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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
歴史のしるべ - エッグ叛乱

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歴史のしるべ - エッグ叛乱1

 歴史のしるべ - エッグ叛乱


 エッグという国に置ける重工業の中枢は、数百隻の資源採掘船、資源加工船、工場船からなる船団である。

 これらの船団は、恒星間の資源帯を移動しながら工業製品の生産を行っている。

 これらの船団はキャラバンと呼ばれ、エッグで特に何も冠詞を付けずにキャラバンと言う場合、この船団の事を示す。


 緩慢に星空が歪み、キャラバンのすぐ近くに一隻の『ブラックバス』級巡洋艦がアークディメンジョンより降下して来る。

 やや古臭いイメージを受けるその『ブラックバス』は、既に型落ちになって久しいD型だった。

「指定海域に降下完了。キャラバンを確認」

「ヌルオードライブ始動。コンデンサ並列」

「機関部員は超光速機関の確認、急げ」

 次々と『ブラックバス』のブリッジに声が上がる。

 旧型でも、それにはそれの良さがあるとレクシーは思う。

 だが、最新型であるE型に比べると、D型は進出能力に劣るのは否めない。

「結構時間くっちゃったわね」

 艦長席に収まったレクシーは頬杖を付きながら、そう呟いた。

 本来、レクシーの船であるE5312が大破したので、現在修理中であるので仕方ない。

 D型とは言え、代替えの船を持ってきたアベルの政治力には頭が下がる。

 それに、役得もあるのだ。


 キャラバンから来た引き船に牽引されて、『ブラックバス』は工場船の一隻に入った。

 工場船。船などというが、実際のところそのサイズは全長一〇〇キロを超える物も少なくない。

 実際、レクシーの乗った『ブラックバス』を飲み込んだ船も、その全長は二〇〇キロに達しようかという化け物である。

「これはレクシー艦長。よくぞおいでくださいました」

 レクシーを応接室で迎えたのは、妙齢の女性のドラゴンだった。

 オールドシップ・アンド・クラシック社の社長、アルネイア・ボーマン氏である。

「ええ。

 残念ながら世間話をするほど時間もありませんので、早速本題に入りたいと思います」

 応接室のソファに腰かけて、コーヒーを飲みながらレクシーは言う。

 しかし、時間がないというのは本当だ。キャラバンまでの道のりに時間を喰いすぎた。

「わかりました……が、本当にX2000でよろしいので?」

 アルネイア社長はやはり乗り気ではないのかもしれない。とレクシーは思う。

「すでにドラゴンマスターより指示が出ています。問題ありません」

 毅然とレクシーは返す。

 ここで不安がっている所を見せるわけには行かないし、不安がっても仕方ないのだ。

「……では、こちらへ」

 会議室に仕付けられた窓に社長は歩み寄る。

 今その窓には、穏やか海が映し出されているが、それがただのホロである事は明らかだ。

「……へえ」

 社長の操作で、窓から海の風景が消える。

 そこに現れたのは、巨大なメカニズムだった。

 宇宙艦を建造するドックは、極めて巨大である。第四世代艦は規格上、全長一四〇〇メートルまでを許容する仕様だ。

 船が一四〇〇メートルという事は、その船を建造するためのドックはさらに巨大でなければならない。

「これが……」

 レクシーの眼下に、このドックの主たる船が横たわっている。

 まず目につくのは、異様にのっぺりした直線的な上甲板。『ブラックバス』級のそれとはまったく異なるデザインである。

 そして、その上甲板の左の方……つまり艦首側……に巨大なパンケーキ状の連装砲塔が二つ並んでいる。

 その後ろには旋回式の台座に乗った魚雷発射管が、甲板に埋め込まれる形で設置されている。

 さらに、その向こうにはメインマスト、要するにこの船の背ビレ。

 ドック内は与圧されているのだろう。空気の揺らぎでそれより遠くはかすんで見えない。

「それで、社長。この船の完成度はいかがな物かしら?」

「コンポジット・ヌルオードライブは諸元の六〇%程度で安定動作しています」

 アルネイア社長は、手元のデータ端末を確認しながらレクシーの問に答える。

「また、超光速機関は七二時間の連続運転試験を終えているので、進出能力については問題ないと断言できます」

 ヌルオードライブの稼働率が低かったり、超光速機関の連続運転時間が短かったりするのは、このX2000という船が試作品であるから他ならない。

 しかし、X2000は船としては実用レベルにあると言えそうだ。

 何しろ、『ユーステノプテロン』級のヌルオードライブの出力要求諸元は、『ブラックバス』級の七倍近い数値である。

 七倍の六割。単純計算でも、現地点で『ブラックバス』の四倍ほどの出力がある事になる。

 となると、問題はもう一つの諸元の方である。

「なるほど。よくわかりました。

 武装の状態は?」

