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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
サイラースの魔女

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サイラースの魔女15

◇◆◇◆◇◆◇


「どっかその辺に座ってて。コンソールとかに触らないように」

 港に侵入したルビィは、ルーシーを連れてまんまと警備艇に乗り込むことに成功した。

 幸い、サイラース1内で起こっている騒ぎのせいで、警備はスカスカだったので苦労はなかった。

 しかし、苦労が多いのはここからである。

 ……まず。警備艇を起動しないと。

 起動には当然暗号キーが居るのだが、ルビィはそんな物は持っていない。

 ここはクラッキングでの強行突破する予定だ。

 その次に、港のエアロックを動作させないといけない。

 完全に制御を奪っておかないと、エアロック作動中に緊急停止でもされれば詰む。

「……よしよし、いい子ねぇ……

 おとなしくしといてよ……」

 呟きながら、ルビィは警備艇六号のコンソールを弄る。

 ルビィの知識では、こういった船は起動用のキーを必要としない機能が存在するはずだ。理由は簡単で、まったくコンピュータにタッチできないとメンテナンスすらできないからである。

 ルビィは早々にメンテナンス用のアプリケーションを見つけて、コマンドコンソールを開く。

 そこから、いくつかコマンドを叩いて、その結果を見る。これを数度繰り返せば、船のシステムを構成するディストリビューションが推定できる。

 ここまでの作業に十分強。

 なかなか立派な数字だとルビィは思うのだが、時間は短いに越したことは無い。

 もっとも、サイラース1の状況を考えると、メンテナンスのスタッフが見にきたりはしないだろうし、まさか出航などと言う事もあるまいが。

「……ねえ、ルビィ。

 わたし、家族の事が心配で……」

 ルーシーが恐る恐ると言った感じで声を上げる。

「気持ちはわかるけど……」

 コンソールから顔を上げることもなく、ルビィは答える。

「……残念だけど、今は自分が生き残る事だけ考えて」

 これはルビィの駆け引き抜きの気持ちである。

 この局面さえ乗り切れば、きっとアベルが何とかするだろうし、この港の外にはレクシーの船が居る。そこまでたどり着けば、とりあえずは安全圏だ。

「……生体認証装置? 古いのを使ってるわね……」

 ルビィは、コンソールの前にしゃがみこむと、その下のパネルを空ける。

「エイジス・ロッカー社製の量産品……これなら余裕ね」

 警備艇の操舵室に転がっていた工具箱から小さなハサミを取り出したルビィは、それで生体認証デバイスから生えている配線の被膜を削ってショートさせる。

 エイジス・ロッカー社のデバイスは伝統的に、データ端子をリファレンス電源に直結すると、内部回路が損傷する。この状態で、改部から認証信号を受けると認証完了を返すと言う挙動を示す。

 ほとんどの人々は知らないが、クラッカーには有名。そんな情報である。

「……よし」

 認証デバイスを破壊したルビィは、これで船が起動できる状態になった事を確認。

 続いて、港の出入り口の制御コードのクラックに挑む。


◇◆◇◆◇◆◇


 イライラと書斎をうろつくアルフレッドの元に通信がもたらされたのは、明け方が迫る午前五時前であった。

 そかも、その通信はグレイマン指定の通信機ではなく、電話で来た。

「……グレイマンか……

 なに? なんだと!」

 グレイマンが告げるその内容に、アルフレドは驚愕した。

 あろうことか、証言者二名を取り逃がしたというのだ。

 内一人はアイオブザワールドのスタッフである。これが本国に通信を送ったらその地点で、オーウェン=サイラースは終焉を迎える可能性まである。

「くそっ! すぐにそこを離れろ!」

 アルフレドはグレイマンをその場から退避させる。

 退避させた理由は簡単だ。適当な罪状をでっち上げて逃げた二名を手配する。

 アルフレドは、いったん電話を切ると短縮ダイヤルで治安維持ユニットの署長を呼び出す。

 ほどなくして、通信がつながる。

「……オーウェン卿……

 申し訳ありません。まだ混乱の収拾がつかず……」

「そっちの話ではない」

「と、申されますと?」

 署長はアルフレドの言葉の意味が分からなかったのだろう。聞き返してくる。

「魔女事件で保護した二人が脱走した。人数をかけて確保するんだ。

 指名手配しても構わない」

 一瞬の沈黙。

「……オーウェン卿……魔女事件の被害者の一人はアイオブザワールド所属です。そんなことをすれば……

 いえ、それ以前になぜ逃亡を……?」

「そんなことはどうでもいい。奴らは指名手配犯だ。すぐに探し出すんだ」

 アルフレドは言う。

 困った事に、指名手配犯なのは事実だったりするので困ったものである。『奴ら』ではないが。

「……」

 沈黙。おそらく所長は、逃げた二名の消息を探っているのだろう。

 二名は治安維持ユニットの施設内を移動した以上、嫌でも監視カメラに写っている。

 実際に、その消息を辿るのに時間はかからなかった。

「!」

 所長が息を飲む。

「どうした!? 見つけたのか?」

 アルフレドは答えをせかす。

 音声通信では、相手の見ているであろう画面は見えないのだ。なんとももどかしい。

「……たっ、大変です。

 沿岸警備隊の整備ドックに入り込んでいます」

 どうやら、所長はルビィ達が本気で逃げ出すために沿岸警備隊の艦艇を盗もうとする、などとは想像していなかったらしい。まあ、当然だが。


◇◆◇◆◇◆◇


「……っち。

 バレたわね」

 ルビィは舌打ちしながら、キーボードに指を走らせる。

「バレたって。なんかミスったの?」

「原因は不明よ」

 不安そうに言うルーシーに対して、ルビィはそう言い放って、椅子を滑らせて別のコンソールへ移動する。

 そもそも、ルビィは皆とのエアロックを乗っ取ろうとしていたのである。極論するなら、エアロックの動力部でモータが動くのを見ていれば、誰かが勝手に操作しているのは分かる。

