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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
政治の本質 ドラゴンマスターの場合

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政治の本質 ドラゴンマスターの場合14


◇◆◇◆◇◆◇


 翌日。まだ誰も出勤していないデスクでルビィは、港湾部のビルから回収されたデバイスの解析を行っていた。

 いや、解析というのは間違っているかもしれない。

 ルビィが探しているのは、グレイマンの影である。

 基本的に回収されたストレージは破壊されている。

 しかし、各デバイスに断片的にデータが残っているし、複数のデバイスで同じデータが入っていた形跡もある。

 これは当然の事で、作業者がいったん自分の端末にデータをキャッシュした時の痕跡だ。


「……グレイマンの痕跡は……なさそうね……」

 懸命に断片化したデータをつなぎ合わせて、そこから得られた情報をルビィは吟味する。

 そもそも、そのつなぎ合わせたデータからして、高度に暗号化されているものがほとんどで、現状そのファイルの中身は分からない。

 わからないファイルは、わからないフォルダに分類して先に進む。

 これは、それ単独では意味の分からないファイルも、一定数集まればわかることがあるためである。

「よう。早いな」

「マイスタ・アベル。

 おはようございます。マイスタも早いですね」

 ちらりと時計に目をやると、出勤時刻まであと一時間以上あった。

 アベルは基本朝に弱いタイプだとルビィは認識しているのだが、果たして。

「しっぽりフケこんでいるって、レクシーは言ってましたが……」

「しっぽりの定義もよるが……一般的にはあれはしっぽり、ではないと思う」

 何を思い出しているのかは不明だが、アベルは少し上を見上げるような仕草をした。

 おおよそ碌な事ではないのだろうが。

「……昨日の回収データか……

 ご苦労さまだが……何かわかったか?」

「今のところは……ただ、テロ組織が使うにしては、少々暗号強度が高すぎるような気がします」

「……暗号は暗号であること自体が情報、ってか」

 アベルが言っているのは、暗号を解くのに必要なエネルギー量自体がすでに情報であるということである。

 暗号は、その組織のセキュリティレベルに合致した強度に集約するはずである。この強度が予想と異なるのは、対象の組織のセキュリティレベルが、想定と異なる可能性があることを示していると言える。

「具体的には?」

「……比較対象がないので何とも言えませんが……体感的には戦時中の国家戦術レベルです」

「ちなみに、その暗号って解けるのか?」

「解けます」

 ルビィは即答した。

 この世に解けない暗号はない。

「で、どれくらいかかるんだ?」

 続く質問で、アベルも暗号が必ず解ける事を認識しているらしい事がわかる。

「十秒かも知れませんし、宇宙の終わりまで総当たりをやっても終わらないかも知れません」

 つまり、暗号の強度というのは解けない強度、などではなく解くまでにかかる時間なのである。

「……アルゴリズムと、ハードウェアの改良で多少は早くなるかもしれません」

「あら? 早いですね?」

 丁度その時、ゴロゴロとキャリーバッグを引きながら現れたのは、レクシーだった。

「お? そっちも早いな」

「わたしは朝一で、エッグフロントで『ブラックバス』を受領しないといけないので……」

 ここでルビィにある考え。

 昔から漠然と考えていた事を試すいい機会ではないか。

「マイスタ・アベル。お願いが」

「有休とかは許可できないが?」

 アベルは真顔で答えた。本気で有休を取ると考えているのかもしれない。

「いえ。そうではなく……先ほどの暗号の件、レクシー艦長に協力いただければ、速攻で解けるかもしれません」

「ほう?」

 と、アベルが興味を示した。

「具体的には?」

「『ブラックバス』の艦載コンピュータを使います」

「確かにE5312の艦載コンピュータは強力だけど……そこら辺のスーパーコンピュータといいとこ同等よ?

 『ブラックバス』は自前で発電機持ってるから、電力面で有利だけど」

「オレもそう思うな……確かに電気代は有利そうだけど」

 レクシーが即答し、アベルがそれに同意する。

 しかし、ルビィが考えている事とこの二名が考えている事は根本的に違う。

「はい。まともに使ったら、ここでやってるのと大差ないと思います。

 いやむしろ、遅くなります」

「じゃあ、どうしたいんだ?」

「実は前から考えていたことなんですが……超光速機関を使います」


 『ブラックバス』級巡洋艦の超光速機関は艦尾のフィン状構造物……要するに尾ひれの中に収められている。

 この機関の本来の目的は、艦体をアークディメンジョンに押し上げるための原動力だ。

 しかし、超高速通信にも使われている事からもわかる通り、艦体を超光速で移動させる事以外にも使う事が出来る。

 そもそも、超光速で移動する船は外部から見た時、一度時間的な連続性を失う。要するに、超光速移動とは一種のタイムトラベルであると言えるのだ。

 ならば、その超光速機関によるタイムトラベルで、処理中のコンピュータだけをタイムトラベルさせればどうなるか? どんな長大な計算も即座に答えが得られるのではないか? とルビィは考えている。

「……現実にできるのかどうかは分からんけど……面白そうだ。

 レクシー、どう思う?」

「つまり……コンピュータを電源もろとも超光速機関に接続して、アークディメンジョンの上をスライドさせる。って事ですよね……?

