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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
戦の本質 九重内閣の場合

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戦の本質 九重内閣の場合8

 改良を重ねた|《炎の矢・改》は、マジックシンセサイザーの恩恵を最大限に受けられる魔法へと、進化を遂げた。

 発動速度、弾速、射程、火力、そして誘導性能。どれをとっても、聖域のテクノロジーによって運用されていた頃とは一線を隔する性能だ。

 防御魔法を運用できない族が、それを逃れる術は一切ない。

 だが、それだけではない。

 ラーズに取って、敵を焼き払うのは簡単である。しかし、それではプラス分が得られない。

 故に、ラーズは|《炎の矢・改》の弾道を低く設定。族の一人の足元に集める。

 放たれた炎の矢は二〇発。そのすべてが一度ランダムに広がった後、ラーズが設定した目標に向かって飛翔する。

「うっ……うわあああぁぁぁっ!」

 狙われた族……サブマシンガンで武装していたほうだ……が、自分に向かって飛来する炎の矢にパニックになりながら、銃を乱射する。

 もちろん、|《炎の矢・改》は近接信管対応である。銃弾程度の質量には反応しない。

 よしんば反応したとしても、迎撃できるのは一発か二発が関の山である。もう逃れるすべはないのだ。

「《ブリンク》!」

 無論ラーズは、悠長に|《炎の矢・改》の着弾を待つ気はない。

 《炎の矢・改》発射前から作っていた溜めを使って、瞬間移動する。

 瞬間移動先は、もう一人の族の真後ろである。

 《ブリンク》は中々コントロールが難しいのだが、これもソフトウェアの改良により相当使いやすくなっている。

 少なくとも、有視界内なら誤差は五センチ程度に抑えられる。瞬間移動できる距離は相変わらず二六メートルのままだが、これについてラーズは運用上は問題ないと判断している。

 ラーズの《ブリンク》終了と同時に、|《炎の矢・改》が目標に着弾する。

 立て続けに炸裂する炎の矢が、族の下半身を覆い隠す。

 《炎の矢・改》の火力を勘案するなら、腰から下は消し炭になって消滅するはずだ。

 上半身が残っていれば、情報を喋るのに苦労はないだろう。

 そして、

「武器を捨てろ。オレは少々気が立ってる。

 五秒以内に捨てないなら、相棒みたく消し炭になるぜ?」

 族の背後から、首筋に小狐丸を突き付けて、ラーズは言った。

 小狐丸の切れ味なら、軽く引くだけで首の周りの筋肉は豆腐の様に切り裂ける。

「っ!」

 勝負は決したのだが、その族は気丈だった。

 素手で、小狐丸の刀身を掴むと、右手に持った拳銃をラーズに向ける。

 ばしっ! という何かを叩くような音。そして、ラーズの周囲に波紋の様に赤い光が広がる。

 結局至近距離でも、ラーズの保護障壁を拳銃では抜けなかったのである。

「……その勇気に敬意は表する」

 ラーズはそう言って、刀を引いた。

 その刀身を掴んでいた、族の指がぽろぽろと切れ落ちる。

 ラーズの魔力で支えられた小狐丸は、恐るべき切れ味だ。

 続く斬撃で、拳銃を持った族の手首を切り落とすのも、ラーズに取っては造作もない。


◇◆◇◆◇◆◇


 トリトン海軍基地での出来事を神崎が知ったのは、その日の夜の事だった。

 閣僚級の協議に参加していた神崎が、霞が関の内閣調査室のデスクに戻った時に、丁度届いた那由他のレポートによるものだ。

 その内容は驚くべきものだった。

 神崎が海軍上層部に確認を取ると、永井総長も知らないというではないか。

 終わてて、神崎は海軍省へと向かった。

「失礼します」

 海軍省の地下にある会議室の一つ。神崎が扉を開けると、既に永井と古賀が居た。

「まあ、掛けてください」

 永井に促され、神崎は会議室のソファに腰かける。

「……帝国の基地に戦力を展開するなど……この連中は正気なのですか?

