である近衛隊は、そういう意味では損な立ち位置に居るとレクシーは思った。

 そして、五分も経たないうちにE2400シリーズの『ブラックバス』……要するに首都防衛艦隊がゆっくりとソーラーシャフトを離れていく。

「HQからの撤退命令が出たのかしらね?

 ソナー! 今去っていった艦隊の動きはマークしておいて」

「アイ。艦長」

 去っていくと見せかけて襲撃。よくあるパターンである。

 何しろX2000は主砲が撃てるだけのただのハリボテなので、攻撃されればひとたまりもない。

 ……さて、問題はE4400ね……

 戦術マップ上に表示されている赤い魚マークが近衛隊のE4400である。

 その数九。この内の一隻はソーラーシャフト内のE4425であるので、エッグの中に居る残りの三隻を足すと十二隻。つまり一個艦隊が揃っている事になる。

 対して、こちらのまともな戦力はE5314のみ。

「……来るわね」

 戦術的な観点から見た場合、近衛隊の反撃チャンスはここしかない。

 E4422にドラゴンマスターが乗り込んだ以上、早くE4425をどけて増援を送り込む事が急務だ。

 そのために、アイオブザワールドの『ブラックバス』の排除は絶対条件である。

「機関全速、舵このまま!」

 レクシーは叫んだ。

 殺気としか言いようのない物を感じたのだ。

「機関全速、アイ」

「舵このまま、アイ」

 新機軸のコンポジットヌルオードライブが、飢えたモンスターのように主機から供給されるエネルギーを飲み込み、X2000の巨体を猛烈な勢いで加速させる。

「左砲撃戦、用意!」

 続いてレクシーは砲撃戦を宣言する。

 ほぼそれと同時に、三隻のE4400シリーズ艦から主砲が放たれる。

 E4400の主砲FCSにはX2000の諸元は入っていないだろうから、命中させるのはかなり困難なはずだ。

「舵、ちょい左。主砲、交互撃ち三連射、ヨーイ」

 各部署に指示を飛ばしながら、レクシーはE5314の動きに注視する。

 E5314は右にタイトな旋回を行ったあと、加速しながら左に緩旋回。X2000の後方に付ける。

 同航しながら砲撃戦を行う構えだ。

 この段になって、近衛隊の船が動く。

 残存艦の内、E4425とその前に陣取っている、E4416、E4417の二隻を除く六隻が散開した。

 砲撃戦はしないつもりのようだ。

 ならば、近衛隊が取る攻撃方法は一つ。

「『アニサキス』が来るわ。リスも気を付けて」

 レクシーは近接通信で、E5314に警告を送る。

 もっとも、E5314には自走対空ビームファランクスや自走対空アクティブレーザーがある。見え見えのミサイル攻撃なら迎撃は容易いだろう。

 問題はX2000にそんな物は付いていない。という事である。

「リスロンド、了解。アウト」

 近接通信が切れる。E5314が防空システムを起動したのだ。

「主砲精密照準モード。目標E4420。『アニサキス』を撃つ瞬間を狙って!」

「目標E4420。アイ」

「主砲自動追従モード。アイ」

 復唱が上がり、二基の連装砲塔がE4420を指向する。

 『アニサキス』は高性能な対艦ミサイルである。しかし、キャニスターから放たれる直前の運動量はゼロ。そこからブースターを使って加速する。

 その加速性能は最初の一秒で四千メートル。次の一秒で二十万メートル。彼我の距離は八万キロ程度。大体六秒から八秒の距離だが、最初の瞬間なら迎撃は可能だ。

 こちらの照準に気づいたのか、E4420が面を振る。

「E4420、魚雷投射。雷数六!」

「牽制よ。無視して」

 レクシーは冷静に言い放つ。

 X2000Xの兵装はともかく、機動力は既存の『ブラックバス』級を大きく上回るし、信頼性も問題無さそうである。

 ならば、追尾魚雷の類でも急加速で避けられる。

「左転舵! 一八〇-〇九〇-〇〇〇!」

 それでもレクシーは、最大旋回速度で左に舵を切るように指示。

 これはE4420の艦長への誘いだ。

「E4420。『アニサキス』を発射!」

 鬨の声が上がる。

「放てっ!」

 砲術士官の命令。二番砲塔から一発の弾が放たれる。

「命中!」

 ワンテンポ置いて、エッグの穀をバックにオレンジ色の花が咲いた。

 当然事であるが、戦術ミサイルである『アニサキス』は外部から衝撃を受けたからと言って、信管が誤作動を起こしたりはしない。

 しかし、『アニサキス』が積んでいる大量の推進剤は別だ。

 推進剤は推進剤であるが故、よく燃える。無論、真空中でも、だ。

 至近距離で『アニサキス』の爆発を受けたE4420は、ヌルオードライブに何かダメージでもあったのか、漂流を始めている。

 『ブラックバス』の弱点である、フレーム剛性の無さが露呈した形だ。

 しかし、レクシーとしては流暢にそんな事を眺めてはいられない。

「『アニサキス』二! 急速接近」

 X2000には近接防空火器はない。もちろん、各種対空ミサイルの類もない。

「E5314、迎撃に移行します」

 そのあたりの事情はリスロンドも察しているはずだ。

 自分の船に向かってくる『アニサキス』の迎撃ついでに、X2000の方にもミサイルを放つ。

 二十発程度ばら撒かれたミサイルは、『ミクソゾア』近接対空ミサイルである。

 『ミクソゾア』は最近になってアイオブザワールドの『ブラックバス』に配備され始めた。下手をするとこれが最初の実戦使用かも知れない。

「さすがは最新型ね」

 X2000を指向していた『アニサキス』が、『ミクソゾア』によって破壊される光景を見ながらレクシーは呟いた。

 この双方の火力は、本来聖域にいる侵略軍に向けるべきもののはずだ。

 そう思うと、なにかやるせない。


「さて、向こうは一隻減ったわけだけど、ここからどう動くかしら?」

 『アニサキス』と『ミクソゾア』の応酬から一転、戦場は静寂が包む場に変わる。

 時間経過はアイオブザワールド側に有利に働く。

 近衛隊側は、『アニサキス』の自爆によって、一隻が航行不能に陥っている。これにより、近衛隊の残兵力が七隻となった。

 しかし、あまり楽観もできない。

 まず、一連のミサイルの応酬により、X2000の対空兵装が脆弱であることがバレた公算が高い。

 そして、E5314に搭載されている『ミクソゾア』も、そんなに数があるわけではない。

 いつまでも近衛隊側の攻撃を防ぎきるのは難しい。

 なにより、そろそろX2000の主砲も限界が近いようである。

 何しろ実験中の砲を実戦運用で使っているので、いつ爆発しても文句は言えない。

「レクシーから機関部。報告を」

「機関部です。先ほどの主砲連射でコンデンサの焼損が進んでいます。

 今は、主機のパワーで何とかなっていますが……正直言ってあまり持たないかと……」

 弱気な機関部からの返答。

「あっても後ラウンドだから、何とかなだめて」

「アイ。艦長」

 ドラゴンマスターがマザードラゴンの所に到達するのにかかる時間はいかほどだろうか? レクシーは考える。

 E4400シリーズもE型はE型なので、その基本構造はE5300と大差ないはずだ。

 マザードラゴンが艦の中心に居ると仮定して、移動時間は最大で十から十五分。

 それプラス、近衛隊の妨害。

「ギリギリかしらね……」


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