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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
歴史のしるべ - エッグ叛乱

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歴史のしるべ - エッグ叛乱3


 現在、E5315はソーラーシャフトのおおよそ一〇〇万キロ内側にいる。

 E5300シリーズの『ブラックバス』は、もともとの二隻に加えて、さらに二隻が内海に移動していた。

 ギリギリに船を移動させたのは、近衛隊へのフェイントの意味合いと、実際にソーラーシャフト付近に存在する船舶を確認する両方の意味がある。

 特に、後者は重要な要素だとアベルは考えている。

 アイオブザワールドとしても、余計な死傷者は内外共に出したくないので、偶然居合わせた英雄。などという物が存在するのはマズイのである。

 特に沿岸警備用の武装船舶などは厄介だ。『ブラックバス』に比べれば戦力としては非常に小さいが、武装しているので攻撃されれば対処しないといけない。

 この場合の対処というのは、撃沈と同義なので一定数の死者が出るのは避けられない。

「……外の方は大丈夫かしらね?」

 ガブリエルがなんとなく天井を見上げながら呟く。

 天井を見ているが、別にそちらの方に外があるわけではないが。

「リスロンド艦長は優秀です。信じましょう」

 ユーノが言い切る。

 実際E5314のリスロンド艦長は優秀なドラゴンではあるが、外側に展開しているアイオブザワールドの船はこの一隻のみ。

 対する近衛隊の船は、展開が確認されているだけで四隻。近衛隊の基地にある分を含めると二〇隻以上になる。

 もし攻撃されたら、一瞬で宇宙の藻屑と化すだろう。

「最悪の事態にはならないように手は打ってあるけど……実際の所、やってみるまで分からないんだよなあ」

 何しろ相手がある事なので、こればっかりは仕方ないだろう。


「近衛隊の『ブラックバス』二隻がユグドラシル神殿に入港しました」

 レプトラからの報告が来る。

 それを聞いて、アベルはガブリエルの方に視線をやった。

 近衛隊の船という船には、事前に色々な手段でガブリエルのスパイフラワーが送り込んである。

 つまり、中で起こっている事はガブリエルには筒抜けだという事だ。

「……ユグドラシル神殿に居るのは4422と4425ね」

「近衛隊の旗艦は確か、4425でしたが……」

 これはエレーナである。エレーナの言う通り、書類上近衛隊の艦隊にも旗艦が設定されている。

 しかし、近衛隊は実質的にエッグ付近でしか活動しない為、旗艦は旗艦として機能していない。あくまで司令官が居るのはエッグフロントの近衛隊司令部であり、命令もそこから出る。

 それでも旗艦は旗艦である。

「E4425に乗せると見て……いい物?」

「多分違う。

 オレならマザーはもう一隻に乗せる」

 これについては、アベルにも特別確証があるわけではない。

 しかし、マザーを旗艦に乗せていれば、マザーを逃がすために旗艦が逃げないと行けない可能背が発生する。

 いくら形だけの物であっても、旗艦は旗艦である。やはり逃げるのは全体の士気に関わるとアベルは考える。

「正解は、お姉ちゃんのスパイフラワーで確認するわね」

 そう。今回アイオブザワールド側が有利なのは、相手が知らない方法で一方的に情報収集ができる事である。

 スパイフラワーの配置は少なくとも各艦のブリッジには及んでいるので、どうであれマザーが乗ればその気配を察する事ができるだろう。

「……あの……失礼ですがドラゴンマスター」

 おずおずと声を上げたのはシャーベットだ。

 今回集まっているメンツの中では、圧倒的にガブリエルとの面識が薄いので、緊張は隠せない。

「なにかしら?」

「その、スパイフラワーというアーティファクトなんですが、近衛隊に発見はされない物なんでしょうか?

