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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
歴史のしるべ - エッグ叛乱

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歴史のしるべ - エッグ叛乱4


◇◆◇◆◇◆◇


 E5315艦長、リリエンスは最終局面になって、徐々に恐怖を感じるようになっていた。

 ドラゴンマスターから、話を聞いた時はこの一大作戦に心が躍った物だ。

 リリエンス自身、エッグの領海である聖域への他国の侵攻を快く思っていなかったし、戦争になるというなら喜んで戦場に馳せ参じる用意があった。

 そこに来て、このクーデター計画である。

 いざ、マザードラゴンに剣を向けるとなると、怖気づいてしまう。

「まもなく作戦開始時刻」

 だが、タイムキーパーが無情に作戦開始時間を告げる。

 E5315はエッグの内海で、適切なベクトルのエネルギーを得たのち、主機を停止して慣性だけでソーラーシャフトに向かって進んでいた。

 これだけでも、十分狂気の沙汰である。

 ……こういうクレイジーな作戦は、レクシーの領分だと思ってたけど。

 アイオブザワールド内でE5312のレクシー艦長は、そういった狂った作戦を好む艦長として知られていた。

 猛将と言えば聞こえはいいが、ある種の戦闘狂である。

「E4423、舵を切ります。

 本艦の進路を阻害する意思と思われます」

「『アニサキス』対艦ミサイル発射準備。準備でき次第発射。

 E4423を攻撃します」

「『アニサキス』発射準備、アイ」

「照準プログラム転送、アイ」

 E5315の乗組員は皆若いが、練度も士気も高い。

 対艦巡行ミサイル『アニサキス』は数秒で発射準備を完了。背びれの後ろの大型ミサイルキャニスターの装甲シャッターが開くと、リリエンスの命令通り即座に発射される。

 命令から発射まで、わずかに三十秒程の出来事である。

 ディスプレイ上に表示されている、攻撃目標のE4423は慌てた様子で艦首を振りながら、自走ビームファランクスと自走アクティブレーザーで『アニサキス』の迎撃を試みる。

 距離が近すぎて迎撃用のミサイルが放てないのに加え、E4423は大気のある場所に居るため各種光学兵器も減衰して射程が確保できないのである。

 空気のある場所に突入し、白い水蒸気の雲を引いて飛ぶ『アニサキス』と無数の赤い対空砲火を放つE4423、そしてその先に見えるエッグの街。非現実的な光景だとリリエンスは思った。

 艦首を振りながら、加速をかけるE4423だが、やはり空気抵抗によって思うに任せない。

 『ブラックバス』の船体は十分に流線形ではあるが、全長五五〇メートルに達する船体の表面積が生み出す大気との摩擦は無視できない。

「……悪く思わないで……」

 リリエンスがそう呟いた時、『アニサキス』がE4423を捉えた。

 『アニサキス』は、E4423の左舷方向艦尾付近で近接信管を作動させる。衝撃でE4423が揺れたのがE5315からでも見て取れた。

「E4424、『アニサキス』を投射。数二。

 ……一発は本艦に向かってきます」

「E-MPM、迎撃モード」

 一息つく間もなく、次の報告。

 E4423の後続だった、E4424が『アニサキス』を放ったのだ。

 二発撃ったという事は、こちらの後続E5318も捕捉したという事だろう。

 E4400シリーズが搭載する『アニサキス』は最大二発。全弾放ったE4424の艦長の判断は素晴らしいとリリエンスは思う。

 しかし、真空中に陣取っているE5315は、各種撃撃ミサイルも対空兵火砲も諸元通りの性能で運用できる。

 E5315に向かってきていた『アニサキス』が爆ぜた。

 個艦防空用のE-MPMによって迎撃されたのだ。

「E4423発砲!」

 炸薬を少なめにしてあったにせよ、『アニサキス』の直撃を受けてもまだE4423は戦う意思を保っている。

 素晴らしい敢闘精神だとリリエンスは思う。

 だが、もう無理なのである。


◇◆◇◆◇◆◇


「艦尾ミサイルキャニスター全損!」

「一次冷却水、異常加熱! 主機を緊急停止! 急いで!」

「第六デッキで船体亀裂。与圧が維持できません!」

 E4423のブリッジに怒号が飛び交う。

 だが、シーモックは感謝していた。ドラゴンマスターも『アニサキス』に、通常弾頭をそのままつけるような命令はしていないらしい。

 もし、『アニサキス』が諸元通りの威力を持っていたなら、E4423は轟沈していただろう。

 そもそも『アニサキス』は、『ブラックバス』級と同等の防御性能の船を攻撃するために開発された対艦巡行ミサイルである。

 これで攻撃されれば、『ブラックバス』は沈むのが必定。

「方位一五〇ー二〇、『ブラックバス』級巡洋艦接近中。

 E5318……アイオブザワールド所属です!」

「方位三〇-三五、『ブラックバス』級巡洋艦接近! E5321、アイオブザワールド所属艦です」

 これでアイオブザワールド側は三隻。数の上ではまだ近衛隊が優勢ではあるが……

 誰かがついさっき、近衛隊の戦力は数性能両面でアイオブザワールドに対して優勢。などと言っていた事をシーモックは思い出していた。

 確かにその時はシーモックもそう考えていた。しかし、ふたを開けてみれば一転。大気によって『ブラックバス』は縛られ、大気は光学兵器を歪めミサイルの性能を加速を鈍らせる。