「……正直申し上げて、ほとんど試験は進んでいません」

 これはまあ、当然であると言える。

 船として完成していないのに、兵器のテストなどできないのは仕方ない。

「主砲は、試験用のフレーム上での発射実験のみ完了している状態です。

 ミサイルキャニスターや魚雷発射管に至っては全くテストを行っていません」

 社長はそういうが、主砲以外の兵装についてはあっても無くてもあまり意味がない。

 装填するミサイルや魚雷が無いからである。

「主砲が何発か撃てれば、まあ問題はないでしょう」

「……しかし、レクシー艦長……一体X2000を何にお使いになるので?」

「それは機密情報です」

 きっぱりとレクシーは言い放った。

 とても第三者に言えるような事ではないし、聞いても社長が不幸になるだけである。

「……では、引き渡し書類にサインを」


◇◆◇◆◇◆◇


 近衛隊の作戦本部は、ピリピリしていた。

 基本的にマザードラゴンというのは、ユグドラシル神殿を出る事はないのだが、やはり大きな式典などがあれば出席せざるを得ない。

 マザードラゴンは政治家であるので、ずっとユグドラシル神殿に引きこもっている訳には行かない。外遊も必要なのだ。

 今回のマザードラゴンの外出は、エッグフロントの新しい区画の落成式だった。

 しかし、エッグ内部がどうにもキナ臭い。

 キナ臭さの原因の一つが、アベル=フォン=レインだ。

 ドラゴンマスターの弟だと言う男だが、ある日ふと現れて、以後事あるごとにマザードラゴン批判を繰り返している。

 一度など、無能な臆病者。とマザードラゴンに向かって、言い放った事まである。

 無論、神殿からドラゴンマスターに向かって止めさせるように勧告が出ているが、一向に収まる気配はない。

 ドラゴンマスター側に収める気が無い……と言うより、ガブリエルも同じように考えているのだろう。

 となると、このマザードラゴンの移動は危険であると言える。『来る』ならマザードラゴンが脆弱になるここしかない。

 近衛隊のパルマー参謀の情報収集の結果、今エッグ近海にあるアイオブザワールド所有の『ブラックバス』級は、全部で五隻。

 五隻中二隻はエッグの内側にあって、その内一隻は修理中である。この一隻は数週間前に爆発事故を起こしたE5312だった。

 情報では、装置実験中の火災で航行機能を喪失したとの事なので、残りは四隻。

 エッグ外に居るアイオブザワールドの船の動向も調査済みだが、急襲してこれる位置に船は居ない。

 つまりこの四隻が、全てだ。

 これらは全て最新鋭のE5300シリーズではあるが、近衛隊のE4400シリーズと比べると単純な戦闘能力は劣る。

 外洋の航海性能を考慮しなくていいE4400は、進出能力を捨てて戦闘に特化した設計である。

 パルマー参謀長は、エップス近衛隊長と相談の結果、マザードラゴンの警護にはE4400を八隻使う事とした。

 表向きはパレード的な意味合いで数を増やしている、と発表する。何しろエッグフロントの落成式なので、軍艦のパレードに文句を言う向きもない。

 ドラゴンマスターも、特に何も言わなかった。

「マザーはどの船に?」

 E4422のシーモック艦長が、挙手してパルマー参謀長に尋ねる。

 E4400シリーズはどの船も要人を乗せるに相応しい装備を持っているので、どの船に乗せても問題はない。

 これは一見するとコストの無駄のように見えるかもしれないが、お召し艦が一隻しか居ないと、それに要人が乗っているのが丸わかりである事への対策である。

「それについては、事前に告知はしない。艦長各位は自分がマザードラゴンを迎えるつもりで、用意されたい。

 実際にマザーがどの船に乗るかは、直前に私が発表する」

 事前告知をしないのは、情報漏洩を嫌っての事だ。

 アベル=フォン=レインの配下にはルビィ・ハートネストという凄腕がいるという。その実力の程は不明だが警戒を怠る事は出来ない。

「ほかに質問は?」

 パルマー参謀長の言葉に全員は首を振った。

「よろしい。ではエッグの内海に移動する」


 かくして、近衛隊の『ブラックバス』はエッグフロントを離れた。

 単縦陣でエッグのソーラーシャフトへと向かう。

 ソーラーシャフトとは、ダイソン球であるエッグの内海と外海を繋いでいる穴である。ソーラーシャフトはいくつかあるが、ユグドラシル神殿の要人が使うシャフトは決まっている。

 この要人用ソーラーシャフトあまり広くない。一辺五〇〇メートルほどの六角形の穴は、昨今の艦船にとって狭い。

 慎重な操船を求められるシーンだが、栄えある近衛隊の船乗りたちはそれを完璧にやってのけている。

 パルマー参謀長は旗艦に指定した、E4425のブリッジで満足そうにそれを見ていた。

 ……我々なら、どんなトラブルにでも対応できる。

 それは根拠のない自信であった。しかし、それが可能なだけの訓練を近衛隊が積んでいるのもまた事実だ。

 古竜であるドラゴンマスターが襲ってくるというのは笑えない話だが、それでもパルマー参謀長は近衛隊の実力を信じていた。


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