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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
戦の本質 九重内閣の場合

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戦の本質 九重内閣の場合14


 数日後。ユグドラシル神殿。

 尋常ではない緑の匂いに包まれた、ドラゴンマスターの執務室だ。

「……お姉ちゃん。それは怪しいと思うの」

 アベルから鈴木の事を聞いたガブリエルの一言目は、それだった。

「件のグレイマンじゃないの? オーストラリアのスパイの可能性もあるわよ?」

 正体不明のグレイマン。確かに、これが鈴木として目の前に現れたとしても不思議ではない。

「グレイマンだとして……なんの目的で現れたと?」

「うーん。例えばクーデター計画の詳細を探ってる、とか? お姉ちゃん難しい事はよくわからないわ」

 執務机の上に置かれた謎の鉢植え植物の葉っぱをむしって口に運びながら、ガブリエルは言う。

 一見するとハーブの様に見える謎の植物であるが、ガブリエルに葉っぱをむしられた直後、うにょうにょとうごめいた後また新しい葉っぱを生じる。

 その事象がガブリエルの魔法によるものなのは明らかなのだが、どういう仕組みなのかアベルにはさっぱりわからなかった。

「どこの世界に当事者に、どうやってクーデター起こしますか? って聞く奴がいるんだよ……」

「まー、それもそうね……アベルも食べる?」

 天井を見上げて、ひとしきり考えるような仕草をしたあと、ガブリエルは鉢植えをアベルに差し出す。

「いらない」

 鉢植えを押し返す。

 そもそも何の植物かわかった物ではない上、何を与えられて育てられたかもわからないような物、食べられるわけがない。

 なによりアベルは野菜がキライだ。

「やっぱり、どこかの国の謀略、って筋かしらん?」

「……そうかも知れない……でも謀略なら、アイオブザワールドじゃなくて政府機関を狙うべきだろ。

 アイオブザワールドに情報与えるメリットは……ぱっとは思いつかないぜ?」

「結局、来るべき時が来るまで、知る由もない、って所なのね」

 ガブリエルは、コードネーム『鈴木レター』を執務机の引き出しにしまった。

 内容を見たのはガブリエルだけである。

 アベルが内容を見なかった理由は簡単で、おそらく『鈴木レター』はアベルが見ることを想定していると思われたから。

 大体、必要そうな情報ならガブリエルが再度展開するだろう。

 それが無いと言う事は、少なくと直近ではそれは影響がない。という事である。

「さて……」

 アベルは席を立つ。

「もう行くの? もうすぐお昼よ? お姉ちゃんとごはん食べて行かない?」

「残念だけど、この後レクシーとかと聖域に展開している船の分析する事になってんだ。

 じゃあ」

 軽く手を振って、アベルはドラゴンマスター執務室を立ち去った。


◇◆◇◆◇◆◇


「ほう。これが鶴級か……」

 薄暗いドライドックの中に鎮座する、それを見上げて小沢は思わず呟いた。

「『蒼龍』も格別だったが……こいつは……我が帝国の技術力も捨てた物ではないな」

「気に入って頂けました、長官」

 背後からかかった声に、小沢は振り向いた。

 そこには四〇過ぎの、美形中年が立っていた。

 階級は大佐である。

「貝塚大佐であります]