「まあ、バレちゃった以上、もうコソコソしてても仕方ないわね」

 悪役のような事を言いながら、ルビィは警備艇のハッチを閉鎖。

 外部ディスプレイを見れば、武装した沿岸警備隊の集団がこちらに向かって走ってくる。

「……ちょっと! ルビィ!」

「大丈夫よ。個人が持てる武器ごときで、宇宙船を傷つけるなんて不可能よ」

 どちらと言うと、閉鎖した搭乗口を強制開錠されるほうが怖い。そちらもパスワードはすでに変えてあるが、システム外のマスターキーが存在する可能性は捨てきれない。

 しかし、クラックがばれた事で、クラック作業の方は一気に捗るようになった。

 なにしろ今までは、発見されないようにそっとやっていたのである。それが思いっきりやれるようになったのは大きい。

「よし」

 ちょうどその時、ルビィの送り込んだ不正なパケットを読み込んだ、攻性防壁のAIが沈黙した。パケット解析ロジックが無限ループするように仕込んだパケットである。

 当然、このロジックはすぐに再起動されるだろうが、数秒間の猶予があるし、数秒あれば十分である。

 ルビィは用意しておいた、シェルスクリプトを実行。最後まで抵抗していたデータベースの防壁も抵抗を止めた。

 即座にルビィは、システムのパスワードを書き換えて、その支配権を取得する。

「行くわよ!」

「……行く……ってあなた船の操縦なんかできるの!?」

 ルーシー疑問はもっともだが、ルビィは船の操縦も出来るのである。

 無論、無免許だが。

「できなけなら、こんな計画立てないって。

 それに外に出れば、アイオブザワールドの船が拾ってくれるわ」

 最後にルビィがコンソールのボタンを叩くと、警備艇はその船体が乗せられているキャリアもろとも、エアロックに向かって進み始める。

 船がエアロックに入ってしまえば、追撃側としてもエアロックを壊す事はできないはずであり、ましてや操作を取り戻したとしても迂闊な操作はできない。

 エアロックは宇宙空間の建造物の中で、もっとも脆弱かつ重要な物だからだ。下手に壊せばサイラース1自体が崩壊しかねない。


◇◆◇◆◇◆◇


「逃がした……だと!?」

 語気を強めて、電話の向こうのアルフレドが言う。

「申し訳ありません。発見して沿岸警備隊の戦術ユニットを送ったのですが、エアロックをハッキングされて手が出せません。

 ……警備艇も外部からの制御を受け付けないので、ハッキングされていると思われます」

 汗を拭きながら署長は言った。

 ……わたしはいつまで署長で居られるのだろうか?

 そんな事が頭をよぎる。

「オーウェン卿……この辺りが潮時かと……」

 そもそも、アルフレドが事の隠蔽を考えなければ、こんな事にはならなかったのではないかと所長は思う。

 いくらアイオブザワールドの政治家でも、職員が犯罪に巻き込まれただけで、そこまでひどい事はしないのではないか?

「……今、外に出ている沿岸警備の艦艇を集めろ! 軍艦出現で、初動に当たった船が外に出ているはずだ!」

 確かに、その通りではある。

 その通りではあるのだが、果たして沿岸警備隊の船で逃げるルビィ達を止められるのだろうか?

 何しろ、外に居るのはアイオブザワールドの『ブラックバス』である。普通に考えて、同じアイオブザワールドの職員を助けに来るに決まっている。

 しかし、それでも所長はアルフレドに従わざるを得ないのである。

「わかりました」

 一言だけ答えて、所長は内線を沿岸警備隊の指揮所につないだ。

「……わたしだ。

 今、沿岸警備隊のドッグを占拠している連中はテロリストだ。直ちに外に居る警備艇を呼び戻してエアロックの外側の閉鎖を行うように。

 武器の使用も許可する」

 

◇◆◇◆◇◆◇


 所長からの直接命令で、サイラース1の近海に展開していた、警備艇一号は港に戻ってきた。

 リンジーは警備艇一号の艇長である。サイラース1で使用されている警備艇は、全長わずかに二十メートルの小型艇で、超光速機関も搭載していない。

 搭乗員はわずかに七名だ。

「この忙しい時に、テロリスト!?

 冗談じゃないわ」

 しかし、所長命令である以上、無視することはできない。

 なにより本当にテロリストなら、放っておけば大変な事になる。あるいは、このテロリストは突如現れた軍艦と関係あるのかも知れない。

 数分で、さらに三隻の警備艇が集まってくる。

 その時、サイラース1のドッグのエアロックが開き始めた。

 指揮所から、ブロックするように指定のあったエアロックの扉である。


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