表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
政治の本質 ドラゴンマスターの場合

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/607

政治の本質 ドラゴンマスターの場合9


◇◆◇◆◇◆◇


 一方で、地上に残された者たちの間で、戦闘は続行していた。

 ルビィ、シャーベット組対アルカンドスである。

 ルビィとシャーベットは、アベルから直接アルカンドスの逃亡阻止の任務を与えられている為、アベルが戦線を離れれば必然的にアルカンドスと交戦する事になる。

 シャーベットにとってはもちろん、ルビィにとっても初めての本格的な敵性魔法使いとの戦闘である。

 基本戦術は、シャーベットが防御担当、ルビィが攻撃担当という分担を行うようにアベルから指示が出ている。

 しかし、ルビィとしては水系であるシャーベットが、属性的に不利なアルカンドスの攻撃を防ぎ続ける事が可能かどうか、疑問があった。

 シャーベットが、アベル並みに雷系の魔法対策をしているとは考えにくいからだ。

 とは言え、始まってしまった物は仕方ないし、ルビィも逃げる気など毛頭ない。

「《ブラックファイア》デプロイ!」

 雷系の打撃魔法は基本的に弾速が早いので、間合いは短く保つのが良い。

 彼我の投射物の弾速の差は、距離が開くほど顕著に出るからである。

 ルビィは《ブラックファイア》を目隠しに、一気にアルカンドスとの間合いを詰める。

 こうなると、回避不可能な《アークサンダー》辺りの魔法による攻撃が怖いのだが、これの防御はシャーベットに頼るしかない。

 もっとも、シャーベットの実力についてルビィは高く評価している。現在、専用にチューニングされた最新鋭のVMEであるAiX2700を得たシャーベットはかつてとは別次元の性能を有する。

 ついでに、アベルと同じ水系のシャーベットは、そのノウハウを学ぶこともできる。これは、身近により上位の火系の魔法使いが居ないルビィにはないメリットであると言える。

「お嬢ちゃんたちに用事は無いんだがな」

 そう言いながら、アルカンドスは大きく飛び下がって《ブラックファイア》をやり過ごす。

 《ブラックファイア》は、相手の足元で発生する魔法故、大きく動けばかわすのは容易である。

「……こっちは給料もらってやってんのよ!」

 ルビィはパン! と頭の上で手を打ち合わせた。

「……《ディッドリーブレイズ》デプロイ!」

 魔法の発動に合わせて、打ち合わせた手を両側へ開く。

 両手に灯った赤くて黒い炎がアーチ状の軌跡を描く。そのアーチはすぐに消えて、炎だけがルビィの手元に残った。

「消し炭になれ!」

 《ディッドリーブレイズ》は、AiX2700の処理能力の上に成り立っている大技である。

 放たれた炎は、一直線にアルカンドスを目指す。

 しかし、ルビィが十分だと考える《ディッドリーブレイズ》の弾速も、実戦に置いては十分ではないようだ。

 アルカンドスは、《ディッドリーブレイズ》の投射物とすれ違いざま、剣を振るう。

「《サンダーエッジ》デプロイ!」

 魔法の発動と同時に、アルカンドスの手にした剣が帯電する。

「《ファイアウォール》……デプロイ」

 迫るアルカンドスに対して、ルビィは自分を中心に半円を描くように炎の壁を展開する。

 炎の壁は、ただ相手の侵入を妨害するだけでなく、接触すればダメージを与える。

 ついでに炎の壁が視界を妨害する。アルカンドスからルビィは見えなくなったはずである。

 しかし、ルビィ側はシャーベットのAiX2700からデータリンク経由で座標データをもらえる為、視界が邪魔されていても敵の位置を把握する事は難しくない。

「《炎の矢》デプロイ!」

 ルビィは《ファイアウォール》越しに、データリンクで位置の分かっているアルカンドスに向かって、攻撃を続行。

 やられるアルカンドス側はたまった物ではないだろうが、AiX2700の諸元に対する知識がないため、なぜルビィが正確に目視できない目標を攻撃できるのかすらわからないはずだ。

 本来、アルカンドスはルビィやシャーベットがかなわない相手だったかも知れない。しかし、テクノロジーがその格差をひっくり返している。

 ……ひょっとして、これは……

 これは、恐るべき事実なのではないか? とルビィは思う。

 AiX2700が普及すれば、既存の魔法使いの強弱の概念が壊れてしまうだろう。

 いや、すでにアベルの魔法の運用は、普及後のそれを見込んだものになっている。これはつまり、魔法使いの世代が変わろうとしている事を示しているのではないか、とルビィは考えた。

「《フリーズブリット》デプロイ!」

 アルカンドスは|《炎の矢》から逃れるために、身を引いたらしい。

 そして、シャーベットの射界に最悪の形で入ってしまう。

 シャーベットの使う《フリーズブリット》は、アベルが使う物と完全に同じバイナリである。

 つまり、近接信管付きの凶悪な代物だ。

 ルビィが《ファイアウォール》をリリースした時、丁度見えたのはブリンクで《フリーズブリット》から逃れるアルカンドスの姿だった。

 交戦前の状態で、アベルのAiX2700がデータリンク経由で送って来たデータによると、アルカンドスのブリンクは一度使ったら十五秒は再使用はできないとなっている。

「《氷の矢》デプロイ!」

「……《炎の矢》デプロイ!」

 シャーベットが放つ追撃の《氷の矢》の発動を待って、ルビィもそれに合わせる。

 稚拙なコンボではあるが、単純にばら撒かれる弾が倍になるので、回避も困難になるだろう。

 あるいは、これで仕留められるかも知れない。

 だが。

「甘く見るな! 小娘どもっ!」

 叫んでアルカンドスは剣を振り上げた。

 ……っ!

