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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
戦の本質 九重内閣の場合

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戦の本質 九重内閣の場合1

 戦の本質 九重内閣の場合


 舞い散る雪の中を、二機の艦戦が飛ぶ。

「ご主人さま。心拍数が上がっています」

「……今、最強に取り込んでるんだ。後にしてくれ」

 今、ラーズの目の前を飛ぶのは、中島飛行機の最高傑作と名高い艦戦A7N『疾風』。それも最速と名高い独BMW製推進器を搭載する四四型である。

 操っているのは、元『飛龍』航空隊。当代のエースオブエース、宮部一飛曹。

 一方ラーズが駆るのは、帝国海軍の最新鋭戦闘機である試制『烈風』。制式化の暁にはA8Mと採番されるであろう機体である。

 二人が演じているのは、もちろん模擬戦闘である。

 しかし、現実的にはラーズが一方的に叩かれ続けているという悲しい状況であるといえる。

 なにしろ、坂井隊長が相手だと全く相手にならないので、今宮部に相手をしてもらっているレベルなのだ。

 しかも、その宮部相手でも撃墜が取れない。

 機銃の照準器にどうしても、宮部の『疾風』が捕らえられないのである。

 ちなみに、『烈風』もミサイルの類は搭載できるのだが、この時代の戦闘機同士の戦いにおいては有効ではない。スロットルを開けるだけで簡単に振り切れるからだ。

 もちろん、ミサイルが有用なシチュエーションもあるのだが、少なくともドッグファイトで撃墜を取るのにミサイルはふさわしくない。

 従って、戦闘機同士の戦いは後ろに付いて機銃を撃ち込む。基本的にこれしか無いのである。

 テクノロジーが進化した結果、一周回って一番最初の状態に戻った典型例であると言える。

 それはそうと、宮部は手ごわいパイロットである。

 具体的には、一回も勝てない。

 シミュレーションの地点でも勝てなかったが、実際に飛んでみても勝てないのだ。

「……くそっ!」

 毒づくラーズの視界の隅で、宮部の『疾風』が一気に高度を下げて、雪原すれすれへと高度を下げる。

 対地速度は余裕で三千ノットを超えているだろう。

 ラーズも操舵スティックを乱暴に右に倒して、ラダーペダルを蹴っ飛ばす。

 重量二八トンにも及ぶ『烈風』の巨体が、その重量を感じさせることも無く滑らかに姿勢を変える。

 『烈風』は重戦闘機として設計されたが、ハイパワーなエンジンと各種可変ノズルによる姿勢制御システムのおかげで、軽量コンパクトな『疾風』に匹敵する運動性を持つ。

 ……なら捕まえられないのは、オレの腕ってか?

 内心毒づいて、ラーズはスロットルを防火壁いっぱいまで叩きこむ。

 ドン! という衝撃を伴って、体がシートに押し付けられる。

 前を行く『疾風』との距離が一気に詰まる。

 やはり、パワーでは『烈風』に分がある。

 ……射程距離まで、あと五秒……三、二……

「……ヨーソロ……って!」

 照準器の中央に『疾風』が収まり、マーカーが射程距離外を示す赤から、有効射程距離を示す緑に変わったのを確認して、ラーズは操舵スティックの引き金を引いた。

 が。ダメ。

 宮部の『疾風』は、まるでそれが見えているかのように、急上昇に移る。

「ダメか!?」

 どうして避けられるのか、ラーズには理解できない。実は、この国の人間は全員なにかの特殊能力持ちなのではないか、とラーズが疑うレベルである。

「まだまだっ!」

 ラーズが宮部機を追撃するべく、スロットルを一瞬戻して、操舵スティックを引く。

 『烈風』の機首が上がったのを確認して、もう一度スロットルを開く。

 絶対出力は『烈風』の方が上、純粋な上昇能力勝負なら勝算がある。

「コラ! 931空! こちらはトリトン海軍基地管制。基地に近づきすぎだ。

 他所でやれ、他所で!」

 突然、無線に入って来たのは基地管制官の声だった。

 どうやら、基地の飛行禁止エリアに近づきすぎたらしい。

「ああ。くそっ!

