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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
戦の本質 九重内閣の場合

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戦の本質 九重内閣の場合12


◇◆◇◆◇◆◇


 鈴木は、表向きは商社マンであるが、実際には違う。

 内閣調査室付きの、エージェントである。

「滞在目的はビジネス、輸出入業務……でよろしいですね?」

 ここはエッグフロントの入国審査窓口である。

 イギリスやドイツは協定により、エッグフロントへはビザなしで入国できるのだが、大日本帝国の場合はそうは行かない。

 今回、鈴木はビジネスビザでの渡航である。

「はい。その通りです」

 エッグフロントの入国審査は、全体的に甘めなのは有名な話だ。

 これは、国としてのエッグがあくまでエッグ本体にあって、エッグフロントは出島として扱われているからだと言われている。


 入国を済ませた鈴木は、内調が用意したダミー会社を目指す。

 移動手段には事欠かない。

 エッグフロントは人口の惑星であるが故、綿密な都市計画が行われた上で作られているのだ。

 宇宙港から伸びているメトロの一路線を十分程行けば、株式会社アマテラス企画の事務所である。

 事務所は少し古い雑居ビルの三階にあった。

 株式会社アマテラス企画自体も内調が用意した貿易会社であり、その社員は言うまでも無くない調のエージェント。

「あっ、鈴木さん。お疲れさまでーす」

 事務所を入ると、若いワイシャツにネクタイ姿の男が声を掛けて来た。

「佐々木君か……早速、情報を聞きたいが……」

「長旅でお疲れでは?」

「なに。快適な船旅でかえって体が訛ったくらいだ」

 今回、内調が用意した船『竜飛丸』は、去年就航したばかりの大型貨客船だった。

「ははは。そりゃよかったですね。自分の時は、体中痛くなって……

 では、説明いたします……会議室でお待ちください」

 鈴木が会議室に入って荷物を置くと、すぐに佐々木が戻ってくる。

「最近はどうだね?」

「……そうですね……オーウェン=サイラースのオーストラリア船事件以降、アイオブザワールドの動きが活発化しています」

 鈴木としては、佐々木の近況を聞いたつもりだったのだが、佐々木は監視対象のアイオブザワールドの事を答えた。

「オーウェン=サイラースの件か……」

 それでも、オーウェン=サイラースの事件の後動きが活発化した、というのは興味深い。

 オーウェン=サイラースのオーストラリア船事件というのは、約二カ月程前に超光速機関のトラブルでオーストラリア海軍の船がエッグ領に落下した事件である。

 他国の軍艦が、エッグ最大の食料生産基地とそのコロニーに至近距離に出現したのは、エッグ以外の国にとっても驚くべき事件だった。

 結局、事件そのものはオーストラリアの宗主国であり、エッグと同盟関係にあるイギリスの仲介で幕を閉じた。事になっている。

 普通に考えてそれで終わりとは思えないが、諜報大国のイギリスはもとより、エッグ側からも情報は全く漏れてこない。

「しかし、なぜオーウェン=サイラースの後、活発化する?

 やはり、見えない所でイギリスが動いている?」

「それは……現地点では不明です。MI5やMI6が関わってるなら、そうそう情報は漏れて来ません。

 よしんば漏れてきても、それは意図的なリークの可能性があるので、おいそれとは信じられません」

 MI5、MI6というのは、イギリスの諜報機関の名称である。人類史上最も優秀と言われる諜報機関だ。かのジェームズボンドもMI6の所属である。

「……まあ、取り合えずその話は置いておこう。

 『例の件』に関わる主要なドラゴンはどうなっている?」

「当のガブリエルは、エッグから出てくる気配は全くありませんね。

 出てきたとしても、エッグフロントの基地区画の中に居る為、コンタクトを取ることは困難です」

「話が分かりそうな側近はどうだ?」

 佐々木は手元のホロデッキを起動して、いくつかの資料を表示すると話を続ける。

「まず、ユーノ・モスです。ガブリエルの腰巾着などと言われていますが、その発言力は絶大でありガブリエルの信頼も厚い……ですが、こちらもエッグから出てくる気配はありません」

