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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
歴史のしるべ - エッグ叛乱

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歴史のしるべ - エッグ叛乱2


◇◆◇◆◇◆◇


「……後、一メートル進めて。

 五〇センチ、二〇センチ……ストップ」

 電気工事会社のトールバンの後部から、ルビィは声を上げた。

 バンの後ろには窓は無く、正面からも中が見えないように隔壁が作ってある。

 車両の手配が上手く行かなかったので、市販の中古車を改造して急遽作った『電気工事の業者が使うバン』だ。

 そのバンは、現在官庁街にある大通りのど真ん中に停車している。

 交通整理のスタッフが素早く車を降りると、工事中の看板を出して走行中の車の誘導に当たる。

 つまり普通の工事風景だ。

 だが、バンの中は普通ではなかった。

「準備は?」

 標準アサルトライフルである『ワースレイヤー』に弾倉を押し込んで、チャージングハンドルを引きながらシルクコットは言う。

「ばっちりよ」

 こちらも同じく『ワースレイヤー』のチャージングハンドルを操作しながらルビィ。

 二人とも、黒い戦闘服姿である。ルビィに至っては結構な大きさのバックパックを背負っている。

「じゃあ、行きましょう」

 シルクコットはバンの床に作られたハッチを開いた。

 そこは事前の計測通り、ぴったりマンホールの上である。

 そこにルビィが、バンの天井に取り付けられたウィンチをかけた。

 ルビィは、リモコンでウィンチを巻き上げる。バンのサスペンションが撓った後、マンホールのフタは開いた。

 同時にルビィが、ルミスティックを穴に投げ込む。

 ルミスティックとは、ナイロン製の筒に液体を封じ込めた照明器具である。二つに折る事で化学反応により発光する。可視光線以外をほとんど出さず、熱も持つこともない。無論、袋に入った液体なので無茶をやっても機械的に故障したりもしない。

「八メートルって所ね……行きましょう」

 ルミスティックでマンホールの底までの距離を確認する。

 事前に都市計画図で確認していはいるが、本当に図面通りになっているかはこうして確認してみないとわからない。

 図面を信じて飛び込んで怪我でもしたら笑えない。

「ほぼ図面通りって訳ね」

 シルクコットは、先ほどまでマンホールのフタをつっていたウィンチに降下用ワイヤーをかけた。

 そして一気に穴の底まで滑り降りる。

 シルクコットの手にしている『ワースレイヤー』のバレルガードには、左側にフラッシュライト右側にはレーザー照準器、下面にはフォアグリップが取り付けられている。

 フラッシュライトとレーザー照準器も、フォアグリップを握ったまま操作できるようにスイッチの配置は工夫されていた。

 ライトを点灯させたシルクコットは、素早く周辺の通路を確認する。

 そこは、都市インフラ用の配線スペースだった。下水などではないので、匂いなどもない。

 無論誰かが居るという事もない。

「クリア」

 喉に着けたスロートマイクにそう囁く。

「了解……降下」

 すぐにルビィが答える。

 軽くワイヤーをこする音、着地音はほとんど聞こえなかった。

 ルビィもライフルに着いたフラッシュライトを点灯する。

「行きましょう」

 敵は居ないはずである。しかし、不測の事態を想定してシルクコットとルビィは武装していた。

 本来素人であるルビィを武装させるのは、シルクコットとしては反対だったのだが、数日間の訓練で中々どうして様になっている。

「この辺に、通信ノードのチャンクがあるはず……」

 百メートルばかり進んだ所でルビィは立ち止まった。

 手元の端末と、実際の配線を突き合わせて目当ての物を探す。


 おおよそ三時間程かかって、ルビィはトンネル内にコンピュータを設置して、それを配線に割り込ませる作業を終えた。

 電源もトンネル内に通っている電源線から取り出す。

「バレないの?」

 率直に疑問をシルクコットは口にする。

「バレるわよ」

 ルビィも率直に答える。

「でも、どこからアクセスされてるか、なんてリアルタイムで誰も調べないし、調べなければバレないわ」

 そして、ルビィはキーボードを叩く。

 するとシルクコットは左腕に装着したディスプレイに、どこかの建物の中が映る。

「これが?」

「……治安維持ユニット本部ビルの監視カメラの映像よ」

 治安維持ユニットの本部というのは、エッグに置ける警察機関の中枢である。

 ルビィはそこに侵入して見せたのだ。

「凄いわね」

「これをするために連れて来られたから、ね」

 ともあれ、これでこちらは準備完了である。

 本来なら、シルクコットはアベルの直掩に付きたかったのだが、アベルはエレーナを指名した。

 曰く、魔法使いがいい。との事だ。

 実際、ドラゴンマスターは最終的に魔法戦を想定しているらしいので、この人選は納得できない事もない。

 どちらかというと、この人選が納得できないのはルビィだろう。ルビィはおそらくアベル配下で最強の魔法使いのはずである。

 ルビィは、治安維持ユニットの無力化の任務を帯びてここにいる。シルクコットも同じだ。

 それは簡単な事ではないだろう。何も考えずにマヒさせてしまうと、市街地の治安が悪化するのは必至である。

 クーデターによって起こった治安悪化により、その後の内政に影響が出るのはよくあることだ。

 そのデリケートな任務に指名されるルビィは、やはりアベルの高い評価を受けているのだろう。


◇◆◇◆◇◆◇


 レプトラは、ユグドラシル神殿内にあるアイオブザワールドのデータセンターに詰めていた。

「近衛隊からエッグ内海への侵入申請が提出されました。

 ……申請対象は四隻」

 ヘッドセットに向かって、ユグドラシル神殿内で流れている情報を順次伝えていく。

 この情報は、ドラゴンマスターを始め実働チーム全員に流される。

 ただし、通常時は無効からの通信はない。一方的にレプトラが情報を流すだけである。

「ソーラーシャフト付近で、さらに近衛隊の『ブラックバス』四隻が待機する模様。

 確認できたのは、合計八隻になります」

 近衛隊が誇る最新鋭の『ブラックバス』級であるE4400シリーズ。進出能力を捨てて防衛戦力に特化したこの船は、アイオブザワールドのE5300シリーズを上回る戦闘能力を持つモンスターだ。