 いや、それより彼我の存在状況を確認したい」

 まずは神崎が切り出した。

 軍の施設内で戦闘行為を行うと言うのは、有無を言わせず戦争行為である。

「待ってください。神崎さん。

 この会議には、もう一人参加者が来ることになっている」

 古賀はそう言って、時計を見た。


 コンコン。と扉がノックされたのは、それから数分後の事であった。

「どうぞ」

 と永井が答えると、その男は姿を現した。

「九重総理……っ!」

 神崎が立ち上がって礼をする。

 古賀と永井もそれに倣った。

「永井さんから情報は聞いた」

 ソファに腰を下ろしながら、九重は言う。

 九重は、齢七〇を数えるはずだが、その動きに衰えは感じられない。

「……状況の確認を兼ねて、古賀君。

 トリトンの報告を読んでみてくれ」

「ヨーソロ。総長」

 話を要約すると、こうである。

 不明な航空機がトリトンに接近。これを拿捕したところ、なんと聖域の民が乗っていた。

 そして、同時に捕えた敵性戦闘員が武装して反乱。

 これをラーズが鎮圧した。

「由々しいですな……」

 九重はそういう。

「……まず、トリトンに現れた航空機、これが問題だと思います」

 神崎は言った。

 海王星の近くに航空機が発着できるような施設はない。

 航空機に超光速機関は乗せられないので、これらの航空機は船で海王星付近に運ばれてきたことになる。

「次の問題は、聖域の住民が居たという事です。

 ラーズ君が聖域の言葉を話している、と証言している以上これは本物だと考えていいでしょう」

 この問題は深刻である。

 ラーズが次に取る動きに影響がある可能性が高い。

「……詳細な話はまだ聞けてないのですが……」

 古賀が話を続ける。

「聖域の住人が拉致されて、地球圏に運ばれているという状況は、状況はかなり切羽詰まっていると思われます」

 つまり聖域に置ける戦線では、既に非戦闘員が侵略部隊に曝露しているという事になる。

「既に、正規軍は壊滅。組織だっての反撃はできない状況……ということだな」

 九重は背を逸らすと、天井を見上げながら呟いた。

「……ラーズ君はどうしとる? 神崎君の所のエージェントが付いとるのだろう?」

「はい。最新の報告では、見た目に変化はないという事でしたが……

 ……そもそも、ラーズ君が何を考えているのかは、結局本人にしかわかりません」

 永井の問いに神崎は答える。

 ラーズは知力、能力共に非常に高く、行動力もある上、魔法を使うためその行動原理からして一般的な地球人類とは異なる。

 故に、何を考えているのかを非常に読みにくい。

「……最悪……」

 神崎は、そこまで言って言葉を切った。

 九重の方を見る。

「いいから言ってみたまえ」

「……はっ。

 最悪、イギリスやドイツ辺りに助けを求めて亡命する、と言ったことも考えられます」

 神崎以外はこの可能性を考えていなかったのか、全員が唸る。

 現在、エッグと正常な国交を持っているのは、英独二国である。

 ラーズには、魔法に関するテクノロジーという交渉カードが依然として手札にある為、交渉自体は十分に可能だろう。

 いや、エッグとの国交の事を考えると、英国辺りは具体的な動きを起こすかもしれない。

「……そんな不義理をラーズ君がするかね?」

 永井は困ったような声で、あごヒゲを撫でつけながら言う。

「これは私自身の所管ですが……ラーズ君は物事の優先順位設定を迷いません。

 より大事な物があるなら、そちらを取ります。もちろん、それが優先順位の低い何かを切り捨てる事になっても、です」

 多くの人間はこれが出来ないのだ。

「由々しいな……

 神崎君。エッグの内情はどんな感じなのかね?」

「少々おまちを」

 と、答えて神崎は情報端末を取り出し、機密情報のデータベースへとアクセスする。

「……まず、マザードラゴンの動きですが……

 聖域奪還に向けた動きは無いようです。

 また、傘下の組織に対しても、聖域への接近禁止命令を出しているようです」

 つまり、これは聖域奪還の意思がない事を示すと考えていいだろう。

 無論単純に、聖域を奪還するための戦力が足りず、戦力の増強をしているだけの可能性もあるのだが、現実的には『ブラックバス』級を筆頭に強力な戦術艦を多く持つエッグが戦力不足という事もないだろう。

「……と、なるとやはり?」

 神崎は九重に向かって頷いた。

「内調の分析では、エッグでクーデターが起こります。

 ……クーデターの中心人物、ガブリエル・ファー・レイン。当代のドラゴンマスターです」

 神崎が端末を操作すると、ガブリエルの姿が会議室の中心に出現する。

「……ううむ」

 左右非対称、二対四枚の翼を持つドラゴン。

 美人なのは誰もが認める所だろうが、なんというか恐ろしい。

「……クーデターは成功しそうなのかね?」

 これは古賀の問いである。

「ドラゴンマスター自身もそうですが、優秀なスタッフが揃っているようです。

 仕掛ける以上は、成功させるかと……」

 全員が黙り込んだ。

 クーデターが成功したと仮定する。その場合、出来上がる政権というのはクーデター政権である。クーデター政権というのは不安定なので、早期に安定させようとすると、出来る事はおのずと限られて来る。

 つまり、外部に敵を求めるのだ。

 この場合、エッグ側としては地球人類がエッグ領を侵略したという事実があるので、簡単に敵は用意可能である。

 問題は、エッグの次の支配者が、アメリカを敵と定めるか、地球人類を敵と定めるか、この点に尽きる。

「……最悪、全面戦争も……ある。か……」

 永井が腕を組んで目を閉じた。

 その場合、帝国は完全なとばっちりなのだが、アメリカに文句を言っても謝ってくれないだろう。

「……放って置いても、戦争。か……」

 九重は瞼を閉じて、そう呟いた。

 これは非常に難しい問題であることは、神崎の目から見ても明らかである。

 単純に戦争をするかどうかを選択するだけでも難しいのは言うに及ばず、戦う相手をアメリカとするかエッグとするか、という問題もある。

 もちろん、九重の政治家としての生命の問題も付いて回る。

「……永井さん。

 お願いがあります」

 永井の方に向き直り、九重は言葉を続ける。

「……ラーズ君と面会がしたい。手配していただけるだろうか?」


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