 スズメ1からトリトン管制。ヨーソロ。離脱する」

 ラーズは、機体を捻るとそのまま上昇を続ける。

 やがて真っ白な地平線の向こうに、青い巨大な惑星が姿を現す。

 海王星。

 大日本帝国海軍の太陽系内最遠の泊地は、その衛星トリトンに作られた。

 931空のメンツは、『烈風』の機能試験とラーズのトレーニングの為に太陽系の果てにある、この泊地までやって来た。

 上昇を続ける『烈風』のキャノピーの向こうに、トリトンと海王星の間に停泊する多くの海軍艦艇が見える。

「カンムリワシから各々。

 模擬戦の時間は終了だ。いったん『母鴨』に着艦せよ」

 隊長の坂井である。

「ヨーソロ。スズメは『母鴨』に着艦する」

「まあ、そんなに怒らないでくださいよ。

 こっちもエースの看板背負ってるんで、そうそう負けられないんですよ。

 それはそうと、約束の方はよろしく。

 チョウゲンボウ、『母鴨』に着艦する」

 こちらは宮部である。

 海王星の輝きの中を『疾風』が飛び去って行く。

「ちょっとトイレ行きたいんで、先降りまーす」

 練習空母『母鴨』は、練習空母『親鴨』型二番艦として二九八七年に就役した。

 全長四〇〇メートルの全通甲板を持ち、飛行甲板右側にはアイランドが存在する。

 その『母鴨』は、ラーズから見て左前方を反航している。

「……『母鴨』管制よりチョウゲンボウ。着艦を許可する」

「ヨーソロ。チョウゲンボウ着艦開始」

 ラーズは驚愕した、てっきり一度『母鴨』をやり過ごして、後方からアプローチすると考えていたからだ。

 しかし、宮部は『母鴨』とすれ違った直後に急旋回。

 着艦の軸合わせと、相対速度の調整を同時にやってのける。

 宮部の操る『疾風』が旋回を終えると、その機動はぴったりと『母鴨』の進行方向と一致していた。

 これは紛れもなく神業である。

 着艦自体も完璧であった。

 アイランドの横を飛びすぎた辺りで、『疾風』はストンと飛行甲板に降り、慣性で少し進む。

 そして、『疾風』停止した位置は、『母鴨』の前部エレベータの真上から五メートルと離れていない位置だった。

 『疾風』の全長が二〇メートル程であることを考えると、これまた神業と言って差し支えの無い腕前だ。

 ドンと降りてピシャリと止まる。これが本当のドンピシャリである。


 一分程で、宮部の『疾風』が、『母鴨』の前部エレベータから待機甲板に引き込まれる。

 なにしろエレベータの真上に止まっているので、ほとんど移動させる必要がないので早い。

 そして、『母鴨』の管制から着艦可能の指示が出る。

 ここからが問題である。

 大多数のパイロットに取って、空母着艦は最も難易度の高い機動であると言える。

 大気圏内と宇宙空間、どちらの空母着艦がより難しいかは個人の適性によるところが大きいが、ラースは宇宙空間での着艦の方が難しいと思う。

 ラーズは『烈風』を直進させて、『母鴨』とすれ違う。

 そのまま五〇キロ程直進した後、旋回。

 『母鴨』の後ろに付ける。

 この時の、『烈風』と『母鴨』の相対速度はマイナス一キロ毎秒。すなわち五〇秒。

 ぐんぐんと『母鴨』の飛行甲板が……迫ってこない。

 全長四〇〇メートルの飛行甲板は、宇宙空間で見るにはあまりにも小さい。

「こわっ! 吐きそう」

「わたしのお腹の中で吐かないように、戦術AIとして具申します」

 『烈風』の戦術AIの鈴女が言ってくる。

 鈴女はラーズや三菱重工のエンジニアが、好き勝手に色々な事を教えた結果生まれた疑似的な人格である。

 疑似的な人格ではあるが、テスト機であるが故に搭載された潤沢なメモリとストレージの中で確かに生きているとラーズは考えている。

 大体、鈴女なしでは『烈風』は飛ばないのだ。

「大丈夫だ、一発でちゃんと決めてやるから、見てろ」

 ラーズは鈴女に向かって言い放ち、操舵スティックを握りなおした。

 宇宙空間を行く航空母艦の飛行甲板は、偽装重力甲板である。

 偽装重力甲板というのは、飛行甲板上に疑似重力を発生させるという代物なのだが、これがなかなかの難物なので困った物なのだ。

 重力の届く範囲はせいぜい二〇メートルであり、この範囲に入った瞬間に航空機は飛行甲板に向かって、落ちる。

 もちろん周りに空気はないので、揚力など得られないので、本当に落ちる。

 これだけでも結構危ないのだが、侵入速度が速いと跳ね返る事がある。まっすぐ跳ねれば、多くの場合そのまま宇宙空間に放り出されるだけなので、それほど危険ではないのだが、まっすぐ跳ねなかった場合、空母の上部構造物にぶつかる恐れがある。

 その場合、パイロットも含めて死者が出るのは必至の大惨事になるのだ。

 故に『母鴨』にも、アイランドがあるが、実はこれはハリボテであり、本当の環境は艦首飛行甲板下に配置されている。

 練習空母も大変なのだ。

「……飛行甲板中心線に乗りました。距離八〇〇〇……七〇〇〇……接近中」

 ホロデッキ上の一部の計器類が消えて、鈴女のアバターが計器表示領域に現れる。

 鈴女という名前が付く前は、紺色のメイドさんの姿を取っていたのだが、名前が付いてからは茶色いメイド服に変わった。

 加えて、被り物もスズメの顔っぽくなったし、袖もスズメの翼を模した物になった。

 曰く、三菱重工のエンジニアによる力作、との事だ。

「ヨーソロ」

 答えてラーズは、スロットルを引いて減速位置まで戻す。

 鈴女のカウントは五〇〇〇に達するが、それでも『母鴨』の飛行甲板は近くなったように感じない。

 ラーズの感覚では、地面に置いた割りばしを五階くらいから見ているような気分である。

 しかも、見るだけではなく、そこに降りないといけない。

「やっぱ怖ええぞ!」

 それでも、着艦しないと永久に終わらないので、着艦を試みる。

 慎重に、慎重に、そろそろと『母鴨』の飛行甲板に近寄る。

 嫌な汗が出る。

 ヘルメットバイザーの映像は、機体の反対側も写すため、着艦も随分楽なはずなのだが、正直言ってこれも怖い要因である。

「……っひっ!」

 突然、機体が飛行甲板に吸い寄せられる、

 無重力に慣らされた体に、突如訪れる落下の浮遊感。その浮遊感に怯えたラーズは、思わずスロットルを開けた。

 『烈風』の推進器が、『母鴨』の飛行甲板の作る重力を振り切る。


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