 アイオブザワールドがエッグに展開させているE5300シリーズは五隻。一隻はレクシーの船なので修理中となっている。

 つまり、実質四隻。内訳は内海に三隻、外海に一隻。

 彼我の戦力差は数で二倍、実際の戦闘力ではそれ以上である。

 ……勝てる?

 とレプトラは考えた。

 少なくとも、アベルは勝てると考えているようだし、それを採用したドラゴンマスターもまた勝てると考えているはずだ。

 ちらりと時計に目をやると、時刻は午前六時前。

 まもなく、マザードラゴンも移動を始める。

 レプトラの前に並んだディスプレイの一つに、部屋を出るマザードラゴンの姿が映し出される。

 これらの情報は、事前にドラゴンマスターから得た通りのものだ。

 ドラゴンマスターの情報収集能力は凄まじい。どうやっているのかは不明だが、警備に関する極秘情報まで完璧に調べ上げている。

「マザー移動開始を確認。警護は四人」

 マイクに向かって告げる。

 実はこの瞬間、攻撃をかければそれで終わりではないか、とレプトラは思うのだが、どうなのだろう?

 そんな疑問を持っても、今は誰も答えてはくれない。その疑問の答えを知っている者たちは皆、最前線にいる。

「今のところマザーの行き先は不明」

 エッグにはいくつか宇宙港がある。無論ユグドラシル神殿に併設される形でも港があるが、そこへマザードラゴンが向かうかはわからない。

 これについてはドラゴンマスターからの情報もない。

 おそらくは情報が無いのではなく、事前に決められていないのだろう。

 だからこそ、ユグドラシル神殿に併設された港には行かない公算が高い。

「……近衛隊がE4400の入港申請を出しました。

 入港対象はユグドラシル神殿、ベルトフェルト、カッサーモンに各一隻。ユグドラシル神殿に二隻入港します」

 ベルトフェルトとカッサーモンはそれぞれ民間の港である。

 いずれも、一四〇〇メートル級の接岸設備を持つ港なので、『ブラックバス』級でも余裕をもって入港することができる。

 ベルトフェルトまでは約三十分。カッサーモンまでは約一時間。マザードラゴンを移動させるならどちらだろうか? あるいは、ベルトフェルトとカッサーモンはミスリードで、やはりユグドラシル神殿から乗せる可能性も捨てきれない。

 なるほど、実際にこの状況に直面するとドラゴンマスターやアベルが、ユグドラシル神殿内での決着を嫌がった理由がわかる。

 マザードラゴンの行き先がエッグフロントである以上、どこから乗せたとしても必ずソーラーシャフトを通らざるを得ない。

 

◇◆◇◆◇◆◇


「どれが本命だと思う? アベル?」

「まあ、ユグドラシル神殿の二隻のどっちかだろう」

 『ブラックバス』級巡洋艦E5315のブリーフィングルーム。

 ガブリエルの問いかけに、アベルはそう返す。

 部屋には、アベルとガブリエルとその側近達が居る。アベル側はエレーナとシャーベット。ガブリエル側はユーノとシャングリラだ。

「そのココロは? お姉ちゃんに聞かせて」

「単純に、民間港から乗せると目撃されたり、内部から情報が漏れたりするリスクがある。

 近衛隊の方も、こっちが何か仕掛けてきそうな気配は感じてるだろ。

 実際情報管制は厳しいし」

「お姉ちゃんのスパイフラワーのおかげで、ある程度は情報が得られるけどね」

 スパイフラワーとはガブリエルの作ったアーティファクトである。花のように見えるが、盗聴などの諜報用に使える一種のドローンである。

 若干気持ち悪いが。

「まあ、確かに情報が集まってくるのはありがたい……

 で続きだけど、民間港には一隻づつ入港しているわけだから、マザードラゴンが目撃されたら自動的に乗ってる船が確定する」

「そう思わせておいて、なんてことは?」

 これはユーノ。

「可能性の話で言えば、ある。

 でも現実的に、マザーをどこかの港で誰かに目撃させたあと、別の港に移動させる。なんて面倒なことができるのか、って話だ」

「じゃあ、そのまま船に乗せる、ってパターンはないのかよ?」

 続いてシャングリラ。

「まあそっちも可能性としてはあるけど……こっちが何も考えずにストレートに動いたら、そのままマザーの乗ってる船を特定されるわけだから、リスクだろ」

 もちろん、相手がそこまで考えていない可能性もあるが、そんなことを言っていたら話が進まない。

「大体言いたいことは分かった」

 ぶっきらぼうにシャングリラが答える。

「……でもそれなら、もっと『ブラックバス』を入港させた方が有利なのでは?」

 今度はエレーナである。

「そんなに沢山入れたら、ソーラーシャフトで詰まるし、そこが一番脆弱なのは向こうもわかってるはずだしな」

「大変よくできました。大体ワーズワースと同じことを言ってるのがエクセレントだわ」

 ぱちぱちと手を叩いてガブリエルが言う。

「褒めるのは大事だけど、全部終わってからにしてくれ」

 肩をすくめてアベルは答えた。


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