 そして、いったいつの間に移動したのか、内海側にアイオブザワールドのブラックバスが三隻も居る。

 こちらも事前情報では、二隻でしかも一隻は故障中という事だったのでないか。

 マザードラゴンを載せたE4422は既にソーラーシャフトの中なので、もう引き返してくる事はない。

 ソーラーシャフト内では、先頭を行くE4425と、後続のE4422はすれ違えない。つまりE4425も戻ってこれない。

 E4422を壁にして近衛隊の四隻は、二隻づつに分断されたのである。

 見た目、四対三の戦力は実質的に二対三。しかも、こちらは大気のある領域に押さえつけられて、E4400シリーズの性能的アドバンテージも封じ込められている。

 偶然にしては状況が出来すぎている。これは誰かが意図的に立ち上げられた状況だ。

 ワーズワースと言ったか、ドラゴンマスターのブレーンは相当に優秀なようだ。

「艦長! パルマー参謀長からタスキングメッセージです。

 E4423、E4424各艦は敵戦力を迎撃せよ。以上です」

 参謀長命令は至ってシンプルだった。

 と言っても、ほかに命令しようもないのだろうが。

「パルマー参謀長に了解の旨、返信。

 E4424には、本艦の攻撃目標はE5318と送信」

 E5318は攻撃してきた船ではないが、E4423の損傷した艦尾側に遷移してきているので放っておけない。

 どうもアイオブザワールド側は、こちらを撃沈する意図はなさそうだが、何発もミサイルを食らえば持たない。

「転舵一八〇。砲撃戦用意!」

 シーモックの命令でE4423が艦首を返す。

 とは言っても、主砲による攻撃は難しい。

 光学兵器は、周辺に大気があると散乱して拡散してしまう。それは、その大気の中にいるE4423を撃つE5318の方でも同じように思うかも知れないが、違う。

 最初に拡散してから、真空中を飛んでいくことになるE4423の主砲は、真空中をまっすぐ飛んできてから大気で拡散するE5318の主砲に比べると、拡散後に飛ぶ距離が長いためより散らばってしまう。

 ならば、どうするかと言えば、こちらも真空中に出るのである。

 それで少なくとも、性能面での不利はなくなる。

 問題は、アイオブザワールド側がそれを許してくれるかどうかだ。

「一気に大気がある場所を抜ける。

 主機の様子は?」

「アイ。短時間なら大丈夫です」

 とにかく大気の中に留まっていては不利。

 主機にダメージはあるが、短時間稼働できるなら主機の出力とコンデンサに蓄えたエネルギーで、十分な機動は可能であるとシーモックは判断した。

「よろしい。推力最大」

「推力最大。アイ」

「コンデンサ直列。アイ。

 全ヌルオードライブ、コンタクト」

 パワフルなヌルオードライブは、大気の抵抗をものともせずに『ブラックバス』の船体を加速させ始める。

 だがその瞬間、頭を押さえているE5318が主砲を放つ。

 E5300シリーズの主砲は、超高出力の陽電子砲が連装で一基。同じ主砲が連装二基のE4400シリーズに比べればその火力は半分。

 しかし、両者の発射管制装置は同じものである。こちらの主砲が当たる間合いなら、向こうの主砲も当たる。

 そして距離は必殺の間合いである。一発当たって終わりなら、砲塔の数はあまり関係ない。

 どこまで行っても、アイオブザワールド有利である。

 希望は、外海には近衛隊の船が増援として集まってきているだろう事だが、外海にいくら集まってもE4425とE4422がソーラーシャフトを抜けない事には、内海には入ってこれない。

「主砲砲撃準備。目標E5318……放て!

 続いて転進〇三〇-〇九〇-〇〇〇」

 主砲発射と同時にE4423は右にタイトな旋回を行う。

 直後に来るであろう、E5318の砲撃を避けるための機動である。ついでに少しでも大気圧の低い場所に行こうという意図もある。

 シーモック艦長が睨むディスプレイ上で、E5318が狂った加速を始める。

 E5300シリーズの運動性は公称ではE4400に劣る事になっているが、実際の性能は不明だ。

 所属組織の違うE4400とE5300の性能を、直接比較する機会は今までなかった。その最初の機会が、クーデターによる内乱とは笑えない。そして、これはシミュレーションや戦闘訓練ではない。負けた方の船は沈むかも知れないのである。

「E5318、発砲……二発、三発……連射しています!

 本艦、進行ルート上への砲撃です!」

 向こうの艦長もこちらの意図に気付いたらしい。

 大気から出さないように、進路を妨害するために弾をばらまく。

「減速。推力三分の一。針路このまま」

 指示を飛ばしながら、シーモックはE5318の次の動きに注目する。

 E4423の減速を、E5318の艦長がどう判断するかでこちらの動きを変える必要がある。

 E5318は、左旋回を選んだ。

 ほぼ水平に旋回しながら、艦首の魚雷発射管から六発の魚雷が、こちらの未来位置に向かって投射される。

 艦首を振りながら放たれた魚雷は扇城に広がりながら、E4423に向かってくる。

 この瞬間はまだ無誘導だが、終末誘導は直接母艦から行われるだろう。この状況下ではまず一発か二発は当たる。

「右旋回! 方位一八〇-〇九〇-〇〇〇!」

 命令に従って、操舵手が船を旋回させる。

 再びタイトに、E4423の船体が一八〇度向きを変える。

「E5318右旋回。本艦右後方へ遷移する意図です」

 E5318の艦長は追跡を選択したようだ。

「一分くらいかけて減速。推力四分の一」

 これで、向こうの艦長がこちらの速度を誤認してくれれば、儲けものである。

 そうなれば、当面の戦闘は何とかなりそうだ。とシーモックは考えた。


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