 それを見た瞬間、次にアルカンドスが何をするのか、ルビィにははっきりと分かった。

 しかし、相手の行動がわかっても、対抗手段が間に合わない。

「《アークサンダー》デプロイ!」

 アルカンドスを中心に、青白い電光が膨れ上がる。

 電光は、炎や氷の矢を拭き散らしながらルビィの元へ到達する。

 同心円状の広域打撃魔法であり、一種の飽和攻撃である《アークサンダー》を避けるのは無理である。

「……っぎゃん」

 衝撃は一瞬だけ。致命傷にもほど遠い程度の威力。

 しかし、電撃を受けてしまえば、痙攣や麻痺の症状が出るのは仕方ない。

 その場にしりもちをついて、ルビィは保護障壁負荷の数値を見ていた。

 数字上、保護障壁は攻撃に耐えているので、直撃よりは随分マシなダメージで済んだことがよくわかる。

 これも、AiX2700の処理能力に依る所が大きい。

 なるほど、こうやってAiX2700を実戦で使ってみると、アベルの胡散臭い強さの秘訣がわかると言う物だ。

 一方でシャーベットの方は、《アークサンダー》を防御したらしい。

 こちらは、アベル直伝の防御魔法を多数積んでいるので、打つ手には困らないと言ったところか。

「っしゃあっ!」

 裂ぱくの声を上げ、アルカンドスがルビィに迫る。

 小細工は抜き、剣で叩き切る構えだ。

「……っう」

 《アークサンダー》の後遺症で麻痺の残っているルビィは上手く動けない。

 AiX2700の性能に酔ったルビィの些細な油断の結果である。

 しかし、今度はアルカンドス側が油断している。

「《フリージングチェイン》デプロイ!」

 その油断を狩る一手が、アルカンドスの背後から放たれた。

 これは難しい一手である。

 アルカンドスのブリンクは、ルビィの見立てでは後三秒かそこらは再使用不可能なはず。

 つまり、アルカンドスは空に逃げるか、《フリージングチェイン》を迎撃するかの二択を迫られる。

 無論、空に逃げれば《フリーズブリット》の追撃が来るのは確実。かといって、迎撃すればルビィに背を向けた状態で無防備になる。そこを大火力の打撃魔法で一撃すればそれで終わりである。

 だが、アルカンドスはどちらの選択もしなかった。

 なんと、《フリージングチェイン》を無視して、ルビィに斬りかかって来たのだ。

 がきぃっ! という、耳障りな音を立てて、アルカンドスの剣がルビィの保護障壁を叩く。

 保護障壁のストレス値が一気に跳ね上がる。

 しかし、それだけだ。一撃では保護障壁は抜けないし、一瞬後には《フリージングチェイン》がアルカンドスを捉える。

 シャーベットの使っている《フリージングチェイン》は、アベルの物と同じだからして、友軍識別にも対応しているからルビィが巻き添えを食らう心配もない。

 ……終わった。

 ルビィは思った。

「甘いんだよ。小娘!」

 そういうと、アルカンドスはルビィの目の前で飛んで見せる。

「《フリーズブリット》デプロイ!」

 当たり前のように、飛んだアルカンドスに対してシャーベットが追撃する。

 放たれた《フリーズブリット》は、アルカンドスのやや左側に迫り、近接信管によって破裂する。

 ルビィはそう思っていたし、シャーベットもそう考えて《フリーズブリット》を放ったはずだ。

 しかし、結果はそうはならなかった。

 《フリーズブリット》は、明らかに近接信管の発動範囲内にアルカンドスを捉えたにも関わらず、破裂することなくそのまま通りすぎる。

「!?」

 ルビィが真っ先に疑ったのは、ソフトのバグである。

 しかし、ここまで正常に動作していた《フリーズブリット》が、土壇場で誤動作するとは考えにくい。

 ならばシャーベットのオペレーションミスか? しかし、これも違うだろう。そもそもAiX2700が介在している地点で、発動後の魔法が術者のオペレーションミスで誤動作するなど考えられない。

 つまり、この挙動は仕様動作なのだ。

「IFFったか? 友軍識別なんて便利なモンに頼ってるよな? お前らも、お前らの飼い主も? ん?」

 剣の切っ先をルビィに向けて、アルカンドスは言う。

 ……ああ。

 そう言われてルビィは納得した。確かに近接信管は友軍識別情報を参照すると、仕様書に書いてあったような気がする。

 しかし、今回のように味方多いシチュエーションで友軍識別周りの仕様が、敵にばれているのはいただけない。

 何事も万能などと言うことはないのである。

 もっとも、今回に限って言えば、アベルが戻ってくるまで待っていればいいだけなので、それほど不都合はないのだが。

 それに、戦闘開始からそろそろ五分。アベルが戻ってきてもよさそうな時間帯である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