 もし相手がそれを発見していて、なおかつ知らないふりをしていた場合、相当危険な事にはなりませんか?」

「心配はもっともだし、アベルにもワーズワースにも同じ事を嫌って程言われてるけど、大丈夫よ」

 そう言って、ガブリエルは部屋の隅の段ボール箱から、鉢植えを一つ取り出す。

「うえっ」

 エレーナが小さく悲鳴を上げた。

 まあ、致し方ないが。

「せっかくだから、待ち時間でスパイフラワーについて教えてあげる。

 これがスパイフラワー」

 ガブリエルがテーブルの上に鉢植えを置く。

 巨大なスズランのような、薄紫色の形の花が四つ咲いている。

「色違いのバリエーションがあるけど、基本性能は全部同じよ。

 で、この花が聞き耳を立ててる」

 左掌を上に向けて、ガブリエルがホロビジョンをシャーベットの方に示す。

 そこでは、棒グラフのようなイコライザがぴょこぴょこと動いている。

「これはグラフィックで表示してるけど、実際には音声として取り出す事ができるわ。

 もちろん、コンピュータで分析すれば、誰が喋ってるかまで分かる。

 さて、ではマイスタ・シャーベットがこのスパイフラワーを見つけたとして、どうするかしら?」

 少し身を引いて、シャーベットにリアクションを促す。

「……わたしなら、火炎放射器かなにか持ってきて燃やしますが……」

 これはエレーナの意見である。

 まあ、スパイフラワーがそんな程度で破壊出来るのかどうかは、かなり謎なのだが。

「……アーティファクトっぽいとわかったら、まずは魔法探知と魔法解析……をします」

 エレーナの意見は無視して、シャーベットが答える。

 それに対してガブリエルが、どうぞ。と手で示す。

「《マジックスキャナ》……デプロイ」

 《マジックスキャナ》は、魔法構造を解析する魔法である。

 対アーティファクトで使用した場合、対象の魔法的複雑さによるが、その機能を大筋で知ることができる。

 だが、魔法の発動と同時に、スパイフラワーは一瞬で茶色に染まり、枯朽ちる。

「……えっ!?」

「このアーティファクトは、自身を対象に魔法が発動すると自壊するように設計してあるわ。

 ついでに……」

 ガブリエルが差し出した掌の上のホロビジョンには、シャーベットの使った魔法の構成が表示されている。

「まあこうなるわけ。

 ばれたらわかる。ってわけね」

「……解説ありがとうございます」

 シャーベットは一礼した。

「納得してくれて、ありがとう」


◇◆◇◆◇◆◇


 マザーを乗せた、E4422が港をゆっくりと離れる。

「上げ舵五。再微速」

「上げ舵、五。アイ」

「コンデンサ並列、ヌルオードライブ再微速。アイ」

 シーモックの声に、ブリッジのクルーが答え、船がゆっくりとユグドラシル神殿に隣接した港を離れる。

 既に出航している旗艦のE4425は、二〇〇キロほど先だ。

「E4423より通信。まもなくE4422の後方二〇〇キロへ付ける。以上です」

 通信は入った。E4423は民間港に入港していた『ブラックバス』である。

 なお、E4424は三十分ほど遅れてソーラーシャフトに向かう算段だ。

 シーモックは、眼下に広がる景色を感慨深く見下ろした。

 E4422が高度を上げるに従って、エッグの街が急速に遠ざかっていく。

 すぐに眼下には光り輝く巨大な大陸が見え始める。

 エッグの内穀上空に浮かぶその大陸は幅三〇〇キロ、長さ一五〇〇キロに達する。ソーラーコンティネントと呼ばれる太陽光発電施設である。また、この施設はダイソン球の内側にあるエッグの街に夜を作る役目も併せ持つ。

 こうしてみていると、エッグは平和である。

 やはり、ドラゴンマスターがクーデターをもくろんでいるなど、ただの噂なのではないか、とシーモックは考えてしまう。

 そんなことを考えている内に、船は再び高度を下げ始める。

 ソーラーシャフトに向かう為である。

「左舷に小型船。注意」

 ソナー手から報告。

「マスコミの船のようですね……いかがされますか? シーモック艦長」

「近寄らないように勧告を」

 見れば、他のE4400シリーズにも何隻かの小型船舶が付いている。

 おそらくどれにマザードラゴンが乗っているのかわからないので、数を出してきているのだろう。

「旗艦E4425からメッセージ。これよりソーラーシャフトに進入する。各艦は距離三〇で続け。以上です」

「了解した旨を返信」

「アイ。艦長」

 通信担当は一礼すると自分の持ち場に戻る。

 何も起きなさそうである。

 戦術的な観点で見れば、相手……要するに自分たちだが……がソーラーシャフトの中に入った時に襲撃するのが望ましいのは、誰の目にも明らかだ。

「ソナー。周辺に大型艦船は本当に居ないか。もう一度確認を。

 アクティブソナーで確認するように」

 シーモックは指示を出す。

 何しろこの船には、マザードラゴンが乗っているのである。

 慎重に慎重を重ねても、慎重すぎる事はあるまい。

 先を行くE4425が、ソーラーシャフトに入っていく。

 ソーラーシャフトはもちろん、エッグフロントまでの航路から他の艦船は離してある。

 ……大丈夫。いまこの瞬間、アイオブザワールドの『ブラックバス』が出現したとしても、間に合わない。

 そう大丈夫なはずだ。

 しかし、シーモック艦長の不安は消えなかった

 何かを見落としている気がする。自分の死角に誰かが入り込んでいるような不安感。

「ソナーより艦長」

 そのタイミングで、ソナーの報告。

「報告を」

「アクティブソナーの結果……その……」

「具体的に報告を」

「はっ、申し訳ありません。

 正体不明の巨大質量を探知しました……しかし、エネルギー反応がありません」

 それは奇妙な報告である。

「巨大質量とは?」

「具体的には……E5300シリーズの『ブラックバス』程度です」

 ……!

 E5300が居る。しかし、エネルギー反応が無いのはどういう事だろうか?

 アイオブザワールドが独自に新兵器でも開発した可能性もあるが、おそらく違う。

 この船は、主機を全てオフラインにして、エッグの内海を漂っていたのである。

 普通の神経のドラゴン派こんな危険な事はしない。もしエッグの重力に捕まったら、そのまま落ちるからだ。

 しかし、そんなことはクーデターという狂気に比べれば、十分にあり得る話なのかもしれない。

 そしてシーモックがこの事実に気づいた時、既にE4422はソーラーシャフトの中だった。

「総員戦闘配備! ドラゴンマスターが来る!」


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