 電源容量さえクリアすれば出来るような気はしますが、何かとんでもないデメリットがあるかも知れません。その辺は、艦隊技術部の先進技術開発局とかに聞いてみないと何とも……」

「よし、実験してみよう」

 アベルはそう宣言した。早速、手近な受話器に手をかける。

 この技術的に煽れば、速攻で動き出す所がアベルのいい所だとルビィは思う。

「ちょっと待ってください!? わたしの『ブラックバス』でやるつもりですか!?」

「……そうだけど?」

 心底意外そうな顔で、アベルは答えた。

「やめてください! 壊れたらどうするんですか!?」

「そんなにヤワじゃないだろ?」

「ヤワです」

 レクシーは即答した。

「それはそれはデリケートな上、普通に爆発するからやめてください」

「そこを何とか!」

 アベルがパン! と手を打ち合わせて、レクシーを拝む。

「拝んでもだめです。大体、それでE5312が動けなくなったら、マイスタ・アベルのが自由に動かせる船、無くなるんですよ?」

「……うっ」

 レクシーに指摘されてアベルは唸った。

 痛い所を付かれた、と言ったところか。


◇◆◇◆◇◆◇


 レクシーは、こんなバカな実験が認められる訳がない、と決めつけていた。

 しかし、しばらく後に先進技術開発局から戻って来た返事は、成功の可能性大につき、実験を許可する。という物だった。

「……なんかやりましたね?」

 とレクシーが聞くと、アベルとルビィはそれぞれ目を逸らした。

 つまり、そういう事だろう。

 かくして、一行……情報系のレプトラはまあ分かるが、シルクコットやシャーベット、果てはエレーナまで同行している……は、エッグフロントのアイオブザワールド所有ドックに来ていた。

 そんな大人数で来なくてもいいではないか、とレクシーは思うわけだが、アベルには何か意図があるのだろうか?

 別に無いかも知れないが。

 かくして、E5312の天文デッキにルビィが機材を運び込み、セッティングを始めている。

「DDトランスファーの泡発生器のジャンクションは?」

 ホロタブレットを片手に、ルビィが勝手にその辺の壁のパネルを外す。

「電源ユニットって、どれ使ってもいいのかしら?」

 先進技術開発局のスタッフに色々聞きながら、ルビィは作業を進める。

 その手つきはてきぱきとしており、自信が感じられる。

 この辺り、流石はアベルが見込んだ魔法使いと言ったところか。

 もっとも、レクシーとしては自分の寝室でもかき回されているようで、気分は良くなかったが。


 一時間もすれば、天文デッキの中央に据え付けられたコンピュータと、それを取り巻く超光速機関の端末アレイが完成した。

 先進技術開発局のスタッフが、しきりに写真を撮りまくっている。

 確かに、これが成功すれば、超絶計算能力を持ったコンピュータが作れるかも知れない

 だが、今まで誰もやっていない以上、やはりどこかにダメな要素があるのではないか、とレクシーは思う。

「では、始めます」

 ルビィが宣言し、手元のコンソールのキーをいくつか叩いた。

 グゥンと低い音。これは、コンデンサが放電している音だ。現在、『ブラックバス』は港湾施設のメンテナンス用の電源に接続されているが、どうやら供給能力を超える電気が使われているらしい。

「機関部。レクシーです。

 主機を始動。プラズマコンジットをコンデンサのチャージに回して」

 外部から供給される電力は、発電所から超電導回線を通じて『ブラックバス』に接続されているが、超電導だろうと抵抗はある。

 なにより、『ブラックバス』に接続されている変電施設自体が抵抗なので、ここが火災を起こしたりするかもしれない。それなら、自前で発電した方がいい。『ブラックバス』の発電機は艦内で使われる主要な電圧をダイレクトに作ることができるので、超光速機関用の直流三〇〇〇Vも無駄なく作る事が出来る。

 機関部に指示して、レクシーは再び手元の端末のパラメータの監視に戻った。

 しばらくの間、コンデンサの容量が三〇%内外でせめぎ合っていたが、やがて上昇に転じる。

「ふう」

 とレクシーは息を吐いた。

 少なくとも、超光速機関が爆発する事は無さそうだ。

「……暗号のデコード、終わりました」

 ルビィが言った。

「どれくらいの計算したんだ?」

 これはアベル。

「ざっと……一七週間分と言ったところです。

 実時間は五分強でした」

「すげえ!」

「それでは、アークディメンジョンからコンピュータを下ろします」


 ガァンという音がどこか足元から響いた。

「なんだ!?」

「……トラブルか!?」

 アベルや、先進技術開発局のスタッフが騒ぐ。

 だがレクシーには、原因がすぐに分かった。

 音の響き具合と、衝撃の方向でどこで何が起こったのか大体わかるのだ。

 伊達に、E5300シリーズの最先任ではない。

「……プラズマコンデンサアレイが爆発したようです。

 どうも、アークディメンジョンからの降下のパワーを賄いきれなかったみたいですね」

「そんなぁ」

 ルビィはがっくりと肩を落とした。

 本当に肩を落としたいのはレクシーだった。

「……所でマイスタ・アベル。ちゃんと治してくれるんですよね?

 というか、代わりの船が無いと、わたし十週間くらい無職ですよ?」

 何しろ、コンデンサアレイなど普通は交換したりしない物である。交換しようと思ったら、『ブラックバス』の腹を捌いて交換するしかない。

 そういう意味では、超光速機関が爆発した方がマシだったかもしれない。あちらなら、尻尾の部分を挿げ替えるだけである。

 もちろん、相応の値段はするが。

「十週!? そんなにかかるのか!? 先に言えよ」

「まさかコンデンサがパンクするなんて思わなかったので……」

「……まあ、壊れた物は仕方ない。代車手配しておこう」

「代車?」

 思わずレクシーは聞き返したが、アベルは何も答えなかった。

「はあ」

 深いため息を付いて、レクシーは天文デッキから見える『ブラックバス』の背中を見た。

 心なしか、その背中はすすけていた。


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