「ううむ」

 鈴木は唸った。

 エッグにはドラゴンしか入れない、というのがこういった時に重く効いて来る。

 しかもエッグは、内面利用型のダイソン球であるため、密かに上陸する事は困難である。

 何より、エッグはドラゴンの国である。ドラゴン以外が居れば目立つことこの上無いだろう。

 ……全く本国も無茶を言ってくれる。

 鈴木は毒付いた。

「次にワーズワース・グリムロックですが、こちらに至ってはユグドラシル神殿から動く気配すらありません」

 ホロデッキには、UNKNOWNと書かれた黒い人の輪郭が表示されている。

 つまり、容姿すら不明という事だ。

「最後にシャングリラですが……」

 一変して、ホロデッキに金髪の優男が映し出される。

「こちらは、エッグを遠く離れているようです。

 正確な位置は分かりませんが、メロウリークという星系で何かやっているようですね……

 ちなみにメロウリークはここから二千光年程離れています」

 やっと外に居る関係者が出てきたと思ったら、今度は二千光年彼方とは恐れ入る。

 他にアプローチが無いなら、シャングリラに会いに行くしかないのだが、二千光年は遠すぎる。

 普通に航行する船で向かっても、二カ月やそこらはかかるだろう。

 着くころには居なくなっている公算が高い。

「……側近は全滅か……」

 顎に手をやって、鈴木は唸った。

「いえ、実はもう一人居るんです」

 佐々木は端末を操作する。

「ドラゴンナイトやドラゴンプリーストではないんですが……」

 ホロデッキには、くすんだ灰色の髪をしたドラゴンの男が映し出される。

 しかし、鈴木が刮目したのはその男の翼の色だ。

「この翼の配色は……もしや?」

 その男の翼の色は黒と銀。

 ガブリエルの右の翼と同じ配色……というより同じ色。

「身内なのか?」

「その様です。一年ほど前に突然現れました。

 名前はアベルと言います。エッグフロントでもよく目撃されてますし、普通にレストラン街で食事している様子も見られます」

 ホロデッキの写真が切り替わって、数名の女を連れているアベルの写真が映し出される。

「……おい。まさか。

 この女、レクシー・ドーンじゃないか?」

「さすがは鈴木さん。聖域守護艦隊のレクシー艦長です」

「ううむ」

 再び鈴木は唸った。

 レクシーと言えば、ユーノ・モス配下にあって最新鋭の『ブラックバス』級巡洋艦を受領した最初の艦長のはずである。

 それが、アベルについて回っているのはどういう事だろうか?

 無論、ただの人事異動という可能性もあるのだが、そうでないなら……

「よし、この男にしよう。

 予定を調べてくれ、わたしが会って来よう」


「仰木君、そこの角で止まってくれ」

 鈴木は車の運転をしている部下にそう告げた。

 アベルがエッグフロントに現れたのは、十二月末の事だ。

 もっとも、それは地球の暦の話であるので、エッグでは関係ないのだが。

「終わったら連絡する。一キロ以上は離れて待機していてくれ」

「はい」

 鈴木が車を降りると、仰木の運転するワンボックスカーが走り去る。

 この辺りはエッグフロントの官庁街である。

 アイオブザワールドの施設も近く、それを目当てにした飲食店や雑貨店などが軒を連ねる。

 佐々木が事前に調べた情報によると、アベルは大体昼頃にはこの付近の飲食店に現れるらしい。

「……いたいた。良く目立つ」

 鈴木は小さく呟いた。

 アイオブザワールドの制服を着た一群が、通りを闊歩している。

 女六人、男一人。

 アベルを含む三人は、上級魔法使いのローブ、二人は戦術チームの制服、更にバックオフィスのブレザーに艦隊のユニフォーム。

 普通、ここまでバラバラの恰好をした集団は居ないので、非常に目立つ。

 女六人は女子会のごとく、くだらない話をしながら歩いている。

 鈴木エッグに派遣されているだけあって、竜語もばっちりわかる。

 聞いた話では、竜語は魔法の言葉なので、これを極めれば魔法が使えるようになるらしいのだが、鈴木が魔法を使えるようになる気配は一向にない。

 一行は、なにが食べたいだの、太るだのと言いながら飲食店街を進んでいく。

 鈴木の事を警戒する気配は一切ない。

 しばらくして、昼食はイタリアンに決まったらしく、一行はイタリア料理の店に入る。

 ちなみに、この店はドイツ系のフランチャイズである。

 エッグフロントでは、イギリスやドイツの企業をよく見かける。

 エッグには相当量の英独資本が入っているのは有名な話である。

「さて、行くか……」

 スーツとネクタイを直して、鈴木もドラゴン達を追ってイタリア料理店の扉を潜った。

 アベル一向は、店の奥のテーブル二つを占有していた。

 資料で知っている顔も居るし、知らない顔もある。

 レクシー・ドーン。シルクコット。この辺りは有名だ。

 そして、ルビィ・ハートネスト。最近、活発に動き回っている魔法使いである。

 これ以外に、ルビィと同じデザインの魔法使いの式服を着た、黒髪で緑の翼のドラゴン。

 肩にかかる程度の茶髪。こちらはバックオフィスの制服のブレザー姿だ。分析官だろうか?

 そして、驚くべき事にドラゴンではない女がいる。

 金色の髪に青い瞳、尖った耳。そして、ほっそりとして美人。

 エルフである。

 鈴木も資料でしか見たことは無いが、この宇宙にはこういう種族も居るのだ。

 具体的には大日本帝国に一人居るらしい。

「……失礼します。ドラゴンマスターの弟君のアベルさんとお見受けしますが……」


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