 ぴっ、っと敬礼して、貝塚は言った。

 小沢も答礼する。

「しかし、新型艦の艦長とは、出世したな」

「ご冗談を。閣下は中将になられておりますが、自分は大佐のままであります」

 笑いながら貝塚は言う。つまるところ、万年大佐で空母の艦長を止める気など毛頭ない、という意思表示だろうか。

「……しかし、どうでありますか? 『翔鶴』は?」

「すさまじいな……こんな物を我が海軍は作ってしまうのか……」

 『翔鶴』型航空母艦のネームシップ『翔鶴』。全長五七五メートル、全幅八八メートル、最大全高一〇七メートル。

 帝国海軍のみならず、地球人類が作り上げた最大の航空母艦である。

 小沢の位置は、艦の右舷側ほぼ中央。

 目の前には、右舷側の艦体側面と一体化したアイランドが聳え立つ。左右に至っては、艦首も艦尾も見ることはできない。

 まことに巨大な空母である。

 『翔鶴』の姉妹館『瑞鶴』も、ほぼ同時期に進水している。

 そして、『翔鶴』と『瑞鶴』が居なくなった建造ドックでは、三番艦『紅鶴』四番艦『天鶴』も起工されたと聞く。

「気に入って頂けましたか……

 まだ艤装は終わっていませんが、中を案内いたします。長官」

「うむ」

 と小沢は満足そうに頷いた。

 次の艦隊再編で『翔鶴』は、第一航空戦隊に配備され、第一航空艦隊に組み込まれることが決定している。

 そして、その第一航空艦隊は小沢の指揮下に入るのだ。

 平和、大いに結構。しかし、宇宙で生きる海軍の男である以上、『翔鶴』がもたらすであろう圧倒的な戦闘力に、心が躍らない訳がない。


◇◆◇◆◇◆◇


「……空母からの発艦と同じ、つってもなあ……これは、なかなか」

 目の前に広がるのは、特設航空輸送艦『赤城』の飛行甲板である。

 海王星までの距離が五〇〇万キロに達したので、ラーズと村田は自分で練習空母『母鴨』まで飛んで行くように命令を受けた。

 まあ、それはいい。

 どのみち、『母鴨』に横付けして搭載機を移動させる、などという芸はできないのだから。

 問題は、『赤城』の飛行甲板の左側に鎮座する、巨大なアイランドである。

「なんで左側に作った!?」

 何しろ、左側にアイランドのある空母など、見た事も聞いたこともない。

 見慣れないので、アイランドの圧迫感が異常に高く、ふとするとアイランドに向かって突っ込みそうな感覚に襲われる。

「モズ1、発艦始め!」

 航空管制官の声で、ラーズの前に待機していた村田の『烈風』が飛び立っていく。

 村田が、『烈風』に乗っての艦船から飛び立つのは今回が初めてのはずだが、文句の付けようのない見事な発艦である。

「さて……」

 ラーズは意識を研ぎ澄ます。

 無重力下での空母発艦は簡単。などと宣う者がいるが、それは重力がある所での発艦が難しすぎるだけで、別に無重力下での発艦が簡単な訳ではないとラーズは思う。

 一番怖いのは、飛行甲板から離れる瞬間に、空母自体の揺れで機体が押される事だ。

 『烈風』が大型であると言っても、空母の艦体に比べれば豆粒のような物であり、その質量差で押されれば尋常ではない加速度を受けることになる。

 ショックで気を失えば、終了である。

 そして、なにより困難な物がラーズの目の前に鎮座している。

 乙型『烈風』。

 特号装置に接続された、無人戦闘機である。

 これが三機。これらもラーズが離陸させる必要があるのだ。

「がんばってください。ご主人様。

 お手伝いはできませんが、見守っています」

 祈るようなポーズで、鈴女が言ってくる。

 もちろん、本来なら発着艦シーケンスは鈴女に任せる事も出来るのだが、今回は特号装置のテストを兼ねている為、ラーズがマニュアルで行う様に命令が出ている。

「管制よりスズメ1、発艦準備はいいですか?」

「スズメ1から管制。

 スズメ4から3、2、と飛ばす。スズメ1は最後に飛び立つ」

「スズメ1、管制。ヨーソロ。

 いつでもどうぞ」

 管制官は明るい声で言ったが、ラーズは憂鬱だった。

 なにしろ、この後『母鴨』への着艦もあるのだから。

「……よし! 行くか!」

 気合を入れて、ラーズは声を上げた。

 というか、声を上げないとやってられない、という方が正しいか。

「スズメ4、発動機始動」

 この瞬間、特号装置を経由してラーズは確かにスズメ4のコクピットに座っているのだ。

 目の前にあるスズメ1の操縦装置ではなく、スズメ4の操縦装置を『見』ながらそれを『操作』する。

 いずれも、物理的に見えている訳でもないし、触っている訳でもないのだが、ラーズには確かに見えているし、触っている感覚がある。

 ……よし、行けそうだ……

 シミュレーションとリアルは何処まで行っても一緒にはならない。

 しかし、今のところはシミュレーション通りの感覚である。

 スズメ4がそろそろと前に進んでいく。

「スズメ4、発艦位置、ヨーソロ」

「発艦位置確認。ブラストシールド、上がります」

 管制の声と共に、スズメ4の後方でブラストシールドが立ち上がる。

 ラーズの視界から、スズメ4の姿が消える。

 ……見える……

 奇妙な感覚だ。その感覚は魔法を発動させるときのソレに似通っている。統合装置自体が魔法のテクノロジーでできているので、当然の事ではあるのだが、違う。

 そう、これは魔法でもないのである。

「未知のテクノロジー……か」

 これは地球の物でもなく、聖域の物でもない全く新しいテクノロジーで駆動しているのだ。

 その時、ラーズは確かにスズメ4の操縦席に座っていたし、操縦系統を操作していた。

「スズメ4。発艦始め!」

「スズメ4発艦ヨーソロ」

 答えて、ラーズはスズメ4のスロットルを開いた。

 スズメ4が飛び立っていく。

「……ご主人さま? 大丈夫ですか? 深部体温の低下を検出しました」

 鈴女が心配そうに聞いて来る。

 だが、これもラーズにはなじみ深い感覚であると言える。心配には値しない。

「……問題ない。魔法が発動したときの代表的な反応だ」

「……」

 鈴女はその答えで沈黙した。

 嘘か本当かを測りかねているのだろう。

「よし、次はスズメ3だ」


 たっぷり二十分をかけて、ラーズは三機の乙型『烈風』を飛行させた。

 現在その三機に梯形を組ませて、ラーズ自身はその後方に位置取る。

「データにない発汗を確認。呼吸速度も誤差範囲を逸脱して早くなっています。

 本当に大丈夫ですか?」

 バイタルデータを全て鈴女に見られているのは、なんというか腹立たしいのだが、致し方ない。

 しかし、本当にダメだと判断すれば鈴女は乙型三機の操縦を奪うはずなので、それをしないと言う事はまだ余裕があると判断しているのだろう。

「シミュレータとは違うけど……随分馴れて来た」

「……そうですか……

 ところで、ご主人さま。こんなの本当に人間に操作できるんでしょうか?

 わたしが感知している限り、こんな量の情報を直接神経系に流し込まれて処理できる人間がいるとは思えませんが……」

 心配そうに鈴女は言った。

 わざわざ目の前の計器をいくつか消して、コンソールにアバターを出した上で、祈るようなポーズを取る。

 しかし、ラーズの意見はそうではない。

「そりゃお前、人間甘く見すぎ。

 オレも昔は、魔法も使えない奴ら、とか思ってたけど……何事も極めれば凄い事になるんだぜ?」

 そういう意味で931空のパイロット達は、文句なくバケモノの類であるし、近接戦闘をラーズと同等以上にこなす草加なども、バケモノであると言えるだろう。

 そして、彼らは誰一人魔法に頼っていないのだ。

「『母鴨』からの誘導信号を受信しました。方位004.高さこのまま」

「ヨーソロ。じゃあ、着艦と行こうか」

 これまた骨の折れる作業である。


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